【DTM】作曲家が知っておきたい、制作環境へのお金のかけ方

f:id:singingreed:20161110225856j:plain

音楽制作には、とにかくお金がかかる。

作曲をするだけなら安い電子ピアノで問題はない。しかし、現代の作曲家は「デモ音源」を求められるケースがほとんど。打ち込み、レコーディング、ミキシングなどの作業も行う必要がある。

これらの作業を行うために必要な機材やソフトは多い。パソコン、スピーカー、オーディオインターフェイス、DAWソフト、ソフトシンセ、プラグインエフェクト、マイク、楽器……品質の高いものは、どれも数万~数十万円という値段がする。

プロの作曲家は、これらのアイテムに多くのお金をつぎ込んでいることが多い。機材環境のクオリティは、音源のクオリティに直結するからだ。

これらのアイテムを闇雲に買っていては、お金がいくらあっても足りない。そこで、機材やソフトに何百万とつぎ込んできた僕の経験をもとに、効率の良いお金のかけ方について記事にまとめていこうと思う。

お金をかける前に知っておきたい、予備知識

ソフトやデジタル機材は、10年後は価値が下がる

ソフトやデジタル機材の進化は日進月歩。音楽機材も、デジタルものは時が経てば価値が下がってしまう。

例:10年前は20万円もしたハードシンセが、中古で2万円程度で売っていたりする。

現在の音楽制作はコンピューター・ベースでの作業が主流。DAWソフトやソフトシンセ等ソフトウェアへの投資は避けて通れない。とはいえ、長期的に音楽制作を続けることを考えた場合、なるべくパソコンやソフト、デジタル機材には極端に高額な投資をしないほうが資金を有効に使っていけるはずだ。

例:フルスペックのMac Proを買うお金があるけど、あえてコンピューターの性能を落とし、スピーカー資金に回すことにした。

楽器やアナログ機材は価値が下がりづらい

ソフトウェアに対して、生楽器やマイク、マイクプリアンプなどのデジタル要素がない機材は、時が経っても価値が下がりづらい。それどころか、楽器やマイクは古いものほどヴィンテージ扱いされて価値が上がるケースもある。

思い切ってお金をたくさんつぎ込むなら、こういった機材にするとよい。

なお、テクノロジーの発展によりこれらがデジタル技術で代替される場合もあるため、それによって相対的な価値が下がる可能性はあるので注意。

例:昔何百万円もしたMinimoogも、今は安価なソフトシンセで同じような音が出る。

優先的にお金をかけたい部分

モニター環境(スピーカー、ヘッドホン)

いちばん大事なのが、モニター環境(音を聴く環境)だ。音楽制作のあらゆる局面で、「良い演奏・歌唱ができているか」「良い音が出ているか」といった判断をする必要がある。

研究・勉強のために既存の曲を聴くような場合、例えば「メインボーカルの後ろで小さく鳴っているハイハットの音」をしっかり聴き取りたいようなときもある。新しくソフトシンセやエフェクトプラグインを買う場合も、「良い音が出るか」「欲しい効果が得られるか」という判断をしなくてはならない。

これらの作業は、いずれもモニター環境が整っていないと難しい。モニタースピーカーは、最優先で用意すべき機材だと僕は考えている。

どれを選ぶかについては、事前に入念にリサーチをし、楽器屋に足を運び試聴して判断して欲しいが、一つ挙げるとすればYAMAHA MSP5 Studioは初めてモニタースピーカーを買う人にも推奨できるモデルだ。色付けも少なく正確なモニタリングができるし、価格もお手頃でコストパフォーマンスが高い。プロユースにも耐えうるクオリティだ。

GENELEC、YAMAHA、ADAMあたりのモニタースピーカーはオススメ。プロの作曲家や編曲家でも使用者が多い。住宅環境によってはモニタースピーカーを鳴らせない人もいるかもしれないが、そういう場合でも良いヘッドホンを使うことを心がけたい。おすすめは、AKG K702のような、奥行きを感じやすいヘッドホンだ。

