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Finaleで覚えておきたいショートカットキー

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Finaleのショートカットキーについて紹介する。ぜひ覚えておきたいものを「基礎編」、必要に応じて覚えておきたいものを「応用編」で取り上げている。

  • Windows環境を想定しています。Macの方は「Ctrl → Command」「Alt → Option」と読み替えてもらえればそのまま使えることも多いですが、例外もあるのでご了承ください。
  • 「ステップ入力」の操作を前提としたショートカットキーです。「高速ステップ入力」の場合、コマンドが違うことがありますが、ここでは割愛します。

1. 基礎編

音符や休符の入力

入力する音価の選択

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  • 16分音符:3
  • 8分音符:4
  • 4分音符:5
  • 2分音符:6
  • 全音符:7

※すべてテンキー
※64分音符までショートカットが割り当てられている(ここでは省略)。

※ノートPCを使っている人は、テンキーを使えないことも多いだろう。そんなときは、ノートPC用のショートカットキーに変更すると良い(メニュー>ステップ入力>ステップ入力オプション>「ショートカットキーのカスタマイズ」から設定可能)。

音符の入力

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  • CDEFGAB
    (※計7個。音名に対応している)

休符の入力

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  • 休符を入力:Tab
  • 入力した音符を休符にする:R

臨時記号の入力

  • シャープ:;(セミコロン)
  • フラット:-(ハイフン)
  • ナチュラル:N
  • ダブルシャープ:Shift + ;
  • ダブルフラット:Shift + -

※セミコロンはShiftと一緒に押すと+マークになるキー。だからこのような割り当てになっていると思われる。

タイと付点

  • 入力した音符に付点を付ける:.(ピリオド)
  • 次の音符へ向かってタイを付ける/解除する:T
  • 前の音符からタイを付ける/解除する:Shift + T

音符の操作

音符を選択する

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ステップ入力ツールを選択時

  • Ctrl + クリック

音符への処理いろいろ

  • タイ/スラーを反転する : Ctrl + F
  • 連桁を切る(つなげる):/(スラッシュ)
  • 符尾を反転する:L
  • 異名同音に変換:\(¥マーク)
  • 装飾音符に変換:Alt + G(※もう一度押すとスラッシュがつく)
  • 休符や音符を非表示にする:H

親切臨時記号の表示

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音符を選択してから、次のキーを入力。

  • カッコ付き親切臨時記号:P
  • カッコ無し親切臨時記号:Ctrl + Shift + -(ハイフン)

音価の変更

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音符選択時に

  • Alt + 数字キー(※テンキーでなくてもOK)

※「小節内に置ける音符の長さの和」(このGIF画像では4拍分)を超える形で変更することはできない。音価を長く変更する場合は、先に余分な音符/休符を削除しておく必要がある。

音高(ピッチ)の変更

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音符選択時に

  • CDEFGAB
    (※任意の音名を入力する)

※意図したオクターブにならなければ、「Shift + Alt + 矢印上下」で調整する。

その他

小節の消去

選択ツール(矢印)で小節を選択してから、下記のコマンドを入力。

  • 小節を消去して前に詰める:Delete
  • 小節の中身だけ消去して空けておく:Backspace

音符のカーソルをオクターブ上下させる

  • Shift + or

※ステップ入力時に使用する。次に入力する音符のオクターブを変えたいときに使う。

直前に入力した音符をオクターブ上下させる

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  • Shift + Alt + or

※上記GIF画像では、「ラ」の音を入力後、1オクターブ下げている。
※ステップ入力時に使用する。

2. 応用編

小節を追加

  • 小節ツールをダブルクリック:1小節追加
  • 小節ツールをCtrl + クリック:任意の小節数追加

項目を指定してペースト

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  • Ctrl + Shift + V

※「音符だけペースト」「コードネームだけペースト」「歌詞だけペースト」など選べる。

レイヤーの切り替え

  • Shift + Alt + 数字キー

※レイヤー1~4まで切り替えられる。

編集中のレイヤーのみ表示/全レイヤー表示

  • Shift + Alt + S

※「レイヤー関係は「Shift + Alt」」と覚えるのが良さそう。

PDFファイルの出力

  • ファイル>エクスポート>PDFと進む操作:Alt + FTP

※厳密にはショートカットとは言えないかもしれませんが……

画面表示の拡大/縮小

  • 拡大:Ctrl + +(テンキー)
  • 縮小:Ctrl + -(テンキー)
  • ウィンドウの縦幅に合わせて表示:Ctrl + [
  • ウィンドウの横幅に合わせて表示:Ctrl + ]

ウィンドウを開く系のショートカット

  • スコアマネージャー:Ctrl + K
  • 小節のはめ込み:Ctrl + M
  • ファイル別オプション:Ctrl + Alt + A

選択ツール(矢印)へ切り替え

  • Esc

その他のツールへの切り替え

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  1. Shift + Fn ◯で、現在選択中のツールをファンクションキー(F2~F12)に割り当てられる。
  2. 割り当て後、ファンクションキーを押すと、指定したツールに切り替わる。

おわりに

Finaleのキーボードショートカットで、覚えておくと役に立つものを紹介した。キーボードショートカットは他にもあるので、作業を効率化したい人は、一度ユーザーマニュアルに目を通してみるとよいだろう。

【Finale】「高速ステップ入力」vs. 「ステップ入力」。どちらを使えばいいのか?利便性は?

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Finaleには、「高速ステップ入力」と 「ステップ入力」、主に2種類の入力方法がある。どちらを使っていくべきなのだろうか?

高速ステップ入力 vs. ステップ入力

速さ重視なら高速ステップ入力

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高速ステップ入力とは、「MIDIキーボードを押さえながら入力したい音価を数字キーで指定する」ことで、音符を入力していく方式だ。

高速ステップ入力のメリットは、音符の入力がスピーディーなこと。

  • ステップ入力のように音価をいちいち変更しなくて済むので、素早い入力が可能
  • 和音や連符の入力は、ステップ入力よりも素早くできる

まっさらな五線紙に、ゼロから音符を入力していくような場合は、高速ステップ入力は便利。

既存の楽譜を編集 or 使い勝手の良さならステップ入力

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ステップ入力とは、「テンキーで音価を指定してから、入力したい音名をPCのキーボードやMIDIキーボードで入力する」ことで、音符を入力していく方式だ。

ステップ入力のメリットは、次の2点だ。

  • MIDIキーボードが無くても音符の入力が可能なこと
  • 既存の楽譜データの編集/修正がしやすいこと

これら2点は、大きなメリットだと感じる。

まず、MIDIキーボードが無い環境でも操作方法が変わらないというのは大きい。外出先でノートパソコンでFinaleを使うような場合、MIDIキーボード無しで操作できたほうが断然使い勝手が良いはず。

※一応高速ステップ入力でもMIDIキーボード無しの操作は可能だが、使うメリットが無いので選択肢から外している。

既存の楽譜データの修正がしやすいのもステップ入力の利点だ。高速ステップ入力だと、音の高さを変更するときは、マウスで音符をドラッグしなければならない。しかしステップ入力なら、「Ctrl + クリック」で音符を選択した状態で、PCキーボードで音名を指定すればOK。修正する音符が多い場合は、ステップ入力のほうが速いだろう。※下記QLMの参考動画で比較すると分かりやすい

結論:「ステップ入力」を優先的に覚えよう

音楽制作における色々な状況を考慮すると、

  • 先に「ステップ入力」を覚えるべき

というのが、僕の結論。

今どきの音楽家の多くは曲を作るときにDAWを使うので、譜面よりも先にMIDIデータができ上がることも多い。それなら、そのMIDIデータを整形して、Finaleに取り込んだほうが速く譜面を作れる。MIDIデータから譜面を作るなら、修正がやりやすいステップ入力を使ったほうがいい。だから先にステップ入力から覚えるべき。

もちろん、オーケストラの作曲家など、作曲段階で先に譜面を作る人もいるだろう。そういう人は入力のしやすさを優先して、高速ステップ入力/ステップ入力の好きな方法を選べばいいと思う。

ただ、そういう人だってDAWでデモを用意することも多い。となると、「曲の最終形」が反映されるのは、譜面ではなく、DAW上のMIDIデータになることも多い。それなら、やはりMIDIデータをFinaleに取り込んだときに編集しやすいように、ステップ入力を習得しておく必要はあると思う。

高速ステップ入力のほうが、素早く音符を入力できるというメリットはあるにせよ、ステップ入力だって十分速く入力できる。ならば、汎用性の高さを考えて、ステップ入力を優先して覚えたほうがいい。これが僕の考えだ。

※ちなみに、高速ステップ入力とステップ入力では、同じ操作でも別のショートカットキーが割り当てられていることもある。両刀遣いを目指すとショートカット操作で混乱しそうなので、慣れないうちは片方に絞ったほうがいいと思う。

おわりに

というわけで、今後のFinale関係の記事は、ステップ入力を前提に執筆していく予定だ。※もっとも、音符の入力/修正以外の操作方法に大きな違いが出るわけではない。高速ステップ入力派の人にも役立ててもらえる記事にしていくつもりだ。

譜面ソフト「Finale」を購入する前に知っておきたい予備知識

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Finaleは、MakeMusic社から発売されている楽譜作成ソフトだ。譜面ソフトの中では最も歴史が古く、市販の楽譜やバンドスコアの多くもFinaleで作られている。世界標準のソフトだけあって、操作をマスターすればどんな楽譜でも思い通りに作ることができる。楽譜の仕上がりも、他のソフトより美しい。

反面、ソフトの操作をマスターするには、思った以上に手間がかかる。直感的な操作ができないソフトなので、慣れないうちは、少しの調整に何十分もかかってしまうことも。「これなら手書きのほうが早いよ……」と投げ出したくなる人もいるだろう。

僕もそのうちの一人だった。しかし、「明日までに譜面を用意する必要があるのに、Finaleの操作が上手くこなせず、時間がどんどん減っていく……」という状況に何度も陥っているのは、さすがに良くないと思った。そこで一度じっくり時間を作り、Finaleの操作をじっくり覚えることにした。

Finaleの操作を覚えていく中で、ふと思ったことがある。

  • Finaleを解説してくれるわかりやすいWebサイトがあれば、もっと楽に操作を覚えられるのに……

これから数回に渡って、Finaleに関する記事をいくつか投稿してみようと思う。Finaleの操作で消耗する人が一人でも減ってくれればと思う。

Finaleの特徴

きれいな譜面が作れる

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実は、市販の楽譜のほとんどががFinaleで作られている。出版クオリティが出せるソフトなだけあって、綺麗に整った譜面を作ることにかけては、右に出るソフトはいない。

「きれいな楽譜」を目指すなら、SibeliusよりもFinaleのほうが優秀だろう。作曲家/編曲家の人などにとっても、「浄書屋さんを頼らずにパート譜まで作りたい!」という状況があれば、Finaleを使えると心強いのではないかと思う。

