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曲にハモリやコーラスを入れる方法。正しい入れ方とルールについて【譜面・音源あり】

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はじめに

今回は、曲にハモリやコーラスを入れる方法について、音楽理論的な解説を交えながら紹介する。曲を作りたい人、バンドの演奏にコーラスを取り入れたい人、「歌ってみた動画」を投稿したい人。そんな人がいれば、ぜひ役立ててみてほしい。

記事中のデモ音源について

  • デモ音源はすべて、筆者が適当に作曲したものです。
  • 音源では、ピアノ音色でメロディ、エレピ音色でコードを演奏しています。※多重コーラスではクワイア音色を使用

ハモリを入れるための2大ルール

1. スケール(音階)の音を使う

言うまでもないが、ハモリのラインを考えるときは、曲で使われているスケールの音を使う。

例:曲のキーがC → 歌メロはCメジャースケール → ハモリもCメジャースケールの音を使う

2. コードに合わせる

この「コードに合わせる」という意識が抜け落ちている人が意外と多い。特に伸ばしている音にハモリを付けるような場合は、コードの構成音になっている or テンション音として成立している必要がある

単純に3度上 or 3度下で音を出しているだけだと不協和音になることもあるので、そういう時はコードの構成音に合わせて調整しよう(具体例は後述)。

ハモリを入れる具体的な方法

ここからは譜面と音源を交えつつ、ハモりを入れる具体的な方法について解説していく。

  • 黒い音符が主旋律青い音符がハモリのメロディです。
  • 音源は「主旋律のみ → 主旋律&ハモリ」という順で再生されます。

字ハモ(並走タイプ)

主旋律(メインボーカル)が上下するのに合わせて、ハモリも一緒に上下する。この「並走タイプ」のハモリが最も多いパターンだ。

3度でハモる

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3度でハモるケースが最も多い。一番自然に聴かせることができる。

例:「CHE.R.RY/YUI」「波乗りジョニー/桑田佳祐」「YAH YAH YAH/CHAGE and ASKA」「You've Got A Friend/Carole King」

6度でハモる

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6度のハモリも自然に聞かせることが出来る。

3度のハモリをオクターブ上げ下げすれば、それは6度のハモリとなるのだ。歌う人の音域の関係で3度のハモリを作りづらいときなどに良い。

3度のハモリと比べると、主旋律との音程が広い分、それぞれが独立した旋律として聴こえやすいという性質もある。

例:「Marshmallow day/Mr.Children」「So Sick/Ne-Yo」

4度でハモる

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4度でハモることもまれにある。4度のハモリが成立するときは、次のようなケースが多いだろう。

  1. 主旋律がコードに対するテンション音になっていて、 普通の3度のハモリじゃ合わない
  2. それに合わせてハモリのラインを考えているうちに、自然と4度のハモリになった

4度のハモリはどこかエキゾチックな雰囲気になる。

例:「Merry Christmas Mr.Lawrence/坂本龍一」「PIECES OF A DREAM/CHEMISTRY」

オクターブユニゾン

主旋律のオクターブ上/下で歌うことで、主旋律を補強するのもひとつのテクニックだ。厳密にはハモリではないが、ここで取り上げておく。

例:「To Feel The Fire/Stevie Wonder」「Because Of You/Ne-Yo」「白日/King Gnu」

(参考)5度のハモリ

5度でハモることは少ないし、基本的にはオススメしない。ハモリが浮いて聴こえてしまいやすいし、ハーモニー的な広がりを得ることが出来ないからだ。

和声的にも、5度の音程を保ったまま2つの声部を動かすことは「連続5度」という禁則と定められている。多重コーラス等では結果的に5度のハモリが生成されることはあるが、何か1つだけラインを考える場合は、やはり3度や6度を使うのがよい。

字ハモ(コードタイプ)

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並走タイプでしっくりこないときは、ハモリのラインを動かさずに、コードの構成音で同音連打するとよい。コードが変わるときも共通音を利用するなどして、なるべくハモリの高さを変えないようにすると自然に聴かせることができる。

ハモリの数を3声程度に増やすと、コード感がはっきり出るので効果的だ。テンションコードを表現するときなど、4声以上に増やすこともある。

例:「STARS/中島美嘉」「クリスマス・イブ/山下達郎」「R.Y.U.S.E.I./三代目 J Soul Brothers」

ウーアーコーラス

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「ウー(フゥー)」とか「アー(ハァー)」といった音でコーラスを入れることを、ウーアーコーラスという。オケに厚みが出てドラマチックになるので、バラードやR&B、ソウル系の曲では特に有効だ。

例:「Because Of You/Ne-Yo」「クリスマス・イブ/山下達郎」「全力少年/スキマスイッチ」

上ハモ or 下ハモ

上と下、どちらでハモっても大丈夫。上ハモと下ハモが途中で切り替わることもある。大事なのはコードに合っているかどうかだ。

上ハモと下ハモの性質は次の通り。

上ハモ

主旋律より上でハモることになる。ハモりのパートが目立ちやすいので、主旋律を食わないよう、歌い方や声の大きさに気を配るとよい。例えば、地声で出せる音域でも、あえてファルセットで歌い、目立たなくさせる等のテクニックがある。

スタジオ録音の音源を作る場合、ミックスバランスにも気をつけたい。基本的には、主旋律がどちらなのか判別できる程度に、ハモりパートを小さくするのがベターだろう。

下ハモ

主旋律より下でハモることになるので、主旋律を支えるような寄り添った響きになる。ハモりパートを極力目立たせたくないようなときは、まず下ハモが付けられないかを考えてみるとよい。

よくある間違ったハモリの例

いかなる状況でも、3度上 or 3度下でハモってしまう

前述の通り、ハモリパートがコードに合わない音を出していると、きれいに聴こえない。

まずNG例の譜面を見てみよう。

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1小節目はコードがCMaj9で、主旋律はレで伸ばしている。上記画像のように、3度上でハモってしまうとハモリがファの音になってしまい、コードの構成音とぶつかるのできれいに聞こえない(※コードがCMaj9のとき、ファはアボイドノートなので)。

そこで、音がぶつかる部分のみ、ファ→ソの音に変更する。OK例の譜面は次の通りだ。

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こうすると、ハモリがコードの構成音となり、きれいなハーモニーにすることができる。2小節目に関しても、同様にファ→ソに変更している。

  • 基本的には3度でハモるが、コードに合わない音(かつ長めの音)のときは4度などに変更する

こういった方針でハモリを考えるとよい。

音源でも確認してみよう。「主旋律のみ → NGハモリ例 → OKハモリ例」という順で再生される。

sus4コード時に、3度のハモリを入れてしまう

コードがsus4になっているのに、安易に3度上(下)のハモりを乗せてしまうのもよくある間違いだ。3度の音と4度の音は、お互い半音の関係だ。音がぶつかるので、きれいに聴こえない。

まずNG例の譜面を見てみよう。

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基本的には3度でハモればよいが、2小節目、Gsus4のときは注意。主旋律はソで伸ばしている。ここで上記画像のようにハモリを3度上のシにしてしまうと、コード(Gsus4)の構成音に含まれるドの音とぶつかってしまう。

そこで、やはりコードの構成音に合わせて、Gsus4のときはシ→ドに変更する。OK例の譜面は次の通りだ。

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これで適切なハモリになる。

音源でも確認してみよう。「主旋律のみ → NGハモリ例 → OKハモリ例」という順で再生される。

覚えておきたいTips

ハモリを入れる場所について

サビの最初から最後まで、ずっとハモリが付いている。そんなハモリも悪くはない。しかし、要所要所でハモリを登場させたほうが効果的なことも多い。曲の核になるような印象的なフレーズ。どうしても伝えたい歌詞のワード。そういった重要度の高い部分で、ここぞとばかりにハモリを付けると印象に残る。

ハモリを付ける部分と、あえて付けない部分。うまく使い分けていくとよい。

上ハモと下ハモの共存について

主旋律の3度上と3度下、両方にハモりを入れてしまうと、ハモリ同士が5度の関係になる。その結果、ハモリパートが強調されてしまい、主旋律をじゃまするような、浮いた響きになってしまうことがある。

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和声の禁則にある「連続5度」は、まさにこういった現象を避けるために定められている。しかし、実際はポップスの曲では――特にスタジオ録音の音源では――3度の上ハモと下ハモが共存していて、それらが5度の関係になっていることも少なくない。「レコーディングにおいては、ハモリの音量を自由に調整できるので問題ない」。そんな考えに基づいた結果だろう。

和声的にも、「ハモリパートは独立した声部ではなく、主旋律を補強しているパートにすぎない」と考えれば、連続5度の禁則には当てはまらないという解釈もできそうだ。それに、そもそも古典和声の規則を厳密に守るべきか?という話にもなってくる。クラシックですら、近代以降の作曲家は和声の禁則を守っていないことも多々あるのだ。

結論としては、聴いて変でなければOK!というスタンスで行くのがいいと思う。

  • レコーディングでは細かくミックスバランスを調整できるので、和声の禁則は無視し、好きなようにコーラスを作ることにした。
  • ライブでのコーラスを大事にしたい。完璧なミックスバランスが実現できないことも想定し、生演奏でも美しく聴こえるよう、和声のルールをきちんと守る。

ポップスを作る上では、このように臨機応変に行くのがよいと筆者は考えている。

最後に、和声の初歩について学びたい人にオススメの本を紹介する。

『対話式! 「なぜ?」が分かるとおもしろい和声学〈基礎編〉』

川崎絵都夫・石井栄治(著)

和声学はポピュラー音楽理論に比べて学習難易度が高いが、この本は対話形式で分かりやすく説明されている。早い段階で前述の「禁則」についても触れられているので、和声のエッセンスを知るのに最適だ。

ある程度ポピュラー理論のことが分かっていて、本腰を入れて勉強したいという人は、『総合和声―実技・分析・原理』あたりで学習するとよいだろう。

知っておきたいシンセの音作り:基本テクニックを8つ紹介(デモ音源あり)