※イヤーパッドから音が漏れるため、マイク録音時のモニタリングには使えないので注意。歌や楽器をマイク録音するときは、SONY MDR-CD900STなどの密閉型ヘッドホンで音を聴こう。

マイク

歌やアコースティックギターなどを録音する場合の必須アイテム。録音の品質を最も左右するのは、何と言ってもマイクだ。レコーディングではコンデンサーマイクが使われることが多い。

今では低価格帯のコンデンサーマイクでもそこそこ良い音で録れる。しかし、高品質なマイクを選ぶことを考えた場合、20万~という値段がするのは今も昔も同じ。時が経っても価値が下がりづらい機材の一つなので、思い切ってお金をかけてもよいと僕は考えている。

NEUMANN U87Ai

オーディオインターフェイス(ある程度の金額まで)

音を再生したり、楽器や歌を録音するのに必要な機材だ。一部の業務用ハイエンドモデルを除き、マイクプリアンプやAD/DAコンバーターと一体型になっていることが多い。

いちばん大事なのが「安定して動くかどうか」ということ。ドライバが粗悪な物を避けて、実績のあるメーカーから選ぶようにしよう。オーディオインターフェイスは録音の品質や再生される音の品質にも影響するので、多少は良いものを手に入れたい。

僕のオススメは断然RMEのインターフェイスだ。ドライバの性能・安定性が断トツで優れているのが一番の理由。WindowsとMac両方の環境で使えるし、相性問題が出やすいWindowsマシンであってもトラブル知らずの安定動作が期待できる。レイテンシーも下げやすいし、Total Mixで内部信号のルーティングも自由自在。

※使い方の解説記事も書いています → RME TotalMix FXの使い方を、5つの具体例を挙げつつ解説してみる - Nomad Diary

Macなら相性問題が少ないので選択の幅も広くなるが、Windowsユーザーなら安定動作を優先し、RMEがファーストチョイスという人も多いだろう。

なお、オーディオインターフェイスは基本的にはデジタル機材。優先度は高いが、必要以上にお金をかけてもコストパフォーマンス的には微妙。音質面に関しては、時代が進めば進むほど、安くて良いものが手に入るようになるからだ。作曲家ならば、RME程度の一体型インターフェイスがあれば問題ない。それ以降は、単体マイクプリ、単体コンバーターに手を出そう。

RME Fireface UCX

生楽器系のソフト音源

※2018年9月追記

ピアノやドラム、ベース、ストリングスのような楽器は、様々なジャンルの音楽で使われる。その分使用頻度も高いので、これらの楽器については思い切って良い音源を手に入れてしまおう。ドラム音源のBFD、ピアノ音源のIvory、ベース音源のTrilianなどは定番だ。

生楽器の音源の多くは、「録音されたサンプルを、ソフト内で再生する」という、いわゆる「サンプリング」の手法を利用して音を出す仕組みになっている。この仕組み自体が本質的に変わらない限り、ソフト音源が大きく進化することはないのだ。現に生楽器系のソフト音源に関しては、10年前の製品が現役で使われていることも多い。

これを裏付ける例として、冨田ラボ氏のドラムを紹介したい。冨田ラボ氏は、大容量ソフト音源が一般的になる前――遅くとも2000年代前半の時点で、自作の大容量ドラム音源を使っていたのだ。当時はPCのスペックも低かっただろうに、ドラム専用のPCを用意して鳴らすという徹底ぶりだ。

1キットにつき3GBを超える自作ライブラリーの音色は、生ドラムと聴き違うほどのリアルさだ。
出展:サウンド&レコーディングマガジン 2006年3月号

氏がこの時期のドラム音源を今でも使っているかどうかは不明。だがそれでも、当時の作品のドラムトラックが、現在主流の大容量ドラム音源であるBFDやSuperior Drummer等と比べても勝るとも劣らないクオリティであることは、「STARS/中島美嘉」「Everything/MISIA」などの曲を聴いてみれば一目瞭然。これを15年も前にやっていたのだから恐れ入る。