操作が直感的ではない

Finaleは「操作が直感的ではない」という、人によってはデメリットとなり得る特徴も持つ。ちょっとしたレイアウトの調整にも関わらず、深い階層まで潜らないと設定項目が出てこなかったりする。

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例:譜面左部のパート名を変更したいときは、メニュー>ウィンドウ>スコアマネージャーとわざわざ進まなければならない。
※パート名の右クリックからでも一応変更可能だが、その箇所についての変更しかできない。

また、似たような操作にも関わらず、別のツールを選択しないと処理ができなかったりすることもあり、操作を体系的に覚えにくいところがある。

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例:「小節番号を隠す」と「空の五線(小節)の非表示」。割と似たような操作だが、それぞれ「小節ツール」/「五線ツール」と、別のツール選択時のメニューに割り当てられている。こういった割り当てのルールも、直感的に把握しづらい。

慣れるまでは、「この操作をしたいときには、ここをいじる」というのを、いちいちメモしておくのがオススメ。

スムーズなコード入力には「仕込み」が必要

コードネームの入力は、多くの譜面ソフトが苦手としてきた分野だ。Finaleも例にもれず、そんな一面を持っている。設定を追い込むまでは、なかなか思い通りに入力しづらい。

Finaleでは、コードを表記する場合、ルート以外の箇所を「コードサフィックス」で表現する。コードサフィックスとは、いわばスタンプやハンコのようなもの。C△7というコードであれば、「△7」の部分がコードサフィックスになる。「△7」というハンコをポンポンと押していくような形で、コードを表記していく仕様だ。

デフォルトのコードサフィックスは、お世辞にも見やすい状態とは言えない。自由にコードネームを表記する場合、コードサフィックスを自作することが必須になってくる。

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あらかじめ用意されているコードサフィックスだと、表記が自分の好みにならないことも多い。例えば、

  • 「Cmaj7」と書きたいのに、「C△7」というコードサフィックスしか用意されていない
  • 「 C7+9」と書きたいのに、「C7(#9)」というコードサフィックスしか用意されていない

というような状況が出てきたりする。その場合も、やはり自分でコードサフィックスを編集してやる必要が出てくる。

また、前述の通り、コードサフィックスはスタンプやハンコのようなもの。もし次のような欲求が出てきた場合、コード・サフィックスを構成する各文字の位置調整を、自分で行う必要が出てくる。

  • 「△7」の7の部分を、もうちょっと下にしたい
  • 「7(#9)」のテンションの部分は、もうちょっと小さくしたい

この作業がけっこう面倒くさい。「自分用のコードサフィックステンプレート」が完成するまでは、ストレス無くコードネームを入力するのは難しいかもしれない。

良くないことばかり書いたが、コードサフィックスを一度完全に作り込めば、その後の入力は楽にできる。手書きよりもずっと速く入力できるし、思い通りの表記に仕上げられる。

※Finaleのコードサフィックスの編集方法については、別に詳しく記事を用意した。

廉価版には機能制限があり(※Win環境の話)

※Windows限定の話です。Macだと最上位版Finaleしか使えないので関係ありません。

Finaleには

  • Finale(最上位版。一番高いやつ)
  • Finale PrintMusic(2番目に高いやつ)
  • Finale Notepad(無料版)

という3つのラインナップがある。

しかし、比較表を見ても、「何が出来て、何が出来ないのか」が分かりづらい(この譜面ソフトに限ったことではないが)。

(参考)フィナーレ・ファミリー製品間の仕様比較

「何かの操作をやろうとしたけど上手く行かず、そこで初めて機能が制限されていることに気づく」ということも多い。このあたり、けっこう不親切だと感じる。

例としては、最上位版の1個下のグレード「PrintMusic」だと、次のような操作はできなかったりする。

  • コードサフィックスの自由な設計
    • コードサフィックス:コードのルート音以外の部分のこと。例えば「CM7」では「M7」、「C7(9)」では「7(9)」がコードサフィックスとなる。
  • 譜面の2段目以降で、音部記号(ト音記号やヘ音記号)を省略すること
  • オリジナルのリハーサルマークの作成(例:「Verse」「Gt.Solo」)
  • アーティキュレーション・ツールを使ったショートカット(例:Sキーを押しながら音符クリックでスタッカートを付ける)

このように、廉価版のFinaleでは、意外とかゆいところに手が届かないようになっている。なので、

  • 仕事できれいな譜面を用意する必要がある
  • 手描きの譜面のように思い通りに譜面を書きたい

こんな人は、素直に最上位版のFinaleを購入するのがオススメだ。とはいえ、下位のバージョンからアップグレードすることもできるし、それで割高になるようなこともない。試しにPrintMusicから購入するのもアリ。

操作方法の習得について

マニュアルが使いづらい

マニュアルはオンラインで提供されているが、かなり使いづらい。

  • 基本的に、索引から検索するような使い方しかできない。「順序立てて操作を覚えていく」という体系的な学習がしづらい。
  • 特定のワードで検索しても、引っかかるページが大量にある。そのため目的の項目になかなかたどり着けない。
  • PDFのマニュアルと違って、「特定のワードで文書検索しつつ、ページを読み込んで行く」という読み方ができない。
  • オンラインマニュアルはWebの階層構造になっていて、何度もクリックしないと目的の項目までたどり着けない。ユーザビリティ的に微妙。

本国MakeMusic社のFinaleマニュアルがこういう仕様になっているので、まあ仕方ないのかもしれない。※日本のFinaleオンラインマニュアルは、単に和訳しただけだと思われる。

クイックリファレンスガイドは分かりやすい

「クイックリファレンスガイド」は分かりやすい。これはFinaleの国内代理店が作っている入門向けマニュアルで、基本的な操作について解説されている。ソフトに触れる前に読んでおけば、理解の助けになること間違いなし。分量も少ないので、気軽に目を通せるだろう。

※クイックリファレンスガイドは、Finaleをインストールする際、一緒にインストールされる。

(参考)Finaleクイックリファレンスガイド(Win版)のインストール先の紹介

(参考)Finaleクイックリファレンスガイド(Mac版)のインストール先の紹介

公式チュートリアル動画が役に立つ

Finaleの代理店は、YouTube上で「クイック・レッスン・ムービー」(QLM)という動画を配信している。この動画が分かりやすくて思いの外役に立つ。なにかわからない操作があったら、マニュアルを調べるよりも先に、QLMを確認してみるとよい。

(参考)Finale|クラブフィナーレ「学ぶ」| クイック・レッスン・ムービー

他の譜面ソフトと比較したFinaleの特徴

※筆者はFinaleしか使ったことがないので、多少バイアスのかかったレビューとなります。ご了承ください。

やはり操作が直感的じゃない

色々な人の声を聴いていると、やはりFinaleはSibeliusよりも操作が複雑なのでは?と思えてくることが多い。例として、「FinaleからSibeliusに乗り換えた人の喜びの声」が、Sibeliusのサイトで宣伝に使われていて、

  • 「Finaleだと手間のかかる作業がSibeliusではワンクリックでできる」
  • 「Finaleを学ぶのに費やした2ヵ月間は、人生最大のフラストレーションでした」

出典: Sibelius 6以前のバージョンに対するFinaleユーザーのコメント

上記のような意見が挙がっている。

宣伝のためのページなのだから、多少の脚色はあるのかもしれないが、実際ここに書かれていることは割と正しいと思う。本当に「直感的に使えない」というのが最大の弱点。

Finaleのサイトにも次のような記述がある。

Finaleは、車に例えるとマニュアル車みたいなものなんです。マニュアル車はアクセルを踏めばただ動くというわけではなくて、上手く操縦できるまでに多くの練習が必要です。

出典: Finale | クラブフィナーレ「プロのFinale活用事例」| ユーザーインタビュー「吉松 隆さん」

吉松氏の語っている内容はもっともだと僕も思う。Finaleを使っていくには、操作をマスターできるよう地道に練習していく必要がある。

動作に安定感がある

例えば新しい譜面ソフトであるSteinberg Doricoも魅力的だが、バグの報告を聞いたりすると、やはり本格的に導入するはためらってしまう。Finaleなら長年の歴史があるので、安定して使える。※僕自身、致命的なバグにはまだ遭遇していない。

価格は割とお手頃

Sibeliusの永続ライセンス版と比べて、FInale(最上位版)は2~3割ほど安い価格で手に入る。価格に関しては、Finaleにアドバンテージがあるといえる。

おわりに

今回はFinaleの概要について書いた。デメリットの記載も多くなってしまったが、一度マスターしてしまえば後は大丈夫。スラスラと譜面が作れるようになる。※手書きで譜面を書いていた時間が惜しくなるほどだ。

次回以降、具体的な操作方法やTipsについて記事を書いていく予定だ。

 

Official髭男dismのヒット曲「Pretender」が多くの人の心をとらえた理由を分析

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Official髭男dismの「Pretender」。この曲はSpotifyの再生数ランキングでずっと1位をキープしていたり、YouTubeで5000万回以上再生されていたりと、大きくヒットしている。2019年を代表する名曲になりそうだ。

Official髭男dism - Pretender[Official Video] - YouTube

今回はこの曲をひも解いてみる。なぜこんなにも多くの人の心をとらえているのか。使われているコード進行や編曲テクニックを紹介しつつ、音楽理論を交え、分析していきたい。

曲・コード進行のポイント

コード進行について

おおまかに分類すると、次のようなコード進行になっている。

  • Aメロ:1度から始まる進行(途中まではカノン進行に近い)
  • Bメロ:Just the Two of Us進行(4-3-6という進行。J-POPだと「丸の内サディスティック」が有名)
  • サビ:カノン進行(1度から降りていく定番進行)

このように、各セクションで定番の進行が使われていて、普遍的な良曲につながりやすいコード進行をしているといえるだろう。

メロディの作りについて

メロディの作り方については、

  • 基本はペンタトニック(「ドレミソラ」の5音)中心で歌いやすく
  • 要所で跳躍させてドラマチックに(例:サビで一気に高音域に飛ぶ)

というように、基本に忠実な作曲がされている。

メロディの音域は広く、低音から高音まで2オクターブ近く使われている。この「音域の広さ」というのは、この曲の特徴のひとつでもある。

サビ部分を分析

ここではサビ前半のコード進行を抜粋してみる(耳コピです)。

[C]
| Ab | Eb/G C7/E |
| Fm7 | Ebm7 Ebm7/Ab |
| DbM7 | Ab/C |
| Bbm7 | Bbm7/Eb Bbm7-5/Eb |

[Degrees] (簡略化)
| I | V III7 |
| VIm7 | Vm7 I7 |
| IVM7 | I on III |
| IIm7 | V |

サビのコード進行は、いわゆる「ツーファイブを交えたカノン進行」。通常のカノン進行をベースにしつつも、2・4小節目でツーファイブのリハーモナイズが挟まれるパターンだ(※この曲では2小節目がちょっと違うけど)。これが「切ない雰囲気」を演出するのに一役買っている。