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はじめに

シンセサイザーってよく分からない。ツマミが多すぎるし、どこをいじれば音がどう変わるのかサッパリ……。そんな人も多いのではないだろうか。僕も例にもれず、ビギナーの頃はそんな状態だった。

しかし、多くのシンセは、同じような信号の流れで音が出ている(※少なくとも、大半のシンセ=減算式シンセでは)。パラメーターの意味さえ理解してしまえば、他のシンセにも応用が効くし、複雑な音のプリセットでも自分なりに調整していくことができる。シンセの知識を習得することは、音楽を作る人にとってはコストパフォーマンスの高い学びなのだ。

今回の記事では、実際に音を作る手順も交えつつ、シンセの音作りの基本テクニックを8つ紹介してみる。シェアの高そうなSpectrasonics Omnisphereを使っているが、大半のシンセでも同じような音は出せるのでご安心を。

今風の音楽を作りたい人にとって、シンセの習得は必須。ビギナーの人も気軽に読んでみてほしい。

1. オシレーターの波形選び

まず大事なのが、「オシレーターにどの波形を選ぶか?」ということ。元の波形に適切な倍音が含まれていないと、意図した音色に調整するのは難しい。なのでオシレーター波形はきちんと選ぶようにする。

例:激しい音を出したい場面で、サイン波を選んでも上手くいかない(倍音が少ないので)。

実際に音を聴いてみよう。5つの波形でそれぞれ、単音→和音→ベース音域での単音、と演奏している。

波形が持つ音色のイメージは、次のような感じだ。

  • ノコギリ波(Saw):ブーブー

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  • 矩形波(Square):ポーポー

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  • パルス波(Pulse):コーコー、ゴーゴー

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  • 三角波(Triangle):ホーホー

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  • サイン波(Sine):ホーホー(三角波よりおとなしめ)

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自分で音色を作るときはもちろん、プリセットを使うときでも、どの波形が使われているかを意識してみるとよい。

2. フィルターの基本的な調整

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シンセでは、ローパスフィルター(LPF)で高い周波数の倍音を削って音作りをすることが多い。なので、フィルターの仕組みについても知っておく必要がある。シンセのフィルターには2つの重要なツマミがあるので押さえておきたい。

カットオフ

ローパスフィルター使用時は、カットオフは「高域をどの程度削るか」を決めるパラメーターになる。

  • カットオフ小:暗い、地味、落ち着いた音
  • カットオフ大:明るい、派手、うるさい音

レゾナンス

カットオフ周波数の帯域をブーストすることで、音色に独特のキャラクターを持たせることができる。上げすぎると耳障りな音になるが、適度に上げることも多い。ただ、まったく上げないことも多い。

3. フィルターエンベロープの調整

フィルターエンベロープを使うと、時間経過に応じて、フィルターの開き具合を変化させることができる。「時間が経つにつれて、カットオフが上がって、そして下がる」。基本的にはこんな挙動をイメージするとよい。

実際に音色を作る上では、発音の瞬間にフィルターが素早く閉じるようにすることで、アタック感を演出することが多いだろう。ひとことで言うと「ボン」あるいは「チャン」という感じの音になる。

  • 「ボ」:フィルターは開いている
  • 「ン」:フィルターは閉じている

Funk的なアタック感のあるシンセベースや、EDMのPluck音は、これを利用して作られている。表情豊かな音色を作る上で重宝するだろう。

なお、レゾナンスを少し上げると、フィルターが閉じることによる音色変化が際立つようになる。フィルターエンベロープを使うときは、カットオフはもちろん、レゾナンスの値も意識してみるとよい。

音色の例を2つ用意した。音作りの手順も記載したので、参考にしてみてほしい。

例1. ファンク風シンセベースの作り方

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  1. 波形はSawを選択(SawSquare Fatを選び、SHAPEを左端に)。
  2. フィルターはLPF Juicy 24dbを選択。
  3. カットオフは低め。レゾナンスはほんの少しだけ上げる。
  4. フィルターエンベロープを設定し、アタック感を付ける。
  5. 原音より少し小さい程度の音量で、オクターブ上の音を加える(HARMONIAより設定可能)。
  6. 付属エフェクトのTape SlammerとTube Limiterでわずかにサチュレーションを加える。

例2:Pluckの作り方

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  1. 波形はSawを選択(SawSquare Fatを選び、SHAPEを左端に)。
  2. フィルターはLPF Juicy 24dbを選択。
  3. カットオフは低め。レゾナンスはほんの少しだけ上げる。
  4. フィルターエンベロープを設定し、アタック感を付ける。
  5. デチューンを加える(設定深層でUnisonを有効にする。DetuneとDepthを適度に上げる)

4. デチューン

「ピッチ(音の高さ)をわずかにズラしたシンセ波形を、2個以上同時に鳴らす」。これがデチューン(Detune)という技だ。まずは、デチューンさせたものと、させていないもの。実際に2つを聴き比べてみよう。

「Not Detuned」は単純なノコギリ波で和音を鳴らしたもの。「Detuned」はそれをデチューンさせたもの。デチューンさせたほうが、音の厚み、広がり、浮遊感といったものが増しているのがわかるはず。実際に曲の中で使うときも、デチューンされた音色のほうがオケへのなじみは良い。シンセ音色の多くでこのデチューンが使われているので、音色を作成・調整するときには意識してみるとよい。

なお、ベース音域でデチューンを行うと位相的な不都合が生じやすいので注意。基本的には上モノで使うものだと考えたほうがよい。

ちなみにOmnisphereでは、UNISONというパラメーターでデチューンを設定できる。

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(※デモ音源では上記画像のように設定している)

余談だが、デチューンしたノコギリ波を複数(8個程度)重ねたものを、「Super Saw」などと呼んだりすることもある(Roland JP-8000の波形が由来)。派手な音色に調整しやすく、オケへの馴染みも良いので、トランス、EDM、アニソンといった分野でよく使われる。

5. アンプエンベロープの調整

「フゥヮァァアアーーー」というように、少しずつ大きくなっていく音色。「ジャッ!」というような歯切れのよい音色。こういった違いを決めるパラメーターの一つが、アンプエンベロープだ。アタックやリリース等の長さを調整することで、目的の音色に調整していこう。

「Fast Pad」はアタックとリリースが最速の音色。「Slow Pad」はアタックとリリースを遅めにしたパッド音色だ。アタックやリリースの部分は、音色にとっては重要なパラメーターだ。じっくり煮詰めることをオススメしたい。

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(↑Fast Padのアンプ・エンベロープ)
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(↑Slow Padのアンプ・エンベロープ)

余談だが、ソフトシンセのプリセットには、「リリースタイムがやたら長く、曲中で使いづらい音色」が多い。そういった音色でも、適切にリリースタイムを短くしてやれば上手く使うことができるだろう。プリセット派の人にとっても大事なパラメーターといえそうだ。

6. ポルタメント

ある音から別の高さの音に移行する際に、ピッチの変化速度が遅くなるように調整するための機能だ。シンセリードの音色で、ニュアンスを出すために使われることが多いだろう。他にも、ポルタメント速度を遅く設定して、効果音的な音色を作ることもある。

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Omnisphereでは、GLIDEというパラメーターでポルタメントを設定可能。ポルタメントの速度次第でフレーズのノリも変わってくる。プリセットを使うときでも、曲に合うように調整するとよい。

7. LFO

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「何かしらのパラメーター」を「自動的に」「連続で」上下させるための仕組みだ。ピッチに掛ければビブラートになる。アンプに掛ければトレモロになる。最近ではワブルベースを作るためにフィルターのカットオフに掛けることも多い。 

デモトラックを2つ用意した。「LFO Vibrato」がLFOをピッチに掛けたもの。「LFO Wobble」がLFOをカットオフに掛けたものだ。さらに、モジュレーションホイールで、それらを揺らす量を調整できるようにしている。

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(↑「LFO Vibrato」の設定内容)

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(↑「LFO Wobble」の設定内容)

8. 倍音の付加

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シンセの音作りにおいては、フィルターのカットオフを調整したり、オクターブ上下の音を加えたりする作業がしばし行われる。それは音響的に考えると、倍音を調整していることに等しい。

実は、倍音を調整するには他にも方法がある。それは歪み系エフェクターを使うことだ。近年のシンセ音色では、特に歪み系エフェクトの重要性が高い。なので、この「倍音の付加」という要素も、シンセの音作りの一部だと考えてもよいくらいだと思う。

最近のソフトシンセだと、シンセ内部で歪みを加えられるものも多いが、別途プラグインで処理してもよい。

歪ませる量については、明らかに歪んだ音に調整することもあれば、ヌケを良くするためにさり気なくサチュレーションを加える程度のこともある。出したい音に応じて調整していくとよい。

 比較サンプルを用意してみた。SoundCloudの音質の関係で少し分かりづらくなってしまったが、「Saturated Pluck」が歪みを加えたものだ。ここではSoundtoys Decapitatorを使って、比較的はっきりと歪みを加えるような処理を行っている。

おわりに

今回はシンセの音作りにおける基本的なテクニックを8つ紹介した。音色を自作したい人はもちろん、プリセット派の人も知っておくと役に立つはずだ。

今回のデモ音源はすべてSpectrasonics Omnisphere2で作成している。派手な音・アンビエントな音が出るイメージを持っている人も多いかもしれないが、今回のデモ音源のように、ゼロからオシレーターとフィルターを組み合わせて、シンプルな音色を作ることもできる。エンベロープをグラフィカルに表示させたりもできるし、音作りの練習に使う上でも優れたシンセだと感じた。

Cubaseのプロジェクトロジカルエディターの解説:便利な使い方を5つ紹介

プロジェクトロジカルエディターとは?

