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知っておきたいシンセの音作り:基本テクニックを8つ紹介(デモ音源あり)

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はじめに

シンセサイザーってよく分からない。ツマミが多すぎるし、どこをいじれば音がどう変わるのかサッパリ……。そんな人も多いのではないだろうか。僕も例にもれず、ビギナーの頃はそんな状態だった。

しかし、多くのシンセは、同じような信号の流れで音が出ている(※少なくとも、大半のシンセ=減算式シンセでは)。パラメーターの意味さえ理解してしまえば、他のシンセにも応用が効くし、複雑な音のプリセットでも自分なりに調整していくことができる。シンセの知識を習得することは、音楽を作る人にとってはコストパフォーマンスの高い学びなのだ。

今回の記事では、実際に音を作る手順も交えつつ、シンセの音作りの基本テクニックを8つ紹介してみる。シェアの高そうなSpectrasonics Omnisphereを使っているが、大半のシンセでも同じような音は出せるのでご安心を。

今風の音楽を作りたい人にとって、シンセの習得は必須。ビギナーの人も気軽に読んでみてほしい。

1. オシレーターの波形選び

まず大事なのが、「オシレーターにどの波形を選ぶか?」ということ。元の波形に適切な倍音が含まれていないと、意図した音色に調整するのは難しい。なのでオシレーター波形はきちんと選ぶようにする。

例:激しい音を出したい場面で、サイン波を選んでも上手くいかない(倍音が少ないので)。

実際に音を聴いてみよう。5つの波形でそれぞれ、単音→和音→ベース音域での単音、と演奏している。

波形が持つ音色のイメージは、次のような感じだ。

  • ノコギリ波(Saw):ブーブー

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  • 矩形波(Square):ポーポー

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  • パルス波(Pulse):コーコー、ゴーゴー

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  • 三角波(Triangle):ホーホー

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  • サイン波(Sine):ホーホー(三角波よりおとなしめ)

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自分で音色を作るときはもちろん、プリセットを使うときでも、どの波形が使われているかを意識してみるとよい。

2. フィルターの基本的な調整

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シンセでは、ローパスフィルター(LPF)で高い周波数の倍音を削って音作りをすることが多い。なので、フィルターの仕組みについても知っておく必要がある。シンセのフィルターには2つの重要なツマミがあるので押さえておきたい。

カットオフ

ローパスフィルター使用時は、カットオフは「高域をどの程度削るか」を決めるパラメーターになる。

  • カットオフ小:暗い、地味、落ち着いた音
  • カットオフ大:明るい、派手、うるさい音

レゾナンス

カットオフ周波数の帯域をブーストすることで、音色に独特のキャラクターを持たせることができる。上げすぎると耳障りな音になるが、適度に上げることも多い。ただ、まったく上げないことも多い。

3. フィルターエンベロープの調整

フィルターエンベロープを使うと、時間経過に応じて、フィルターの開き具合を変化させることができる。「時間が経つにつれて、カットオフが上がって、そして下がる」。基本的にはこんな挙動をイメージするとよい。

実際に音色を作る上では、発音の瞬間にフィルターが素早く閉じるようにすることで、アタック感を演出することが多いだろう。ひとことで言うと「ボン」あるいは「チャン」という感じの音になる。

  • 「ボ」:フィルターは開いている
  • 「ン」:フィルターは閉じている

Funk的なアタック感のあるシンセベースや、EDMのPluck音は、これを利用して作られている。表情豊かな音色を作る上で重宝するだろう。

なお、レゾナンスを少し上げると、フィルターが閉じることによる音色変化が際立つようになる。フィルターエンベロープを使うときは、カットオフはもちろん、レゾナンスの値も意識してみるとよい。

音色の例を2つ用意した。音作りの手順も記載したので、参考にしてみてほしい。

例1. ファンク風シンセベースの作り方

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  1. 波形はSawを選択(SawSquare Fatを選び、SHAPEを左端に)。
  2. フィルターはLPF Juicy 24dbを選択。
  3. カットオフは低め。レゾナンスはほんの少しだけ上げる。
  4. フィルターエンベロープを設定し、アタック感を付ける。
  5. 原音より少し小さい程度の音量で、オクターブ上の音を加える(HARMONIAより設定可能)。
  6. 付属エフェクトのTape SlammerとTube Limiterでわずかにサチュレーションを加える。

例2:Pluckの作り方

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  1. 波形はSawを選択(SawSquare Fatを選び、SHAPEを左端に)。
  2. フィルターはLPF Juicy 24dbを選択。
  3. カットオフは低め。レゾナンスはほんの少しだけ上げる。
  4. フィルターエンベロープを設定し、アタック感を付ける。
  5. デチューンを加える(設定深層でUnisonを有効にする。DetuneとDepthを適度に上げる)