特に、2小節目~3小節目にかけての「III7→VIm」という部分。これが「泣き」や「切なさ」を感じさせるところで、日本のヒット曲でもおなじみの進行だ(例:「TSUNAMI/サザンオールスターズ」「Sign/Mr.Children」)。

また、コード進行だけではなく、メロディにも分析できるポイントがある。この曲のサビのメロディは、「おいしいテンション音を通っている」という特徴がある。

  • サビ3・4小節目のm7の部分:いずれも、歌メロが11thのテンションを通っている。
  • サビ7小節目のm7の部分:歌メロが9thのテンションを通っている。
  • サビ8小節目:スケール外の音である「E音」が一瞬だけ挟まれている。このE音は、コードに対して♭9thのテンション。切ない響きを味わせてくれる。

作曲の観点からいうと、こういった要素は、良いメロディを生み出す上で大切なことだ。ツボを押さえた作曲がされているといえる。

余談だが、このことは作曲者(ボーカルの方)が鍵盤奏者であることとも関係していそうだ。※おいしいテンション音を通る作曲は、鍵盤のほうがやりやすいので。

アレンジのポイント

イントロ

イントロのギターのアルペジオが印象的で良い。Aメロでもずっと鳴っているし、この曲の「影の主役」となるフレーズだといえる。

リズムが入る前にうっすらと鳴っている、「サイドチェインコンプのかかったシンセ(?)」も今風で良い。バンドサウンドを基調としつつも、さり気なくトレンドを取り入れているのがハイセンス。

Bメロ

Bメロ直前のピアノのリバース音が良い。バンドアンサンブルにおいて「今っぽさ」を出す上で、この上なくフィットした仕掛けだと思う。※ちなみに、実は「イントロのリズムが入ってくる前の部分」にもリバース音が入ってきたりと、この曲ではリバース音が多用されている。

Bメロはコードチェンジのタイミングが良い。アクセントが裏に来ていて、リズムが立っている印象だ。

サビ

1コーラス目だけに出てくる、サビ頭のブレイク(演奏が無音になること)が良い。※厳密にはBメロ終わりだけど。
おかげで、サビ頭の2音の「グッバイ」という言葉が否が応でも際立つ。この2音が際立つおかげで、「歌詞の根幹となるテーマ」をリスナーに瞬時に叩き込むことに成功している。そんな作りが実にお見事。

ブレイクは編曲ではよくある仕掛けだけど、この部分に関しては、歌詞との兼ね合いも完璧なので、相当計算しつくして作られている可能性もありそうだ。

サビの多重コーラスが良い。Official髭男dismの他の曲ではソウルっぽいテイストが前面に打ち出されることも多いが、この曲ではそれほどでもなかったりする。だけど、さり気なく多重コーラスを入れてくるあたり、やはり彼らのルーツは自然と出てくるのだなと思った。

2A

2Aアタマで一瞬入ってくるTrapっぽいハイハットが良い。基本となるバンドサウンドは維持しつつも、トレンドとなるサウンドを一瞬だけ登場させるという手法は、普遍性と時代感を両立させるテクニックとして非常に参考になる。

シンセソロ

2サビ後の間奏のシンセソロが良い。Minimoogっぽい音色が'80sを感じさせる。「あえて'80sっぽい要素を取り入れる」というのはちょっと前のビルボードチャートでも見られた手法で、ブルーノマーズとかもやっていた。

エンディング

イントロのアルペジオと同じフレーズが、エンディングでも登場するのが良い。

  1. イントロと同じフレーズが
  2. 音色を(ピアノ音色に)変えて
  3. エンディングで再登場する

というのは、主人公たちの物語の、時間経過を感じさせる演出とも受け取れる。歌詞の言葉を借りるなら、まるで「ロマンス」の「エンドライン」を見せてくれているかのようで切ない。

歌詞について

歌詞について見てみる。※「Official髭男dism Pretender 歌詞」 ← Google検索のリンク

歌詞は、「別れ」や「失恋」がテーマになっている。切なさ・寂しさという感情は、昭和歌謡の時代から受け継がれてきた、J-POPにおける不朽のテーマだ。老若男女問わず人の心を打つような歌詞になっていて、ヒット曲となり得るポテンシャルを持っている。

「少し弱気な男」が主人公になっているという要素も、今の時代に合っていると思う。※back number的な雰囲気を持つ歌詞。

今の時代、男性視点の歌詞だと「弱さ」や「脆(もろ)さ」といった部分を前面に出すほうが、時代に合っているようにも感じる。例えば、音楽ではなく映画作品になるが、新海誠監督のヒット作「君の名は。」や「天気の子」もそうだ。登場する男性キャラについては、彼らの内面にある「弱い部分」が描かれるシーンも多かった。

※一昔前のJ-POPの歌詞が、「男らしさ」や「強さ」を前面に出していたのとは対照的。

歌唱・演奏について

このバンドは特に、ボーカルの歌声がハイレベルなのが印象的。C5(俗にいうHiC)まで余裕で実声で出せるような高い声を持っている。※この曲も地声の最高音はC5で、しかも何度も登場する。

しかも、単に声が高いだけではなく、

  • ハイトーンだけど、甲高く聞こえない
  • 多少しゃがれている

という特徴がある。洋楽でいうとブルーノ・マーズを思わせるようなカッコイイ声質。日本人ではなかなかいないタイプのボーカルだと思う。

バンドの演奏面に関しては、テクニックを見せつけることもなく、基本的にはグッドメロディを支える堅実な演奏をしている。とはいえ、例えばイントロのギターのアルペジオはそこまで簡単なフレーズというわけでもない。半音下げチューニングで開放弦を上手く駆使しつつ、16分のフレーズをなめらかに演奏するという、パッと聴いた印象以上には難しい演奏だ。

ドラムやベースも、例えば2Aで登場する16分のキックとベースのユニゾンは、良いグルーヴで演奏するのは容易くはない。良い演奏をするため、バンドみんなで頑張っていることがうかがえる。

「カンカンカンカン」と、ずっと鳴っているピアノのバッキングも印象的。彼らがピアノボーカルのバンドであることを感じさせてくれる。

曲全体のサウンド感は、一聴するとオーソドックスなロックアンサンブルにも聴こえるが、時おりキックが16の裏に入って来たりと、実はR&B/ソウルっぽい特徴も持っている。このあたりの要素は、他のロックバンドとは違う、彼らの個性が出ている部分といえそうだ。

おわりに

今回はOfficial髭男dismの「Pretender」という曲を分析した。普遍的な良さを持ち、洋楽的なルーツを感じさせつつも、時代を牽引するような新しさも兼ね備えた曲だ。

2ndシングルにしてこれだけのヒット曲を生み出してしまったのはすごい。これからが本当に楽しみなバンドだ。今後とも、彼らがどんな曲を送り届けてくれるのか注目したい。

Traveler/Official髭男dism

DAW作業に必須のMIDIキーボードの選び方。鍵盤の質が高い製品を選ぶのがオススメです【DTM】

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DAWソフトを使って音楽制作をするとき、私たちは何度も「鍵盤で音を出す」という動作をする。

スラスラ弾ける人はもちろん、そうじゃない人でも、鍵盤で音を出すことは大事だ。「自分の体の動きによって音が発生する」というのは、クリエイティブな作業に良い影響がある。鍵盤を叩くのは、マウスをポチポチ操作するよりも、断然気持ちがいい。

この記事では、MIDIキーボードの選び方について考えてみる。オススメのMIDIキーボードもいくつか紹介する。

MIDIキーボードを選ぶポイント

良い鍵盤を搭載している機種を選ぼう

MIDIキーボードで一番大事なのは「鍵盤の質」だと僕は考えている。鍵盤の弾き心地を最優先に考えるのが良い。

MIDIキーボードには、フィジカルコントローラーやMIDIパッドを搭載している機種も多い。しかし、結局使わなくなることも多い。これらの機能は思い切って無視してしまってもいい。

実際、「安価なMIDIキーボードは鍵盤がイマイチだから、音源付きのシンセやステージピアノをMIDIキーボードとして使ってる」という人はかなり多い。数万円程度のMIDIキーボードだと、黒鍵の長さが短かかったりして弾きづらいことも多いのだ。

どの機種に良い鍵盤が搭載されているの?

次のような製品には、質の高い鍵盤が搭載されていることが多い。

  1. 88鍵のステージピアノ
  2. 88鍵の電子ピアノ
  3. 国産メーカーのフラッグシップシンセ(YAMAHA MONTAGE、KORG KRONOSなど)

1)ステージピアノには、高品質な鍵盤が搭載されていることがほとんど。

2)電子ピアノだと安い製品(3万円程度)でも、意外と鍵盤の質が良かったりする。ステージピアノと比べてかさばることと、脚から取り外せない製品があることに注意。

3)YAMAHA、Roland、KORGといった国産メーカーのフラッグシップシンセにも良い鍵盤が搭載されている。ただし、鍵盤目当てで現行品を買うのはコスパが悪い(後述)。

鍵盤数はどうする?筆者のオススメは88鍵のステージピアノです

僕のオススメは88鍵のステージピアノだ。

88鍵なら鍵盤の品質が最低限保たれる

ステージピアノや電子ピアノには、いわゆる「ピアノタッチ」の鍵盤が搭載されている。鍵盤にハンマーアクションの機構を持ち、88鍵あるのが特徴だ。

88鍵なら、3~5万円程度の安価な電子ピアノであっても、タッチはそれなりに良いことが多い。安価なMIDIキーボードやシンセにありがちな、「黒鍵が短くて弾きづらい」ということがない。

※たとえばKORG SP-250という電子ピアノは、安いのにRH3鍵盤を搭載しているスゴい製品だった。

僕は以前、Rolandの安いシンセやMIDIキーボードを使っていたが、黒鍵が短くて#や♭の多いキーだと演奏がキツかったのをよく覚えている。こういうのでストレスをためるのは良くない。予算が少ないなら、むしろ88鍵を選んだほうが満足度の高い買い物ができる。

本体だけでも音を出せる

純粋なMIDIキーボードには音源が付いていないので、パソコンを起動しないと音が出せない。ふと思いついたアイディアを鳴らすためには、ピアノの音色くらいは本体側で出せたほうが良かったりする。作曲をする人なら、88鍵ステージピアノのような「音源付きの鍵盤」を使うのがおすすめ。

(鍵盤数の)大は小を兼ねる

ピアノタッチの鍵盤なら、多くの音色で快適に演奏がこなせる。ピアノやエレピはもちろん、シンセやドラムの打ち込みも問題ない。唯一、オルガンはグリッサンドがやりづらいけど、妥協できるレベルだ。

鍵盤が1台だけあれば済むというのも、88鍵を使うメリットのひとつだ。

僕は昔、

  • 体の正面にはシンセ鍵盤(49鍵)
  • 横にピアノタッチの鍵盤(88鍵)