前回はロジカルエディターについての記事を書いた。今回紹介するのは「プロジェクトロジカルエディター」。名前が似ていてややこしいが、こちらはトラックやパート、イベントに対して処理を行うためのツールだ。

言葉による説明ではピンと来ないと思うので、今回も僕が実際に使っている自作の設定をを5つ紹介してみる。

処理の流れ

前回記事で書いたロジカルエディターと同様、フィルター条件を元にイベントやトラックを絞り込み、処理を行うという流れになっている。ここでは説明を割愛する。

オススメの使い方

1. イベントの位置を微調整する

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概要

オーディオイベントやMIDIパート、オートメーションイベントの位置を微調整するコマンドだ。歌やギターなど、生演奏トラックのリズム補正をする場合に役に立つ。オートメーションの位置を動かしたいときにも便利だ。

普通にやると、イベントをドラッグしたり、情報ラインの数値をホイールで調整したりする必要がある。プロジェクトロジカルエディターを使って、ショートカットキーで実行できるようにしておくと便利。

今回は30Tickと調整幅を大きめに設定しているが、もっと小さくしても問題ない。

パラメーター解説

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まず、フィルター条件(上部リスト)の3行を見てみる。

  • 1行目 → イベントに対して作用することを意味する。
  • 2行目 → パート(※イベントが含まれる容器)に対して作用することを意味する。
  • 3行目 → 選択されているイベント(パート)に対して作用することを意味する。

これらが画像のようにOrとAndで結ばれているので、「選択中のパート or イベント」が操作の対象となる。

次に、下部のアクションリストを見てみる。これは純粋に、ポジションを30Tickだけ増やすことを表している。その下の「機能」は「変換」を選択しておけばOK。なお、「足す(+)」を「引く(-)」にすれば、イベントを前に動かすことができる。前後の移動をセットで登録しておこう。

2. オートメーションの値を微調整する

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概要

オートメーションの値を調整するコマンドだ。歌ものの曲では、ボーカルのオートメーションを緻密に描く必要がある。EDMのトラックでは、シンセのオートメーションを細かく調整することが多い。その度にマウスでドラッグしたり、情報ラインをホイールで動かすのは意外と手間がかかる。

この操作をショートカットキーに登録すれば、オートメーションの調整も一気に楽になるはずだ。

パラメーター解説

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フィルター条件の2行を見てみる。2行合わせて「選択中のオートメーションイベント」に対して作用することを意味する。

次に、アクションリストを見てみる。オートメーションに関しては、「トリム」というコマンドで数値を掛け算して調整することになる。

ここでは値を10%だけ増やすような設定になっている。なお、10%だけ減らす場合は、パラメーター1の数値を0.9にすればOK。増やす/減らす、両方登録しておこう。

3. トラックに色を付ける

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概要

トラックの色づけに関しては、「ボーカルは水色」「ギターは緑色」などといった、自分なりのルールを持っている人も多いと思う。とはいえ、トラックを追加する度に設定するのは面倒。そこで、プロジェクトロジカルエディターを使って、自動処理できるようにしてしまおう。

今回はドラムの配色設定例を紹介しているが、さらに発展的な使い方も紹介しておく。ストリングス、ブラス、ギター等、各パートごとに自動配色設定を組んだら、それらをマクロ(※ショートカット設定から登録可能)にまとめてしまおう。複数を同時に実行できるようにしておけば、数十トラックの配色をワンタッチで完了することが可能だ。

パラメーター解説

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ドラム関係のトラックの色を揃えるような処理になっている。名前に「Kick」「Snare」「HH」が含まれるトラックが操作の対象になるよう、フィルター条件で設定。それらの色が「Color4」に一律で揃うように設定している。

今回の設定はシンプルなものだが、例えば、「トラック名に"FX"が含まれるものは、対象から除外する」というような設定も可能だ。必要に応じてフィルター条件を調整していくとよい。

4. トラックの名前を変更する

概要

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Cubaseでは、インプレスレンダリングでオーディオ化すると、トラック名の終わりに「 (R)」が付くようになっている。特に必要な表記ではないので、これを「_ok」という文字列に変換するよう設定してみた。

パラメーター解説

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「検索文字列を置き換え」という操作が用意されているので、それを使っている。

なお、コンテナタイプを「トラック」に指定することで、オーディオトラックのみを対象とし、オーディオイベント(パート)は対象から除外されるようにしている。コンテナタイプによるフィルタリングは、意外とイメージしづらい部分でもある。理解を深めたい人はマニュアルP.919を参照しよう(Cubase 9.5の場合)。

 5. グループ&FXトラックの表示/非表示を切り替える

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概要

トラック数が多い曲を作っていると、全トラックを表示しきれなくなることも多い。そんなときは、グループトラックやエフェクトトラックを非表示にしてみよう。インストゥルメントやオーディオだけが表示されるようになり、スクロールの手間が緩和される。その分、打ち込みや録音の作業がはかどるはずだ。

この操作を行うと、グループトラックとエフェクトトラックが非表示になるが、もう一度処理を行えば、元に戻すことができる。ショートカットに登録して、ワンタッチで表示/非表示を切り替えられるようにしておけば、トラック数が多い曲の制作もはかどることだろう。

パラメーター解説

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グループトラックとエフェクトトラックが操作の対象となっている。「トラックを非表示」という操作が用意されているので、それを活用している。

おわりに

今回はプロジェクトロジカルエディターについての記事を書いた。ロジカルエディター同様に難解な項目だが、上手く使えば作業効率のアップに繋がるはずだ。

Cubaseのロジカルエディターの解説:便利な使い方を5つ紹介

ロジカルエディターとは?

ロジカルエディターは、MIDIデータを調整するための機能だ。MIDIイベントのパラメーターを調整したり、MIDIイベントの選択・削除・付加といった操作を行うことができる。

※「プロジェクトのロジカルエディター」という、オーディオイベントやトラック表示などを調整するための機能も別にある。混同しやすいので注意。

ロジカルエディターを使えば、普通にやると手数がかかるような操作も一発で実行できる。さらに、ロジカルエディターに登録した操作は、ショートカットに登録が可能。上手く使えば作業効率を大きくアップさせることができる。

ただ、このロジカルエディターを使うためには、ちょっとした「プログラミング的発想」が求められる上、マニュアルの解説も完全ではない(パラメーターの詳細など)。おまけにプリセット名はどれも英語。取っつきにくく、敬遠している人も多いはずだ。

今回は、僕が普段使っている自作のロジカルエディターについて、軽く解説を交えながら紹介してみる。設定を流用してもらえば、皆さんのCubaseでもそのまま使えるはずだ。

※ロジカルエディターはCubase Proでしか使えないので注意。

ロジカルエディターを覚えるには、プリセットを眺めながら実際にいじってみて、仕組みを体で覚えていくのが一番よい。これからロジカルエディターを覚えて行きたい人にとっても、役立つような記事になっているはずだ。

処理の流れ

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  1. 「フィルター条件(上部リスト)」でMIDIイベントを指定する。
  2. 「アクションリスト(下部リスト)」と「機能」を組み合わせて、1で指定したMIDIイベントに行う処理を決める。
  3. 「適用」をクリックし、操作を実行する。

値1と値2

「値1」「値2」というパラメーターが出てくる。この表記がロジカルエディターを分かりづらくしている原因ともいえる。何を表しているか整理してみよう。

フィルター条件 値1 値2
MIDIノート 音の高さ ベロシティ
MIDI CC CCの番号 CCの値

こういった値を表している。例えば、フィルター条件でMIDIノートを指定しているときは、値2はベロシティを表す。

オススメの使い方

ここでは、ロジカルエディターの使用例を5つ紹介する。

1. MIDIポジションの微調整

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概要

MIDIノートのポジション(位置)を微調整することを考える。普通にやる場合は、マウスでMIDIノートを選択してから、MIDIノートをドラッグしたり、あるいは情報ラインの数値をホイールで調整する必要がある。何度も繰り返すとなると、けっこう億劫な作業ではないだろうか。

しかし、このロジカルエディターを使えば、ノートを選択した状態で任意のショートカットキーを押すだけでOK。ワンタッチでMIDIポジションの微調整が可能になる。なお、MIDIノートだけではなく、CCイベントに関しても有効だ

人間らしいMIDIデータを目指し、タイミングをラフに調整する場合。逆に、人が演奏したMIDIデータを正確なタイミングに補正する場合。どちらのケースでも便利に使える。よく使う操作なので、使えるようにしておくと作業が捗るはず。

今回の例では調整幅を5Tickに設定しているが、もちろん任意の時間に設定することが可能。単位をTickではなくms(ミリ秒)等にすることもできる。少しずらす or 大きくずらすと使い分けたり、工夫もできそうだ。必要に応じてエディットしてみてほしい。

パラメーター解説

f:id:singingreed:20190103191626j:plainまず、フィルター条件(上部リスト)の3行を見てみる。

  • 1行目 → MIDIノートに対して作用することを表す。
  • 2行目 → MIDI CCに対して作用することを表す。
  • 3行目 → 選択されているイベントに対して作用することを表す。

これらが画像のように、OrとAndで結ばれている。したがって、「【MIDIノート or MIDI CC】かつ【選択されているイベント】」が、操作の対象となる。

次に、下部のアクションリストを見てみる。これは純粋に、ポジションを5Tickだけ増やすことを表している。その下の「機能」は「変換」を選択しておけばOK。なお、当然のことながら、「足す(+)」を「引く(-)」にすれば、MIDIイベントを前に戻すことができる。セットで登録しておこう。 

2. 音価(デュレーション)の微調整

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概要

上記「MIDIポジションの微調整」と同様、MIDIノートの音価も調整できるようにしておくと便利。ベースやブラスなど、音価の重要性が高いパートの打ち込みで重宝するはずだ。こちらも足すと引く、両方登録しておこう。なお、当然だがこちらはCCには使えない。

