中島美嘉「STARS」のコード進行を徹底分析 ~J-POP史上最強のリハーモナイズ~
※2019年6月25日:内容が分かりやすくなるように、文章をアップデート
はじめに
注意:とても複雑なコード進行になっています。
中島美嘉の名曲、「STARS」。上質なメロディを緻密なアレンジで包み込んだ、極上のポップスだ。編曲を手がけたのは冨田恵一氏。非常に高度なリハーモナイズが施されていて、冨田サウンドがとことん味わえる一曲になっている。今回はこの曲のコード進行を分析していきたい。
中島美嘉 『【HD】STARS( ショートver.)』 - YouTube
- コードは耳コピで採譜しています
- 便宜上、♭→ b と表記します
コード進行
※Key = F
イントロ
※最初のエレピの下降アルペジオの部分は(N.C.)と表記。
この曲のキーはFなのだが、いきなり非ダイアトニックコードのオンパレード。「キーがFなのに、なぜAbM7やDbM7みたいなコードが使えるの?」と思うかもしれないが、実はキーがFのときは、Key = Fmのダイアトニックコード(準固有和音)も使えるのだ。まずはこのことを把握しておこう。
度数→ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Key = F | FM7 | Gm7 | Am7 | BbM7 | C7 | Dm7 | Em7-5 |
Key = Fm | Fm7 | Gm7-5 | AbM7 | Bbm7 | Cm7 | DbM7 | Eb7 |
イントロのコード進行をおおまかに把握すると、「準固有和音を経て、ドミナントであるGm7/Cに向けて着地していく」というようなイメージだろう。
DbM7(VIbM7)は準固有和音であると同時に、サブドミナントマイナー(Bbm)の代理コードとも解釈できる(※Db音が入っているので)。なので「DbM7 → Gm7/C」という進行は、シンプルに考えると、「サブドミナントマイナー → ドミナント」という基本的なものになっていることがわかる。
Aメロ
| G/B Csus4/Bb | Am7 Am7/D F#dim |
| Gm7 C7 Bb7(9) | Am7 Am7/D Cdim |
| Bm7-5 Bbm6 | F/A A Bm-5 C#m-5 |
| Am7/D Dm7 G7(9,+11) | Gm7/C C/E |
| Gm7/C C7 | FM7/C Am7/D F#dim |
| Gm7 A Bm-5 C#m-5 |
| Dm7 Dm7/G F6 |
1~2小節目は2-5-3-6の、いわゆる"王道進行"の変形パターンがベースになっていて、
- G/B:
本来はGm7(IIm7)だけど、セカンダリードミナント(G7)化&オンコード化している。 - Csus4/Bb:
本来はC/Bb(V7)だけど、メロディがFに行く都合上、分子がCsus4になっている。 - F#dim:
D7(VI7)の代理コード。
という風にリハーモナイズされている。
3小節目のBb7(9) (IV7)はAm7(IIIm7)に解決するためのドミナントコード。この「半音上の7thコードから解決する」という流れは、ジャズではよく出てくるパターンだ。
4~5小節目の「Cdim → Bm7-5」の部分は機能的な解釈がしづらいが、半音上のdimからマイナー7thコードへ進行することは多いので、その応用と解釈できそうだ。
※Em7 → Ebdim → Dm7(in Key=C)のような進行はジャズではよく出てくる。
6小節目の3・4拍目は、完全にメロディに合わせたリハーモナイズといえそうだ。元はA7のところを、メロディに合わせて細かくコードを付けていると思われる。
7小節目のG7(9,+11)はオルタード・テンションを含むコード。#11thのC#音とメロディでもある9thのA音が長6度の協和音程になっているため、自然に聴こえる。この辺りの音選びが非常にハイセンスで良い。
Aメロの2回し目、9小節目からはベースが入ってくる。ベース音をC音で固定し、ペダルポイントを駆使したリハモにしているのが効果的。
Bメロ
| EbM7 Dm7 | EbM7 Dm7 |
| Gm7 F/A | BbM7 Bm7-5 Gm7/C E7+5-9 |
EbM7(VIIbM7)は他の曲でもよく登場するタイプの非ダイアトニックコード。手グセ的にみんな使うコードではあるが、音楽理論的に解釈すると、Gm7(IIm7)の代理コードといえる。
