EDM向けシンセ、LennarDigital Sylenth1を徹底解剖【レビュー】
はじめに
LennarDigital Sylenth1は、昨今のEDM系の音楽でよく使われている、人気の高い定番のソフトシンセだ。基本的なシンセ波形をフィルターに通して音作りをするタイプの、いわゆるアナログシンセの音が出るソフトシンセとなっている。
使い勝手が良く、出音が良い。Sylenth1が長く愛されてきたのは、こんなシンプルな魅力を持っているからだろう。EDM向きとされる後発のシンセは多くあるが、音質の良さ、CPUへの負荷、使い勝手など、総合的に考えると、今でもこのシンセがベストだと僕は思っている。
今回はこのSylenth1について徹底解剖していきたい。
Sylenth1の良いところ
操作がシンプル
必要なパラメーターだけを過不足なくいじれるようになっている。信号の流れも分かりやすく、使用するオシレータが2個以内であれば、1つの画面で音色作りが完結する。操作がシンプルな分、ゼロから自分で音色を作る場合も気が楽。
音が良い
例えばSuperSawのような音で和音を鳴らすような場合。Native Instruments Massiveで音を作ると、どこかデジタルっぽい無機質な印象を受ける。しかし、Sylenth1ならアナログのハードシンセを思わせるような、綺麗な心地よい音が鳴ってくれる。そんなイメージだ。
また、Sylenth1は今どきのシンセらしく、高域まで伸びたレンジの広い出音をしているので、現代的なダンスミュージックを作る上で使い勝手が良い。
もちろんフィルターを絞って甘い音にすることも可能なので、どんなジャンルの音楽でもオールマイティーに使うことができる。
軽い
CPUへの負荷は少なめ。EDMではエフェクト処理も大事になってくるため、そちらにCPUのパワーを回せるのは嬉しい。
市販のプリセットが多い
有料・無料問わず、プリセットが多く出回っている。クオリティの高い音色を販売しているVengeanceからも、Sylenth1のパッチ集は多くリリースされている。音作りが苦手な人でも、安心して使うことができるはずだ。
Sylenth1のイマイチなところ
プリセットの音色がそれほど使いやすくない
Sylenth1のプリセットも、多くのソフトシンセ同様、派手なエフェクトが掛かっていたり、アルペジエーターが鳴り出したりと、実際の曲の中では使いにくい音色が多い。
実際に曲中で使えそうな音色は、2~3割くらい(※個人の感想です)。まあ「よく分からないけど、なんかカッコイイ音が出る」ようにしといたほうがシンセの性能をアピールしやすいだろうし、ソフトを売りたいメーカーの事情を察すれば仕方ない部分もある。
音色管理がしづらい
Sylenth1は音色管理の機能が充実していない。音色のタグ管理や、レーティング管理はできないし、ユーザープリセットを保存しておくような枠も無い(ファクトリープリセットを上書きする形になる)。
Omnisphereあたりと比べると、音色管理のしやすさは雲泥の差。Sylenth1では、自分なりに工夫をして音色管理する必要がある(後述)。
複雑な音色は作れない
- 2個の波形をモーフィングさせる
- エンベロープの角度を自由に調整する
こういったことはできない(MassiveとかOmnisphereならできる)。とはいえ実際の曲作りでは、複雑な音色を使う機会は意外と少ない。特殊な音色を使うのでなければ、まず困ることはないはず。
パラメーターの見方
一般的なアナログシンセと同じように、「オシレーター → フィルター → アンプエンベロープ」と信号が流れていく。この基本的な流れの中で、必要に応じてLFOやモジュレーションエンベロープを使い、各種パラメーターを変調させていくこともできる。シンセとしては、ごくシンプルな設計となっている。
オシレーターは最大4つ、フィルターは最大2つまで使うことができる。(たくさん使うときは、Part Bの部分も開いてみよう)。フィルターエンベロープはデフォルトでは用意されておらず、自分で設定してやる必要があることに注意。
ここではSylenth1のパラメーターについて、重要な部分を抜粋して見ていくことにする。
オシレーター
※重要な項目は太字
- Octave:ピッチをオクターブ単位で変える。
- Note:ピッチを半音単位で変える(例:+7なら完全5度高くなる)。
- Fine:チューニングの微調整。※Sylenth1にはマスターチューニング機能がないので、A=440Hzから変える場合はここをいじる。→ Ver3.050以降はSettings.xmlをいじることで一応マスターチューニングの設定が可能になった。
- Volume:オシレーターの出力音量。
- Phase:発音時の位相(波形の開始地点)を変える。RetriggerがONのときのみ有効。
- Detune:デチューンの度合い(ピッチのずれる量)を決める。当然Voicesが2以上のときのみ有効。
- Stereo:デチューンした波形を、どの程度左右に広げるかを決める。Voicesが2以上のときのみ有効。
- Pan:オシレーター出力の定位を決める。基本的にセンターで良い。
- Inv:オシレーター出力が逆相(波形が反転)になる。普通はOFFで良い。
- Wave:シンセ波形を選ぶ。ノコギリ波、矩形波("Pulse"表記)、パルス波、三角波、サイン波、ノイズと、基本的な波形は揃っている。
- Voices:重ねる波形の数を決める(0だと音は出ない)。
- Retrig:リトリガーのON/OFF。基本はOFFで良い(後述)。
フィルター
フィルターはごく一般的なものが搭載されている。ハイパス、ローパス、バンドパス、フィルター無しの4つから選べて、12dB/octと24dB/octの切り替えが可能。カットオフ、レゾナンスも一般的な挙動をする。
Driveを上げると、音を歪ませることができる。これが他のシンセと違う、Sylenth1の特徴といえるかもしれない(※フィルター未使用のときはDriveは無効)。歪みの性質としては、奇数倍音が付加されるタイプになっている。ある程度歪ませたほうがアンサンブルに馴染みやすいので、適度に上げると良い。
Sylenth1ではオシレーターAの信号をフィルターAに通して音作りをするのが基本だ。Input SelectでAを選択すると、オシレーターAがフィルターAを通過するようになる。
※オシレーターA = オシレーターA1+オシレーターA2 のこと
もしオシレーターを3基以上重ねてフィルターAを通したい場合は、Input Selectを「A and B」にしよう。それからPart Bのページに移動し、オシレーターBの調整をすればよい(その際、フィルターBのInput Selectは「No Input」にする)。
フィルターコントロール
フィルターAとフィルターBを同時に操作するために用意されている機能だ。各々のフィルターで設定した値を基準とし、そこからさらにパラメーターを調整できる。なお、KeyTrackの調整と、Warm Driveのオンオフはここで行う仕様となっている。したがって、フィルターを1つしか使わないときでも、意外といじることが多い項目だ。
Keytrack
このパラメーターを上げると、フィルターのカットオフ周波数を、演奏される音の高さに応じて変えることができる。「低い音のときはOKだけど、高い音を演奏すると音がこもっている…」みたいな時に上げてやるとよい。
Warm Drive
ONだと、フィルターの歪みが強いモードに切り替わる(※より高次倍音まで付加されるようなサチュレーションになる)。ONだとCPU負荷も高くなる。
モジュレーション
Mod Env
エンベロープを各種パラメーターにかけることができる。フィルターエンベロープとして使うケースが多いだろう。
LFO
一般的なLFO。波形も各種選択可能。
Misc
MIDI情報を元に各種パラメーターを変化させるときに使う。
- モジュレーションホイールでビブラートをかける
- ベロシティに応じて音色を変化させる
上記のようなことをやりたいときに使うとよい。
上部のセクション
Polyphony
同時発音数の設定。和音を鳴らすときは多くすると良い。
Solo
現在選択されているパートのみをソロで鳴らせる。Part AとPart Bでそれぞれ音を作って、それらを重ねるような音色のときに、各々の音色の確認に使うと便利。
Sync
LFOやディレイなどを、DAWソフトのテンポに応じた設定にできる。
下部のセクション
Bend Range
ピッチベンドで変化する音程を決める。デフォルトが3(1音半)と、少し特殊。
Mono Legato
出音をモノフォニック化できる。シンセリード等を演奏するときにはONに。
Portamento
次の音を演奏する際にポルタメントがかかる。こちらもシンセリード音色で使うとよい。つまみでポルタメントの速度を調整することができる。
なお、NとSの違いは次の通り。
- N(ノーマルモード):レガート演奏時のみポルタメントが効く。
- S(スライドモード):発音に間が空いてもポルタメントが効く。
メニュー項目について
音色の管理について
- 音色を作ったら、Menu > Preset > Save as で音色を保存できる。
- 音色名は、音色名の左側にある黒丸をクリックすると変更できる。
よく使うコマンド
- Insert:現在選択している音色とその前の音色の間に、初期化された音色を挿入する。
- Delete:現在選択している音色をバンクから削除。それ以降の音色を前に詰める。
- Clear:現在選択している音色を消去し、音色を初期化する。
- Reset:現在選択している音色について、変更したパラメーターを初期状態に戻す。
おすすめの使い方
起動時のプリセットをユーザーバンクに変更する
前述のとおり、Sylenth1は音色管理の機能がイマイチ。ユーザープリセットを使う場合は、その都度ファイルをロードする必要がある。これは少し面倒くさい。ある程度使い慣れてくると、ファクトリープリセットを使うことは少なくなる。そこで、起動時のプリセットが自分のお気に入り音色になるように変更しよう。
手順は次の通り。まず、ユーザーバンクを作る。
- 音色のファイルを種類別(Pad、Lead等)にフォルダに分ける。
- Menu > Preset > Load と進み、フォルダ内のパッチをすべてロード。
- プリセットが複数、上書きされる。
- 次のプリセットに移動。手順2と同じように、別のフォルダのパッチをロード。
- すべての音色を読み込んだら、Menu > Bank > Save as より、バンクを保存。「UserBank.fxb」とでも名付け、ファクトリーバンクと同じフォルダに保存する。
これで、音色ジャンルごとにプリセットが整列した、自分仕様のユーザーバンクが作られる。次に、デフォルトで読み込まれるバンクを、ファクトリーバンクからユーザーバンクに切り替える。やり方は次の通り。
- Menu > Open Datafolder とクリック。Sylenth1のデータフォルダが開く。
- Configフォルダ内の「Settings.xml」ファイルをメモ帳などのテキストエディタで開く。
- <DefaultBank name="UserBank.fxb"/>と書き換えて、上書き保存する。
これでOK。もし元に戻したくなったときは、手順3で書き換えた内容を「FactoryBank1.fxb」に戻せばよい。
※作業は自己責任で。不安な人は書き換え前に、元の「Settings.xml」ファイルのバックアップを取っておきましょう
(参考)Soundbanks and Presets(公式サイト)
知っておきたいTips
パラメーターのコピペ
オシレーター、フィルター、エンベロープ、LFOのパラメーターは、コピー&ペーストすることが可能。各項目の右側の▽をクリックするとメニューが出てくるので、そこからコピペ可能。
デフォルトの出力音量が大きすぎる
プラグインを通すときに歪んだりクリップする原因になるので、Main Volを下げたほうがいい。
アタックタイムとリリースタイム
エンベロープのアタックとリリースは0に設定できるが、0だとノイズが出ることもある(アンプエンベロープで試すと分かりやすい)。これを防ぐには、ほんの少しだけ値を上げてやると良い(マニュアルにも記載あり)。
リトリガーが初期状態でONになっている
リトリガーとは、デチューンして重ねられた波形の頭を、それぞれ揃える機能だ。ONだと、音が発音される瞬間の波形がどれも同じ形になるので、出音をステレオで広げていても、発音の瞬間には広がりが得られなかったりする(ON/OFF比較するとわかる)。シンセはデチューンして鳴らすことも多いので、基本OFFでいいと思う。
フィルターを自己発振させる方法
少々やり方が分かりづらいが、Sylenth1でフィルターを発振させることも可能。まず、スピーカーを飛ばさないように、Main Volを1くらいまで下げておこう。何かしらの波形を選択し、Voicesは1以上、Volumeを0にする。この状態で、フィルターのレゾナンスをMAXにし、さらにFilter Controlのレゾナンスも上げる(MAXくらいでいい)。
これでフィルターの自己発振音が出てくれる。フィルターのカットオフを調整すれば、発振音の高さも変えられる。
パラメーターの微調整
Shift + ドラッグで微調整可能。
OSを再インストールするときはDeactivateを忘れずに
PCを買い替えたりするときは、Deactivateを行ってライセンスを解除しておく。これをやらないと、アクティベーション回数を1回分失ってしまうので注意(サイト上で復活可能だが、回数制限があるので)。
【上もの編】ポップスのアレンジ/編曲のアイディアを楽器別にまとめてみる
はじめに
前回は4リズムの楽器について、アレンジのアイディアをまとめた。今回はシンセ、オルガン、ストリングス、ブラス、オーケストラ系楽器、パーカッション。「上もの」と呼ばれる類の楽器について記事を書く。今回も前回同様、各楽器の音色と奏法をまとめることで、アレンジの助けになるような記事を目指していく。
シンセ(和音)
パッド系
持続するタイプの音色だ。アタック感が少なく、音の立ち上がりはゆったりとしている。