4. デチューン

「ピッチ(音の高さ)をわずかにズラしたシンセ波形を、2個以上同時に鳴らす」。これがデチューン(Detune)という技だ。まずは、デチューンさせたものと、させていないもの。実際に2つを聴き比べてみよう。

「Not Detuned」は単純なノコギリ波で和音を鳴らしたもの。「Detuned」はそれをデチューンさせたもの。デチューンさせたほうが、音の厚み、広がり、浮遊感といったものが増しているのがわかるはず。実際に曲の中で使うときも、デチューンされた音色のほうがオケへのなじみは良い。シンセ音色の多くでこのデチューンが使われているので、音色を作成・調整するときには意識してみるとよい。

なお、ベース音域でデチューンを行うと位相的な不都合が生じやすいので注意。基本的には上モノで使うものだと考えたほうがよい。

ちなみにOmnisphereでは、UNISONというパラメーターでデチューンを設定できる。

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(※デモ音源では上記画像のように設定している)

余談だが、デチューンしたノコギリ波を複数(8個程度)重ねたものを、「Super Saw」などと呼んだりすることもある(Roland JP-8000の波形が由来)。派手な音色に調整しやすく、オケへの馴染みも良いので、トランス、EDM、アニソンといった分野でよく使われる。

5. アンプエンベロープの調整

「フゥヮァァアアーーー」というように、少しずつ大きくなっていく音色。「ジャッ!」というような歯切れのよい音色。こういった違いを決めるパラメーターの一つが、アンプエンベロープだ。アタックやリリース等の長さを調整することで、目的の音色に調整していこう。

「Fast Pad」はアタックとリリースが最速の音色。「Slow Pad」はアタックとリリースを遅めにしたパッド音色だ。アタックやリリースの部分は、音色にとっては重要なパラメーターだ。じっくり煮詰めることをオススメしたい。

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(↑Fast Padのアンプ・エンベロープ)
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(↑Slow Padのアンプ・エンベロープ)

余談だが、ソフトシンセのプリセットには、「リリースタイムがやたら長く、曲中で使いづらい音色」が多い。そういった音色でも、適切にリリースタイムを短くしてやれば上手く使うことができるだろう。プリセット派の人にとっても大事なパラメーターといえそうだ。

6. ポルタメント

ある音から別の高さの音に移行する際に、ピッチの変化速度が遅くなるように調整するための機能だ。シンセリードの音色で、ニュアンスを出すために使われることが多いだろう。他にも、ポルタメント速度を遅く設定して、効果音的な音色を作ることもある。

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Omnisphereでは、GLIDEというパラメーターでポルタメントを設定可能。ポルタメントの速度次第でフレーズのノリも変わってくる。プリセットを使うときでも、曲に合うように調整するとよい。

7. LFO

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「何かしらのパラメーター」を「自動的に」「連続で」上下させるための仕組みだ。ピッチに掛ければビブラートになる。アンプに掛ければトレモロになる。最近ではワブルベースを作るためにフィルターのカットオフに掛けることも多い。 

デモトラックを2つ用意した。「LFO Vibrato」がLFOをピッチに掛けたもの。「LFO Wobble」がLFOをカットオフに掛けたものだ。さらに、モジュレーションホイールで、それらを揺らす量を調整できるようにしている。

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(↑「LFO Vibrato」の設定内容)

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(↑「LFO Wobble」の設定内容)

8. 倍音の付加

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シンセの音作りにおいては、フィルターのカットオフを調整したり、オクターブ上下の音を加えたりする作業がしばし行われる。それは音響的に考えると、倍音を調整していることに等しい。

実は、倍音を調整するには他にも方法がある。それは歪み系エフェクターを使うことだ。近年のシンセ音色では、特に歪み系エフェクトの重要性が高い。なので、この「倍音の付加」という要素も、シンセの音作りの一部だと考えてもよいくらいだと思う。

最近のソフトシンセだと、シンセ内部で歪みを加えられるものも多いが、別途プラグインで処理してもよい。

歪ませる量については、明らかに歪んだ音に調整することもあれば、ヌケを良くするためにさり気なくサチュレーションを加える程度のこともある。出したい音に応じて調整していくとよい。

 比較サンプルを用意してみた。SoundCloudの音質の関係で少し分かりづらくなってしまったが、「Saturated Pluck」が歪みを加えたものだ。ここではSoundtoys Decapitatorを使って、比較的はっきりと歪みを加えるような処理を行っている。

おわりに

今回はシンセの音作りにおける基本的なテクニックを8つ紹介した。音色を自作したい人はもちろん、プリセット派の人も知っておくと役に立つはずだ。

今回のデモ音源はすべてSpectrasonics Omnisphere2で作成している。派手な音・アンビエントな音が出るイメージを持っている人も多いかもしれないが、今回のデモ音源のように、ゼロからオシレーターとフィルターを組み合わせて、シンプルな音色を作ることもできる。エンベロープをグラフィカルに表示させたりもできるし、音作りの練習に使う上でも優れたシンセだと感じた。