パラメーター解説

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まず、フィルター条件の2行を見てみる。

  • 1行目 → MIDIノートに対して作用することを表す。
  • 2行目 → 選択されているイベントに対して作用することを表す。

これらがAndで結ばれているので、「選択中のMIDIノート」が操作の対象となる。

次に、下部のアクションリストを見てみる。MIDIノートの長さをを20Tickだけ増やすことを表している。機能は「変換」を選択すればOK。

3. ベロシティor CC値の微調整

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概要

ベロシティやCC値の微調整も、ロジカルエディターで出来るようにするとよい。特にCC調整はマウスでやると少し手間なので、このコマンドを使えば調整が楽になるはず。

上記GIF画像ではベロシティの調整をしているが、このロジカルエディターはベロシティとCC値、どちらに対しても使うことができる。こちらも足すと引く、両方登録しておこう。

パラメーター解説

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フィルター条件に関しては、上記「1. MIDIポジションの微調整」と考え方は一緒。

アクションリストの挙動が少し面白い仕様になっている。ロジカルエディターの「値2」は、前述の通り、次のような意味を持つ。

  • 対象がノートの場合 → ベロシティを表す
  • 対象がCCの場合 → CCの値を表す

このため、このロジカルエディターはノート選択時 or CC選択時、どちらの場合でも共通して使うことができる。

4. CC値の固定

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概要

選択したMIDI CCイベントを、任意の値に一発で変更するコマンドだ。MIDIノートのベロシティに関しては、任意の値に一発で変更するショートカットキーを元々設定できるようになっている(※メニュー>MIDI>機能>「設定したベロシティーに変更」)。CCにはそれが無いので、ロジカルエディターで出来るようにしておくと便利だ。

パラメーター解説

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画像の通り。パラメーター詳細は、他と重複するので割愛。

5. 8分裏のノートだけを選択する

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概要

8分音符の裏のノートだけを選択する操作だ。ハイハットのベロシティを調整するときなどに便利。上記「3. ベロシティor CC値の微調整」の操作と併用すると、作業がだいぶはかどるはず。

今回紹介するのは8分の裏だが、16分の裏に関しても同様に設定可能。必要ならご自身でトライしてみてほしい。

パラメーター解説

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「小節範囲内の任意のポジションに存在するMIDIノート」を「選択」する。これがこの操作の流れだ。グリッドからズレたノートにも適用できるよう、選択範囲には少しゆとりを設けている。

おわりに

今回はCubaseのロジカルエディターについて解説した。紹介した使用例以外にも、工夫次第では便利な使い方を見つけられると思う。ご自身の用途に応じて、ぜひ使いこなしてみてほしい。

新世代リバーブ、2CAudio Breeze 2を徹底解剖【レビュー】

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はじめに

Breeze 2は、2CAudio社からリリースされているプラグインリバーブだ(IRではなく、アルゴリズミックリバーブ)。同社の製品は、近年メキメキと頭角を現してきており、評価も軒並み高い。今回はこの製品について紐解いていきたい。

特徴

透明感のある美しい響き

公式サイトでデモを聴いてみると、圧倒的に美しい響きをしていることが分かる。
2CAudio - Breeze | Simple. Light. Pristine.

※上記サイト内、右上の▼マークをクリックすると、試聴用プレイヤーが展開します。

CPU負荷が比較的軽い

音色だけでいえば、同社のB2は、Breeze 2以上に美しい響きをしていると思う。しかしB2とBreeze 2では、CPUへの負荷がだいぶ違ってくる。とあるプロジェクトファイルで、イントロ8小節分の書き出し時間を比較してみた(※リバーブは1トラックのみ使用、合計20~30トラックからセンドで送られている状態)。

  • B2:21秒
  • Breeze 2:14秒
  • Lexicon PCM Hall:14秒

B2の書き出しの所要時間は、Breeze 2のだいたい1.5倍程度になると思われる。

リバーブは使用頻度が高く、複数台を立ち上げることも多いエフェクトだ。実際に曲作りで使う上で、書き出し時間の差は無視できない。そういう意味では、Breeze 2は音の良さとCPU負荷のバランスに優れており、総合力ではB2を上回る……そんな見方もできるかもしれない。

幅広い設定が可能

Size(空間の大きさ)とTime(リバーブタイム)の組み合わせで好きな空間を自由に作ることができる。もちろん他のリバーブにも同様のパラメーターは付いているが、Breeze 2は圧倒的にリアルな空間を演出することができる。音像の表現力に関しては、旧世代のリバーブとは一線を画している印象だ。

Tips

空間をイメージしてSizeとTimeを決める

どの程度の大きさの空間で音を鳴らすかをイメージしてから、リバーブのパラメーターを設定する。空間の大きさによって、適切なSizeとTimeはある程度決まってくるので、音響的に自然な値になるように上手く調整する。

上記の内容は基本的なことかもしれないが、Breeze 2にはホール/ルームといった明確な分類がないので、このことを改めて意識しておきたい。

高域が出過ぎないように気をつける

自然界の響きは、高域成分ほど速く減衰していく。そのため、多くのリバーブでは、Dampingの設定もそのようになっている。また、リバーブにもEQ処理がされていて、高域成分が削られていることが多い。

※Damping:高域と低域でリバーブタイムを変えるためのパラメーター。

さて、Breeze 2を起動したデフォルトの状態を見てみよう。

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Dampingのパラメーター(青)は高域が下がるようになっているものの、EQ設定(緑)では低域が削られている。

この状態だと、楽器によっては、リバーブの高域成分が強すぎることがある(高域が強く出たシンセなど)。なのでEQ設定に関しても、必要に応じて高域を削ったほうが使いやすいと思う。

その他覚え書き

プリセットは個性的

プリセットはたくさんあるが、個性的なものや、エフェクティブなものが多い。なので、完璧にマッチするプリセットを見つけるのは意外と大変かもしれない。イメージに近いプリセットを元に、自分でパラメーターをいじって、好みの響きに近づけたほうが手っ取り早いと思う。

アーリーリフレクションについて

他社のリバーブとは異なり、Breeze 2ではアーリーリフレクション(以下ER)とリバーブテール(以下Tail)の分量を、それぞれ個別で調整したりはできない。同社のB2もそうなので、そういう思想で設計されていると思われる。SizeやContourといったパラメーターを調整することで、ERを上手くデザインしていくのが良さそう。

パラメーターの解説

ディスプレイ

2つのディスプレイがある。それぞれダブルクリックすると、詳細設定画面に入れる。Freqディスプレイの方は開く機会も多いはず(DampingやEQの設定は、詳細設定画面でしか変更できないので)。

Freqディスプレイ

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  • 青いライン:Dampingを調整
  • 緑のライン:EQを調整

カーブの形状については、ハイ/ローのカットやシェルビングなどを設定可能。

Dampingのラインは、帯域ごとのリバーブタイムを表している。たとえば画像のように、青いラインが32kHzで1:2に到達していれば、32kHzのリバーブタイムは、Timeで設定した値の半分ということになる。

EQに関しては、こちらもdBではなく比率表示だが、「6dBで2倍になる」と覚えておけば、イメージしやすいはず。

Timeディスプレイ

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はじめの、大きなはっきりとした波形が、Primary Reflections。後ろの、小さなぼやけた波形が、Secondary Reflections。一般的なリバーブにおける、アーリーリフレクション(以下ER)とリバーブテール(以下Tail)の関係といえる。

※なぜこの呼称なのかは不明だが、マニュアルを読むとこのように解釈できる。

ツマミ

Time

いわゆる普通の「リバーブタイム」を調整するパラメーター。

Size

空間の広さを決定する(数値の単位はメートル)。実際の空間の挙動がリアルに再現されている。例えば、現実の空間と同様に、Sizeを下げれば初期反射音中心の響きになっていくことが分かる。

アルゴリズムがChamberやHyper-Plateのときは10~20、Hallのときは20~50程度に設定するとよい(マニュアルより)。

Pre-Delay

ごく一般的なプリディレイ。リバーブが発動するまでの時間を決めることができる。

Mod

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リバーブの音にモジュレーションを加える。この機能のおかげで、リバーブを幻想的な響きに調整したりすることも容易だ。AよりもBのほうが派手にかかる。

Contour(輪郭)

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初期反射音のアタックのエンベロープを調整するパラメーター。負の値にすると、アタックの立ち上がりが遅くなる。正の値にするとその逆で、リリースの側が削られる。

ディスプレイを見ながら値をいじるとイメージしやすい。ERのアタック成分を削りたいときに、負の値に動かすような使い方がメインになりそう。

Shape

「部屋の中の反射面を、どれだけ増やすか」を決めるパラメーター。さながら部屋の「Shape」といったところか。

  • 大きな負の値:反射する面が多いような、複雑な形状の部屋を表現
  • ゼロ付近:反射する面が少ないような、シンプルな形状の部屋を表現
  • 大きな正の値:初期反射のエリアを拡張して、初期反射が起こる時間を延長する

とマニュアルには書いてあるが、正直変化が分かりづらいパラメーター。ただ、リバーブタイムを極小にした状態で動かしてみると、ERの感じが変わっているのが分かる。

Density(密度)

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多くのリバーブに搭載されている、リバーブの密度を決めるパラメーター。高いほうが濃密になるので、高めで行きたいところ。

※値を上げるとディスプレイ表示も濃密になる。

正の値~負の値と設定できるが、マニュアルによれば、プラスマイナス関係なく、純粋に「単位時間あたりに発生するディレイ」(Tail)の数と考えて良さそうだ。

大きな正の値:ディレイの数が多くなる
大きな負の値:ディレイの数が少なくなる

出展:公式マニュアル(英語)

なお、アルゴリズムモードによって、Densityの効果は変わってくるとのこと。

Diffusion(拡散)

マニュアルによると、よく分からなければ中くらいの値がオススメとのこと。基本デフォルトで良さそう。

Algorithm Modes

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リバーブのアルゴリズムを選ぶ。Hall、Chamber、Hyper-Plateなどを選択できる。「Classic」と付いているものは旧バージョンのアルゴリズムらしいので、僕はそれ以外の新しい方を使うようにしている。