みたいに鍵盤を2台使って音楽制作をやっていた。ピアノ音色は横を向いて、それ以外は正面で……という具合だ。

だけど、今思えば、「横を向いてピアノ鍵盤を演奏する」という動作には無駄が多かったように感じている。真正面に88鍵があれば、1台で全部済むからだ。そのほうが断然効率的だし、疲れない。

キースイッチの入力が楽

DAWで打ち込み作業をする場合、ストリングス音源などではキースイッチを入力することがある。キースイッチはB0とかC1とかの低い音域に配置されているので、88鍵以外のキーボードでは、オクターブシフトをして押さえなきゃいけない。こういった細かい手間が積み重なるのは時間のロス。88鍵を使ったほうがいい。

ベロシティカーブの微調整はソフト側でやればいい

ステージピアノや電子ピアノだと、MIDIキーボードに比べてベロシティカーブを細かく調整できない。しかし今やソフト音源全盛の時代。ソフト音源側でベロシティカーブを細かく調整ができることが多いので、心配はいらないだろう。

※ベロシティカーブ:「鍵盤を弾く強さに対して、どの程度強いベロシティを出すか」を決めるパラメーター。

オススメのMIDIキーボード4選

YAMAHA CP40 STAGE

今回紹介する中では、最もオススメできるステージピアノだ。

  • 比較的求めやすい価格帯
  • 作りもしっかりしている(ヤマハ伝統のGH鍵盤を搭載)
  • 88鍵のピアノタッチにも関わらず、1332×163×352mmと省スペース
  • ピッチベンドとモジュレーションホイールを搭載。打ち込み作業でも困らない

このように、各要素をそつなくクリアしてくる優等生。

しかしながら、この製品はひと世代前のもので、すでにメーカーでは生産完了している。さらに後継機種に関しては、この価格帯の製品がラインナップから外されたため、存在しない(なんてこった)。

このCP40 STAGE、新品については在庫がある分で終了すると思われる。今現在MIDIキーボードを探している人は、ぜひ早急にチェックすることをおすすめする。

KORG D1

88鍵で考えるなら、この製品が最強のコストパフォーマンスを誇る。わずか数万円程度にも関わらず、RH3鍵盤を搭載している。RH3鍵盤と言えば、同社のフラッグシップシンセ「KRONOS2 88」にも搭載されている鍵盤だ。

実際に弾いてみると分かるが、タッチの質感は高級ステージピアノのそれと全く同等のクオリティ。鍵盤部分にコストがかかっていることがよく分かる製品だ。本来この価格帯では、ピアノタッチだとセミウェイテッド鍵盤が多いわけで、RH3鍵盤が搭載されているのはすごいこと。ステージピアノだから、もちろん内蔵音源も付いている。驚異のコストパフォーマンスだといえる。

1点だけ惜しいのが、ピッチベンドやモジュレーションホイールが付いていないところ。これらのパラメーターの入力には、別途MIDIコントローラーを用意する必要が出てくることに注意。

ただ、他にコスパの高いステージピアノが現行品では全然無いことを考えると、本当に「KORG D1+良いMIDIコン」の組み合わせがベストなんじゃないかとさえ思えてくる。MIDIコンにはExpressive E Touche SEなどを使えば、普通のキーボードのベンドコントローラーを使うよりも楽しいだろうし。

Studiologic Numa Compact 2x

これもかなりオススメ。コンパクトだけど、一応88鍵盤のステージピアノだ。

  • 奥行きがとても短くコンパクト
  • 内蔵音源を搭載(ピアノ、エレピなど合計1GB)
  • タッチは軽めで独特
  • Fatar製鍵盤を搭載(というかStudiologic社はFatarの自社ブランド)

海外製なので弾き心地が少し独特だが、タッチさえ気に入ればベストマッチな一品といえるだろう。DTMとの相性も良い。

氏家氏のデモ動画が参考になる。→Studiologic Numa Compact 2 Demo & Review

Roland RD-2000

RolandのRDシリーズは、ステージピアノの定番機種だ。プロのキーボーディストで愛用している人が多く、鍵盤・音源ともにクオリティが高い。

他メーカーでも探してみたが、この価格帯のステージピアノでは、RD-2000が最もおすすめできる。値段に見合った作りをしているし、MIDIコントローラーとしての機能が豊富なのも魅力。

裏技:あえて古いシンセを狙う方法もある

  • YAMAHA S90シリーズ
  • YAMAHA MOTIFシリーズ

こういったシンセにはBH鍵盤やFS鍵盤(※詳細は後述)が搭載されているので弾き心地が良いし、DTM作業との相性も良い。だけど現行品で探す場合、これらの鍵盤は30万円以上するMONTAGEを買わなきゃ手に入らない(あんまりだ)。

また、ステージピアノをMIDIキーボードとして使いたい人にとっても、今はやや肩身が狭い状況だ。たとえばYAMAHAのCPシリーズなんて、数年前までは10万円台の廉価版が販売されていたのだ。※CP33、CP40 STAGEなど。

なのに、今や最高機種のCP88しか売っていないような状況。今までのCPシリーズはお手頃価格が魅力だったのに、RolandのRDよりも高くなっている。※だから今回オススメ商品の項目ではCP88は紹介していない。モノ自体は非常に良いのだが……

10年くらい前と比べると、現行品では「お手頃価格」で「高品質な鍵盤を搭載している」製品が少ない印象だ。時代の流れ(音楽産業の活気)を考えれば仕方ないのかもしれない。

そこで、あえて中古市場に狙いを付けてみるのも良いと思う。古い製品だって、音源が古いだけで、搭載されている鍵盤のクオリティは変わらない。状態の良いものが手に入れば、かなり満足度の高いタッチが得られるのではないだろうか。

特にBH鍵盤やFS鍵盤のタッチが欲しい人は、中古市場でS90シリーズやMOTIFを探してみるのも手だ。ヤフオクやメルカリといったフリマサイトにもよく出品されていたりする。

豆知識:おすすめの鍵盤名について

YAMAHA

オススメの鍵盤を挙げてみる。

  • FS鍵盤:シンセ鍵盤。弾きやすい。歴史のあるヤマハのシンセ鍵盤だ(1983年発売の名機「DX7」にも搭載)。
  • FSX鍵盤:シンセ鍵盤。弾きやすい。FS鍵盤の正当進化系。MOTIF XSあたりから搭載されている。現行品だと、MONTAGE6 / 7にしか搭載されていないのが辛いところ。
  • BH鍵盤:ピアノッチの鍵盤。S90シリーズやMOTIF(88鍵)シリーズに搭載されていた。どの音域もタッチが同じなので、どんな音色でも演奏しやすい。こちらも現行品だと、 MONTAGE8にしか搭載されていない。
  • GH鍵盤:ピアノッチの鍵盤。長年ヤマハの88鍵モデルに搭載されてきた。低音ほどタッチが重く、高音ほど軽くなる仕様。ピアノ音色の演奏に合う。
  • NW系鍵盤:ピアノタッチの鍵盤で素材が木製のもの。NW-GH、NW-STAGE、NW、NWXなどがある。いずれも鍵盤のクオリティが高い。

YAMAHAの安価なシンセや電子ピアノには、LC鍵盤(シンセ鍵盤)やGHS鍵盤(ピアノタッチ)が搭載されている。しかし、FSX鍵盤やGH鍵盤と比べて、それぞれクオリティは落ちる印象だ。※好みの問題も大きいので参考までに。

【参考リンク】

Roland

Rolandの製品は、鍵盤に名称が付いていないことも多く、分類するのが少し難しかったりする。なので2点だけ所感を述べておく。

  • RD系のステージピアノに搭載されている鍵盤は、高品質(値段も高いけど)。
  • シンセ鍵盤については、良いものもあれば、そうでもないものもある。

KORG

KORGのキーボードも、シンセ鍵盤には名前が付いていないことも多い。ざっくりとしているが、2点だけ所感を述べておく。

  • KRONOSの88鍵モデルに搭載されている「RH3鍵盤」(ピアノタッチ)は高品質。
  • シンセ鍵盤については、良いものもあれば、そうでもないものもある。

余談だが、昔のKORGのシンセ(TRITONとか)には、FS鍵盤が使われていた。なのでYAMAHAのシンセとタッチはほぼ同等だったりする。

【2019年】DAW作業に使うパソコン選びについて。Win/Macのメリット・デメリットをまとめてみる【DTM】

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はじめに

この記事ではWindowsとMacを比較していくが、Windowsの場合、

  • 自作パソコン
  • BTOパソコン(=準自作パソコン)

のどちらかにするのがオススメ。なぜならメーカー製パソコンだと、次のようなデメリットが出てくるからだ。

  • 自作/BTOと比べて値段が高い。
  • 余計なソフトが入っていたりする(値段が高くなる原因)
  • 自分で修理できない(好き勝手にパーツを交換できない)

Windowsを選ぶ二大メリットである「コストパフォーマンス」と「メンテナンス性」を両方捨てることになるので、メーカー製パソコンを選ぶメリットはほとんど無い。

  • この記事では、Windowsに関しては自作やBTOを前提に話を進めていきます。

Windowsのほうが優れているポイント

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高性能なマシンを安く用意できる

同じくらいの性能のコンピューターを用意する場合、Windowsを選べばMacよりも安く済む。

長年「ミドルレンジの自作PC」で音楽制作をやってきた僕の感覚では、「4万円前後のCPU+メモリ32GB」の環境があれば、たいていの音楽制作では困らないと感じる。この場合、全パーツ合わせても15万円程度で済む。ケースやOS(Win 10 Pro等)を前のPCから引き継げば、10万円ちょっとで済むことだってある。

Macだとこうはいかない。AppleのサイトでMac miniをカスタマイズしてみると分かるが、同等のスペックを満たすマシンを手に入れようとすると、20万円は軽く超えてしまう。

また、自作やBTOであれば、必要なパーツだけにお金をつぎ込めるのも良い。DAW用途で重要なのは、以下3パーツだ。

  • CPU
  • メモリ
  • ストレージ(SSDかどうか)

DAW用途なら高価なビデオカードも必要ない。

※僕もWin環境ではビデオカードを載せずに、オンボードで使っている。

Macだと、性能の高いマシンには良いビデオカードが搭載されていたりするので、音楽用途だとコスト的に無駄が発生してしまうのだ。

自分で修理できる

パソコンは精密機械なので、どのパーツも突然壊れてしまうことはある。

ストレージ(HDDやSSD)程度であれば、Macやメーカー製Windowsパソコンであっても、自分で交換できるだろう。しかし、電源やマザーボードが壊れた場合、基本的には自分で交換するのは難しい。

自作/BTOパソコンなら、故障したパーツを特定することさえできれば、自分でパーツを交換すれば修理可能だ。パーツ代以外、特に修理費用は発生しない。「自分で修理できる」というのは、自作PCの大きなメリットだといえる。