主に和音を白玉で演奏するのに使われる。コード感を補える、オケが埋まるという特性から、ボップスで使われることは非常に多い。音色的には、高域を抑えたものから、フィルターを開いた明るいものまで幅広い。
徐々にフィルターが開いていくようなパッドや、フィルターが閉じていくようなパッド(例:「Puppy love/Perfume」)も定番。こういった「スウィープ系のパッド」はフィルターのレゾナンスを少し上げ、フィルターエンベロープを設定することで作れる。
なお、PCMのハードシンセの中には、アナログシンセでは出せないような質感のパッドもある(Roland JD-800、D-50等)。きらびやかな成分を持ちながらも、うるさくない出音というのは、ハードシンセのパッドの特徴かもしれない。
パッドの音は当然どんなシンセでも作ることが可能だが、やはりSpectrasonics Omnisphereは最もシンセパッドに向いているソフトシンセだろう。上記JD-800等のハードシンセをサンプリングした音色も入っているため、非常に幅広いサウンドを得ることが可能だ。
Pluck系
アタック感のある、音価の短い音。主にコードを刻むのに使われる。フィルターのカットオフがすばやく閉じるようにエンベロープを設定することで、アタック感が作られている。
元はプログレッシブ・ハウスで多用されてきた音色だが、現在の多くのEDMで定番となるサウンドだろう。アタック感のある音色なので、ポップスのアレンジで脇役的に登場することも多い。
ブラス系
「明るい音色のシンセパッド」とやや区別が曖昧だが、ここでは「高域まで伸びた明るい音色で、アタック感のあるシンセ和音」を、「ブラス系」と定義する。Super Saw、シンセブラスなどが該当する。
音色が派手なのでオケが埋まってくれるし、また歯切れのよい音色でもあるので刻むとリズムも出てくれる。オケを占領する割合が多くなりがちな音色なので、曲が求めるサウンドに上手く合っているかを考えて使いたいところだ。
シンセ波形的には、Supersawや、デチューンしたノコギリ波の音色がよく使われる。なお、EDM系の音楽では、こういった音にサイドチェインコンプを掛けてダッキングさせるのが定番だ。また、オシレーターへのピッチ下降でアタック音を付け、さらにビブラートをかけると、往年のユーロビートで使われたようなサウンドになる。
ベル系
アタック感がある、発音してすぐ減衰が始まる、長いサステインを持つ…といった特徴がある音色だ。高域で何かしらの旋律を奏でることが多い。シーケンスフレーズとして使うのもよい。
なお、J-POPによく出てくるような、きらびやかでデフォルメ感のあるシンセベルの音色は、PCMのハードシンセの音を使うのが手っ取り早い(色々音がレイヤーされているので、普通の減算式シンセだけでは再現が難しかったりする)。Roland INTEGRA-7など、Rolandのハードシンセがオススメだ。
シンセ(単音)
シンセリード
単音で、太く伸び、持続するという性質をもつ音色だ。必要に応じてポルタメントを設定すると良い。主旋律に使ってもいいし、オブリ的に使うのも良い。シーケンスフレーズを鳴らしても良い。高速アルペジオで効果音的に使っても良い。
ノコギリ波(Saw)
やはりノコギリ波は最もポピュラーな音色だろう。デチューンして音を重ねることで広がりが出せる。
Supersaw系
デチューンして重ねる数を多く(8個くらい)することで、より派手な音色になってくれる。
矩形波(Square)
矩形波には「偶数倍音が含まれていない」という特徴がある(クラリネットと同じような特性)。デチューンして鳴らすと独特の透明感が出て良い。
三角波(Triangle)/サイン波
倍音が少ないので、柔らかく聴かせることができる音色だ。R&Bの曲などで多用されている。ポップスの曲でも、しっとりと聴かせたい場合などに有効。
シーケンス音
シンセリードとの区別がややあいまいだが、「音価が短い音色で演奏されているもの」と定義する。波形的には、ノコギリ波や矩形波(or それらをデチューンしたもの)、Supersawがよく使われる。
フィルターのカットオフをフレーズの最中に動かしたり、各種モジュレーションエフェクトを掛けて音色に変化を付けるのも良い。
シンセ(効果音)
Riser/Falls
シンセリードの音を用意し、そのピッチが少しずつ上がっていく(下がっていく)ように設定すればOK(エンベロープをピッチに掛ける)。Riserのほうははリズミックに刻むのも良い。LFOでピッチやカットオフを揺らしてエフェクティブにするのも定番テクニックだ。
EDM的な効果音のイメージが強いかもしれないが、大人しめの音色に調整し、ファンタジックな雰囲気に仕上げるのも良い。
ノイズスウィープ系
ホワイトノイズを用意し、フィルターのレゾナンスを上げた状態でカットオフを上昇/下降させればOK(エンベロープを、カットオフに掛けて設定する)。
セクションの頭では下降系の音がよく使われる。EDMでいうビルドアップのところでは、上昇系の音が使われることが多い。
ダンスミュージックに限らず、幅広いジャンルのポップスで使える汎用性の高い効果音だ。
Wobble Bass
元はダブステップで使われている音色だ。ポップスでは効果音的に使われることが多いので、このカテゴリで紹介する。
シンセベースの音を用意し、LFOでカットオフ等のパラメーターを揺らすことで再現できる。デチューンを多めに設定することができ、派手な音が出るシンセだとカッコよく仕上げやすい。やはりNI Massiveあたりのシンセが適任だろう。
Native Instruments KOMPLETE 11
SE(効果音)のアイディア
- リリースの長いクラップ(リバーブを掛けて作ってもOK)
- リバーブを掛けたキック(トランスっぽい音色)
- リバースシンバル(サビ前の盛り上げに)
- 曲全体にフィルターを掛けて開閉(DJ的な演出)
- サンプルの再生速度を徐々に遅くする(DJ的な効果)
- 波形を切り貼りし、Glitch/Stutter的な効果を出す
- グラスの割れる音
- 時計の針の音
オルガン(ハモンド)
ドローバーのセッティングによって音(倍音の鳴り方)が変わるので、出したいサウンドに合わせて調整しよう。また、どれだけ歪ませるかもポイント。ロックでは派手に歪ませて、ギターに負けないような激しい音にすることも多い。
白玉
オルガンは持続する音なので、白玉でコードを補うことが多い。
刻み
オルガンはリリースが短い音でもあるので、休符を生かしてリズミカルに刻むのも良い。パーカッションスイッチをONにするとアタック音が得られるので、パーカッシブに刻むこともできる。適宜ゴーストノートを入れると効果的。
アルペジオ
アルペジオで演奏するのも良い。往年のハードロックでよく使われた。
グリッサンド
グリッサンドもオルガンらしい奏法のひとつだ。エクスプレッションペダルを上手く使って強弱をつけるとよい。黒鍵と白鍵をまとめてグリッサンドすると激しい音にできる(手のひらでやる)。
レスリーのslow/fast切り替え
ロングトーンの最中などに、レスリーの速度を切り替えるのは定番テクニック。
ストリングス
ポップスのストリングスアレンジでは、1stバイオリン、2ndバイオリン、ビオラ、チェロの4パートでアレンジするのが一般的だ。
カウンターメロディ(裏メロ)
カウンターメロディを演奏するのは、ポップスにおけるストリングスの大きな役割の一つだろう。主旋律を引き立てるような、グッと来る裏メロを考えたい。
カウンターメロディは1stバイオリンが担当することが多い。ポップスのアレンジにおいては、2ndバイオリンとユニゾン(or オクターブユニゾン)になることも多い。
駆け上がり
駆け上がりは、クラシックの頃から長らくストリングスの得意技であり続けた。ポップスでも頻繁に出てくる奏法だ。1stバイオリンと、2ndバイオリンのオクターブユニゾンで行うことが多い(ハモることもある)。迫力を出したいときなどは、ヴィオラやチェロが参加することもある。
刻みの役割
アタック感のある音色でスタッカート気味に刻むのも、ロックやポップスではよく出てくる奏法だ。曲に躍動感が出てくれることうけあい。
「トップのラインをペダルポイント的に固定して刻む」のはポップスでは定番のフレーズだ。もちろん4声で和音を刻んでもOK。
パッドの役割
白玉でふわっとコードを鳴らすのもストリングスの得意分野だ。4つのパートでコードの構成音を補うようにすると良い。なお、パッドの役割といえども、もちろんシンセパッドとは違って、各声部を適切に動かすのがとても大事。
テンションコードを鳴らすときなどは、ディビジで声部を増やすのも効果的。各声部の連結が美しくなるよう、和声的に充実させるといっそう良い響きになる。
ピチカート
弓ではなく、指で弦を弾いて音を出す奏法だ。あまり音量は稼げないので、比較的静かな場面で使うことも多い。柔らかい雰囲気のポップスにもよく合う音色だ。
トレモロ
高速で同じ音を繰り返し鳴らす奏法だ。音量を自由に変えられるという弦楽器の特性上、クレッシェンドやデクレッシェンドと一緒に使うと非常に効果的。
トリル
半音 or 全音の関係にある2音を、交互に素早く鳴らす奏法だ。ストリングスのトリルは、複数人で演奏するという性質上、微妙なタイミングのズレによって広がりのあるサウンドになる。
フォール
音を出して、即座に弦を押さえる位置を動かし、ピッチを下げる奏法。アシッドジャズ、ディスコといった音楽でよく使われる奏法だ。
Audiobro LA SCORING STRINGS 2.5
ブラス
ポップスでは主に、ファンク的なアプローチをする場合に登場する。トランペット、サックス、トロンボーンでセクションを構成することが多い。定番の奏法は意外と決まっている。
刻み
休符を効果的に使い、音を歯切れよく刻む。ブラスではこの演奏スタイルが基本となるだろう。16ビートの場合、16分のフレーズを効果的にいれるとよい。
3声で和音を鳴らす場合と、オクターブユニゾンで単音を鳴らす場合がある。演奏したいフレーズに合わせて、適切に切り替えるとよい。
フォール(グリスダウン)/グリスアップ
4分程度の長さのフォールは定番フレーズだ。フォールほどではないが、グリスアップもまれに登場する。
フォルテピアノ&クレッシェンド
音を出してすぐに弱くし、クレッシェンドしていく。これもブラスらしい奏法といえる。
グロウル
サックスで行うテクニック(主にテナーサックス)。歪んだような音色になるので、ロックやブルースにもよく合う。ソロパートで使うと効果的。
シェイク
3度程度の広めの間隔でトリルを行う奏法だ。トランペットがソロになるときに使うと効果的。
その他のオーケストラ系楽器
ハープ
美しくファンタジックな響きの楽器なので、バラードを中心としたキレイめな曲で登場することが多い。
やはりグリッサンドがハープの必殺技といえるだろう。基本的な音階は「ドレミファソラシ」だが、7つの音は、それぞれ半音上 or 半音下に変更可能。これにより、色々な音階を鳴らすことが可能になる。コードに合わせて、適切にスケールを決定しよう。なお、楽器の性質上、クロマティックスケールは演奏不可能なので注意。
アルペジオを鳴らすのも良い。
グロッケン
意外とポップスで出番が多いのがグロッケン。弦など、他の楽器の旋律を補強するのに使われることが多い。
ビブラフォン
ポップスでもまれに登場する。かわいいらしい雰囲気の音色なので、そういった曲調によく合う。
ティンパニ
ポップスでもまれに登場する。ロールでクレッシェンドさせて盛り上げるのが定番の奏法。
チェンバロ
鳴らすだけでバロック音楽っぽい雰囲気が出てくれる楽器だ。耽美的な雰囲気を狙いたいときにもよい。
パーカッション
チューブラーベル
「の○自慢」の鐘で使われる楽器だ。荘厳でゴージャスな雰囲気を出すことができる。
スレイベル
クリスマスソングで非常によく登場する楽器だ。R&B系楽曲でもしばし使われる。
ウィンドチャイム
多くの音楽にマッチするため、非常に重宝する楽器。キラキラした音色で、場面転換を印象づけることができる。
シェイカー
本来は振ってビートを刻む楽器だが、単発の音をサンプリング的に鳴らすことも多い。R&B系楽曲でもしばし使われる。
トライアングル
ミュート/オープンを使い分ける。R&B系楽曲でもしばし使われる。
カスタネット
フラメンコなサウンドの楽器だが、アイドルポップスでもよく出てくる。
ティンバレス
ポップスでもまれに登場する。ラテンっぽい雰囲気を出すのに最適。
スティールパン
鳴らすだけで南国の夏を感じられる楽器だ。スティールパンは音程のある楽器なので、メロディを演奏することができる。
サンバホイッスル
その名の通り、サンバの演奏で使われる楽器だ。こちらも夏っぽい曲によく合う。
おわりに
2回に分けて、ポップスのアレンジに登場する楽器の記事を書いた。こうしてまとめてみると、本当に数多くの楽器、奏法があることがわかる。音楽のスタイルは日々進化し変わっていくが、使われる楽器は普遍的なものであることも多い。今回の記事をぜひ音楽制作の役に立ててもらえればと思う。
【4リズム編】ポップスのアレンジ/編曲のアイディアを楽器別にまとめてみる
はじめに
ポップスにはあらゆるジャンルの音楽のエッセンスが取り込まれている。聴きやすい音楽性とは対象的に、実はアレンジの難易度はかなり高い。
そこで、これから2回に渡って、各楽器ごとに定番の奏法をまとめて、アレンジの助けになるような記事を書いてみることにした。今回はドラム、ベース、ピアノ(エレピ)、ギター。いわゆる4リズムと呼ばれる楽器を取り扱っている。
もっとも、この記事を読んだところでアレンジという高度な作業が、急にスラスラできるようにはならないだろう。ただ、「何か音を足したいけど、思いつかない……」そんなときにこの記事を眺めてみて、突破口を見つけるきっかけにしてもらえればと思う。
ドラム
ドラムはアレンジの骨格となる重要なパート。アレンジ作業の初期段階で、大枠を決めてしまうのが望ましい。リズムは奥が深い領域なので簡潔にまとめるのも難しいが、使用頻度の多い例をまとめている。
音色について