9 completely new modes unlike anything else in other 2CAudio products (略)3 Classic modes that have been significantly improved

出展:Breeze製品ページ

Algorithm Randomize(サイコロマーク)

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パラメーター自体は変えずに、音響にバリエーションを持たせることができる。

ミックスコントロール

Mix Lock(左下の錠前マーク)

ミックスバランスをロックすることができる。プリセットを切り替えても、Dry/Wetの割合が変わらないのでプリセットを比較試聴するときに便利。

Mix Mode → Mix

左下の「MIX」という文字を押すと切り替えられる。こちらは普通のモード。DryとWetのバランスが調整できる、ごく一般的な形式だ。

Mix Mode → Balance

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Balanceモードは少し特殊なモード。Balanceモードでは、Dry信号そのものが、空間に配置したようなステレオ信号に変換される(Dry信号が、素の状態では鳴らなくなる)。

Balanceモードの状態でWetを0まで下げて、Dry信号(厳密にはDry信号を変化させた信号ということになるが)だけを聴いてみると分かりやすい。モノラルソースでもステレオになっていることが分かるはず。

※なお、そのステレオ幅については、Widthで調整できる。

マニュアルによれば、Balanceモードは次のような状況で役に立つそうだ(一部の例を抜粋)。

  • オーケストラ:HallやChamberのアルゴリズムモードと一緒に使う。より奥行きのある感じにできる。
  • モノラルマイクで録音した素材:HallやChamberのアルゴリズムモードと一緒に使う。あたかもステレオマイクで録音したような雰囲気にできる。リアルな感じになる。

Cross

どの程度、左右の信号がクロスオーバーするかを決める。

Width

リバーブのステレオ幅を決める。

【無料】サブスクの音ネタサイト「Noiiz」の気前が良すぎるので紹介する

Noiizとは?

f:id:singingreed:20181025180735j:plainNoiizは、音ネタをサブスクリプション形式で販売しているサイト。ラインナップ的には、「Samplephonics」というディベロッパーの素材が中心(というかSamplephonics主催のサイト)。

  • キック、スネア等のリズムサンプル
  • パーカッション、ドラムのリズムループ
  • その他楽器のループ素材

こういった音ネタが多数販売されている。EDM、Trapなどのダンス系トラックに向いた音ネタが多い。もちろん普通のポップスで使ってもいい。

無料プランが充実

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Free(無料プラン)が充実していて、以下のモノをもらうことができる。

  • 500MB分のサンプル(※1日に落とせるのは50MBまで)
  • 1つのインストゥルメント
  • 1つのプリセットパック

フリーと有料の間で選べるサンプルに違いは無さそうなので、良いサンプルだけを厳選してダウンロードすれば、ものすごく得することができる。

同じくサブスクリプションの音ネタサイトである「Splice」では、無料体験中はサンプルをダウンロードすることはできない。そう考えると、Noiizの無料プランは非常に気前が良いといえる。

Noiizの使い方

サンプルの探し方

複数のタイトルにまたがってサンプルを探すこともできるが、ひとまずはタイトルごとに見ていくのが良さそう。僕のやり方だが、まずジャンルで絞り込み、人気順(Most popular)で並べ替えてサンプルパックを探していく。

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タイトルを選んだら、サンプルを見ていく。キックのサンプルを探す場合は、「Kick」「Oneshots」で絞り込んで、「Most popular」で並べ替え、サンプルを片っ端から聴いていく。良いサンプルを見つけたらFavoriteをクリックしてお気に入りに登録。

一通り探し終えたら、Favoriteフォルダを開き、再度サンプルを確認。ダウンロードしてサンプルをGETする。※ダウンロードすると、残り容量が消費される。

無料版でオススメの使い方

無料版を最大限活用するのであれば、ループサンプルではなく、ワンショットのサンプル(キック、スネア等)を中心にダウンロードしていくのがオススメ。ワンショットならサンプルの容量が小さいので、たくさんダウンロードできるからだ。

無料プランなら、一日あたり50MB、累計500MBまでダウンロードできる(2018年10月現在)。ワンショットのサンプルなら1つあたり0.2MBとかなので、2000~3000サンプルくらいDLできてしまう。それだけあれば、大抵のダンスミュージックのリズムトラックは作れてしまう。

サンプルパックをお金を出して買っていた人からすると、信じられないような大盤振る舞いではないだろうか。ただ一日に50MBまでしか落とせないので、毎日コツコツダウンロードする必要はあるが。

プリセットとインストゥルメントについて

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シンセのプリセットパックや、独自エンジンを使ったVSTインストゥルメントも販売している。個人的にはそれほど使わないため、あまり魅力を感じなかった。

無料体験中もそれぞれ1つずつ貰えるので、試しにインストゥルメントを一つDLしてみたが、そこまで惹かれなかった。ただ、専用音源を持っていない人は試してみてもいいと思う。

Noiizの特徴

  • たくさんのタイトルから好きなサンプルを選び放題。これだけあれば、ダンス系のリズムサンプルで困ることはないはず。
  • 無料体験中でも「Most popular」でソートできる。人気のあるサンプル順に並べ替えてくれるので、質の高いサンプルを見つけやすい(商売のことを考えるなら、本来この機能は制限されていてもおかしくない)。
  • サンプルの品質は高い。少なくとも、その他の有名ディベロッパーのサンプルと比べて質が劣るということはない。
  • Webブラウザで普通にダウンロードできる。Spliceのように専用ダウンローダーを入れる必要がないので、ダウンロードはやりやすい。
  • サイトの読み込みが少し遅い。ソート項目を変えるだけでも再読み込みが起こるので、急いでいる人には少しキツいかも。この点はSpliceの方が上。

有料プランの紹介

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f:id:singingreed:20181025180724j:plain有料プランには、以下の3パターンがある。

  • Starter:月額9.99ドル。月に1GBまでサンプルをダウンロード可能。プリセットやインストゥルメントも落とせる。
  • Unlimited:年間99ドル。全てのサンプル、プリセット、インストゥルメントを1年間落とし放題。
  • Lifetime:599ドルで永久ライセンスを得ることができる。全てのサンプル、プリセット、インストゥルメントをいつまでも落とし放題。

個人的には、サンプルを落としたくなった時に、Starterのプランに加入し、気に入ったものだけダウンロードするのが一番コスパが高いと思う。サンプルを全然持っていないのでたくさん欲しい、という人はUnlimitedも良いだろう。

音楽制作におけるアマチュアとプロの違い 26個

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機材の導入・使い方

1

アマチュアは、セール品を買う。

プロは、必要なものを買う。たとえセールが開催されていても、必要なければ買わない。

 

2

アマチュアは、(広告向けに執筆されることも多々ある)レビュー記事を頼りに製品を評価する。

プロは自分の耳や感覚、あるいは客観的なデータを頼りに製品を評価する。

※音楽関係の製品は、個人の感性に評価が委ねられる部分も大きいため、客観的なデータを得るのが難しいところもある。

 

3

アマチュアは、機材やソフトを買っただけで満足してしまう。

プロは、買ったものをひたすら使い倒し、自分なりの使い方を見つける。

 

4

アマチュアは、サンプルをそのまま鳴らす。

プロは、サンプルの音色に不足している要素を見抜き、他のサンプルとレイヤーして(組み合わせて)独自の音色を作ることがある。

※リズムサンプルをDAWに直接貼り付けず、Batteryのようなサンプラーに読み込んで使うプロが多いのには、そういった理由もある。 

Native Instruments /KOMPLETE 12

 

5

アマチュアは、シンセのプリセットをそのまま使う。

プロは、プリセットを必要に応じてエディットして使う。一からプリセットを自作するケースも多々ある。

音楽制作の特徴

6

アマチュアは、誰も聴いていないような細部に必要以上にこだわる。

プロは、音楽全体への影響が大きい要素から優先してこだわる。

 

7

アマチュアは、闇雲に上モノを飾り立てる。

プロは、曲の骨格となる4リズム(特にドラム・ベース)で手を抜かない。

 

8

アマチュアは、闇雲にトラック数を増やしてしまう。

プロは、聴かせたい要素を明確にして緻密に編曲する。

 

9

アマチュアは、コンプの使い方がおかしい。かけ過ぎていたり、逆に全然かけていなかったりする。

プロは、コンプを適切に使う。

※エフェクトの中で一番実力差が出やすいのがコンプ。

 

10

アマチュアの曲は、きちんとミックスしないとバランスよく聴こえない。

プロの曲は、音色選び、編曲、録音の段階で最大限工夫がされているため、フェーダーを揃えるだけで、ある程度ミックスバランスが取れている。

 

11

アマチュアは、ショボい素材をミックスで何とかしようとする。

プロは、高品質な素材を用意できるよう、録音や楽器、音作りに最大限こだわる。

 