VSTプラグインの寿命が長い

2018年5月頃、XLN Audio社から次のようなメールが送られてきた。

「申し訳ないけど、Macの最新OSでは初代Addictive Drumsが動かないみたい……救済のためにアップグレード半額クーポンを送るよ」

このように、Mac環境だとOSのアップデートに伴い、古いプラグインが動かなくなることはよくある。

もちろんWindows環境でも起こり得ることだが、OSの性質上、Windows環境のほうがプラグインの寿命は長いことが多い。実際、僕もWin環境では未だに初代Addictive Drumsを使っているが、問題なく動いている(2019年9月現在)。

Macは古いプラグインを切り捨てることで動作の安定性を実現しているので、「古いソフトウェアの寿命の長さ」と「動作の安定性」は、トレードオフの関係にあるともいえる。

ハードウェアの寿命が長い

2000年代後半~2010年代前半ころまでは、プロの音楽クリエイターの間では、FireWireのオーディオインターフェイスが主流だった。だけど、今やMacにはFirewire端子は搭載されていない。Thunderboltに取って代わられてしまったからだ。

音楽関係のハードウェア製品は高価なものが多いので、できれば長く使いたいところ。こういったMac特有の規格変更に翻弄されるというのは、精神衛生上よくない。

Thunderbolt端子くらいなら、3千円程度の変換プラグを使ってFireWireに変換したりもできるので、まだいい。だけど、UADのPCIeカードを使っていた人はどうだろう。Mac ProからPCI Expressスロットが消えてしまい、無駄に高い拡張シャーシを買うハメになった……そんなもいるのではないだろうか。

Windowsの自作パソコンを使えば、規格の廃止に振り回されることもない。PCIeスロットはどんなマザーボードにもついているので、FireWireでもThunderboltでも、好きなカードを拡張すれば問題なく使えるようになる。UADのPCIeカードだって、専用シャーシを導入したりせずに問題なく使える。

好きなキーボードを使える

Macだと、使用可能なサードパーティ製のキーボードが少ない。

※僕のイチオシのFILCO Majestouch2も、Mac版は発売されていない。

キーボードにこだわりたい人にとっては、少し選択肢が狭くなってしまう。とはいえ、東プレ RealforceなどはMac用製品も展開していたりするし、純正キーボードしか使えないというわけでもないが。

Macのほうが優れているポイント

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操作が直感的

Macなら、小難しいことを考えなくても、やりたい作業をこなせる。

文字が綺麗

Macのほうがフォントは断然きれい。Windowsには搭載されていないフォントも多い。

OSの設計が優れている

Windowsだと、普通に使っているだけでもファイルの断片化が発生し、レジストリの汚れが溜まってくるので、パソコンの動作が遅くなってくる。MacはOSの設計が優秀なので、そんな心配もいらない。パソコンのスペックが同じなら、WindowsよりもMacのほうがサクサクと快適に動作する傾向がある。

マシンの安定動作が期待できる

Windowsの自作パソコンの世界では、様々なメーカーがPCパーツを販売している。それらを組み合わせて1台のパソコンを組み上げるので、パーツの組み合わせ(=マシンの構成)が何百~何千通りも存在することになる。

かたや、MacはAppleが選んだパーツだけを使ってパソコンが作られている。そのため、実際に販売されているMac以外、ラインナップは存在しないことになる。

この違いは、パソコンの安定動作に大きく影響してくる。自作パソコンの世界では、相性の悪いパーツが1つでも紛れ込んでいると、パソコンが安定して動かなくなることはよくある。Windowsの自作パソコンは昔より相性問題は格段に減ったももの、パーツの組み合わせパターンがケタ違いに多い。統計的に考えれば、Macよりもトラブルが起きやすいのは明らかだ。

パソコン-ハードウェア間の相性問題が起きにくい

音楽制作においては、

  • パソコンとオーディオインターフェイスの相性
  • パソコンとiLokの相性

このような、「パソコン-ハードウェア間の相性問題」が発生する可能性がある。

僕は昔、iLokドライバの相性問題で消耗したことがある。Sonnoxのプラグインがなぜか「Authorization Error」を吐いてしまい、使えないという状態だ。そのときはサポートとやり取りして解決したのだが、そのときにもらった言葉は印象に残っている。

特にWindowsのユーザーの人で、そういうトラブルが起きていることが多いみたいです

ソフトウェア/ハードウェアともに、音楽関係の製品はMacを基準に開発されていることが多い。だからMacのほうがWindows環境よりもトラブルが起きにくいはずだ。

対応しているオーディオインターフェイスが多い

Apogee、Metric Halo、Universal Audioなど、Mac専用オーディオインターフェイスを作っているメーカーも意外と多い。

※Windows環境ではハードウェアの多様性が増すので、前述の「相性問題」の解消や、バグフィックスに手間がかかるというのがその理由だろう。

オーディオインターフェイスの選択肢が多いというのは、録音作業においては大きなアドバンテージになる。Windowsだと、安定動作を考えるなら、実質的にRMEくらいしか選択肢がなかったりする。「どうしてもApogeeのAD/DAを使いたい!」みたいな人は、Macを使うしかない。

Logic Proが使える

「Logic Pro」というDAWソフトはMacでしか使えない。Appleの傘下に入っているからか、Cubase等他のDAWと比べて値段が安い。おまけにこのLogic Pro、付属音源や付属エフェクトも充実しているのでコストパフォーマンスが高い。

Macはマシンのコストが高くつきがちだが、Logicを使う前提なら、DAWの代金は安く済む。今からDTMを始める初心者の人なら、Windowsで自作するよりも、トータルのコストはかえって低く抑えられるかもしれない。

付属ソフトが優秀

Time MachineやiMovieといった、付属のソフトが充実しているのもMacの強みだ。Windowsだと市販のソフトを別途購入しないと、このクオリティのソフトは使えなかったりする。 

Win/Mac、どっちにすればいいの?

基本的に、パソコンが得意な人以外は、Macを選ぶのが良いと思う。そもそもDAWソフトは、WordとかExcelのような一般的なソフトと比べてトラブルが起こりやすい。それなら、せめてパソコン自体は安定して動いてくれたほうがいい。

Windows環境を完璧に安定させるには、パソコンの知識がそれなりに(自作PCが作れるくらいには)必要だ。Windowsを選ぶときは、このことを踏まえておく必要はあると思う。

※ただ、今は昔よりもネットの情報が充実しているので、地道に調べていけば問題解決もそう難しいことではないが。

Win/Macを選ぶ基準について、ポイントをまとめておく。

Windowsを使うべき人

  • パソコンに強い/問題解決が苦じゃない人
  • お金がない/節約したい人
  • 高性能なマシンにしたい人
  • 時間に余裕がある人

Macを使うべき人

  • パソコンに疎い/問題解決に労力をかけたくない人
  • 資金に余裕がある人
  • 最低限の性能があれば十分な人
  • 忙しい人
  • ノートパソコン(MacBook)を使いたい人

実際にパソコンを選んでみよう

Windows

自作

自作パソコンを組む場合の、オススメのパーツを挙げてみる。

パーツの種類 型番
CPU Intel Core i7 9700K(※要CPUクーラー)
マザーボード ASUS ROG STRIX Z390-F GAMING
メモリ Corsair CMK32GX4M2A2666C16
SSD Crucial SSD 500GB MX500
ケース Fractal Design Define R5
電源 Corsair CX650M
ビデオカード (不要)

ここでは前述の「4万円程度のCPU、32GBメモリ」を前提に選んでみた。もちろんこれは参考までに。ご自身の必要なスペックに合わせて、適宜パーツをカスタマイズしてみてほしい。

※最新の重いオケ音源でフルオケ曲を作りまくるならもっとメモリは必要(64GB~)だし、「歌ってみた」の録音しかしないならCPUもメモリも低スペックで十分。

ただ、ケースはFractal DesignのDefineシリーズがとにかく組み立てやすいので、これは自信を持ってオススメできる(ケースは少し大きいけど)。

ちなみに、CPUに関してはAMD(Ryzen)のほうがコストパフォーマンスは高いのだが、僕は安定性を期待してIntelを選ぶようにしている。

各パーツを選ぶときは、価格.comを参考にするといい。パーツの売れ筋ランキングや価格が分かるので便利だ。CPUの性能は、PassmarkのCPU Benchmarksで確認するといい。

BTO

自作ができない人でも、BTOパソコンを購入すれば問題ない。自作よりも少しだけ値段は高くなるが、

  • 専門のスタッフが組み立ててくれる
    • 「パーツ同士の規格が合わない」等の初歩的なミスが起きない
    • 組み立てる手間を省略できる
  • 保証がある(お好みで延長保証も付けられる)

というメリットを考えれば、価格差も許容範囲。パーツのカスタマイズも柔軟にできるので、自作PCと何ら遜色ない。

BTOパソコンを買うときは、サイコムあたりで探すといいだろう。


Radiant GZ2800Z390

例としては、上記のPCをベースに、CPUやメモリを適宜変更しつつ、好みのスペックにカスタマイズしていくといい。

Mac

「何も持ってないけど、手っ取り早くDTMがしたい!」という初心者の方は、予算に応じてiMacなりMacBook Proを購入すればいい。Garage Bandが付いてくるのでひと通り初歩的なDTMは楽しめるし、Logic Proも安価に手に入るので、将来環境をグレードアップさせるのもスムーズだ。

「作編曲の仕事をこなせるレベルの本格的な性能」が欲しい場合は、Appleのサイトを訪問し、

  • iMac (iMac Pro)
  • Mac mini
  • MacBook Pro

のどれかを選ぼう。そして、メモリを16GBや32GBに上げて、できればCPUもCore i7のものに変更して購入しよう。個人的にはMac mini + 外部ディスプレイがオススメ(コスパが高いので)。

※ちなみに、Mac Proは多くの人にとってオーバースペックなので、この記事では割愛する。

【レビュー】FILCO Majestouch2は高品質&長く使えるPC用キーボードです

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FICLOのPCキーボード「Majestouch 2(茶軸)」をレビューしてみる。かれこれ8年近く使っているが、不具合もなく快調だ。

購入までの経緯

Majestouch 2を導入する前は、2千円程度のパンタグラフタイプのキーボードを使っていた。しかし、4年ほど使っていると、FキーとJキーの突起が削れてきてしまい、タッチタイピングがしづらくなってしまった。

当時からPC作業が多かったということもあり、「ちょっといいやつ」を手に入れようと考えていた。

FILCO Majestouch 2の導入

悩んだ末、FILCO Majestouch 2(茶軸)を購入。東プレ Realforceと迷ったが、以下のポイントが決め手となった。

  • 値段が割とお手頃(当時Realforceよりも5000円程度安かった)
  • PS/2でも接続できる
  • 2以降、チャタリング報告も減っている(※後述)

まず値段について。はじめての高級キーボードということもあり、1万円台前半という価格は予算に合っていた。

また、製品自体に変換コネクタが付いていて、公式にUSBとPS/2、両方での接続を保証しているというのは、PS/2接続のKVM切替器を使っている僕にはうってつけだった。