生ドラム系 or ドラムマシン系(TR-909やサンプリング音源など)のどちらかに分かれる。ロックなら生ドラムが使われるし、ダンスミュージックならドラムマシン系の音色になることが多い。
もちろん、両者の音色が混在することも多いし、フィルインのときだけ片方の音色を登場させることもよくある。また、セクションごとにリズム全体の音色が入れ替わる曲もある(例:「打上花火/DAOKO×米津玄師」)。
リズムの音色が曲にもたらす影響は非常に大きく、音楽ジャンルそのものを決めてしまうようなケースもある。各ジャンルのリズム音色を把握しておくと、ポップスの編曲にも役に立つはずだ。
リズムパターンについて
4つ打ち
ダンスミュージックの定番パターンだ。生ドラム系、ドラムマシン系、どちらでも使うことができる。元はテクノやハウス、ディスコといった音楽のリズムだが、今やアイドルポップスやロックバンドに至るまで、多くの音楽で使用されている。
4つ打ちでは、文字通り、キックを4分で鳴らす。あとはジャンル感が出せるように調整していけば良いだろう。裏拍にはオープンハイハットが入ることも多い。
EDM等のダンスミュージックでは、キックの鳴る位置で他のパート(ベース、シンセ等)にサイドチェインコンプをかけてダッキングさせるのも定番の手法だ。
8ビート
生系、ドラムマシン系、どちらでも使えるパターンだ。「ドンパンドンパン」というように、1・3拍目にキック、2・4拍目にスネアを鳴らす王道パターン。多くのポップスでこのパターンになっている。3拍目のキックは8分で2発連打したり、前後の裏拍にズレることも多い。
※「8ビート」は本来リズムパターンを指す言葉では無いのだが、今回は4つ打ちとの差別化をするために、このように紹介させてもらった。
16ビート
どちらかといえば、生系のリズムで組まれることが多いパターンだろう。ミディアムテンポのポップス全般で出てくる。またバラード曲はテンポが遅くなる関係上、このパターンに当てはまることが多い。
リズムの最小単位が16分音符になるため、16分の裏をどのように鳴らすかがポイントになってくる。16の裏にアクセントが来るものから、スネアのゴーストノートが軽く入る程度のものまで様々。曲に上手く合ったリズムを構築したいところだ。
なお、16ビートではリズムがハネる(スウィングする)ことも多々ある。どの程度ハネさせるかでノリが全く変わってくるので、気持ちいいグルーヴを追求したいところ。
R&B、HipHop、Trap系リズム
本来は別物だが、今回はまとめて紹介する。日本のポップスではそれほど出てこないかもしれないが、今のアメリカのヒットチャートでは主流となるパターンだ。
ドラムマシンの音色や、サンプリング音色を使うことが多い。BPMが比較的遅く(60~90台程度)、基本は16ビートだ。細かくハイハットを刻んだり、スネアの代わりにクラップやスナップを鳴らすことがある、といった特徴がある。シェイカーやトライアングル等のパーカッションも、リズムを構成する楽器としてよく使われる。
その他のリズムパターン
- ダブルタイムフィール:倍のテンポに感じさせるリズム。
例:「紅/X」「READY STEADY GO/L'Arc~en~Ciel」
- ハーフタイムフィール:半分のテンポに感じさせるリズム。
例:「恋/星野源(Bメロ)」
- アイドル系ハーフリズム:アイドルソングのBメロで頻出。
例:「ポニーテールとシュシュ/AKB48」「Love so sweet/嵐」
- マーチングビート:スネアのマーチングで引っ張るパターン。
例:「Beautiful/Superfly(サビ)」「Have a nice day/西野カナ(Aメロ)」「forbidden lover/L'Arc~en~Ciel」
- モータウンビート1:速いテンポのハネたリズムで、2小節目頭が食うのが特徴。
例:「You Can't Hurry Love/The Supremes」「Happiness/嵐」「歩いて帰ろう/斉藤和義」「Diamonds/PRINCESS PRINCESS」
- モータウンビート2:スネアを拍頭で4分打ちし、間にキックを挟む。
例:「星間飛行/中島愛」「ぐるぐるカーテン/乃木坂46」「HEAVEN'S DRIVE/L'Arc~en~Ciel」
生ドラム独自のアイディア
- スネアのゴーストノートを入れる
- ハイハットオープンを交える
- キメでフラムを入れて変化をつける
- スネアの代わりにクローズド・リムショットで軽快に(静かなとき限定)
- ここぞという場面で、ハイハットからライドシンバルに切り替え
- フィルインのときにタム回し
- ハイハットの代わりにフロアタムで刻み、ロックなビートに
打ち込みリズム独自のアイディア
- スネアやキックの波形を反転。元のスネアやキックにくっつけても、単独で鳴らしてもよい
- 32分音符等、細かいスネアの連打でフィルイン
- スネアのロール中にピッチを上げる(EDM定番フィル)
- ゴーストノートの専用のサンプルを小さく鳴らし、グルーヴを出す
- 64分音符程度の、細かいハイハット刻み(Trap定番サウンド)
エレキベース
ピック弾き、指弾き、スラップと主に3種類の演奏方法がある。ロック系の音楽など、アタック感が欲しいときはピック弾き、それ以外では指弾きになることが多い。スラップは特殊な奏法で、ファンク系のサウンドで使われることが多い。
グルーヴの要となるので、ドラム(特にバスドラム)との調和に常に気を配りたい。リズムがシンコペーションするときは、基本的にはベースも合わせること。コードチェンジする瞬間は、必ずルート音を鳴らすように。
8分ルート弾き
基本はこれ。ベースラインを動かすこともあるが、その際はコードトーンをつなぐような意識でフレーズを考える。1度と5度(しばし7度)を中心に組み立てるとベースらしいフレーズになる。経過音を使うのも効果的だ。
オクターブ
主にドラムがディスコパターンのときに使う。なお、シンセベースと違って、エレキベースで演奏するのは意外と大変。使いすぎ注意&速いテンポのときは注意(ベーシストの左手が疲れる)。
スラップ
ファンク系の音楽でよく使われる奏法だ。演奏フォームの関係上、ルート音のオクターブ演奏が基本になる。また、普段は指弾きで、アクセントのときにスラップ音を入れるのもしばし行われる。
白玉
静かなところでは、刻まずに白玉で伸ばすのも良い。落ちサビなどで出てくる、高音部の白玉フレーズは定番パターンだ。
シンセベース
シンセベースも現代の音楽には欠かせない音色だ。エレキベース同様、グルーヴの要となるので音色や音価にはこだわりたい。
シンセの波形は、ノコギリ波が使われることが多い。エレクトロなサウンドではパルス波も定番だ。Massive、Minimoogなど、太い音が出るシンセを使うとよい。
オクターブ
ルート音と、オクターブ上のルート音を交互に演奏するという、シンセベースの王道フレーズだ。やはり4つ打ちのリズムと相性がいい。フィルターを全開にして派手にしてもいいし、標準的な音色でもOK。
ルート弾き
8ビートの場合、もちろん8分を連打してもいいのだが、ところどころ休符を入れて演奏をすることも多い。他にも、4つ打ちのキックが鳴っている時、ベースを付点8分のリズムで鳴らすことで16ノリを出すのも定番パターンだ。
Funk系シンセベース
Moog系サウンドの定番音色。フィルターは絞り気味で、レゾナンスを適度に上げて表情を付ける。オシレーターを重ね、オクターブ上の音を足すのも効果的だ。
R&B系シンセベース
倍音の少ないサイン波や三角波が使われる。ベースラインをあまり動かさず、白玉主体で演奏されることが多い。
ピアノ
ポップスではピアノの登場頻度が高い。ぜひ使えるようにしておきたい楽器のひとつだ。
コードバッキング
右手で3~4音を押さえてコードを鳴らす。さらに、右手で刻むすき間に、左手のルート音を挟むのが基本スタイルだ。
音域について
- 中音域でのバッキング
右手を真ん中のド(C4)付近で鳴らす。基本的な演奏スタイルといえるだろう。例:「Let It Be/The Beatles」「カブトムシ/aiko」 - 高音域でのバッキング
右手をオクターブ上のド(C5)付近で鳴らす。音抜けが必要な場合や、繊細な雰囲気を演出する場合に有効。ギター等の中域を専有する楽器が多い場合、ピアノが高域を担当することで音域がぶつからなくなるメリットもある。例:「Rising Hope/LiSA」「GO FOR IT!!/西野カナ」「Beautiful/Superfly」「もしも運命の人がいるのなら/西野カナ」※ただ、ギターが中心のサウンドでも、ピアノは中音域を演奏するケースも多い。4リズムの楽器はそこまで音域をカッチリ分離しないことも多いので、音域の分担を緻密に構築するかどうかはケースバイケースで。
リズムについて
- 4分刻みバッキング
王道の伴奏スタイル。バラード曲を中心に、色々な場面で使いやすいパターンだ。例:「Yesterday Once More/Carpenters」「Let It Be/The Beatles」 - 付点4分系バッキング
「ターンターンタン」というような刻み方。テンポが速めの、疾走感のある曲で有効。例:「ドラマチック/YUKI」「プラチナ/坂本真綾」 - 8分刻みバッキング
ミディアムテンポの曲でたまに出てくる。ピアノの刻みで曲を引っ張るような雰囲気になる。例:「Hello, my friend/松任谷由実」「歓びの種/YUKI」 - 16系(付点8分系)バッキング
小室系サウンドで多用される。ハウス、ラテンの音楽がルーツとなるスタイルだ。例:「BOY MEETS GIRL/TRF」「硝子の少年/KinKi Kids」「Astrogation/水樹奈々」
アルペジオ
バラードや、静かなセクションで有効。また、他の楽器ですでにコードを補っているような場合、脇役としてピアノでアルペジオを重ねるのも効果的だ。
その他のテクニック
- グリッサンド(上昇系/下降系の2パターンあり)
- m3rd→M3rdへのスライド(コード演奏時。黒鍵→白鍵へ、指1本でスライドさせて演奏)
- 右手のオクターブ演奏でオブリ
- 和音のアルペジオ弾き(タララランと、コードを1音ずつずらして弾く。上昇系/下降系の2パターンあり)
Synthogy Ivory II Grand Pianos
エレピ
ローズ、ウーリッツァー、DX7系と、主に3つの代表的なサウンドがある。音色はそれぞれに個性があるが、奏法は比較的似ており、役割も「コード感を出す」といった部分が中心になってくる。
ローズ
中低域の成分が多く、包み込むような柔らかい音色が特徴。トレモロやコーラス、フェイザーといったエフェクトをかけて雰囲気を出すことが多い。高域成分が少ない分、ソウルフルでムーディな印象を出しやすくR&B/Soulの音楽で多用されてきた。
ウーリッツァー
コロコロとした独特のアタック音が特徴的。
DX7系
ファンタジックな音色で、きらびやかな高域が特徴。アコースティックピアノとDX7のエレピをレイヤーするのもよい → とたんに90年代風のサウンドになる(David Fosterがよくやる)。
エレキギター
ギターは、ポップスでは非常に出番の多い楽器。しかし、他の楽器と比べて奏法や音色が多いので、ギターを弾かない人にとっては、把握するのは結構大変。
音色によって大きく印象が変わるので、それを念頭に置いて演奏内容を把握しよう。
ブリッジミュートを交えた刻み
主にクランチ、オーバードライブ、ディストーションといった多少歪んだ音色で、低音域を演奏する。ロックギターの王道パターンだ。
和音とブリッジミュートした単音(ルート音)を切り替えて演奏することで、ギターらしいバッキングフレーズとなる。もちろん、和音をずっとストロークし続けてもいいし、ブリッジミュートしたルート音をずっと弾き続けても良い。
なお、ディストーション音色(激しい歪み)のときは、基本的にパワーコードで演奏するとよい(3度を入れると音が濁るので)。
ストローク
クランチ~オーバードライブ程度の、比較的浅めの歪みで演奏されることが多い。6本の弦すべてをジャカジャカと、かき鳴らすようなスタイルの演奏だ。最近(2000年~くらい)のロックバンドでは、上記の「ブリッジミュートを交えた刻み」よりも、こちらの奏法が使われることのほうが多い。
カッティング
カッティングはギターらしい奏法の一つといえるだろう。ブラッシング(※)の音が入るため、軽快なリズムを演出しやすい。
※弦に触れただけの状態でピッキングして、パーカッシブな音を出すこと。別名「空ピッキング」。
ここでは演奏内容別に紹介するが、もちろん演奏中に和音~単音~オクターブという風に切り替えても構わない(そういう演奏もかなり多い)。
和音のカッティング
コードを刻みつつ、間にブラッシングを交えてリズムを出す。これがカッティングの基本スタイルだ。ファンク系の演奏では、6弦全部鳴らすよりも、2~3本の弦を鳴らして演奏することが多いかもしれない。クリーントーンで演奏することが多いが、ロック系の音楽では歪んだ音で荒々しいカッティングをすることも。
単音カッティング
キーボードがすでにコードを補っている場合は、ギターはリズムを出すのに徹することも多い。そんなときに有効なのが単音カッティングだ。ブリッジミュートをかけて、サステインを抑えた音で演奏することも多い。
オクターブでカッティング
演奏の都合上、オクターブで音を鳴らすためには、ブラッシング音も必ず入る。自然とパーカッシブな音になってくれる奏法だ。オクターブで音を重ねる都合上、音が際立ちやすいので、バッキングというよりも、リフやオブリで使われることが多いかもしれない。
ワウのカッティング
チャカポコという独特のパーカッシブな音が特徴的。他のカッティング同様、コード音にブラッシングの音を交えて演奏する。ポップスのようにトラック数の多いジャンルでは、単音~2音程度を鳴らすことが多いかもしれない。
ブラッシングの音だけを1~2拍程度、サンプリング的に挟むのも定番パターンだ(ずっと演奏しっぱなしにせず、要所で挟む)。
アルペジオ・白玉
クリーン~クランチ程度の音色で演奏することが多い。コーラスやトレモロといったモジュレーション系エフェクトもよく使われる。
ブリッジミュート
音粒をハッキリさせるため、多少歪んだ音色で演奏することが多い。アタック感がありつつも、サステインの短い歯切れのよい音になるので、意外とアレンジで役立つ奏法だ。アルペジオでも、単音の刻みでもOK。