12

アマチュアの曲は、時に音楽理論的に破綻している。

プロの曲は、一見奇抜であっても音楽理論的には破綻していない。

仕事術

13

アマチュアは、ソフトやプラグインをすぐにアップデートしてしまう。

プロは、安定した環境を維持するため、仕事が落ち着くまではアップデートしない。


14

アマチュアは、毎回イチから作業を始めてしまう。

プロは、既出のプロセスは保存して使い回し、効率化する。

※作業の効率化については、以前にも記事を書いた。具体例はこちら → 作曲家・アレンジャーがDAWで効率よく作業するためのテクニック集 10


15

アマチュアは、じっくり時間をかけないと作品を形にできない。

プロは、蓄積されたスキルとノウハウを駆使して、短時間でも最低限のクオリティを確保する。


16

アマチュアは、ファイルの管理がテキトー。

プロは、ファイルを失うことが致命的なダメージになることを知っているので、慎重かつ確実に、ファイルの整理とバックアップをしている。

Acronis True Image 2018


17

アマチュアは、PCや機材が壊れると作業がストップしてしまう。

プロは、何かが壊れても作業を継続できるよう、最低限のサブシステムを用意している。

※「自分の体」のバックアップはできない。健康には気を使いたい。

スキル・経験・考え方

18

アマチュアは、とにかく耳が未熟。ハーモニーに濁りがあっても気づかなかったりする。リズムが走ったりモタったりしていても、気にしなかったりする。

プロは、とにかく耳が良い。ハーモニーやリズムを感じ取る能力が高い。エンジニア的な耳(トランジェントや帯域バランスへの感度)を兼ね備えた人も多い。


19

アマチュアは、「商業的な理由によって分類された音楽ジャンル」に夢中になってしまう(アニソン、アイドル、ビジュアル系など)。

※アニソンしか知らない状態でアニソン作曲家を目指したりしてしまう。

プロは、「それらの音楽のルーツとなっている音楽」を掘り下げることを忘れない。


20

アマチュアは、自分の作品が完全に"オリジナル"だと思っている。

プロは、多くの音楽が、既存の要素の組み合わせで成り立っていることを知っている。


21

アマチュアは、音楽理論の習得が、音楽に制約をもたらすと思っている。

プロは、音楽理論の習得が、制約の無い音楽を生み出すことに繋がると思っている。


22

アマチュアは、技術よりもセンスが大事だと思っている。

プロは、技術を磨くことでセンスが開花すると思っている。


23

アマチュアは、DTMのスキルだけを頼りに音楽を作ろうとする。

プロは、DTMをこなせるだけではなく、何かしらの楽器を演奏できる人がほとんど。何気なく楽器を弾いている最中に、曲作りのインスピレーションを得たりする。


24

アマチュアは、音楽に触れてきた時間がそこまで多くない。

プロは、音楽を聴くことや、音楽を演奏(コピー)することに膨大な時間を費やしてきている。


25

アマチュアは、自分の好みに合わないという理由で、売れているアーティストを安易に批判・卑下する。

※アマチュアのメジャー批判ほど、みじめで愚かなことはない。

プロは、アーティストが売れているのには、それなりの理由があると理解している。たとえ好みではなくても、彼らの音楽や活動を客観的に分析し、フィードバックできる部分は自分の活動に役立てて行く。


26

アマチュアは、「プロという肩書き」を時に崇高なものと捉えてしまうことがある。

プロは、「プロという肩書き」が音楽に与える本質的な影響は、それほど無いことを知っている。

※大事なのは作り手の肩書きではなく、音楽の中身。

おわりに

今回はアマチュアとプロの違いをまとめてみた。

少し偉そうな言い回しが多くなってしまったが、これらの多くは、他でもない僕自身の成長記録の一部だ。もし役立ちそうな項目があれば、参考にしてほしい。

音楽家がかかりやすい「楽器/機材/プラグイン収集病」について

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はじめに

わずか数週間程度だが、昔、大学の軽音楽部に体験入部していたことがある。そのときに違和感を覚えた経験について、本題に入る前に語っておきたい。

その軽音楽部では「音が良いこと(≒高価な楽器を使っていること)」が、「演奏が良いこと」以上に、極端に重要視されていたのだ。もちろん出音が良いというのは音楽を演奏する上で重要なことだ。しかし、それから僕は軽音楽部のライブを見て驚くことになる。

良い機材を所有していた彼らの中には、演奏技術が低い人も多かったのだ。左手の運指と右手のピッキングのシンクロが上手く行っていない。不自然な運指をしている。リズムが悪い。そんな状態で、高いマーシャルのアンプを使って満足していたのだ。

大学の軽音部というのは、音楽のプロが在籍しているコミュニティではない。レベルの高い人が少なければ、異質な価値観が支配的となることもあるだろう。

しかし、この「演奏の中身よりも機材・楽器に価値を置いてしまう」という現象は、「アマチュアレベルだから仕方がない」という単純な話ではなく、実はプロレベルの人でも陥ってしまうような、いわば「機材収集病」の症状のひとつなのではないか。最近そんなことを考えたので、今回記事を書いてみることにした。

収集病の定義

楽器や機材、プラグイン等を集めることを、作曲・演奏等の生産的な作業よりも優先してしまう病のこと。

道具か腕か?

先に断っておくが、音楽に携わる人の中には、良い機材を所有しておく必要があるポジションの人もいる。エンジニア、マニピュレーター、楽器のテクニシャン。こういった職業の人は、(腕のほうが重要ではあるにせよ)良い道具を持つことが、良い仕事をすることにつながっていく部分も大きい。

しかし、いわゆる音楽家――作曲家や演奏家の人は注意しなければならない。作曲家や演奏家は、自身の作曲能力や演奏スキル、音楽性が、機材よりもはるかに大切だからだ。

サウンドのクオリティが高いデモ音源を作れる作曲家でも、人を感動させるような良い曲が書けるとは限らない。良い楽器を使っているギタリストでも、優れた演奏ができるとは限らないし、出音が良いとも限らない。

作曲家が本質的に目指すべきなのは、良い曲を書くこと。演奏家が本質的に目指すべきなのは、良い演奏をすること。このことを忘れてはいけない。そして、これらは決して高級な楽器や機材が届けてくれるものではない。

収集病がもたらす弊害

音楽家は本来、音楽を演奏したり作るための道具として楽器や機材を手に入れる。しかし、収集病にかかってしまうと、集めること自体が目的になってしまい、手段と目的が逆転してしまう。その結果、本来の目的である「演奏」や「作曲」といった作業が疎かになってしまう。

また、その結果、せっかくの良い機材もその潜在能力をフルに発揮できないということも起こり得る。道具は、使いこなすことが何より大事なのだ。

例えば、僕は過去に仕事で「ピアノのトラックが良い音にならないので、音源を差し替えて欲しい」という依頼を受けたことがある。もらったMIDIデータを見ると、なんとベロシティが全てMAX。これでは当然生っぽいピアノトラックにはならない。何の音源を使っているのか聞くと、なんとIvory(高品質ピアノ音源)。打ち込みが良くないと、良い音源を使ってもダメという一例だろう。

道具ではなく、人の手が良い音を生み出していく。これはDTMだけではなく、あらゆる作業に言えることだろう。

収集病にかかる原因

マルチな能力が求められる時代だから

今の作曲家は、求められるスキルが多岐に渡っている。ひとりの人間が多くの作業をこなす必要があるのだ。音楽制作の予算が縮小したことと、PCベースの音楽制作スタイルが主流になったことがその理由だ。

作曲ができるだけでは仕事にありつけない。作曲の仕事を獲得するには、完成品に近い品質のデモ音源を用意する必要があるからだ。

そのため作曲家は、作曲以外にも様々なスキルを持っていることが多い。編曲、演奏、録音、ミックスダウン、マスタリング、MIDIプログラミング、シンセマニピュレート……一線で活躍している人は、どの作業も高水準でこなせることが多い。そしてこれらの作業の多くは、良い道具を持っている人ほど、高いクオリティに仕上げやすい。

そんな状況が背景にあるため、人によっては機材収集に走ってしまうのも仕方がないだろう。そうしているうちに、本来の目的である「作曲」という作業が疎かになってしまうことも想像に難くない。

漠然とした不安があるから

「新しい道具を手に入れれば、何かが良い方向に変わるんじゃないか」。こう考えてしまうことも、収集病にかかる原因のひとつだろう。しかもやっかいなことに、この考えはある程度正しい。

作曲家なら、プラグインやソフト音源にお金をかければデモ音源のクオリティが上がる。演奏家なら、楽器のグレードが上がれば音は良くなる。ひいてはクライアントに良い印象をあたえることができ、仕事が上手く回ることもあるだろう。

なら問題ないのでは?と思うかもしれないが、ここがまさに収集病の落とし穴なのだ。選択肢が限りなくある以上、道具探しの旅が終わることはない。だからこそ、自分でゴールを決めなければならない。

ひと通り良さそうな道具が手に入ったら、あとは余計なことを考えずに作曲や演奏に専念する。そういった割り切りも必要になってくるのではないだろうか。

収集病にかからないための対策

本質的な目的を常に意識しよう。作曲家は、曲を作るのが目的。演奏家は、演奏をするのが目的。機材や楽器を買うのは、そのための手段にすぎない。

「TAKモデルのギターを買えば、B'zのようなかっこいいギターを弾けるかもしれない」「EOSを買えば、小室哲哉みたいな作曲家になれるかもしれない」こんな風に考えるのは、好きなミュージシャンがいる人なら自然なことだ。

しかし、音楽を突き詰めていくと、遅かれ早かれ自分の音楽を確立して行く必要が出てくる。それを作り上げていくのは、楽器や機材ではなく、その人自身のセンスや技術といった部分になってくる。

プロの世界には、特別な道具を使っているわけではないのに、個性的な音を出しているミュージシャンが大勢いる。機材マニアの人なら薄々気づいているであろうこの事実を、いつも忘れないでおきたい。

最後に中田ヤスタカ氏の名言を紹介しよう。氏がJ-POP界の革命児となる前の、まさに革命前夜のインタビューだ。

「一時期は電源ケーブルから変えていこうかなと思っていたくらい音質にこだわっていたのですが、踏みとどまりました。やっぱり、電源ケーブルを変えるよりも自分が変わったほうがいいかなと思って。」
出展:サウンド&レコーディング・マガジン 2006年7月号

このような哲学を持っていたことも、彼が音楽の世界で成功した理由のひとつではないだろうか。

皆さんもぜひ、収集病にかかることなく、自分自身の音楽を磨いて行ってください。

【DTM】作曲家が知っておきたい、制作環境へのお金のかけ方

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音楽制作には、とにかくお金がかかる。

作曲をするだけなら安い電子ピアノで問題はない。しかし、現代の作曲家は「デモ音源」を求められるケースがほとんど。打ち込み、レコーディング、ミキシングなどの作業も行う必要がある。