E7+5-9(構成音:[E G# C D F])はかなり複雑なハーモニーだが、ドミナントであるC7(V7)の代理コードと解釈できそうだ。
これはあくまでも僕のごく個人的な解釈だが、以下のような経緯でこのコードに落ち着いたのでは、という予想。
- Gm7/Cのままだとドミナント感が出ないので、C7にしたい。
- しかし、メロディのFと半音でぶつかるため、E音はルートに持ってきた。
- だがやはりルートに対してメロディが短9度で不自然なので、7thコードのオルタード・テンション扱いにできるようE7-9に。
- 元はC7だったんだから、コードにB音が入るのはおかしい。B音をC音にずらしE7+5-9に。
サビ
| FM7 | Bbaug/E Eb/A |
| G/A F#/A F/A C#dim |
| Am7/D Dm7 Cm7 F7 |
| BbM7 Bbdim | Am7-5 D7(-9,-13) D7/F# |
| Gm7 F/A | Bbm Bbm/Db Gm7-5/C E7+5,-9 |
| FM7 | Bbaug/E Eb/A |
| G/A F#/A F/A C#dim |
| Am7/D Dm7 C#m7 Cm7 F7 |
| BbM7 C/Bb | Am7-5 Am7-5/Eb D7(-9,-13) D7/F# |
| Gm7 F/A | EbM7 Dm7 Gm7/C |
2小節目は一見すごい進行だが、Em7-5(9) → A7-9,+11(VIIm7-5 → III7)のリハモ。音が濁りやすいローズ系のエレピでコードを弾いている関係で、不要な音をオミットしていると思われる。
3小節目はメロディに合わせたリハーモナイズ。元はG/A → A7-9だ。
5~6小節目は、4-5-3-6の王道進行が元になっている。
- Bbdim:
本来はC7(V7)となるところだが、サブドミナントマイナーBbm(IVm)に変更。さらにそれを、構成音の近いBbdim(IVdim)に変更。歌メロとも上手く合う。 - Am7-5:
本来はAm7(IIIm7)。Am7-5(IIm7-5)にすることで、Gm7に向かって解決していくような、「マイナーのトゥー・ファイブ進行(Am7-5 → D7 → Gm7)」にしている。
こういったリハモは、J-POPではよく出てくるテクニックだ。
サビの2回し目(9小節目~)は、基本的には1回し目と同じ進行。ただし、要所で変化が付けられている。中でも注目したいのが、13小節目3・4拍目のC/Bb。メロディが高く抜けるようなファルセットになるのに合わせて、よりドラマティックな進行に変わっている。こういった細かい部分も、アレンジャーの腕の見せどころだ。
間奏1
| FM7 | Gm7/C Bbdim |
| Am7 D7+9 Cdim | BbM7 Gm7-5/C | |
2~3小節目では、Aメロの4~5小節目でも出てきた、「ディミニッシュからマイナー7thへの半音下降」が登場。3小節目のCdimは、D7-9の代理コードと解釈できそうだ(ルート以外の構成音は一緒)。
間奏2
| FM7 Eb/G F7/A B7-13 |
2サビ後の短い間奏(というほどの尺ではないが)。Eb/Gからの部分は、元はCm7 → F7(Vm7 → I7)という進行。B7-13(Vb7)はF7(I7)の代理コード。
全体的に見ると、次のコードのBbM7に向かって着地していくような流れになっている。
Dメロ
| BbM7 Bm7-5 | F/C C#dim |
| Em-5/D Dm7 C#m7 Cm7 B7-13 |
| BbM7 Cm7/F |
| Bbm7 Eb7 | Ab/Eb Cdim |
| DbM7 Bbm7 Fm/Ab | Gm7(11) |
| Gm7/C | |
その後のDメロ。3小節目はフルートのオブリガートのメロディに合わせたリハモが見事。
5~7小節目は、サブドミナントマイナーであるBbm7(IVm7)をきっかけに、一時的にKey = Abに転調していると解釈できそうだ。
※もっとも、今までシームレスに準固有和音を使ってきたこの曲においては、いまさら部分転調だと解釈する必要もないかもしれないが……
8小節目のGm7をきっかけにキーがFに戻っていく。
3サビ終わり
| Gm7 F/A | Eb7(9) Am7/D F#dim |
| Gm7 Gm7-5/C | (2/4) |
サビ終わりを繰り返す静かな部分。2小節目のEb7(9) (VIIb7)がよい浮遊感を出している。静かになる展開と相まってとても効果的。