なお、ミュートしたフレーズに付点8分のディレイをかけるのは定番パターン(「U2ディレイ」などと呼んだりする)。
リードギター
純粋なギターソロというものは、昔と比べてすっかり影を潜めてしまった。しかし、他の楽器とのユニゾンなどでリードギターを使うことは、今でもよくある。オブリで使うのも良い。
Kemper Profiling Amplifier Black
アコースティックギター
ストローク
他のパートが多数入っている場合、アコギはストロークで演奏することが多い。アコギのストロークを入れると、オケ全体のアタック感やグルーヴ感が増す。また、他のパートにはあまり含まれていない超高域の成分を補えるというメリットもある。
なお、アコギのストロークは、ダブルで(2回録音して)左右に振り切るのが定番だ。
アルペジオ
静かな雰囲気の曲では、アルペジオも有効だ。ピック弾きと指弾きで音が変わるので、求めるサウンドに合わせて奏法を決めよう。
ガットギター
あまり使用頻度は多くないかもしれないが、R&B系の曲や、一時期流行ったボサノバ風アレンジでよく使われる。
アルペジオ
R&B系の曲で多用され、定番サウンドとなっている。また、ハウスミュージック等でもよく登場する。
おわりに
今回は4リズムについて記事を書いた。4リズムはアレンジの骨組みとなる部分なので、ここをしっかり作れれば、曲の躍動感も増すはずだ。
【教則本・書籍】作曲・編曲・DTMに役立つ、おすすめの本11冊
この記事にたどり着いた人の中には、ふだん音楽制作の情報をネットで収集している人も多いかも知れない。しかし、インターネット上の情報は玉石混淆。鮮度の高い情報が入るというメリットはあるにせよ、時間を無駄にするリスクと常に隣り合わせだ。
音楽の本質的なルールや法則については、数百年に渡って変わらない部分も多い。音楽制作についての普遍的な知識を学ぶためには、やはり本を読むのが良い。
今回は、僕が読んだ本の中で特にオススメできるものを11冊紹介する。
リズムについて
※2018年10月追記:新版が発売されていたので、加筆修正しました。
「サウンド&レコーディングマガジン」の連載を一冊にまとめた増刊号だ。オークションでプレミア価格が付くほどの人気を博した、『MPCで学ぶリズム打ち込み入門』の新版だ。旧版の内容を踏襲しつつ、DAW時代に合わせて内容がアップデートされている。
- ロックの8ビート
- テクノやハウスなどの4つ打ち
- ヒップホップ/R&Bのリズム
- ジャズの4ビート
このような基本的なジャンルのリズムパターンが、章ごとに紹介されている。
「○○というジャンルでは、△拍目の表(裏)で音を抜くのが肝」。こんな風に、この本を読めばジャンルごとのリズムのポイントを理解できるようになる。コンガやボンゴといったパーカッションのリズムパターンが紹介されているのも嬉しい。
ちなみに、「MPCで~」というタイトルだが、別にMPCを使わなくても、普通にDAWのMIDI打ち込みで使える内容になっている。なお、この本は残念ながら現在絶版となっている。復刊に期待しよう(オークションでもプレミア価格が付いている。出版社には何かしらの対策を講じて欲しいところだ)。
Tips集
「テクニック99」シリーズはひと通り読んだが、この本が一番オススメ。メジャーの第一線で活躍するプロのアレンジャー数人の共著となっている。
音楽ジャンルごとのアレンジにおける要点。ギター、ストリングス、ブラス、コーラスといった楽器別のアレンジ方法。メロディへのコードの付け方。その他編曲を行う上で知っておきたい小話。こういった内容が、広く浅くまとめられている一冊だ。
難しい音楽理論の話は登場せず、コツをまとめた実践的なTips集として価値がある。「アレンジをしたいけど、何から手を付けていいのやら……」そんな初級者や中級者の人こそ、ぜひ読んでみてほしい良書。どのトピックも見開き2ページにまとめられているので、気軽に読める。
この本はなんと、現在AmazonのKindle Unlimitedの対象となっている。
とはいえ、どう考えても無料で読めるのはおかしいレベルの本なので、普通に紙の本で買って、じっくり読み込んでみてもいいと思う。
『編曲テクニック99』と同じく、「マニュアル・オブ・エラーズ」の著書だ。こういった「プロが教える」的なタイトルの本はよくあるが、良い本は少ない。そんな中で、この本は実践的なTipsが中心になっていて、すんなりと曲づくりに役立てることができる。
編曲テクニック99とテーマが重複するトピックも多いが、編曲以外にも、ボーカルディレクション、アレンジ仕事におけるパラデータの作り方、キャッチーな曲を作るための方法論、楽曲構成の考え方など、プロの作曲家・編曲家として活動する上で、より実践的な内容が記されている。エンジニア的なテクニックにも触れられており、高品質なデモ音源が求められる現代の作曲家にとっては、一見の価値があるだろう。
アレンジ(編曲)、オーケストレーション
※オーケストレーションといっても、今回紹介するのはジャズ~ポップス寄りの内容の本です。
ビギナーの人にオススメ。ポップスの曲にストリングスやブラスを入れる方法を学ぶには、この本で基本的な奏法を押さえるのがよい。
ボイスリーディング(声部の連結)についても少し紹介されているので、和声の考え方にも少し触れられるのが良い。
なお、この本では「歌メロのカウンターライン」という考え方には特に触れられていない。そのため、これ一冊読んだだけで自由自在にアレンジをするのは、実際は難しいかもしれない。あくまで、楽器の基本的な鳴らし方(ボイシング、定形フレーズ等)を学ぶための初歩的な本ととらえるのが良いだろう。
付属CDも付いているので、音で確認することもできる。
『コンプリート・アレンジャー』(※絶版)
僕が特にオススメしたいのが、このアレンジ教本。サミー・ネスティコの『コンプリート・アレンジャー』だ。ジャズのコードの知識をひと通り習得した、中~上級者向けの本となっている。
アレンジ教本として有名なドン・セベスキーの『コンテンポラリー・アレンジャー』も良書だが、譜例に対応した音源が少ないのが弱点。対して、この本の付属CDには79曲も収録されている(重複はあるが)。総ページ数は349ページとボリュームも多い。
とにかく音源の曲数が多いので、それら全てに対応したスコアが読めるというだけでも、かなりの価値がある本だと思う。音楽は、言わば「百聞は一聴にしかず」のような部分もあるので、譜例の大半が音源とセットになっているのは非常に魅力的。付属音源は当然生演奏で、ノイズもなく高音質。
もっとも、手取り足取り教えてくれるような本ではない。スコアと音源から自分で分析していく必要もあるため、多少は独学的な要素が求められる。それでも、教本としての完成度は非常に高い。僕が読んだアレンジ教本の中では、最も参考になった一冊だ。
金管楽器やサックスの入った譜例は、ビッグバンドの曲が中心となっている。著者もビッグバンドの仕事が多かったようで、ビッグバンドのアレンジについて学びたい人にはもってこいの一冊だと思う。ボイシングのコツについても書かれているのが良い。
ストリングスや木管楽器の入った譜例は、テンションが多めのコードを使った、劇伴風/近代クラシック風の曲が多い。楽器の選び方、重ね方が非常に参考になる。
シンセサイザーを取り入れたオーケストレーションの譜例まである。シンセが入った譜例があるというのは、マンシーニの本やセベスキーの本など、他のアレンジ教本とは一線を画する部分ではないだろうか。
なお、一部の曲では複雑なテンションコードだけでなくアッパー・ストラクチャー・トライアドを使っていたりするので、音楽理論に詳しい人じゃないと分析が難しいかもしれない。
ここまで紹介してきておきながら、興味を持ってくれた方には申し訳ないのだが、残念ながら、この本は絶版となっている(良い本なのに)。ただし、英語版の原著は米Amazonで普通に売っている。解説を読むというよりも、スコアと音源を自分なりに読み解いていくというのが大事なので、英語が苦手な人でも、譜面と音源を目当てに輸入するのはアリだと思う。
ヘンリー・マンシーニという超有名な作曲家の著書というだけで、一見の価値がある。譜例は彼の手がけた作品から抜粋されているので、当たり前だが、ヘンリー・マンシーニっぽい雰囲気の曲ばかりだ。「ピーター・ガン」や「Mr. Lucky」といったドラマの音楽や、彼のソロ作品を題材にスコアが掲載されている。ただ、「ピンク・パンサー」「ティファニーで朝食を」といった名作映画の曲は残念ながら含まれていない。
前述の『コンプリート・アレンジャー』よりも、ポップで分かりやすい曲が多いので、取っつきやすい印象だ(とはいえ大部分の曲はジャズのフォーマットに基づいているが)。和声的にも通常のテンションコードが多く、ネスティコ本のように複雑なコードも出てこない。普通のポップスに応用するなら、こちらの本の方が役に立つと思われる。白玉でアレンジされているパートも多いので、ボイシングも確認しやすい。
曲の重複も多いが、付属CDには66トラック収録されている。音源にノイズがあるのと、各トラック冒頭の「譜例番号読み上げ」が少しうるさいのが惜しい。ページ数は207ページと、ネスティコ本よりはボリュームは少なめ。それでも、多くの譜例がCD音源に対応している。
曲は60年代のジャズらしい、柔らかいものが多い。スウィングジャズの曲や、ムーディな曲が中心だ。ディビジを駆使したストリングスでテンションコードを鳴らすような曲もあり、参考になる。
スコアは見やすい。手描き風などではなく、日本で売っている譜面のように、きちんとコンピュータで浄書されたタッチのスコアになっている。
音楽理論
通称「黄色い楽典」。音楽を学ぶ人の多くが手にしたであろう一冊だ。音符や休符、拍子、音程など、音楽の基礎事項について書かれている。特に音程に関する記述(長・短・増・減音程)は一枚の図で分かりやすくまとめられていて良い。
教科書的な基礎事項を確認したいときのために、手元に置いておきたい一冊だ。
ポピュラー音楽で使われるコードについて詳しく解説されている名著だ。ある程度基礎的なコードの知識を習得した、中級者~上級者向けの一冊。
テンションコード、分数コード、アッパーストラクチャートライアド等、複雑なコードについても網羅されている。モードに関しても触れられており、高度なポップス~ジャズ方面の音楽まで幅広くカバーできるだろう。
きれいに響くボイシングの例、テンションコードを押さえる際に省略すべき音、転調のきっかけを作る方法など、理論編でありながら、実践に即した記述が多いのが嬉しい。小難しくなりがちな理論書というジャンルにおいて、他とは一線を画する優れた一冊だ。
こういう少しハイレベルな理論書を読む場合は、ピアノでコードを押さえられる程度のスキルは持っておきたい。付属CDが付いているので、音を聞いて確認することもできるが、やはり自らの血肉とするためには、鍵盤を弾いて確認したいところだ。
※このブログでも、そういった趣旨の記事を書いている。 → 作曲家・アレンジャーがピアノを弾けるようになるメリット
なお残念ながら、この本も絶版となっている。復刊に期待したいところだ。
オーケストレーションやストリングスアレンジのような高度な編曲を行う場合、ボイスリーディング(声部の連結)やボイシング(音の積み方)に気を使う必要がある。これらは、ポピュラー音楽のコード理論だけではカバーしきれない。
そこで必要になってくるのが和声学だ。和声のルール上、やってはいけないことは「禁則」と呼ばれているが、この禁則を知っておくことで、音をどのように展開させていくべきか迷わなくなる。これが非常に大きい。音楽制作をスムーズに行う上で強力な武器となる。
もし「和声上、正解とされているサウンド」が欲しい場合、和声を知らなければ、何度も試行錯誤する必要があるだろう。しかし和声を知っていれば、作るより先に音をイメージすることができる。
何を当たり前のことを……と思うかもしれないが、そもそも多くの人が気持ちよく感じる経験則をまとめたものが音楽理論。和声上の正解は、それなりに説得力があるサウンドであることが多いのだ。限られた時間を有効に使うためにも、和声を習得するのは意味のあることだと僕は考える。
なお、和声に関する教本は『和声―理論と実習』(通称「芸大和声」)の3巻セットが有名だが、この『総合和声』の方が新しい本で読みやすく、要点がよくまとまっており分かりやすい。独学で学ぶ場合は、なおさら総合和声の方ががオススメだ。
世の中の音楽はホモフォニックな音楽がほとんど(メロディという主役があり、コードという脇役がそれを支える構造)。しかし、対位法を知っていると、ポリフォニックな音楽を作ることができる。メロディの背景でコードを鳴らさなくても、単旋律を複数組み合わせることで、音楽を成立させることができるのだ。
そんな音楽作らないよ……と思うかもしれないが、「対位法で良しとされる音の運び」を知っておくと、ストリングスアレンジや、コーラスアレンジでとても役に立つ。何気ないハモリのパートであっても、コードトーンを繋ぐだけのメロディから一歩先に進んだ、一本の太いメロディに仕上げることができるだろう。
また、少ないパートで曲を成立させたいときにも、対位法の考えはおおいに役に立つ(最先端のEDM系ダンスミュージックでも、そういった作りの音楽をしばし耳にする)。
この「長谷川対位法」は文体も古く、やや読みづらいところもあるが、対位法を学ぶ上では定番の一冊だ。独習するのは大変だろうが、意欲のある人はトライしてみても良いと思う。
なお、対位法の概念は、和声の考え方に通じる部分も出てくる(例を挙げると、「並達5度・8度」に関する記述など)。なので、先に和声学をひととおり学んでおくのがオススメ。
録音・ミックスなど
教則本ではなく雑誌だが、最後はコレ。サウンド&レコーディングマガジン、通称サンレコだ。音楽不況やレコーディングスタジオの相次ぐ閉鎖に伴い、最近はどの読者層をターゲットにしているのか分かりづらい部分もあるが、一昔前は、本当に権威あるプロ向けの雑誌だった。