※仮にUSBのみ対応のキーボードを導入する場合、KVM切替器も買い換える必要があったのだ。

それから、チャタリングについて。実は、初代Majestouchでは「チャタリング」という不具合の報告がネット上には多かった。

※チャタリング:1回のキーストロークで文字が2回連打されてしまうような現象

しかし、Majestouch 2からは新基盤が採用されたらしく、チャタリングの報告もだいぶ少なくなっていた。おそらく問題ないだろうと判断し、購入を決断した。

約8年使った感想

特に不具合が起こることもなく、長期に渡って問題なく使用できている。文字の印字が消えてきているキーはあるにせよ、Fキー・Jキーの突起も削れてはいないし、機能的な劣化はない。

高価なだけあって作りもしっかりしているし、製品寿命も長そうだ。この記事の執筆を機に、高品質なキーボードであることを再認識している。

打鍵感が心地よい

Majestouch 2を導入して以来、安価なキーボードでは得られないような快適な打ち心地が得られるようになった。メカニカルスイッチが採用されているおかげか、キーをストロークした感触がハッキリ分かり、タッチタイピングが一層やりやすくなった。

僕はそこそこ急いでタイピングすることも多いのだが、きちんと指の動きに付いてきてくれるので安心感がある。キーを打ち間違えることも少なくなった。

ちなみに、メカニカルスイッチには「茶軸」「黒軸」「青軸」「赤軸」など、いくつかの種類があるのだが、ダイヤテック公式サイトや、その他のネット情報を見ても、「初心者は茶軸にしましょう」という意見が多数。

★こんな方に…メカニカルキーボード初心者
DIATEC|ダイヤテック株式会社 :CHERRY MXスイッチとは 

僕も素直に茶軸を選んだのだが、打鍵感には満足している。

チャタリングも起きていない

長いこと使ってきたが、僕の環境においては、チャタリングが起こったことは無い。仮にチャタリングが起きても、チャタリングが起こらないようにソフトウェア的に制御することもできるみたいだし、ひとまず今後も心配する必要はなさそうだ。

打鍵音は多少ある

打鍵音は多少ある。少なくとも、まったく音が発生しないということはない。静かな部屋で他の人がいるときに使うなら、多くのキーボードと同じように、激しくタイピングすると打鍵音が気になるかもしれない。

とはいえ、僕はおもに音楽制作でPCを使用しているということもあり、打鍵音については気にしたことはない。むしろ、打鍵音がきちんと「鳴ってくれる」ほうがきちんとタイピングしたことが分かるので、Cubase等のDAWソフトで録音の作業をする際にはかえって都合が良かったりもする。

その他覚え書き

キーボードの打面に角度をつけられる

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キーボードの底面奥の2隅には、高さを調整するためのスタンドが付いている。これを使って高さを付けておくと、打鍵しやすくて良い。特にリストレストを使うような場合は、奥が高いほうが打鍵しやすいだろう。

スタンドの先端は滑りにくい素材(ゴム?)になっているので、打鍵をしていてキーボードがズレてしまうようなこともない。

※Majestouch 2自体が、1.2kgとずっしりしているおかげもあるかも。

余談だが、「サンワサプライ TOK-MU3NBK」という、Majestouch 2と相性の良いリストレストがあるので紹介しておく。 

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横幅・厚みともにMajestouch 2にピッタリだし、

  • 手首の位置が上がる
  • 手首のクッションになる

という2点のメリットにより、リストレストがあった方が断然快適にタイピングできる。手首の疲労や腱鞘炎を予防するためにも、合わせて導入することをおすすめしたい。

LEDについて

テンキーの上に並ぶ3つのLEDは、結構明るい。PCに何か処理をさせつつ部屋を真っ暗にして寝たいときは、LEDが光らないようにNumLock等のキーを解除しておくか、LEDの上に布を被せるなりしておくといい。

キートップの取り外し

せっかく高いキーボードを買ったんだし、掃除もちゃんとやろうと思い、専用のキートップ引き抜き器「FILCO Keypuller FKP01」を購入した。 

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他の引き抜き器と比較したことはないが、特に問題なく使えているし、年に一度の大掃除に使うという役割は十分果たしてくれている。

余談だが、スペースキー、エンターキーなどの大きなキーにはスタビライザー(針金の部品)が付いているので、キートップの取り外しや再装着には少しコツが必要だ。

キートップを外す際、スタビライザーの治具を破損しないようにご注意ください。
FILCO KeyPuller|ダイヤテック株式会社 製品情報

横着だが、大掃除を手早く済ませたいときは、大きなキーは外さずに済ませてもいいかもしれない。

おわりに

初の高級キーボードということで、購入前はそれだけの価値があるのか半信半疑だったのだが、これだけ長く使えるなら、コストパフォーマンスは高い部類だと思える。キーボード、マウス(トラックボール)、イスなどの体に触れるデバイスは、良いものを使ったほうがQOLが高くなるのだなと実感した。

【2019年】音楽を正しく聴くための方法・サービスをまとめてみる。料金コスト・楽曲ラインナップ・利便性をトータルで考えよう

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はじめに

みなさんは普段、音楽をどうやって聴いているだろうか。

ストリーミングサービスで聴く人、YouTubeで聴く人、由緒正しくCDで聴く人。かつてないほどに音楽の聴き方が多様化しているのが、今という時代なのかもしれない。テクノロジーの発展に伴って、音楽コンテンツを取り巻く環境も大きく変わってきている。

この記事では、音楽を正しく聴くための方法・サービスをまとめてみる。それぞれのサービスにメリットとデメリットがあり、コストも変わってくる。自分に合った方法を選びたいところだ。

正しく音楽を聴く方法まとめ

1. ストリーミングサービスで聴く

これからの時代、主流になっていくと思われる聴き方だ。

ストリーミングサービスを利用すれば、月に一定額を払うことで音楽が聴き放題になる。どのサービスにも数千万曲が登録されており、国内外の多くのアーティストの音楽を聴くことが可能だ。

主なストリーミングサービスとしては、Spotify、Apple Music、Amazon Music Unlimited、Google Play Musicなどが挙げられる。料金はどこも横並びだ。

日本では未だに音楽CDが売れる傾向にあるため、諸外国と比べれば、ストリーミングサービスはそれほど普及していない。だがそれでも、ここ1年くらいで、Mr.Children、宇多田ヒカル、BUMP OF CHICKENといった日本の大物アーティストが続々とストリーミングサービスでの音楽配信を解禁してきている。日本のアーティストのラインナップが充実すれば、一気に普及が進むことだってあり得る。

ストリーミングサービスのメリットは、何といっても世界中の多くの音楽が聴き放題になることだ。「とにかく多種多様な音楽を、浴びるように聴きたい」。そんな音楽好きの人ならば、今すぐ加入すべきサービスだと断言してもいいくらいだ。

僕はSpotifyの有料プランに加入しているが、USやUKの洋楽の曲はたいてい網羅されているし、昔のジャズだったり、異国の民族音楽だったり、日本ではCDを売っていないようなマニアックな音楽ですら置いてあることが多い。CDで音楽を楽しんでいた頃と比べて、「未知の音楽へアクセスできる速度」や「音楽を体験できる絶対的な量」が大きく増加したと感じている。

デメリットは、日本のアーティストだと曲を置いていないアーティストも少なくないことだ。アイドル、声優、アニソン歌手あたりは、軒並みラインナップが寂しい。

2. CDをお店でレンタルして聴く

レンタルCDを利用するときは、CDをリッピングしてデータで取り込むのが一番おトクだし、そういう人が大半だと思う。なのでそういう前提で話をする。

レンタルCDの楽しみ方は次の通り。

  1. TSUTAYA等の店でCDをレンタルしてくる。
  2. CDをパソコンの光学ドライブに入れて、iTunes等のソフトウェアでリッピングする。
  3. CDやデータで音楽を楽しむ。ブックレットも眺めてみる。
  4. CDを返却する。返却後も、リッピングしておいたデータを再生すれば、好きなときに音楽を楽しめる。リッピングしたデータはスマホに転送して聴くこともできる。

なお、私的利用におけるリッピングは下記のとおり合法なので、法律上も問題は無い。

Q8:レンタル店から借りたCDを自分のパソコンにコピーするのは違法ですか?
A8:違法ではありません。レンタル店から借りたCDを自分で聞くためにコピーすることは、「私的使用のための複製」に該当するのでコピーできます。違法ではありません。

出典:音楽利用について Q&A集|一般社団法人 日本レコード協会 

レンタルのメリットは、コストの安さ。CDを購入するのに比べれば、コストが10分の1程度になる。「ストリーミングサービスに曲を置いていないような日本のアーティスト」の曲を聴こうと思った場合、CDレンタルを利用するのが最も低コストで音楽を楽しめる方法になる。

もう一つのメリットは、CDレベルの音質を楽しめるということ。ロスレス圧縮 or 非圧縮でリッピングすれば、ストリーミングサービスでは味わえない高音質での音楽鑑賞を楽しむこともできる。

デメリットは、お店でレンタルする場合、借りる/返却するのに手間がかかること。
もう一つのデメリットは、CDのリリースからレンタル開始日までは期間があるので、その間は待つ必要があるということだ。特に洋楽のアーティストだと1年くらい待たされることも多い。洋楽を中心に聴いているような人であれば、前述のストリーミングサービスを利用したほうが断然コスパは高いと思う。

3. CDをネットで宅配レンタルして聴く

宅配レンタルのメリットは、レンタル/返却の手続きが楽なことだ。送られてきたCDを封筒に入れて送り返すだけなので、近くにレンタルCD店がなくても問題ない。使い勝手はお店でレンタルするのとだいた同じ。意外にも、料金もさほど変わらない。

デメリットは、ブックレットが付属しないことだろうか。ただ、歌詞の情報はネットでいくらでも手に入る。「ミュージシャンやエンジニアのクレジットを見たい」というマニアな人でもない限り困ることはなさそう。

「TSUTAYA DISCAS」という宅配レンタルサービスには、「定額レンタル8」というプランがある。このプランは名前に「8」と付いているものの、CDに関しては借りられる枚数に制限がない。

選べるプランと料金 - ツタヤ ディスカス/TSUTAYA DISCAS(参考)

1ヶ月に借りる枚数が多い人であれば、お店でレンタルするよりも低コストで借りることが可能だ。

※おまけにDVDやBlu-rayも対象なので、意外とお得度は高め。

「配送されるのが1回につき2枚だけ」という制限はあるが、「ある一定期間だけ、CDをたくさん借りたい」という人にとっては、非常にお得なサービスだといえるだろう。多くの実店舗と比べて、レンタルCDのラインナップが豊富なのも魅力だ。

4. CDを購入して聴く

昔ながらの聴き方だ。メリットとしては、

  • 高音質な音源を楽しめる
  • ジャケットやブックレットが手に入る
  • 所有欲が満たせる
  • 応援しているアーティストの利益につながりやすい

といったところだろうか。アーティストによってはCD特典が充実していることも多いので、熱心なファンの場合、CDを買うことで得られる副産物も大きいかもしれない。

デメリットは、他のサービスと比べてコストが高いということ。あとは「所有欲が満たせる」の裏返しで、保管に場所を取られるのも無視できないポイント。

CDプレイヤー自体の普及率は当然下がってきているし、最近のパソコンには光学ドライブが搭載されていないことも多い。さらには便利なストリーミングサービスが台頭してきているという状況を考えると、音楽CDというメディアが将来的に廃れていくのはほぼ確実だろう。