エンディング
| FM7(9)/C | Gm7/C | FM7(9)/C | Gm7-5/C | FM7(9) ||
最後はAメロでも出てきたペダルポイントを駆使しつつエンディングを迎える。「STARS」という曲名にピッタリな浮遊感を醸し出している。
おわりに
現在流行している音楽では、複雑なコード進行の曲はそれほど多くない。しかし、こういった楽曲を分析し、コード進行やリハモのテクニックを研究することは、作曲/アレンジのスキルを磨く上でとても有効です。
Cubaseで絶対に覚えておきたいショートカットキー(初級者向け)
※2018年9月16日 画像更新しました(GIFアニメ追加)。
今やプロ/アマ問わず、DAW*1での音楽制作が一般的になった。しかしDAWの作業はとにかく手間がかかるので、少しでも作業の効率化を図りたい。
作業の効率化にもっとも有効なのが、ショートカットキーを習得することだ。
ただ、ショートカットキーは数多く存在するので、どれを覚えていいのかわからないユーザーも多いだろう。そこで今回は初級者向けに、使用頻度が高く作業効率の向上につながるものを厳選した。
僕はCubaseユーザーなので、今回はCubaseを対象にショートカットキーを紹介していくが、他のDAWでも応用可能なので、もし知らないショートカットキーがあれば、手持ちのDAWでぜひ試してみて欲しい。
録音・再生関連
再生/停止:Space
最もよく使うのが再生/停止をするためのSpaceキーだろう。必ず覚えておきたいショートカットキー。
録音:*(テンキー)
MIDIのリアルタイム録音、オーディオ録音ともに共通している。スペースキーを押すと録音が止まる。
ズームまわりの4つ
これから紹介する4つのキーはとなり合っている。左手の人差し指~小指で押せば、手元を見ずに打てるので効率的(都合よくFとJのキーには突起がある)。
ズームイン(拡大):H
細部を見たいときに使うコマンド。画像はMIDIトラックのキーエディタだが、トラック一覧画面やコンソールウィンドウでも拡大可能だ。
ズームアウト(縮小):G
全体を俯瞰して見たいときに使うコマンドだ。ズームイン同様、トラック一覧画面やコンソールウィンドウでも使える。
オートスクロールのオン/オフ:F
オートスクロールのオン/オフを切り替えられる。
スナップのオン/オフ:J
MIDI/オーディオイベントを編集する際に、マウスカーソルが基準の位置(小節頭など)に自動で補正されるようになる。
トラックの表示、ミュート、ソロ
選択トラックを拡大表示:Z
選択されているトラックが拡大表示される。波形編集をするときや、オーディオ録音をするときに使おう。
ミュート:M
選択されているトラックの音が無音になる。
ソロ:S
選択されているトラックの音だけが、単独で聴こえるようになる。
よく使うウィンドウの表示/非表示
トランスポートパネルの表示/非表示:F2
テンポ、クリック音の有無、カーソルが存在する小節位置などがひと目で分かる。常に表示したままにしている人も多いと思うが、何かの拍子に消えていることもあるので覚えておきたい。
ミキサー(MixConsole)の表示/非表示:F3
Cubase8以降ではシングル・ウィンドウ表示が主流になってきたが、ミキサーを常時表示させていない人は覚えておきたい。
MIDI編集関連
クオンタイズ:Q
打ち込みの最大の利点と言っても過言ではない機能が、このクオンタイズだ。MIDIノートのリズムのズレを、正しい位置に補正してくれる。リアルタイム入力でMIDIを打ち込む人にとっては、特に役に立つコマンドだ。
プロジェクトファイルの操作関連
※Macの人は「Ctrl → Command」と読み替えてください。
保存:Ctrl + S
プロジェクトファイルを上書き保存するショートカットキー。DAWでの音楽制作はマシンへの負荷が高くなることが多く、ソフトがクラッシュして落ちることも多々ある。こまめに保存する習慣をつけておきたい。
元に戻す:Ctrl + Z
直前に行った操作を取りやめる。
再実行する:Ctrl + Shift + Z
取りやめた操作を、再実行する。「元に戻す」とセットで覚えておこう。
おわりに
今回は初級者向けに、基本的なショートカットキーを紹介した。中級編・上級編もあるので興味のある方は読んでみてください。
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*1:Digital Audio Workstation