結局、ソフト音源のクオリティは、楽器と演奏の品質、録音の品質、ソフト内でのサンプルの組み方。これらの要素で決まってくる。テクノロジーが進化しても録音の方法そのものは変わらないので、ソフト音源の進化は意外と遅いといえる(プラグインエフェクトの進化が日進月歩なのとは対照的)。

※「録音に使うADコンバーターが時代とともに進化している」という部分はあるので、厳密にいうと同じ手法でも出音は進化することになるが、他の要素に比べれば微々たる差だろう。

現に、Vienna Symphonic Library社は、"SYNCHRON-ized"と銘打った「過去の音源のサンプルを流用した音源」を"新製品"としてリリースしている。音色自体が定番のものなら、録音したサンプルが古くても問題ないことの表れだろう。

後発の製品でより良いものが登場する可能性はあるにせよ、今の音源の価値がすぐに下がるということはない。したがって、ソフト音源にはきちんと投資しても問題ない。これが僕の見解だ。

FXpansion BFD3 Synthogy Ivory II Spectrasonics Trilian

必要に応じてお金をかけたい部分

※2018年9月追記

プラグインエフェクト

EQ、コンプ、リバーブは、ミックス作業においてメインで使う道具だ。できれば良いものを手に入れておきたい。EQならNeve 1073、コンプならUrei 1176やTeletronix LA-2Aなどが定番なので、これらを再現したプラグインを持っておくと便利。

ただし、特にコンプは、「どのタイプ(FET/光学式/デジタル等)のコンプを選ぶか」「どういったセッティングにするか」という判断が、使う道具の品質以上に大事になってくる。オーディオエンジニアリングの基礎的な知識をひと通り学んで、それから製品を選んで行くのがオススメだ。

スキルやノウハウへの投資

一線で活躍するプロが登壇するセミナーなどは、積極的に参加するとよいだろう。自身の実力の底上げにつながる。僕も以前、著名なプロデューサー/アレンジャーの講座を受けたことがあるが、非常に有意義な内容で、今でもその学びが生きていると感じている。

なお、講師が本業の人や、実績に乏しい人のレッスンはそれほどオススメできない。プロの現場のノウハウを知らない状態で独自の指導をしているケースも多く、実際に仕事をする上で役に立つとは限らないからだ(趣味で曲作りを楽しむのが目標なら問題ないが)。

とはいえ一線で活躍している人はレッスンを開催していないことも多く(忙しいので)、結局は売れっ子の人の講座を受けられる機会は少ないというジレンマもある。もし開催されることがあれば、ぜひチェックしておきたい。

書籍を読むのもいい。オススメの本は以前にも記事を書いた。

また、今はネットでノウハウを公開している人も多い。現役のプロがTwitterやブログなどでTipsを公開している場合もあり、勉強になることもある。ネットの情報は質が低いものも多いので、そこだけは注意したい。

YouTubeでは海外のクリエイターが制作風景を公開していたりする。海外のクリエイターは日本のクリエイターよりも情報をオープンにする傾向があるので、海外の文献を漁れるように英語力を身につけておけば、心強い武器になるだろう。

DUO 3.0

一点豪華主義よりもバランス

作曲家の久石譲氏が、著書でこのように語っている。

国際級のすごいソリストを入れても、中に一人ヘタな人間がいると、アンサンブルとしての実力はそのレベルに下がってしまう。

出典:感動をつくれますか?- 久石譲(第二章より)

音楽制作でも同じようなことがいえる。いくら良いギターを使っていても、アンプが低品質だと良い音は出ない。演奏や録音が良くても、ミックスが悪いと音源のクオリティは低くなる。