5. 音楽データを購入して聴く

iTunes Music Store、Amazon Music、mora等のサイトでは、音楽データのダウンロード購入が可能だ。AACやmp3等、圧縮音源の販売が中心だが、moraのようにハイレゾ音源を販売しているところもある。

ハイレゾ音源を楽しむ場合は、フォーマットの関係上、必然的にデータで購入して聴くことになる。

6. YouTubeで聴く(※違法コンテンツ除く)

海外のアーティストの多くは、プロモーションのために、新曲のミュージックビデオをYouTubeにアップロードしている。日本では未だにYouTubeへ音楽をアップすることに消極的なアーティストは多いが、時代の流れを考えれば、今後はどのアーティストもWeb上で音楽をシェアする流れになっていくだろう。

メジャーなアーティストだけでなく、今や世界中のミュージシャンにとって、YouTubeに音楽をアップすることがプロモーションのためのスタンダードな手法となりつつある。こういった状況がある昨今、新曲をチェックするためのツールとしては、YouTubeは便利なものといえるだろう。

ただし、音楽をじっくり鑑賞するためのツールとしてYouTubeを選ぶことはオススメできない。なぜなら、YouTubeにアップされている音源は、音質が良くないことが多いからだ。

公式にアップされた動画ですら、YouTubeの仕様上どうしても、ストリーミングサービス等に比べれば音質は劣化してしまう。理由は以下の通り。

  • YouTubeの仕様上、アップされた動画には「再エンコード」が発生してしまう。どうやっても、オリジナルの音源より音質は劣化する。
  • ラウドネスノーマライゼーション(音量の均一化)が働くので、多くの音楽においてはボリュームが勝手に下げられる。データ上ではボリュームMAXのときが一番音が良いので、その分音質は劣化してしまう。

違法にアップロードされた動画の場合は、なおさら音質が劣化していることが多い。※ひどい音質の動画も多々ある。

そんなわけで、YouTubeの動画は、あくまで試聴するためのものと位置づけましょう。じっくり音楽を聴くときは、サービスにきちんとお金を払って、ちゃんとした音質の音源を聴くことをオススメします。

なお、もしあなたが音楽に携わるプロを目指している場合は、なおさらこのことに気をつけてほしい。低音質な音源を聴いても、音楽に詰め込まれている情報を、すべて受け取ることはできないからだ。「ちゃんとした音質の音源を聴けば得られるはずだった音楽的な情報」――いわば「耳を育てるための経験値」を、フルで取得できずに取りこぼしてしまうことになる。

音楽を聴く時間というのは、耳を育てるための貴重な時間だ。なるべく低音質な音源を回避していったほうが将来のためになる。

補足:リスニング環境について

これまで音楽データ自体の品質について触れてきたが、それ以上に重要なのがリスニング環境。スマホ・ノートPC・液晶ディスプレイ等の内蔵スピーカーだと、低音がほとんど出ていないし、音質的な解像度も低い。こういう環境で聴いていると、多くの音楽的情報を取りこぼすことになり、非常にもったいない。スピーカーを鳴らせない人も、最低限イヤホンやヘッドホンを使いましょう。

参考までに、ヘッドホンのおすすめを挙げるなら、AKG 240mk2は初めて高いヘッドホンを買う人にも良い製品だ。装着感も良いし、AKGらしい聴き疲れしない音質をしている。プロの作曲家の使用者も多い。

おわりに:結局どの方法がいいのか?

今回は、音楽を正しく聴くための方法・サービスをまとめてみた。

記事ではいくつか方法を挙げてみたが、個人的には、以下の2つの方法を併用するのがオススメ。

  • ストリーミングサービス:普段の音楽鑑賞や、新曲探しに使う
  • CDレンタル:Spotifyには無いアーティストの作品や、CD音質で聴きたい作品を聴くために使う

どちらもサービス品質と値段のバランスに優れていて、コストパフォーマンスは高い。また、2つの方法を併用すれば、

  • 「邦楽が少ない」というストリーミングサービスの弱点
  • 「洋楽の新譜解禁が遅い」というCDレンタルの弱点

これらを相互に補完することができる。2つを併用することで、多くの音楽を網羅できるようになるだろう。

AKINO from bless4「Go Tight!」のコード進行を徹底分析 ~あざやかな連続部分転調~

はじめに

「Go Tight!」は、AKINO from bless4の2枚目のシングルだ。TVアニメ「創聖のアクエリオン」の後期オープニングテーマにもなっている。

「疾走感溢れる乾いたロックサウンド&キャッチーなメロディ」という分かりやすい特徴を持つ一方で、随所に挟まれる部分転調や、モード(ドリアンスケール)的な音使いといった、アカデミックな要素も詰め込まれた一曲だ。

作曲・編曲・プロデュースを手がけたのは、菅野よう子氏。彼女の持ち味が存分に発揮されたこの曲を、今回分析してみる。

  • コードは耳コピで採譜しています
  • マイナーキーであっても、そのキーの平行調と解釈して記載することがあります(ディグリー表記の都合上)

コード進行

0サビ(Key = G)

| Em7 | Dm7 | CM7 | B7 |
| Em7 | Dm7 | CM7 | F7(9) |
| F7(9) |  |

(Degrees)
| VIm7 | Vm7 | IVM7 | III7 |
| VIm7 | Vm7 | IVM7 | VIIb7 |
| VIIb7 |  |

頭サビで曲がスタートする。

基本的には「6-5-4-3」という、VImから下がっていって循環するオーソドックスなパターンだ。ただし2・6小節目のDm7に注目。これはディグリーで表すとVm7となる非ダイアトニックコードだ。

ここの解釈としては、次のCM7に向けて進行するツーファイブを挟むパターンだと考えられる。

  • 「Dm7 → G7 → CM7」

コード表記上はG7を挟まずにDm7から直接CM7に進んでいるが、歌メロがBに行っているので、曲全体のコード感がG7に寄っており、結果的にCM7に向かって推進していくような響きとなっている。

※この曲では、このツーファイブ進行が度々登場することになるので、要チェックだ。

8小節目のF7(9)は、B7の裏コード(代理コード)。4小節目のB7に対して、繰り返し時に変化をつけるためのリハーモナイズだ。

イントロ(Key = G)

| B7sus4 |  | B7 |  |
| Bm7 |  | B7 |  |

(Degrees)
| III7sus4 |  | III7 |  |
| IIIm7 |  | III7 |  |

イントロでは、ペダルポイント的にルートをB音で固定しつつ、「コードの明るさを決定づける3度の音」を動かすことで展開を作っている。

前回の記事で紹介した「トライアングラー」という曲と同じパターンだ。

Aメロ(Key = D)

| Bm7 | Bm7/A | GM7 | D/F# |
| Em7(9) | Em7/A | Bsus4 | B/D# Bsus4/E  |
| Bm7 | Am7 | GM7 | D/F# |
| Em7(9) | Em7/A | Bsus4 | G/C |
| B |  |

(Degrees) ※簡略化
| VIm | V | IV | I on III |
| IIm7 | V | VI |  |
| VIm | Vm7 | IV | I on III |
| IIm7 | V | VI | VIIb |
| VI |  |

AメロではKey = D(※実際はBm)に転調している。前のセクションのルートがずっとB音だったということもあり、キーが変わったことを感じさせないような、自然な転調となっている。

コード進行的には、VImから1つずつ下がっていくようなオーソドックスなパターンだ。なお、10小節目のAm7に関しては、0サビの項目で説明したのと同じく、ツーファイブが挟まれていると解釈できる。

16小節目のG/Cは、ディグリーで表すと「VIIbM7」に近いコードになる。

Bメロ(Key = D)

| (N.C.) CM7(9) |  | DM7(9) |  |
| D#m7 G#7 | F#m7 B7 |
| Am7  B7sus4 |  B7 |

Aメロに続いて「Key = D」としているが、実際は一定の調性を保たずに進んでいくセクションだ。

5小節目以降は部分転調のオンパレード。「IIm7 → V7」というひとかたまりを、どんどん短3度上へとつないでいくような展開になっている。短3度上のキーといえば、同主短調の平行調だ。近親調であるがゆえに、このように前触れのない部分転調であっても、比較的自然に聴くことができるのだ。

また、あくまでもメロディの流れに即してコードが展開されているというのも、部分転調が自然に聞こえる理由のひとつだろう。たとえば、5小節目の頭に出てくるD#m7というコード。これは直前のDM7(9)と構成音が近いだけではなく、歌メロであるF#音を含んでいる。だからコードのつながりも自然なのだ。

このBメロは、部分転調が次々と華麗に決まっていく、美しいセクションだ。

サビ(Key = G)

| Em7 | Dm7 | CM7 | F7(9) |
| Em7 | Dm7 | CM7 | B7-13 |
| Em7 Em7/A | DM7 |
| Dm7 Dm7/G | CM7 |
| Cm7 | Am7/D |

(Degrees) ※簡略化
| VIm7 | Vm7 | IVM7 | VIIb7 |
| VIm7 | Vm7 | IVM7 | III7 |
| VIm7 II7 | VM7 |
| Vm7 I7 | IVM7 |
| IVm7 | V |

前半8小節は、前述の「頭サビ」の項目で紹介したのとほぼ同じコード進行だ。

※「裏コードに変わる位置が、4小節目と8小節目で入れ替わっている」という細かい違いはあるが。

9小節目以降の部分を見てみる。ここもBメロで出てきたのと同じように、「IIm7 → V7 → IM7」のひとかたまりをつなぐ形で、全音下のキーに向かって部分転調を連続で行っている。「M7→m7」と進行する際、ルート音が共通音のピボットに据えられており、自然な部分転調が実現していることがわかる。

※なお、上記のグレー背景の部分に書いてあるディグリーは、キーがずっとGであるという前提で表記している。部分転調を考慮した度数ではないので、混乱しないように注意してください。

また、細かい話だが、「M7→m7」と進行する部分では、歌メロがシンコペーションする形でm7コードの構成音(m7th)を通っていることにも注目したい。こういった要素も、スムーズな部分転調の実現に一役買っているといえる。

この「メロディの動きと渾然一体となった部分転調」が連続で繰り広げられる様は、この曲の一番の聴きどころだ。アカデミックさとキャッチーさを両立させた、レベルの高い作曲が行われているといえるだろう。

サビのおわりは「IVm7 → V」という風に、次のセクションにつながる形で締めている。どれだけ部分転調を繰り返しても、最後はきちんと元のキーに戻して破綻させずにまとめている。このあたりがプロの技だ。