とはいえ、レコーディング機材やエンジニアリングに関する雑誌の中では、やはり未だにサンレコが一番信頼できるだろう。某通販サイトのカタログページが多いのが玉にキズだが、今でも良い特集を行ってくれることは多い。たとえば、例年1月号で企画されているプライベートスタジオ特集は、読む価値が高いので買ってみてもいいと思う。音楽制作環境を構築する参考になるはずだ。
あと、チェックすべきはバックナンバー。プロのエンジニア数人に同じ素材をミックスしてもらう企画(マジカル・ミックスダウン・ツアー)や、プロのアレンジャー数人に同じ曲をアレンジしてもらう企画(マジカル・アレンジメント・ツアー)。そんなスゴい特集が普通に組まれていた。中古で見かけたら是非ゲットしておきたいところだ。
コード進行を耳コピするコツ
はじめに
このブログでは、コード進行の分析記事をいくつか書いてきた。
それらの記事のコード進行は、どれも耳コピで採譜している。僕は音楽を始めたばかりのころは全く耳コピはできなかったが、今ではどんな曲でもコードを聴き取れるようになった。
数年~十数年という長いスパンで、徐々に音を聴くスキルが上がってきたように感じている。音楽鑑賞、楽器演奏、作曲、アレンジ、音楽理論の勉強。どの経験も耳コピ作業には役立っている。
耳コピ作業には、多少の努力や執念が必要だ。ビギナーにとっては簡単にこなせる作業ではないかもしれない。しかし、そのコツを知っていれば作業の労力が減る可能性はある。今回は、僕の今までの経験を元に、コード進行の耳コピをするコツについて書いていく。
耳コピのポイント
音は全部で12個だけ
オクターブの違いを無視すれば、基本的にドレミファソラシドの7音と黒鍵の5音、全部で12音しかない。例えば、コードのルート音がどうしても聴き取れない場合でも、12回試せば、そのうち1回は必ず正しいことになる。
コード(和音)も、これらの12音を組み合わせて同時に鳴らしているだけだ。焦らずじっくりやれば、誰でも正解に近づくことはできるはずだ。
ピアノを弾けると有利
ギターでも和音が押さえられるので、ギターを使って耳コピ作業をすることも十分可能。しかし、やはりピアノが便利だ。ピアノは複雑なコードでも簡単に押さえられるので、色々なジャンルの曲で耳コピに役立てられる。
※ピアノを習得するメリットについては、このブログでも以前記事を書いた。→ 作曲家・アレンジャーがピアノを弾けるようになるメリット
できればピアノを少しずつ練習していくのがオススメ。
コードを耳コピするコツ
最初に曲のキーを見つける
最初にやるべき作業は、曲のキーを判別することだ。これは耳コピ初心者だろうが上級者だろうが同じ。曲のキーを知らないまま耳コピ作業をしても遠回りになる。かならず最初にキーを探し当てよう。
キーの判別方法は次の通り。曲を流しながら、各キーの「ドレミファソラシド」を弾いてみる。例えば、次のようなメジャースケールがある。
- 「ドレミファソラシド」(Cメジャースケール)
- 「レミファ#ソラシド#レ」(Dメジャースケール)
- 「ファソラシ♭ドレミファ」(Fメジャースケール)
いくつかスケール(音階)弾いているうちに、その曲で使われているのが「何メジャースケール」なのか分かるはず。たとえば、もしCメジャースケールがしっくり当てはまる曲なら、その曲のキーはCだ。
正しいスケールを弾かない限り、どこかで外れてしまう音が出てくる。全部で12キーしか無いのだから、いつかは探し当てられる。
なお、この方法は曲中のキーが一定であることが前提だ。曲中で転調していたり、一瞬だけ部分転調が起こっているような場合は、箇所ごとにキーを判別していく必要があるので注意しよう。
ダイアトニックコードを把握する
曲のキーが分かったら、そのキーのダイアトニックコードを確認する。当ブログの別記事に、ダイアトニックコードの一覧を用意したので参照してほしい。
詳細は上記の記事で解説しているが、ダイアトニックコードは、スケール内の音だけを組み合わせて作られている。必然的に、曲の中で出てくるコードの多くはダイアトニックコードになる。
言い換えると、変わった響きのコードなら非ダイアトニックコードである可能性が高いということだ。このことを知っていれば耳コピもしやすくなる。
ルート音を先に見つける
コードを耳コピする場合、コードのルート音が分かればその後もスムーズだ。探しているコードがダイアトニックコードなら、ルート音さえ分かれば即座にコードが判明する。そうではない場合も、ルート音さえ分かればいくつかに絞っていくことができる。
ルート音はベースの音を聴くことで判断できる。耳コピをするときは、低音がきちんと聴こえる環境で作業するとよい。大きな音が出せず、低音がよく聞こえない場合は、ヘッドホンを使おう。
※耳コピ作業に使うヘッドホンは、SONY MDR-CD900STよりもAKG K240MK2のほうがおすすめ。音を何度も繰り返し聴くことになるので、音質・装着感ともに耳に優しいほうが快適に作業をできるはず。おまけにK240MK2のほうが低音も分かりやすい。
オンコードに気をつける
単純なダイアトニックコードだけではなく、オンコードが使われることもある。たとえばキーがCのときは、次のようなコードがよく出てくる。
- G/B、C/Eなどの転回形
- F/G、Dm7/Gなどのドミナント代理系
特に変わった響きのコードではないのに、なぜかどのコードを当てはめてもしっくりこない……sus4のコードでもない……そんな場合は、オンコードの可能性がある。特にギターではオンコードが押さえづらいことも多く、盲点になりがちなので気をつけたい。
コードを度数で把握する
(※クリック or ピンチアウトで拡大)
今から書く内容は、耳コピのテクニックというよりも音楽を分析するためのテクニックなのだが、大事なことなのでぜひ知っておいてほしい。
実は、同じコードであっても、キーによってその機能は異なる。次のような例がわかりやすいだろう。
- キーがCのときに出てくる「C」というコード → トニック
- キーがFのときに出てくる「C」というコード → ドミナント
このように、同じ「C」というコードでも、キーによって異なる機能を持つ。コードネームのアルファベットだけではなく、そのコードが何番目のコードであるかを常に意識しよう。このクセを付けるだけで、コード進行への理解度は一気に深まる。
慣れてくると、楽器を持たなくても何番目(=何度)のコードなのか、聴いただけで分かるようになる。特にトニック(I:1度)、ドミナント(V7:5度)は分かりやすいので、普段音楽を聴くときも、意識して感じるようにするとよい。
音楽理論を学べば耳コピもはかどる
以下のようなポイントについては少しハイレベルな話になってくるので、やはり音楽理論の知識があったほうが理解しやすい。
- 使用可能なテンションノート
- 借用和音の使い方
- 自然に転調を行うための方法
- ディミニッシュやオーギュメントの使い方
音楽なのだから、机で勉強するよりも曲をたくさんコピーして経験を積むほうが有効だ。しかし、ある程度経験を積んだら、その経験則を体系的に整理するために音楽理論書を読んでみるとよい。ここではオススメの書籍を3冊紹介する。
ギタリスト向けの本になるが、宮脇俊郎氏の著書はどれもおすすめ。ギター教則本業界の草分け的存在なだけあって、教え方が非常に分かりやすい。ビギナーの人でも安心して読めるだろう。
ポピュラー音楽で出てくるコードは、それが複雑なものであっても、ジャズのハーモニーが下地になっていることがほとんど。
言いかえると、ジャズのハーモニーが分かる人にとってはポップスのコードを理解することは朝飯前なのだ。初歩的な理論が分かるようになったら、ジャズの理論をかじってみるとよい。
コード方面の音楽理論をひと通り網羅できる名著だ(大変残念なことに絶版となってしまったようだが……)。初心者向けの本ではないが、この本に書かれている内容をマスターすれば、ポピュラー音楽の音楽理論で困ることはなくなるはず。再販に期待したいところだ。
耳コピの答え合わせのやり方
耳コピしたコード進行が正しいのかどうか。経験が浅い頃はもちろん、自分で判断することは難しい。そこで、市販の楽譜やバンドスコア、コード進行掲載サイトで答え合わせをするといい。※Amazonの楽譜コーナーでも色々な楽譜が販売されている。
楽譜データを探すなら、ヤマハのぷりんと楽譜というサイトで販売されている楽譜が便利。1曲単位で購入できるし、有料だけあって採譜も正確なのでオススメ。※商品ページでサンプル楽譜を見られるのも嬉しい。
もっとも、売っている楽譜だって、しょせんは人間が自力で耳コピした結果にすぎない。必ず正しいという保証はないので、注意しておきたい。バンドスコアの採譜ミスに気づけるようになれば、あなたも耳コピ上級者だ。
答え合わせには、人の手を借りたっていい。音楽理論に詳しそうなミュージシャンの知り合いがいれば、その人に意見をもらうといい。もし知り合いがいなくても、ココナラのようなサービスを利用すれば、有償にはなるが安価に耳コピの依頼が可能だ。楽譜が存在しない曲の耳コピでは、人に聞くのが唯一の答え合わせの方法になる。
【保存版】全12キーのダイアトニックコード一覧と解説
※ダイアトニックコードの一覧は記事の後半に掲載しています。基本的な解説が不要な人は、前半を読み飛ばしてください。→ 読み飛ばす!
ダイアトニックコードとは?
多くの曲では、一定のキー(調)で曲が進んでいく。例えば曲のキーがCのとき、その曲で使われる音は、その多くがCメジャースケールの7音だ。
スケールの音だけを組み合わせて作ったコードを「ダイアトニックコード」と呼ぶ。曲の中で使われるコードも、必然的にダイアトニックコードが中心になる。
簡単にまとめると次のとおり。
- 曲のキーが分かれば、ダイアトニックコードが分かる。
- ダイアトニックコードの知識があれば、作曲や演奏、耳コピ作業などの多くの場面で役に立つ。
ミュージシャンならば、各キーにおけるダイアトニックコードを把握しておいて損はない。
ダイアトニックコードの分類
ダイアトニックコードは、次の3種類に分類される。
- トニック:落ち着く。安定感、終止感がある。
- サブドミナント:何か始まりそうな予感。トニックにもドミナントにも進める。
- ドミナント:クライマックス。緊張、不安。トニックに進みたい(=解決したい)。
コードの雰囲気(機能)は、上記のようになっている。たとえばキーがCのときは、おもに次のようにコードが分類される。
- トニック:C
- サブドミナント:F
- ドミナント:G
これらの分類は、「あるコードが、そのキーにおける何番目のダイアトニックコードか」で決まる。1番目ならトニック、4番目ならサブドミナント、5番目ならドミナントという具合だ。これは音楽を知る上で大事なことなので、覚えておいても損はない。
なお、これら3つ以外のダイアトニックコードについても、トニック・サブドミナント・ドミナントのいずれかに分類される。構成音の類似性を元に分類されているのだが、ここでは割愛する。末尾のダイアトニックコード一覧には併記しているので、興味があればチェックしてほしい。
3和音と4和音
コードには、おもに3和音と4和音がある。
- C(ドミソ)は3和音
- C△7(ドミソシ)は4和音
3和音はシンプルな響き、4和音はオシャレで都会的な響き。そういった違いがある。
しかし音楽理論上は、3和音でも4和音でもコードの機能は一緒だ。「3和音は、4和音からセブンス(△7th、m7th)の音を省いたもの」と考えよう。そうすると把握しやすい。音楽理論としては4和音で把握しておき、実際にコードを使うときは、曲に合わせて3和音/4和音を自由に使い分けるとよい。
4和音のコードネームを3和音に変換する時のルール
セブンスの音を削除すればOK。
- 「○△7」のようなコードは、「△7」を削除する
例:C△7 → C - それ以外のコードは、「7」だけを削除する
例:G7 → G Am7 → Am Bm7-5 → Bm-5
例えば、キーがCのダイアトニックコードを考えると、4和音と3和音はそれぞれ次のようになる。違いを確認してみて欲しい。
※画像クリック or 画面ピンチで拡大
他のキーでも変換ルールは同じ。当記事では4和音でダイアトニックコードを掲載するが、3和音を使いたい場合でも、上記変換ルールを駆使してうまく読み替えてほしい。
マイナーキーの場合
マイナーキーの場合でも、メジャーキーのダイアトニックコードを当てはめて考えるとよい。
本来マイナースケールは3種類ある(ナチュラルマイナー、ハーモニックマイナー、メロディックマイナー)。そのため、ダイアトニックコードも3通り出てきてしまい、把握するのが少し大変。
しかし、そのうちのナチュラルマイナースケールだけを認識することで、平行調の関係にあるメジャースケールと一本化してシンプルに考えることができる。理由はそんなところだ。
※クラシックの和声の教科書では、これとは別の考え方になっているので注意。
全12キーのダイアトニックコード
※画像はクリック(PC)や、画面ピンチアウト(スマホ)で拡大します
※トニック → T、サブドミナント → SD、ドミナント → D
キー一覧表(※クリックでジャンプ!) | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
0個 | 1個 | 2個 | 3個 | 4個 | 5個 | 6個 | |
#の数 | C | G | D | A | E | B | F# |
♭の数 | F | B♭ | E♭ | A♭ | D♭ | G♭ |
※異名同音のキー(F# = G♭)を両方掲載しているため、実際は13個あります
シャープ系のキー
フラット系のキー
宅録に必須!リフレクションフィルターを比較調査
リフレクションフィルターについて
そもそもマイクで良い音を録音するには、それなりの良い空間が必要。レコーディングスタジオは音響特性を考えて設計されているので、部屋の響きそのものが、録音に適した状態になっているのだ。
対して、普通の部屋は音響特性が良くない。望ましくない「部屋鳴り」まで歌と一緒に録音されてしまう。
部屋鳴りがマイクに入らないようにするためのアイテムが、リフレクションフィルターだ。マイクの周囲に特殊な素材の壁を作ることで、録音に適した空間を作り出す仕組みになっている。
今回は、各メーカーのリフレクションフィルターを比較調査してみる。
予備知識
なぜ部屋鳴りが起こるのか?