あらゆる要素の積み重ねで音楽はできている。

制作環境のどこかに安物が混じっているような場合、それが総合的なクオリティを下げる原因になっていないか定期的に考えてみることが必要だと思う。

また、以下のようなケースでは、前者の方が品質が上がったように感じやすい。

  • 1万円のマイク → 10万円のマイクにグレードアップ
  • 10万円のマイク → 20万円のマイクにグレードアップ

現在使用している機材の品質が高ければ高いほど、そこからグレードアップするために必要な金額は大きくなる。一点豪華主義よりもバランス良くお金をかけていくのが効率的だ。

セールを狙う

ソフトウェア、ハードウェア問わず、音楽制作のアイテムはセールを行うことがある。音楽制作のアイテムはどれも高額なので、わずかな割引でも大きな節約になることが多い。楽器店や代理店のメルマガ、Twitterアカウントなどをチェックして、セール情報が流れてこないかマメにチェックしよう。

サポート不要なソフトは海外サイトで買う(要英語力)

音楽制作のソフトはほとんどが海外製。国内で買う場合、基本的には代理店を通して買うことになる。代理店を通して買うメリットは、日本語で製品サポートが受けられたり、ソフトによっては日本語マニュアルがもらえたりすることだ。

反面、代理店を通すと価格は高くなってしまうことが多い。ある程度DTMに慣れた人なら代理店のサポートは不要なので、プラグイン関係は海外のサイトで購入するとよい。

僕は普段、AudioDeluxeという海外のサイトを使っている。店独自の割引が日常的に行われており、何でも安く手に入る。商品購入後にシリアルが送られてくるまでのスピードも速く、使い勝手が良い。

音楽関係の商品に限ったことではないが、海外のショップで買い物をする場合、支払い方法はPayPalがオススメ。手数料はかかるが、クレジットカード情報をお店に渡すことなく安全に買い物ができる。

ただ、海外ショップの利用は万人におすすめできるものではない。万が一トラブルがあったときのために、英文でメールを書ける程度の英語力は持っておくのがマナーだろう。また、日本のショップのような迅速丁寧な対応を求める人は、海外のショップで買い物をするべきではない。

なお、オーディオインターフェイス等のハードウェアは、故障時に修理することも考え、国内で買うことをオススメする。DAWソフトに関しても、操作習熟の重要度が高い部分なので、いざというときに日本語サポートが受けられるよう国内で買うのがよいと思う。

必要のないものは買わない

歌とアコギしか録音しないのに、8chもある10万円のマイクプリアンプを持っていても、チャンネル数を持て余すだけ。同じ10万円なら2chのマイクプリアンプの方が1chあたりのクオリティは高いはずなので、その人にとっては良い結果を得られるはず(注:価格がクオリティに比例するという前提)。

DAWやプラグインも、リリース直後のアップデートはしない。多少機能が刷新されようが曲作りへの影響は出ないことがほとんどだし、初期バージョン特有のバグに翻弄されて消耗することもある。安定した頃にアップデートするのが賢い。

安売りしているだけのプラグインも、なんとなく買ったりしないようにする。気に入ったものでなければ結局使わなくなる。気になったものは事前にデモを試し、吟味してから買う。

何か新しいものを買う場合、自分にとって本当に必要か、どのような効果が得られるのかを事前に考える。そうすれば買い物で失敗することは少なくなる。

雑誌やネットの評価を信用しすぎない

雑誌では商品を宣伝することで報酬が発生する。ブログでも紹介した商品が売れれば、アフィリエイト収入を得ることができる。商品の核を捉えた記事であればそれは参考に値する情報だといえるだろう。しかしながら報酬を得るための手段として、いい加減なレビュー記事を量産している人も世の中には存在する。

自分の頭で考え、耳で判断してから購入を決断するよう、日ごろから心がけるべきだと思う。

おわりに

今回は作曲家が制作環境にお金をかける場合の考え方について書いてきた。制作環境のグレードが高くなれば、音源のクオリティは間違いなく上がる。しかし、クオリティの高い音源の中身が、必ずしも良い音楽であるとは限らない。

音質が良くても、良い音楽とは限らない。そのことはいつも心に留めておきたいと思っている。