これらの作業を行うために必要な機材やソフトは多い。パソコン、スピーカー、オーディオインターフェイス、DAWソフト、ソフトシンセ、プラグインエフェクト、マイク、楽器……品質の高いものは、どれも数万~数十万円という値段がする。

プロの作曲家は、これらのアイテムに多くのお金をつぎ込んでいることが多い。機材環境のクオリティは、音源のクオリティに直結するからだ。

これらのアイテムを闇雲に買っていては、お金がいくらあっても足りない。そこで、機材やソフトに何百万とつぎ込んできた僕の経験をもとに、効率の良いお金のかけ方について記事にまとめていこうと思う。

お金をかける前に知っておきたい予備知識

ソフトやデジタル機材は、10年後は価値が下がる

ソフトやデジタル機材の進化は日進月歩。音楽機材も、デジタルものは時が経てば価値が下がってしまう。

例:10年前は20万円もしたハードシンセが、中古で2万円程度で売っていたりする。

現在の音楽制作はコンピューター・ベースでの作業が主流。DAWソフトやソフトシンセ等ソフトウェアへの投資は避けて通れない。とはいえ、長期的に音楽制作を続けることを考えた場合、なるべくパソコンやソフト、デジタル機材には極端に高額な投資をしないほうが資金を有効に使っていけるはずだ。

例:フルスペックのMac Proを買うお金があるけど、あえてコンピューターの性能を落とし、スピーカー資金に回すことにした。

楽器やアナログ機材は価値が下がりづらい

ソフトウェアに対して、生楽器やマイク、マイクプリアンプなどのデジタル要素がない機材は、時が経っても価値が下がりづらい。それどころか、楽器やマイクは古いものほどヴィンテージ扱いされて価値が上がるケースもある。

思い切ってお金をたくさんつぎ込むなら、こういった機材にするとよい。

なお、テクノロジーの発展によりこれらがデジタル技術で代替される場合もあるため、それによって相対的な価値が下がる可能性はあるので注意。

例:昔何百万円もしたMinimoogも、今は安価なソフトシンセで同じような音が出る。

優先的にお金をかけたい部分

モニター環境(スピーカー、ヘッドホン)

いちばん大事なのが、モニター環境(音を聴く環境)だ。音楽制作のあらゆる局面で、「良い演奏・歌唱ができているか」「良い音が出ているか」といった判断をする必要がある。

研究・勉強のために既存の曲を聴くような場合、例えば「メインボーカルの後ろで小さく鳴っているハイハットの音」をしっかり聴き取りたいようなときもある。新しくソフトシンセやエフェクトプラグインを買う場合も、「良い音が出るか」「欲しい効果が得られるか」という判断をしなくてはならない。

これらの作業は、いずれもモニター環境が整っていないと難しい。モニタースピーカーは、最優先で用意すべき機材だと僕は考えている。

どれを選ぶかについては、事前に入念にリサーチをし、楽器屋に足を運び試聴して判断して欲しいが、一つ挙げるとすればYAMAHA MSP5 Studioは初めてモニタースピーカーを買う人にも推奨できるモデルだ。色付けも少なく正確なモニタリングができるし、価格もお手頃でコストパフォーマンスが高い。プロユースにも耐えうるクオリティだ。

GENELEC、YAMAHA、ADAMあたりのモニタースピーカーはオススメ。プロの作曲家や編曲家でも使用者が多い。住宅環境によってはモニタースピーカーを鳴らせない人もいるかもしれないが、そういう場合でも良いヘッドホンを使うことを心がけたい。おすすめは、AKG K702のような、奥行きを感じやすいヘッドホンだ。

※イヤーパッドから音が漏れるため、マイク録音時のモニタリングには使えないので注意。歌や楽器をマイク録音するときは、SONY MDR-CD900STなどの密閉型ヘッドホンで音を聴こう。

マイク

歌やアコースティックギターなどを録音する場合の必須アイテム。録音の品質を最も左右するのは、何と言ってもマイクだ。レコーディングではコンデンサーマイクが使われることが多い。

今では低価格帯のコンデンサーマイクでもそこそこ良い音で録れる。しかし、高品質なマイクを選ぶことを考えた場合、20万~という値段がするのは今も昔も同じ。時が経っても価値が下がりづらい機材の一つなので、思い切ってお金をかけてもよいと僕は考えている。

オーディオインターフェイス(ある程度の金額まで)

音を再生したり、楽器や歌を録音するのに必要な機材だ。一部の業務用ハイエンドモデルを除き、マイクプリアンプやAD/DAコンバーターと一体型になっていることが多い。

いちばん大事なのが「安定して動くかどうか」ということ。ドライバが粗悪な物を避けて、実績のあるメーカーから選ぶようにしよう。オーディオインターフェイスは録音の品質や再生される音の品質にも影響するので、多少は良いものを手に入れたい。

僕のオススメは断然RMEのインターフェイスだ。ドライバの性能・安定性が断トツで優れているのが一番の理由。WindowsとMac両方の環境で使えるし、相性問題が出やすいWindowsマシンであってもトラブル知らずの安定動作が期待できる。レイテンシーも下げやすいし、Total Mixで内部信号のルーティングも自由自在。

※使い方の解説記事も書いています → RME TotalMix FXの使い方を、5つの具体例を挙げつつ解説してみる - Nomad Diary

Macなら相性問題が少ないので選択の幅も広くなるが、Windowsユーザーなら安定動作を優先し、RMEがファーストチョイスという人も多いだろう。

なお、オーディオインターフェイスは基本的にはデジタル機材。優先度は高いが、必要以上にお金をかけてもコストパフォーマンス的には微妙。音質面に関しては、時代が進めば進むほど、安くて良いものが手に入るようになるからだ。作曲家ならば、RME程度の一体型インターフェイスがあれば問題ない。それ以降は、単体マイクプリ、単体コンバーターに手を出そう。

生楽器系のソフト音源

※2018年9月追記

ピアノやドラム、ベース、ストリングスのような楽器は、様々なジャンルの音楽で使われる。その分使用頻度も高いので、これらの楽器については思い切って良い音源を手に入れてしまおう。ドラム音源のBFD、ピアノ音源のIvory、ベース音源のTrilianなどは定番だ。

生楽器の音源の多くは、「録音されたサンプルを、ソフト内で再生する」という、いわゆる「サンプリング」の手法を利用して音を出す仕組みになっている。この仕組み自体が本質的に変わらない限り、ソフト音源が大きく進化することはないのだ。現に生楽器系のソフト音源に関しては、10年前の製品が現役で使われていることも多い。

これを裏付ける例として、冨田ラボ氏のドラムを紹介したい。冨田ラボ氏は、大容量ソフト音源が一般的になる前――遅くとも2000年代前半の時点で、自作の大容量ドラム音源を使っていたのだ。当時はPCのスペックも低かっただろうに、ドラム専用のPCを用意して鳴らすという徹底ぶりだ。

1キットにつき3GBを超える自作ライブラリーの音色は、生ドラムと聴き違うほどのリアルさだ。
出展:サウンド&レコーディングマガジン 2006年3月号

氏がこの時期のドラム音源を今でも使っているかどうかは不明。だがそれでも、当時の作品のドラムトラックが、現在主流の大容量ドラム音源であるBFDやSuperior Drummer等と比べても勝るとも劣らないクオリティであることは、「STARS/中島美嘉」「Everything/MISIA」などの曲を聴いてみれば一目瞭然。これを15年も前にやっていたのだから恐れ入る。

結局、ソフト音源のクオリティは、

  1. 良い楽器を使っているかどうか
  2. 収録時に良い演奏ができているか
  3. 良い録音ができているか(=録音空間やマイクの品質は十分か)
  4. サンプルの容量が十分確保されているか
  5. サンプルをエンジン(Kontakt等)に上手く組み込めているか

これらの要素で決まってくる。テクノロジーが進化しても録音の方法そのものは変わらないので、ソフト音源の進化は意外と遅いといえる(プラグインエフェクトの進化が日進月歩なのとは対照的)。

※「録音に使うADコンバーターが時代とともに進化している」という部分はあるので、厳密にいうと同じ手法でも出音は進化することになるが、他の要素に比べれば微々たる差だろう。

現に、Vienna Symphonic Library社は、"SYNCHRON-ized"と銘打った「過去の音源のサンプルを流用した音源」を"新製品"としてリリースしている。音色自体が定番のものなら、録音したサンプルが古くても問題ないことの表れだろう。

後発の製品でより良いものが登場する可能性はあるにせよ、今の音源の価値がすぐに下がるということはない。したがって、ソフト音源にはきちんと投資しても問題ない。これが僕の見解だ。

※オススメのソフト音源については、別に記事を書いている。

必要に応じてお金をかけたい部分

※2018年9月追記

プラグインエフェクト

EQ、コンプ、リバーブは、ミックス作業においてメインで使う道具だ。できれば良いものを手に入れておきたい。EQならNeve 1073、コンプならUrei 1176やTeletronix LA-2Aなどが定番なので、これらを再現したプラグインを持っておくと便利。

ただし、特にコンプは、「どのタイプ(FET/光学式/デジタル等)のコンプを選ぶか」「どういったセッティングにするか」という判断が、使う道具の品質以上に大事になってくる。オーディオエンジニアリングの基礎的な知識をひと通り学んで、それから製品を選んで行くのがオススメだ。

スキルやノウハウへの投資

一線で活躍するプロが登壇するセミナーなどは、積極的に参加するとよいだろう。自身の実力の底上げにつながる。僕も以前、著名なプロデューサー/アレンジャーの講座を受けたことがあるが、非常に有意義な内容で、今でもその学びが生きていると感じている。

なお、講師が本業の人や、実績に乏しい人のレッスンはそれほどオススメできない。プロの現場のノウハウを知らない状態で独自の指導をしているケースも多く、実際に仕事をする上で役に立つとは限らないからだ(趣味で曲作りを楽しむのが目標なら問題ないが)。