一般的な住居用の部屋は、壁が平行なのが良くない。発生した音は壁を何度も反射することになる。これを「フラッターエコー」と呼ぶ。録音の大敵となる現象で、部屋鳴りの原因のひとつとなる。
※平行な壁の中間で、手を「パン」と叩いてみると、ショートディレイがかかったような音が確認できるはず。
他にも低域の音波が常に発生している「定在波」など、一般の住居用の部屋では音響的な不都合がある。僕は音響エンジニアではないので詳細の説明は省くが、フラッターエコーや定在波については、以下のサイトで分かりやすく説明されている。
リフレクションフィルターは商業スタジオでは使わない
きちんとしたレコーディングスタジオは、フラッターエコーや定在波といった良くない音響現象が起こらないように設計されている。
部屋の響きと、歌や楽器の響きを両方収録して、良い感じの録音ができるようになっている。そのためリフレクションフィルターを使う必要がない。
一部の小さい歌録りスタジオ等でたまにリフレクションフィルターを見かけることはあるが、プロ仕様のレコーディングスタジオでは基本的には使われていない。
リフレクションフィルターは、基本的に宅録のためのアイテムだといえる。
各種リフレクションフィルターの紹介
市販のリフレクションフィルターを4つ紹介する。
sE Electronicsはリフレクションフィルターの先駆け的なメーカーだ。
※そもそも「リフレクションフィルター」という名称は、このメーカーの商品名が由来になっている。
フィルター部分は、それぞれ吸音特性が異なる素材で作られた9層のマルチレイヤーで構成されている。本家メーカーのオリジナルモデルだけあって、構造からは音響特性へのこだわりを感じる。
重量が3.6kg(※サウンドハウス調べ)と重いので、ストレートのマイクスタンドを使う必要がある。マイクスタンドの金属棒にクランプでパーツを締め付けて、そこに本体をセットする仕組みになっている。
片面が金属製でゴツいため、部屋に常設しておくとかなりの存在感がある。使うならスタジオ専用ルームがあったほうが良さそう。
なお上位モデルとしてReflexion Filter SPACEも存在する。フィルター部分が9層から10層に増えているが、それ以外はだいたい同じ仕様なので詳細は省く。
フィルター部分は4層のマルチレイヤーとなっており、上位版とは仕様が異なる。それでも、「すべての周波数帯域で均等なフィルタリング効果」があるとうたっており、無名メーカーのものと比べると信頼性が高そう。
こちらは上位版とは異なり、マイクスタンドのネジに専用のマウント金具を取り付ける仕組み。そのためセッティングが楽になるが、マイクに角度をつけてセッティングすることはできない。上位版は業務用、こちらはホームスタジオ向けと言ったところだろうか。
重量は約2.4kg(※アメリカのAmazon調べ)と、上位版よりは軽くなっているが、こちらもストレートタイプのマイクスタンドの使用が推奨されている。今回紹介する中では最も安価なモデルだ。
PETフェルト素材でマイクの周囲を大きく覆うような構造になっている。sE Electronicsの製品と比べて、デッドな音で録音することができる印象だ。
後述のEyeballのように高域が落ちることもないし、1.65kg(※Amazon調べ)と比較的軽量なのでホームスタジオでも取り扱いやすい。また、本体はネジ一本でマイクスタンドに取り付けられる構造になっている(下記動画0:15~参照)。このためセッティングがとても楽。
サイズは「441mm×538mm×302mm」とかなり大きい。しかし軽量でセッティングが簡単なので、使わないときは収納にしまっておくのもたやすい。
値段が少し高めなのと、サイズが大きくかさばるのが難点か。
球体状のスポンジをマイクに被せて包み込むような構造の、ユニークなリフレクションフィルターだ。
通常、吸音材でマイクを包むような構造では音が多大にこもってしまうので、まともに録音するのは無理。この製品は、吸音するための素材や開口部のサイズを調整することで、上手く録音できるような設計がされている。
4つの中では最もデッドな音で録音できる。また、他と比較すると高域が若干削れる印象がある(もちろんセッティング次第で変わる部分だし、仕様上はフラットな特性となっているので、一概に「こもる」と言えるわけではないが)。
直径193mm、重量は113gと、今回紹介する中では最も小型・軽量となっている。マイクに被せるだけなので、セッティングは断トツで楽(他とは比較にならないレベル)。音さえ気に入れば、これがベストだろう。構造上、ノイズが多い部屋で録音したい人にも向いている。
注意点としては、ラージ・ダイアフラムのコンデンサーマイク以外だと使えないということだ(SM57やC451だとセットできない)。
音を比較している動画
HALO vs RF-Space vs Eyeball
この比較動画は参考になるはず。今回紹介していないReflexion Filter SPACEが出てくるが、音の傾向はReflection Filter Proに近いと考えてよい。
比較と結論
製品名 | 重さ | 吸音度 | 取り回し | 備考 |
---|---|---|---|---|
RF Pro | 重い | 中 | やや大変 | バランスの良い音 |
RF-X | 普通 | 中 | 普通~楽 | 上記の廉価版 |
HALO | 軽め | 中~強 | 楽 | デッド気味、音バランス良し |
Eyeball | 超軽い | 強 | とても楽 | デッド、若干ハイ落ち傾向 |
個人的には、Aston Microphones HALOが断然オススメ。音が良いし、セッティングもしやすいからだ。前述の動画で紹介したとおり、あらかじめパーツを組み立てておけば、ネジを1本締めるだけでショックマウントまでいっぺんに取付可能なのが嬉しい。
常時セッティングしておけるだけのスペースがあればReflection Filter Proも選択肢に入ってくるが、部屋が広くない場合はHALOかEyeballが使いやすいはず。
またReflection Filter Proでは、マイクスタンドにパーツをクランプで固定する必要がある。マイクスタンドに傷が付きそうだし、ヤワなスタンドじゃ耐えられなさそうな印象もある。
※HALOの重量なら、ブームスタンドでも、まっすぐ伸ばして使えば問題ない。
セッティングのシンプルさを考えるとEyeballが最高なのだが、録り音の質感・取り回しやすさ・価格を総合的に考慮すると、HALOを買うのがベストだと僕は考える。
ギター歴17年の僕がおすすめする、ギターソロが最高にかっこいい17曲
はじめに
洋楽・邦楽問わず、ここ最近では流行歌の間奏でギターソロを耳にすることが少ない。そもそも最近の音楽ではギターソロが求められていない。そんな事情も理解できる。
しかし、ギターソロはギタリストのロマンだ。忘れてはいけない大切な音楽的要素だと思う。
今回は歌もの楽曲の中から、ギターソロがかっこいい曲を17曲紹介する。洋楽10曲、邦楽7曲を厳選した。どれも多少は知名度があり、"名曲"と呼ばれているものも少なくない。
この記事をきっかけに、名曲の間奏で炸裂するギターソロの素晴らしさを知ってもられば嬉しい限りだ。
- 洋楽/邦楽、それぞれ上にある曲のほうが、オススメ度が高いです。
- 曲のタイトルをクリックすると、YouTubeが開きます(洋楽のみ)。
- はじめに
- 洋楽編
- 1. Highway Star/Deep Purple
- 2. Can't Stop Lovin' You/Van Halen
- 3. Jump/Van Halen
- 4. Dreams/Van Halen
- 5. Daddy, Brother, Lover, Little Boy/Mr. Big
- 6. Bohemian Rhapsody/Queen
- 7. The Game of Love/Santana Feat. Michelle Branch
- 8. A Whole New World/Regina Belle & Peabo Bryson
- 9. Rosanna/TOTO
- 10. Back on The Road / Earth, Wind and Fire
- 邦楽編
洋楽編
1. Highway Star/Deep Purple
バンドのギタリスト、リッチー・ブラックモアによるギターソロだ(3:46~)。
あらゆる曲の中でも屈指の名ギターソロだろう。起承転結がはっきりしていてストーリー性があり、フレーズもわかりやすい。チョーキング、速弾き、ツインリードのハモりなど、ロックのリードギターを象徴するテクニックがふんだんに盛り込まれている。
速弾きのフレーズはシンプルで初心者にも挑戦しやすいレベルだが、16分で正確に弦をピッキングできるだけのテクニックも必要。「頑張れば手が届くが、決して簡単ではない」。そんな絶妙な難易度のギターソロだ。
なお、速弾きの最中で出てくる「開放弦を絡めながらフルピッキングするフレーズ」は、同バンドの「Burn」という曲のギターソロでも同様の奏法が出てくる。この奏法は、リッチーのシグネチャー・フレーズといった印象も感じさせる。
余談だが、後述の「Silent Jealousy/X」でも同様の奏法が出てくる。hideがこの曲に直接影響を受けているのかはわからないが、後世のギタリストのフレージングの礎になっているという意味でも、この曲のギターソロが音楽史に残したものは大きいといえるだろう。
2. Can't Stop Lovin' You/Van Halen
バンドのギタリスト、エディ・ヴァン・ヘイレンによるギターソロだ(2:39~)。
コードトーンを結ぶキャッチーなフレーズから始まり、流麗な高速レガート、ダイナミックなボリューム奏法と続く。その後をボリューム全開に戻し、コード分解フレーズを決めるような展開になっている。
一瞬だけレガートの速弾きを入れた後で、ボリューム奏法でしっとり聴かせるなど、フレーズの構築センスが素晴らしい。緩急に富んだ見事なギターソロといえるだろう。
エディのギターソロはフレーズの緩急が豊かな分、ちょっと速い程度のフレーズであっても非常に"スピード感"があるように聴こえるのが特徴だ。
この曲に限らず、フレーズの対比が相対的なスピード感に繋がっているのは、彼のギターソロの特徴といえるかもしれない。速弾き一辺倒のギタリストには出せない緩急あふれるソロには、一聴の価値があるはずだ。
3. Jump/Van Halen
こちらもVan Halenのヒット曲だ(ギターソロは2:18~)。ドラム&ベースの変則的なリズムと相まって、かなりトリッキーに聴こえるソロとなっている。
ペンタトニック主体のフレージングでありながら、ピッキング・ハーモニクスや彼の十八番であるライトハンド奏法など、短い尺の中で見せ場がたくさんある。
コード分解フレーズのときにブリッジミュートを入れたり、フレーズの終わりをしゃくり上げたりと、細かい部分の表現力が豊かなのも見逃せない。
4. Dreams/Van Halen
この曲がVan Halenからはラスト。Van Halenは良いギターソロが多いので、つい3曲も選んでしまった。※ギターソロは2:41~
導入部からブリッジミュート音とナチュラルハーモニクスの組み合わせでフレーズを作っているのがハイセンスだ。ハーモニクスの終わりはアーミングでワイルドに決めている。
ソロに入ってからの部分では、チョーキングとタッッピング・ハーモニクスの合わせ技がカッコいい。その後ペンタでわかりやすくフレーズを作りながらも、突如ライトハンド奏法を繰り出し、一気にスピード感が増す。このあたりは実にエディらしい表現といえる。
タッピングした右手をハイフレットへグリスアップさせてフレーズを歌わせているのも見逃せないポイントだ。その後は低音域のトレモロピッキングから上昇していき、最後は高音のチョーキングで締めるという流れ。
このソロも起承転結がわかりやすく、ドラマチックで秀逸なソロといえるだろう。
5. Daddy, Brother, Lover, Little Boy/Mr. Big
バンドのギタリスト、ポール・ギルバートによるギターソロだ(2:15~)。
基本的な音使いは、Eマイナースケールを16分音符で演奏するというシンプルなもの。ストレッチや弦飛びも登場するため運指の難易度は非常に高いが、地道に練習すれば弾きこなないほとではない。多くのギターキッズが挑戦したであろうギターソロだ。
速弾きのセクションが終わった後は、ドリルを使った演奏が出てくる。これはピックを数枚貼り合わせたものをドリルの先端に貼り付け、それで弦を弾いて高速トレモロピッキングを実現するという非常にユニークな奏法だ。サブタイトルの「The Electric Drill Song」の由来でもある。
スケールを上下するだけのソロだけだと、ともすれば機械的になってしまいがちだが、このソロは曲が持つ疾走感や雰囲気とも良くあっていて、カッコよく仕上がっている。ドリル奏法の独自性も、曲を象徴づけるポイントだ。
6. Bohemian Rhapsody/Queen
バンドのギタリスト、ブライアン・メイによるギターソロ(2:40~)。
泣きのギターソロが曲を上手く引き立てている。ゆったりとしたチョーキングから速弾きのフレーズへの移り変わりは、フレーズに感情がこもっているかのようで見事。
ちなみにこの速弾きの下降フレーズだが、似たものが「I was born to love you」(※Queenバージョンのほう)のギターソロでも登場する。ブライアン・メイのシグネチャー・フレーズといっても良いかもしれない。
7. The Game of Love/Santana Feat. Michelle Branch