間奏(Key = D → Key = A)

| B7sus4 |  |  |  |
| B7sus4 |  | D A/C# | C |
| F#7sus4 |  |  |  |
| F#7sus4 |  | A E/G# | Gadd9 |

(Degrees)
| VI7sus4 |  |  |  |
| VI7sus4 |  | I V on VII | VIIb |
(※ここでキーが変わる)
| VI7sus4 |  |  |  |
| VI7sus4 |  | I V on VII | VIIb |

2サビ後の、ドラム等の演奏がハーフタイム・フィールになるセクションだ。

便宜上キーはD(後半はA)と解釈しているが、あくまで目安。B7sus4の部分ではギターフレーズがBドリアンの音使いをしているし、調性は割とあいまいな状態であると考えてよさそうだ。

後半の8小節は、前半と同じコード進行を完全4度下で演奏している。

Dメロ(Key = D)

| Bm7 | Bm7/A | D6 | Bm7/E |
| Bm7 | Bm7/A | D6 | Bm7/E |
| Bm7 | Bm7/A | D6 | Bm7/E |
| Bm7 | Bm7/A | D6 | Bm7/E |

(Degrees) ※簡略化
| VIm | V | I | II |
| VIm | V | I | II |
| VIm | V | I | II |
| VIm | V | I | II |

キーはBmを感じさせるようなセクションではあるが、間奏のギターと同じく、歌メロはBドリアンスケールを使っている。それによって、少し洗練された雰囲気が漂っているのがポイント。

3サビ前半(Key = G)

| Em7 | Dm7 | CM7 | F7(9) |
| F7(9) |  |
| B7sus4 |  |  |  |

(Degrees)
| VIm7 | Vm7 | IVM7 | VIIb7 |
| VIIb7 |  |
| III7 |  |  |  |

ラストサビに突入する前の、少し静かなセクション。他のサビ部分とほぼ同じコード進行をしている。B7sus4のところでキメを入れてラストサビにつなげている。

エンディング

| E7sus4 |  | E7 | |
| Em7 |  | E7 |  |

(3/4)
| G | A | B |

このセクションも一定の調性で進むわけではないので、あえてキーは指定せずに解釈している。

ここではイントロと同じコード進行を別のキーで演奏しているような形になっている。ただし、いずれのキーにおいても、歌メロ終わりのロングトーン(E音)がコードの構成音になっているため、違和感なく曲が成立しているのがポイント。

最後の3小節は、3/4拍子となり、「IV → V → VI」と、ピカルディ終止的に曲を締めている。

まとめ

コード進行のポイントをまとめてみる。

  • あざやかな部分転調の連発
    • 短3度上へ向かって「2-5」の連発@Bメロ  
    • 全音下へ向かって「2-5-1」の連発@サビ
  • 一定の調性を感じさせず、自由に進んでいく洗練されたBメロ
  • 間奏~Dメロにかけての、ドリアンスケール的な音使い(ギター・歌)
  • 最後の「IV→V→VI」(ピカルディ終止)

キャッチーなメロディを持ちながらも、アカデミックで洗練されたコード進行をしているという、レベルの高い曲だ。菅野よう子氏の持ち味が存分に発揮された一曲といえるだろう。

Lost in Time/ AKINO from bless4

坂本真綾「トライアングラー」のコード進行を徹底分析 ~半音転調は突然に~

はじめに

「トライアングラー」は坂本真綾の15枚目のシングル曲だ。TVアニメ「マクロスF」のオープニングテーマにもなっている。

作曲・編曲は菅野よう子氏が手がけている。キャッチーなメロディと歌詞が印象的な曲だが、じっくり分析してみると、要所に仕掛けが散りばめられていることがわかる。

「トライアングラー」 Music Clip - YouTube

今回はこの曲のコード進行を分析してみる。

  • コードは耳コピで採譜しています

コード進行

サビ(Key = Am → Bbm)

| Am |  | C/G |  |
| FM7 |  | Gsus4 |  |
| Bbm | Db/Ab | GbM7 | Dbadd9/F |
| Ebm7(9) | Fm7 |

頭サビで曲がスタートする。

サビはVImから1段ずつ降りていくタイプの、いたってノーマルなコード進行だ。しかし、9小節目のサビ繰り返しの部分から、突然半音上(Key = Bbm)に転調する。この意表を突いた転調が、この曲の一番の特徴といえるだろう。

さらに、これだけでは終わらない。Key = Bbmとなった後の部分では、メロディは1小節目~と同じなのにもかかわらず、コードチェンジのタイミングが速くなっているのだ。

※コードチェンジの頻度は、8小節目までは2小節ごとだが、9小節目以降は1小節ごとになっている。

トゥーファイブ化したり、代理コードにしたりと、コードの機能を変えずにリハーモナイズすることはよくある。しかし、このようにコードチェンジの頻度を増やすことでリピート部分に変化をつけるタイプの仕掛けは珍しい。

シンプルなメロディの繰り返しであっても、こういった工夫を凝らすことで、メロディに奥行きや深みを持たせることができる。そんなことを教えてくれるセクションだ。

イントロ(Key = Bb)

| Bb Bbsus4 Bb  | Bbm7 Eb/Bb |
| Bb Bbsus4 Bb  | Bbm7 Eb/Bb |

イントロでは、それまでの「Key = Bbm」から「Key = Bb」へと、同主調に転調する。このイントロ部分は、ルートのBb音をペダルポイント的に固定しつつ、「コードの明るさを決定づける3度の音」を動かすことで、展開を作っているのが特徴だ。

途中でBbm7(Im7)が挟まれていることにも注目したい(これは非ダイアトニックコード)。あえて転調前の調性感を匂わせることで、「Key = Bb ~ Key = Bbmを行き来する」という後の展開を予感させているのかもしれない。

Aメロ(Key = Bb)

| Bbadd9 |  | Db/Gb | Abadd9omit3 |
| Bbadd9 |  | Db/Gb | Abadd9omit3 |
| Gm | Dm/F | EbM7 | F |
| Gm | Dm/F | EbM7 | DbM7 |
| Cm7(9) |  | G D F C | G |

前半8小節は、シンプルに表すと「I → VIb → VIIb」という進行になる。非ダイアトニックコードを駆使した、浮遊感のあるコード進行だ。3度を抜いたり9thのテンションを付加したりしているのも、浮遊感を出すのに一役買っている。

9小節目以降はVImから始まるマイナー調の進行。ごく普通の進行だが、16小節目でDbM7(IIIbM7)を挟んでいることに注目。これがちょっとしたスパイスになっていて、一味違う雰囲気を演出している。

終わりの19~20小節目は、各パートがルート音をユニゾンするようなキメになっている。ここは和音ではなくルート音のみとなるので注意。

Bメロ(Key = Bb) 

| Cm7/F |  | Dm7/G |  |
| Cm7/F |  | Dm7/G |  |
| Cm7/F |  |
| Gm | F#aug | Bb/F | C7(9) |
| EbM7(9) | Abadd9 | F7sus4 | G7sus4 |

(Degrees)
| IIm7 on V |  | IIIm7 on VI |  |
| IIm7 on V |  | IIIm7 on VI |  |
| IIm7 on V |  |
| VIm | V#aug | I on V | II7 |
| IVM7 | VIIb | V7sus4 | VI7sus4 |

本来は「V → VIm7」となるところを、「IIm7 on V → IIIm7 on VI」とリハーモナイズさせている。「IIm7 on V」型のコードが続くことによって、浮遊感が出ているのがわかるはず。

このひとかたまりを2回半演奏した後は、VImからの下降系クリシェ。セクションの終わり2小節では、7sus4のコードを連続させる形で、次のセクションで転調させるためのきっかけを作っている。

間奏・前半(Key = Bb)

| Abadd9 | Gbadd9 | Dbadd9 | Badd9 |
| Abadd9 | Gbadd9 | Dbadd9 | Badd9 |

(Degrees)
| VIIb | VIb | IIIb | IIb |
| VIIb | VIb | IIIb | IIb |

2サビ後の間奏部分の前半。静かなところだ。

「キーはイントロと同じくBbだが、非ダイアトニックコードを登場させている」と解釈するのが自然だろう。いずれのコードも、準固有和音や、サブドミナントマイナーの代理コードとして説明が可能だ。

間奏・後半(Key = Bbm)

(※すべてomit3)
| Eb F Gb F | Eb F   |
| Eb F Gb F | Eb F Ab Gb |
| Eb F Gb F | Eb F   |
| Eb F Gb F | Eb F Bb Ab |

2サビ後の間奏部分の後半。

コードはすべて3度の音を抜いており、リフ的なセクションになっている。キーについては、使われている音から推察すると、Key = Bbmと解釈できそうだ。

Dメロ

| G7sus4 |  |  |  |
| G7sus4 |  |  |  |

英語のボーカルが入ってくる部分だ。※便宜上Dメロとしている。

次のセクション(サビ)につなげるために、G7sus4を8小節鳴らしている。直前のコードがAb(omit3)なので、このG7sus4というコードに自然につながっているのだ。

※なぜなら、AbはG7に対するドミナントの役割になるからだ(半音上から解決するパターン)。

3サビ前半(Key = Am)

| Am |  |  |  |
| Am |  | C/G  |  |
| Am |  | C/G |  |
| FM7 |  | Gsus4 |  |

ラストサビの頭に挟まれる、少し静かなセクション。コーラスワークが印象的だ。

なお、当セクションの後は普通にサビを演奏するが、ラストのブレイクでは尺が1小節だけ増える。それに合わせて、歌のラストフレーズの開始タイミングが変わるので注意。

エンディング(Key = Bb)

| Bb Bbsus4 Bb  | Bbm7 Eb/Bb |
| Bb Bbsus4 Bb  | Bbm7 Eb/Bb |
| Bb Bbsus4 Bb  | Bbm7 Eb/Bb |
| Bb Bbsus4 Bb  | Bbm7 Eb/Bb |
| EbM7(9) Dm7/G Cm7(9,11) |

エンディングはイントロとだいたい同じ。イントロと同じ進行を2倍の尺に伸ばし、最後にコード3つをキメて終了。

最後のコード3つは、トップノートの「D→C→Bb」というラインに合わせて「EbM7(9) → Dm7/G → Cm7(9,11)」という進行になっている。ここはディグリーで表すと「IVM7 → IIIm7 on VI → IIm7」となる(ルートだけを追うと4-6-2)。「IIm7 on V」型にリハーモナイズしたり、テンションを付加したりすることで、浮遊感を出しつつ曲の最後を締めくくっている。

まとめ

コード進行のポイントをまとめてみる。

  • 突然の半音上への転調@サビ後半
  • Bメロの「V → VIm」を「IIm7 on V」型コードでリハモ
  • 間奏前半の非ダイアトニックコードの応酬
  • 曲の最後の「4-6-2」with リハモ

キャッチーで分かりやすいメロディとは対照的に、アレンジ面では情報量も多く、展開も盛りだくさん。聴き応えのある一曲だ。

マクロスF VOCAL COLLECTION「娘たま♀」