とはいえ一線で活躍している人はレッスンを開催していないことも多く(忙しいので)、結局は売れっ子の人の講座を受けられる機会は少ないというジレンマもある。もし開催されることがあれば、ぜひチェックしておきたい。

書籍を読むのもいい。オススメの本は以前にも記事を書いた。

また、今はネットでノウハウを公開している人も多い。現役のプロがTwitterやブログなどでTipsを公開している場合もあり、勉強になることもある。ネットの情報は質が低いものも多いので、そこだけは注意したい。

YouTubeでは海外のクリエイターが制作風景を公開していたりする。海外のクリエイターは日本のクリエイターよりも情報をオープンにする傾向があるので、海外の文献を漁れるように英語力を身につけておけば、心強い武器になるだろう。

一点豪華主義よりもバランス

作曲家の久石譲氏が、著書でこのように語っている。

国際級のすごいソリストを入れても、中に一人ヘタな人間がいると、アンサンブルとしての実力はそのレベルに下がってしまう。

出典:感動をつくれますか?- 久石譲(第二章より)

音楽制作でも同じようなことがいえる。いくら良いギターを使っていても、アンプが低品質だと良い音は出ない。演奏や録音が良くても、ミックスが悪いと音源のクオリティは低くなる。

あらゆる要素の積み重ねで音楽はできている。

制作環境のどこかに安物が混じっているような場合、それが総合的なクオリティを下げる原因になっていないか定期的に考えてみることが必要だと思う。

また、以下のようなケースでは、前者の方が品質が上がったように感じやすい。

  • 1万円のマイク → 10万円のマイクにグレードアップ
  • 10万円のマイク → 20万円のマイクにグレードアップ

現在使用している機材の品質が高ければ高いほど、そこからグレードアップするために必要な金額は大きくなる。一点豪華主義よりもバランス良くお金をかけていくのが効率的だ。

セールを狙う

ソフトウェア、ハードウェア問わず、音楽制作のアイテムはセールを行うことがある。音楽制作のアイテムはどれも高額なので、1~2割引き程度であっても大きな節約になることが多い。楽器店や代理店のメルマガ、Twitterアカウントなどをチェックして、セール情報が流れてこないかマメにチェックしよう。

特に、11月下旬のBlack Friday(通称「黒金」)の時期は、様々なプラグインデベロッパーがこぞってセールを開催する。50%OFFになるプラグインもある。そこで、11月下旬になったら「欲しいプラグインが、Black Fridayセールで値引きされていないか」を必ずチェックしよう

  • Black Fridayに向けて資金を貯める
  • Black Fridayに向けて買い物の計画を立てる

こういうのは、慣れた人なら当たり前のようにやっていることだ。

プラグインの多くはWeb経由で購入することになるので、もし持っていなければ、通販用に1枚はクレジットカードを作っておこう。クレカのことがよく分からない人は、楽天カードを選ぶのがオススメ。年会費無料でポイント還元率も高く、楽天市場に音楽関係のショップが多いというのがその理由だ。

サポート不要なソフトは海外サイトで買う(要英語力)

音楽制作のソフトはほとんどが海外製。国内で買う場合、基本的には代理店を通して買うことになる。代理店を通して買うメリットは、日本語で製品サポートが受けられたり、ソフトによっては日本語マニュアルがもらえたりすることだ。

反面、代理店を通すと価格は高くなってしまうことが多い。ある程度DTMに慣れた人なら代理店のサポートは不要なので、プラグイン関係は海外のサイトで購入するとよい。

僕は普段、AudioDeluxeという海外のサイトを使っている。店独自の割引が日常的に行われており、何でも安く手に入る。商品購入後にシリアルが送られてくるまでのスピードも速く、使い勝手が良い。

音楽関係の商品に限ったことではないが、海外のショップで買い物をする場合、支払い方法はPayPalがオススメ。手数料はかかるが、クレジットカード情報をお店に渡すことなく安全に買い物ができる。PayPalに1枚だけクレカを登録しておけば、海外の色々なショップで好きなだけ買い物ができるようになる。

ただ、海外ショップの利用は万人におすすめできるものではない。万が一トラブルがあったときのために、英文でメールを書ける程度の英語力は持っておくのがマナーだろう。また、日本のショップのような迅速丁寧な対応を求める人は、海外のショップで買い物をするべきではない。

なお、オーディオインターフェイス等のハードウェアは、故障時に修理することも考え、国内で買うことをオススメする。DAWソフトに関しても、操作習熟の重要度が高い部分なので、いざというときに日本語サポートが受けられるよう国内で買うのがよいと思う。

必要のないものは買わない

歌とアコギしか録音しないのに、8chもある10万円のマイクプリアンプを持っていても、チャンネル数を持て余すだけ。同じ10万円なら2chのマイクプリアンプの方が1chあたりのクオリティは高いはずなので、その人にとっては良い結果を得られるはず(注:価格がクオリティに比例するという前提)。

DAWやプラグインも、リリース直後のアップデートはしない。多少機能が刷新されようが曲作りへの影響は出ないことがほとんどだし、初期バージョン特有のバグに翻弄されて消耗することもある。安定した頃にアップデートするのが賢い。

安売りしているだけのプラグインも、なんとなく買ったりしないようにする。気に入ったものでなければ結局使わなくなる。気になったものは事前にデモを試し、吟味してから買う。

何か新しいものを買う場合、自分にとって本当に必要か、どのような効果が得られるのかを事前に考える。そうすれば買い物で失敗することは少なくなる。

※「機材コレクター」になることの弊害については、別の記事でも意見を書いている。

雑誌やネットの評価を信用しすぎない

雑誌では商品を宣伝することで報酬が発生する。ブログでも紹介した商品が売れれば、アフィリエイト収入を得ることができる。商品の核を捉えた記事であればそれは参考に値する情報だといえるだろう。しかしながら報酬を得るための手段として、いい加減なレビュー記事を量産している人も世の中には存在する。

自分の頭で考え、耳で判断してから購入を決断するよう、日ごろから心がけるべきだと思う。

おわりに

今回は作曲家が制作環境にお金をかける場合の考え方について書いた。制作環境のグレードが高くなれば、音源のクオリティは間違いなく上がる。

ただし、クオリティの高い音源の中身が、必ずしも良い音楽であるとは限らない。そのことはいつも心に留めておきたいと思っている。

Cubase9にもなってハイパースレッディング問題で消耗した話

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※当記事は、一部の方のみに役立つような備忘録的な内容となっています。

トラブルの概要

先日PCを新調した。Core i7、6コア12スレッドの高性能なマシンだ。OSもWindows7からWindows10にアップグレードした。これで制作も捗るはず!と思っていたところ、Cubaseで制作している最中になぜかプチる。

※プチる:音飛びや、「プチッ」とうノイズが発生すること

Ivoryでピアノを弾いていたりすると、プチノイズが発生するのだ。また、曲の再生中に音飛びが発生することもある。

Cubaseはテンプレートを起動した瞬間の状態なので、プラグインもソフトシンセもそれほど立ち上げていない。そもそも前のPCでは問題なく使えていたプロジェクトファイルだ。

インターフェイスは長年愛用しているRMEのFireface。この上ない安定性を誇るオーディオインターフェイスだ。バッファサイズは以前と同じ128sample。レイテンシーを詰め過ぎということはないはず。それに、CPU負荷はまだ20~30%程度。この程度の負荷でプチるのは何かがおかしい。

他にも、Windowsのタスクマネージャーを開いた瞬間に、高確率でプチるという症状がある。やはり何かがおかしい。

対策したこと

NIのサイトで公開されているオーディオ処理のためのWindows最適化のTipsなども参考にしつつ、以下の対策を行った。しかしどれも効果がなかった。

  • Windows 10の省電力設定の解除(←これはもともとやってた)
  • UEFI (BIOS) の省電力設定の解除(「高パフォーマンスモード」に変更)
  • 「マルチプロセッシングを有効化」のオン/オフ切り替え(Cubase設定)
  • ASIO-Guardのオン/オフ切り替え(Cubase設定)
  • Steinberg Audio Power Schemeのオン/オフ切り替え(Cubase設定)
  • オーディオインターフェイスを接続するUSBポートの変更(PCIeのインターフェイスカードのUSB端子に変更)
  • ビデオカード(NVIDIA製)のドライバを更新
  • LatencyMonで高い数値を出したドライバの無効化

原因究明へ

おとなしくバッファサイズを512くらいまで上げて使おうか。それともレイテンシーを詰めやすいThunderboltやPCIタイプのインターフェイスに買い換えようか。こんなことを考え始めるくらいには、解決を諦めかけていた頃だった。

ふと、昔のCubaseではハイパースレッディング(以下HT)を無効にすることが推奨されていたのを思い出す。

よって Steinberg では、パフォーマンスに問題が発生したときにはHyper-Threading (HT) を無効にすることを推奨してきました。Cubase 6.x、および Nuendo 5.x 以前のバージョンでは、今後も引き続き HT 無効化を推奨します。

出展:Hyper-Threading について | Steinberg

とはいえASIO-Guardが搭載されてずいぶん経つし、現在のCubase9においては、「HT無効」が公式に推奨されているわけではない。どうせ意味ないだろう……そう思いながらも、一縷の望みを託し、BIOSを開いてHyper Threadingを無効に設定。

さっそくCubaseを立ち上げて検証。タスクマネージャーを開く。プチノイズは鳴らない。ウィンドウを閉じて、再度タスクマネージャーを開く。何度試しても、やはりプチらない。

その後、実際にCubaseで作業を進めた。以前と同じバッファサイズの128sampleで制作を続ける。やはりプチノイズは発生しない。そのまま丸一日Cubaseで制作を行ったけど、一度もプチることはなかった。

というわけで、原因は「ハイパースレッディングを有効にしていたこと」でした。CPUが6コア12スレッドに増えた関係で、今まで落ち着いていたはずのHT問題が表面化したのだろうか。そんなことは知るよしもないが、とにかく自分の環境では、HTを無効にすることで安定動作が可能となった。