カルロス・サンタナによるギターソロ(2:20~)。彼らしい太く伸びやかなトーンが心地よい。
難しいテクニックを使わず、ギターを歌わせることに専念しており、気軽に聴けるソロだ。速いフレーズもプリングで滑らかに仕上げている。コーラス(サビ)部分などで、歌の隙間にオブリ的に入ってくるリード・フレーズも良い味を出している。
8. A Whole New World/Regina Belle & Peabo Bryson
曲はディズニー映画「アラジン」の主題歌。ギターソロはLAのスタジオミュージシャン、マイケル・ランドウによるものだ(2:19~)。
ギターソロの導入部分では歌のメロディをモチーフにし、曲に溶け込むように、滑らかにスタートしている。その後のフレーズもスライドを駆使して上手く歌わせている。
最後はペダル奏法(※1つの音を基点にフレーズを展開させる奏法)と、22Fの一音チョーキングで締め。このペダル奏法のフレーズからは、LAのスタジオギタリストの雰囲気を感じさせる。
ラックのアンプ(CAE 3+SE?)を使っていると思われる、ハイファイで伸びやかな音色が心地よい。
9. Rosanna/TOTO
バンドのギタリスト、スティーブ・ルカサーによるソロだ(3:13~)。
スタジオミュージシャンとして数多くの実績を残しているルカサー。TOTOのこの名曲でも、起承転結のついた優れたソロを披露してくれている。フレーズの分かりやすさとテクニカルさのバランスが絶妙な、歌もののお手本とも言えるようなギターソロだ。
このギターソロで印象的なのが次の奏法。「1音チョーキングした状態で、小指で隣のフレットを押さえて半音上の音を鳴らす」。2回も出てくるあって、普段からルカサーはこのフレーズをよく使うのだ。これは彼のシグネチャー・フレーズと言ってもいいだろう。
エンディング部分のアドリブソロも必聴だ。
10. Back on The Road / Earth, Wind and Fire
こちらもスティーブ・ルカサーによるギターソロ(ルカサーはゲスト・ギタリストとして参加)。※ギターソロは1:58~
4つ打ちの軽快なリズムに乗せて、テクニカルなフレーズを炸裂させている。速弾きの部分はペダル奏法。やはりLAのスタジオギタリストらしいフレーズの構築がされている印象だ。
曲のエンディングはサビ繰り返し&フェードアウトという形だが、そこでもルカサーらしいフレーズ満載のソロが聴ける。
邦楽編
1. 夏を抱きしめて/TUBE
バンドのギタリスト、春畑道哉氏によるソロだ(2:27~)。
TUBEの曲では、間奏でかっこいいギターソロが聴けることが多いが、その中でもオススメなのがこの曲。スウィープピッキングを交えた速弾きフレーズなど、テクニック的にも美味しい要素を持ちつつ、フレーズが非常にメロディアスで優れているのが特徴だ。
またコード進行はセカンダリー・ドミナントを上手く駆使したドラマチックな展開になっており、彼の優れた作曲家としての一面も感じさせる。
BEST of TUBEst ~All Time Best~ / TUBE
2. 愛を語るより口づけをかわそう/WANDS
メンバーのギタリスト、柴崎浩氏によるギターソロだ(3:04~)。
WANDSのギターソロで僕がオススメするのがこの曲。基本的にはペンタ主体でロックに聴かせつつも、要所でスウィープやクロマチックフレーズなどを交えるなど、アカデミックさも感じさせてくれるソロだ。
ソロの終わりの部分では、元の調に戻すため転調が起こっているのだが、そこでも上手くスケールチェンジをしてフレーズを構築している。2つの調の共通音を上手く使いつつ、転調をスムーズに聞かせるフレージングがされているのが見事。
WANDSのポップな音楽と柴崎氏のギタースタイルは、非常に親和性が高いように感じる。ギタープレイを聴いていると、LAのスタジオミュージシャンの系譜を感じさせるような、確かなテクニックとセンスを兼ね備えていることがわかる。
complete of WANDS at the BEING studio
3. Dear My Friend/Every Little Thing
メンバーのギタリスト、伊藤一朗氏(通称「いっくん」)によるギターソロだ(2:39~)。
この曲のソロではスウィープピッキングや、フルピッキングの速弾きなどテクニカルなフレーズが盛り沢山だ。キャラに似合わず(?)、高度なギターテクニックを持っているいっくん。完コピには高い水準のピッキングテクニックが要るだろう。
Every Best Single+3 / Every Little Thing
4. Silent Jealousy/X
バンドのギタリスト、HIDE(とPATA)によるギターソロだ(4:30~)。
この曲は終始マイナーキーで進んでいくのだが、ギターソロでは一転メジャーキーになり、ドラマチックな雰囲気へと様変わりする。このあたりはHIDEのセンスがなせる技だろうか。
ツインリード、開放弦を交えたフルピッキング、タッピングなどロックギターの王道テクニックが満載のギターソロだ。
5. 負けないで/ZARD
ギターソロは2:22~。演奏者は不明だが、深く歪んだ音色や振幅の深いビブラートから、ハードロックやメタル寄りなスタイルのギタリストが想像できる。
ペンタポジションでのチョーキングや、スケールに沿った速弾きフレーズなど、伝統的なハードロックスタイルを感じさせるギターソロとなっている。
この時代のビーイング系の音楽は、HR/HM系スタイルな美味しいギターソロが多い。今回の記事で紹介したアーティストの他にも、DEEN、FIELD OF VIEWなどのグループは要チェックだ。
Golden Best ~15th Anniversary~ / ZARD
6. Together/EXILE
DIMENSIONの増崎孝司氏によるギターソロだ(2:35~)。増崎氏はスタジオミュージシャンとしても活躍している。
曲調に合った良いメロディを奏でながらも、要所でテクニカルなフレーズを聴かせてくれている。音使いやフレーズのリズムからジャズの素養を感じさせるのは、さすがはフュージョンのバンドのギタリストといったところか。
エンディング部分でもギターソロが聴ける。フェードアウトまでネタが尽きること無く、延々とアドリブのソロを聴かせてくれる。氏の技量をうかがい知ることができる一曲だ。
7. Brotherhood/B'z
メンバーのギタリスト、松本孝弘氏によるギターソロだ(3:25~)。B'zのギターソロでは、個人的にこの曲が一番気に入っている。
起承転結がはっきりしており、ドラマ性があり曲に良く合ったソロだ。テクニック的にも、ハーモナイズド・チョーキングやオクターブ奏法、ペンタの速弾きなどロックの王道テクニックが目白押し。
ブルージーな要素と、日本人らしい「侘び寂び」のようなものが表れた、彼らしいギターソロだ。
【DAW】音圧を上げるテクニックをまとめてみる
はじめに
DAWで音楽を作っている人で、市販の曲と比べて迫力や音圧が足りないと感じている人は多いだろう。かつて僕自身も、このことに長らく悩んでいた。音圧は実に奥深い問題だ。「音が大きい方が、音楽が良く聴こえる」。人間の耳はそんな性質を持っているからだ。
TVCMに入ると突然音が大きくなるのは、広告にインパクトを持たせるためだ。また、商業音楽の世界では「TVやラジオで流したときに大きく聴こえたほうが曲が売れそう」という理由で、マスタリングの際に過剰に音を大きくすることを希望するクライアントも一定数存在する。
こういった「音を大きく聴こえさせる」ための競争は、「Loudness War(音圧戦争)」などと呼ばれている。未だに音圧至上主義の人も多い(昔よりは落ち着いたが)。
音圧を上げることで犠牲になるものは多い。演奏のダイナミクスは失われるし、音が不自然に歪んで聞き苦しくなることもある。プロのミュージシャンやエンジニアの中には、音圧を上げることに反対している人もかなり多い。
とはいえ、激しい音楽では音圧が高いほうがカッコよく聴こえることも多いし、お仕事で音楽を作っている人ならば音圧の高い音楽を生み出すテクニックを身につけておいても損はない。
今回は、僕が雑誌や教則本、ネット記事などで学んだ情報や、実際に音楽制作を行って得られた経験則から、音圧を上げるために必要なテクニックをまとめてみる。市販のJ-POP程度の音圧を目指した内容となっているが、EDM的な音像を狙う場合でも、そのまま役立てられるTipsとなっている。
音圧の定義
この記事では、「音圧が高い」という状態を次のように定義します。
- 再生機器のボリュームが同じなのに、より音が大きく聴こえる
基礎知識
音楽ジャンルごとの音圧について
ジャンルごとに出せる音圧は変わってくる。例えば、シンセ中心のダンス系音楽は音圧を稼ぐ上で有利だ。理由は次の通り。
- シンセだと、生楽器では出ない超高域の帯域を簡単に埋められる。
- 生楽器と異なり、シンセの音色はEQやコンプで大きく加工しても違和感が出にくい。
- ダイナミックレンジの小さい音色が多いので、結果的に常に大きい音を鳴らせることになる。
- ロック的なアンサンブルと異なり、キックとベースを一緒に鳴らす必要がなかったり、一緒に鳴らすときはサイドチェインコンプを使うので、低域の容量に余裕がある。
- S成分を上げても違和感なく(むしろカッコよく)聴かせられる(後述)。
逆に、ダイナミックレンジが大きい曲ほど音圧を稼ぐ上では不利だ(ジャズ、オーケストラ、ポップスのバラード系の曲など)。基本的には、激しい音楽ほど音割れが気にならない分、音圧を上げやすいといえるだろう。音楽のジャンルに合った適切な音圧感を狙うのが良い。
サチュレーション(歪み)について
その昔、アナログ卓でミックスしていたときは、何もしなくても歪みが加わっていた。アナログミックスでは、回路を通ることでノイズや倍音が自動的に付加されていくからだ。
しかしDAW内部でミックスをする場合はそのような効果は得られないので、意識して歪みを加えて行く必要がある。さもないとクリーンで無味乾燥なミックスになり、結果的に音圧も出なくなる。サチュレーターやテープシミュレーター、コンソールシミュレーターを上手く使おう。
なお、ここでいう「歪み」とは、ギターのオーバードライブのような音色ではなく「倍音が適度に足されること」を意味する。歪んで聴こえるような音色を指すわけではないので注意。
等ラウドネス曲線
等ラウドネス曲線(←Wikipedia)を意識する。これは簡単に説明すると、次のような現象を指すものだ。
- 音を聴く音量によって、帯域ごとの音量感が聴感上変わってくる
例えば、リスナーが比較的小さめの音量で音楽を聴いている場合、音響的には次のようなことが起こっている。
- 低域は音量レベルが高くてもあまり大きく聞こえない。
- 2~5kHzあたりの帯域は大きく聞こえやすい。
大抵のリスナーは爆音で音楽を聴くことはないので、再生機器のボリュームが小さくても大きく聴こえるよう、ハイ上がりの音像を狙った方が音圧的には有利。
アレンジ編
音域バランスを整える
低音から高音まで(←フレーズ的な意味で)音がまんべんなく含まれるアレンジを行う。何も考えずにテキトーに音を重ねていくだけだと、たいてい高域成分が不足してくるはず。ときには鍵盤の左端から右端まで音を配置するつもりで(ただし楽器の音域は守る)。
帯域バランスを整える
低域から高域まで(←帯域成分的な意味で)音がまんべんなく含まれるアレンジを行う。音圧を上げるためには、帯域バランスが均等な方が有利。同じ高さの音でも、音色によって含まれる帯域成分は変わってくるのでちゃんと音色にこだわるようにする。
超高域(10kHz~くらい)が含まれる楽器はそれほど多くない(シンバル類、金属製の打楽器、フィルター全開のシンセ、アコギ、ボーカルなど)。高域まで伸びた音像の2mixを狙うには、アレンジの段階で工夫する必要がある。
とはいえ、超高域成分が少ない音楽も多い。例えば3ピースのロックバンド的なサウンドだと、超高域の成分が含まれるのはシンバルとボーカルくらいなので、必然的に2mix全体の超高域成分も少なくなる。帯域バランスについてはジャンルに合った調整を行うのが最優先だ。
定位を整える
定位を意識して、左端から右端までバランス良く楽器を配置する。また、ステレオ成分を有効に使ったアレンジのほうが音像が広がるので聴感上の音圧を上げるには有利。音色によってはステレオイメージャー等も上手く使うと効果的。
リズム面の工夫
音が鳴りっぱなしの曲よりも、休符を生かしたアレンジのほうが大きく聞こえやすい。リズム的にメリハリのあるアレンジを心がける(実現できるかは曲次第だが)。
トラック数
トラック数が増えれば増えるほど、各パート間で被る帯域が増えるので音圧は出しにくくなる。J-POP的な上塗りのアレンジは、本来音圧を出すには不向きなのだ。
ミックス編
EQについて
基本的に、「要らない帯域をカットする」というのが重要。
ベースやキックのような低音楽器以外、低域はカットしよう。80~200Hzのあたりで、ハイパスフィルターを入れてローカットする。
ローミッドの帯域には注意する。生楽器ではローミッドの成分が多く、これが温かみやリアルさ、アナログ感といった特徴を生み出している。反面、この成分が多すぎると、モコモコした抜けの悪いミックスになり、結果的に音圧を出す上では不利になってくる。
楽器同士で被る帯域も必要に応じてEQでカットしていく。音圧に関係なく、良いミックスのために帯域の住み分けは必須だ。
コンプについて
各トラックについて、コンプで音量的なピークを叩いて潰すようにする。特に前に出てくる音(リズム楽器等)は、素材の音が最も大きく聞こえるように、適切にコンプを掛ける。エンジニアが現場で1176のコンプを多用しているということを知っておこう。
※1176はアタックタイムが非常に速いコンプ → ピークは必然的に潰れる
ピークは潰すが、「アタック感」は損なわないようにする。コンプのアタックタイムは短くしすぎないようにしよう。アタック感が適度にある音のほうが聴感上の音圧は高く聴こえるのだ。
また、サイドチェインコンプは効果的。キックが鳴るときにベースを引っ込ませれば、音圧を稼ぐ上で有利。他にも、「歌を聴かせるために、ボーカルをソースにストリングスをダッキングさせる」等のテクニックもある。
サチュレーションについて
ほとんどのジャンルにおいては、各トラックごとにサチュレーションを加えて聴感上の音圧をプラスするという作業が必要。これをやらないと、2mixを必要以上にリミッターに突っ込まないと大きく聴こえなくなる。そうなると聞き苦しくなるので、リミッターに突っ込む前に音圧が出やすい2mixを目指す。
サチュレーションを加えると、元の周波数成分の奇数倍や偶数倍の帯域成分が発生する。つまり、元の音よりも高い周波数成分が新しく生まれることになる。前述の「帯域バランスの整え」や「超高域を稼ぐ」といった観点からいっても、これは重要。
多くのメーカーがサチュレータープラグインを販売している。例えば、Sonnox Inflatorは音を崩さずに倍音を足してくれるし、SoundToys Decapitatorは派手に歪ませることも可能でわかりやすい効果が得られる。どちらもオススメだ。
Inflatorやテープサチュレーター系で奇数倍音、チューブ系で偶数倍音を付加できる。作りたい音に合わせてプラグインを選ぶとよい。
マスタリング編
サチュレーションについて
元の2mixにもよるが、ある程度は2mix全体にサチュレーションを加える必要がある。市販の曲は意外と歪んでいるのだ。テープシミュ、コンソールシミュ、サチュレーター、アナログ系のコンプなどでサチュレーションを適度に加えよう。
Slate Digital VCCやWaves NLSなどのコンソールシミュレーターは、その用途上、不自然に歪んでしまうようなこともない。特に設定に神経を使うことなくサチュレーションを加えられるので、初心者の方にもオススメ。
M/Sコンプについて
マスタリングではS成分を潰して上げるのも効果的。M/Sコンプでそれぞれコンプを掛け、S成分の量を上げる。この処理をしておくと、リミッターに突っ込んだときに音圧が出やすい。
通常の2mixではS成分の量がどうしても少ないので、普通にリミッターをかけるとM成分が先に限界値に達して音割れしやすい。音をS成分に逃してやることで、より大きく聴かせることができるというテクニックだ。
僕もマスターでM/Sコンプをかけるようになり、好みの音像・音圧を得られるようになった。また、著名なマスタリングエンジニアのGoh Hotoda氏も、M/S処理の有用性を語っている。
●MS処理がマスタリングに有効であると?
○ええ、サイドの方にだけ微妙にEQやコンブをかけたりすると、L/Rで処理するよりも確実に音圧を稼ぐことができます。
Waves PuigChild 670や、Slate Digital VBC(FG-MU)など、M/Sのコンプ処理を単体で行えるプラグインもある(奇しくも両方Fairchild系の真空管コンプ)。通常のLRステレオの状態のままでM/S処理ができるので便利だ。
なお、マスターへのM/S処理は音像が崩れることもある。意図した結果になっているか、元の状態との比較を忘れないようにしたい。
リミッターについて
リミッターの性能には差がある。
※ここでの「性能」とは「音割れやポンピングを起こさずに、聴感上の音圧を高くできる能力」を指す。
リミッターの性能が高いほうが、音割れせずに音圧を上げられる。例えばWaves L2やL3よりも、FabFilter Pro-Lの方が性能は高い。「リミッターの性能が低いせいで音圧が出ない」という状況を無くすために、初心者の人ほど、はじめに良いリミッターを買うのが良いと思います。機材のせいにできなければ、後は腕の問題なので。
今回は音圧を上げるためのテクニックについて書いた。
【DAW】OS再インストール時のメモ~ その3:効率の良いソフトシンセの再インストール方法
※2017年12月4日 一部項目を加筆修正
はじめに
OSクリーンインストールの覚え書きも今回で最後。その1ではアクティベーション解除が必要なソフトシンセについて紹介した。その2ではDAW向けのWindowsの設定方法について解説した。
今回は、効率よくソフトシンセを再インストールする方法について解説する。
ピアノ音源やドラム音源などの中には、音源ライブラリをHDDから読み出して音を鳴らすものが多い。そういったソフトのインストール作業は、たいてい2つのプロセスに分かれている。
- ソフトウェア自体(dllファイル)のインストール
- 音源ライブラリのインストール
このうち、時間がかかるのは2の方。最近は2のプロセスを省略することができるソフトが多い。そういったソフトでは、あらかじめライブラリのフォルダを別のHDD(SSD)に入れておけば、ライブラリ部分の再インストールなしにスムーズな環境復旧が可能だ。
ただしこの技が使えるかどうかはソフトによって異なるし、その手順もまちまち。
またソフトによっては、インストールディスクからインストールしなければならないもの、アップデータだけでインストールできるもの、それぞれ存在する。
そこで僕が実際に再インストールを行ったときにまとめたメモを、記事にして公開してみる。OSクリーンインストールなどの際に役立ててほしい。
- はじめに
- Spectrasonics(Omnisphereなど)
- Native Instruments
- XLN Audio (Addictive Drums)
- Steinberg HALion Sonic
- Synthogy Ivory
- SWAMエンジン (Sample Modeling The Saxophonesなど)
- EastWest Symphonic Orchestra
- おわりに
Spectrasonics(Omnisphereなど)
ライブラリが別のHDDに入っていれば、再インストール時はアップデータのみをインストールすればOK(インストールディスクは必要ない)。
その手順は次のとおり。代理店のサイトにも記述があるが、完結にまとめ直した。※Windows想定。Macの人は適宜読み替えてください。
- 「C:ProgramData\Spectrasonics」というフォルダを作成する。
- Spectrasonics製品のライブラリが含まれているHDD(外付けHDDなど)から、STEAMフォルダを探す。
- 2のフォルダのショートカットを作成し、1に移動させる。
- アップデータをインストール(元のディスクは使わなくて良い)。
このようになる。これでインストール作業はすべて完了。ソフトを起動しオーサライズを済ませれば、問題なくプリセットが読み込める(=ライブラリ指定が問題なく行われている)ことが確認できるはず。
ちなみにこれはOmnisphreやTrilianの場合。Stylus RMXのときは、「STEAM」を「SAGE」と読み替えて同じことをすれば良い。
画像のように、「STEAM」と「SAGE」のショートカットフォルダが該当の箇所にあればOK。※画像に表示されているその他のファイルは、インストール後に生成される。
参考:Spectrasonics製品コンピュータ変更時のインストール方法(代理店サイト)
Native Instruments
※2017年12月4日 加筆修正
KOMPLETE11以降では「Native Access」というソフトウェアを使い、NI製品のインストールを管理することになる。
VSTプラグインの場所やライブラリの置き場所は、Nativ Access画面の右上、Preferenceから設定できる(全ソフトに影響する)。そこでライブラリのパスを指定しよう。
既にライブラリがインストール済みの場合、ライブラリの実質的なインストールは省略されるようだ(Battery4で確認)。ただし、Native Access上で形式上のインストールは行う必要がある。さもないとライブラリが反映されない。
Battery4では、ソフト上でファクトリーライブラリのパスの指定はできないので、再インストールの際も、やはりNative Access上でライブラリ部分のインストールを形式上行う必要はありそうだ。
Kontaktのライブラリについて
Kontaktの最新版では「Add Library」という、ライブラリを追加するコマンドがなくなってしまった。そこで、Kontaktのver 5.6.6にダウングレードして「Add Library」でライブラリを追加した後、再びKontaktの最新版にアップするという方法が公式で推奨されている(なんとも面倒な仕様だが……)。
(参考)KONTAKTライブラリが既に別のハードドライブにインストールされている場合にKOMPLETEバンドルを再インストールする方法
Sample Modeling社のThe Trumpetなど、Kontaktエンジンの他社音源をインストールする場合、NI製品とはライブラリの場所を分けたいこともあるだろう。そんなときはこの方法を取るのが良いと思う。
KOMPLETE7の場合(※古い情報です)
ライブラリに関しては別のHDDに入っていれば、引き継ぎが可能。ただし、Spectrasonics製品とは異なりアップデータのみではインストール作業はできない(KOMPLETE7で確認)。きちんと元のディスクからインストールした後、アップデータを当てること。
インストールした後間もなく、NI Service Centerが自動でアップデートされるようだ。
MASSIVE、FM8、ABSYNTH 5などは、起動したばかりだとプリセットが表示されない。オプションから「Rebuild Database」を選んで少し待つと、表示される。
XLN Audio (Addictive Drums)
※2017年12月4日 加筆修正
Addictive Drumsはオンラインインストーラーでなければインストールできない(2017年12月現在)。Webサーバーからデータをダウンロードしながらインストールが進んでいくため、新規インストールの場合かなり時間がかかる(ライブラリ込みだとたぶん30分~1時間くらい)。
ただし、再インストールの際など、HDDに既にライブラリがインストールされている場合は、インストール作業はもっと早く済む。インストール時にライブラリのパスを指定できるが(←画面右上の「Advanced」という項目)、その指定されたパスにライブラリのデータが既にインストールされている場合、ライブラリ部分のインストールは省略される。パスを指定すると、そのディレクトリのデータがスキャンされ、インストールが必要かどうか判断してくれるようだ。
Steinberg HALion Sonic
※古い情報です
HALion SonicもNI KOMPLETE同様、インストールディスクからインストールする必要あり。ライブラリ部分に関しては、"裏技"を使えばインストールの省略が可能。
その裏技について説明する。HALion Sonicではライブラリのパスを指定する設定項目がどこにもない。しかし、ライブラリのHDDを参照し、Contentフォルダの中のHALion Sonicの音色ファイルをHALion Sonic(スタンドアローン版)の画面にドラッグ&ドロップすれば、何故か認識に成功し、問題なく使うことができるようになる。
ちなみに、この裏技は、ディスクからHALion Sonicをインストール後、「アップデータを適用した後」でなければ使えない(1.6.3のアップデータで確認済み)。
なんとも不可思議な仕様となっているが、僕の環境では問題なく使うことができている。
Synthogy Ivory
※2017年12月4日 最新版の情報に加筆修正
こちらもSpectrasonics製品と同じように、すでに別SSDなどにライブラリがインストール済みの場合は、アップデータ(インストーラ)だけ実行すればよい。
- 「Ivory Win Update 2.5.0.8」などを実行。
- インストール時にライブラリのパスを指定する(「Ivory Items Library Location」という項目)。
- インストールを完了する。
これでOKだ。
なお、「Ivory Library Tool」というソフトも同時にインストールされる。それを使えば、後からライブラリのパスを変更することも可能だ。
※「Ivory Library Tool」の場所 → C:\Program Files (x86)\Synthogy\Ivory
SWAMエンジン (Sample Modeling The Saxophonesなど)
インストールは普通に行えばOK。ただしサンプルを別のHDDに置く場合、「Option > Resources Root Path」からディレクトリを指定する必要がある。その際、ライブラリのルートディレクトリを指定することに注意(深層のフォルダだとNG)。
例:「E:\Sample Modeling」
EastWest Symphonic Orchestra
このソフトも、すでに別HDDにライブラリがインストール済みの場合は、Playエンジンのインストーラだけ実行すればOKだ。
- Playエンジンだけインストールする。
- Playを立ち上げ、ブラウザからライブラリの適当なパッチを読み込んでみる。
- パスの指定をするようにアラートが出るので、指定する。
- 普通に使えるようになる。
おわりに
今回はインストールにつまずきやすいソフトシンセを中心に、インストール方法を紹介した。他にも何か気づいたことがあれば、今後も追記していく予定だ。