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ギターインストの世界ではテクニカルな作品を良しとする考えもある。しかし、テクニックはあくまで音楽を表現するための手段の一つだと僕は考えている。そこで、今回は音楽的に優れているかどうかという観点から選曲を行っている。
- 1. Cliffs of Dover/Eric Johnson
- 2. Far Beyond The Sun/Yngwie Malmsteen
- 3. Triptych/SIAM SHADE(DAITA)
- 4. Room 335/Larry Carlton
- 5. Fives/Guthrie Govan
- 6. Jaguar/春畑道哉
- 7. Scuttle Buttin'/Stevie Ray Vaughan
- 8. A Fair Wind/Char
- 9. Midnight Express/Extreme(Nuno Bettencourt)
- 10. Mediterranean Sundance/Al Di Meola(with Paco de Lucia)
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4. Room 335/Larry Carlton
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5. Fives/Guthrie Govan
圧倒的なスーパーテクニックで、高難度のフレーズを自由自在に演奏するガスリー。彼の代表曲が、この「Fives」だ。フュージョン風のサウンドの中で、華麗なテクニックが畳み掛けるように登場する。
6. Jaguar/春畑道哉
TUBEというバンドのギタリストというポジションにとどまらず、一人のギタリストとして評価が高い春畑道哉。彼の代表曲がこの「Jaguar」だ。野球中継のテーマ曲だっため、権利の問題でCD化が実現されなかったが、2008年ついに、実に公開から10年もの時を経て、待望のCD化を果たした。
TUBEのヒット曲のほとんどを作曲してきただけあって、メロディや楽曲の構成が非常に秀逸。高速フレーズもさらりと弾き倒すテクニックの高さ、感情のこもった熱いトーンにも注目だ。
バージョンが複数あるが、オリジナルバージョンの'08がオススメ。
Michiya Haruhata BEST WORKS 1987-2008~ROUTE86~
7. Scuttle Buttin'/Stevie Ray Vaughan
今まで紹介してきた曲はハードロックやフュージョン寄りの楽曲が多かったが、このスティーヴィー・レイ・ヴォーンはブルース系のギタリストだ。彼の代表曲が、この「Scuttle Buttin'」。シンプルなブルース進行の上で、浅く歪んだ心地よい音色のストラトキャスターがスピード感のあるフレーズを繰り出していく。
8. A Fair Wind/Char
日本では有名なギタリストのChar。彼の代表曲は多くあるが、今回はこの「A Fair Wind」を取り上げたい。ニュース番組のテーマ曲にもなった一曲。軽快なアコースティックギターのストロークが入ったバンドサウンドの中で、爽やかな旋律が奏でられていく。Charらしいアーミングも健在だ。
9. Midnight Express/Extreme(Nuno Bettencourt)
Extremeのギタリスト、ヌーノ・ベッテンコート。彼の凄まじいリズム感はアコースティックギターでも健在。どことなく民族音楽を匂わせるようなリズムとサウンド感に、開放弦を駆使した「左手タッピング」を交えた高速フレーズが特徴的。
10. Mediterranean Sundance/Al Di Meola(with Paco de Lucia)
最後に紹介するのは、ジャズ・フュージョンギタリストのアル・ディ・メオラと、フラメンコギタリストのパコ・デ・ルシアによる名曲「Mediterranean Sundance」。静けさと激しさを併せ持つ情熱的なサウンドの中で、2本のガット・ギターが凄まじいギターバトルを繰り広げる。
五本の指をフルに使い、強力なダイナミクスで自在にフレーズを繰り出すパコ。負けじとフラット・ピックによるフル・ピッキングで対抗するディメオラ。フラメンコギターの神であるパコと、よりによってガット・ギターで共演してしまったため、どうしもパコのすごさが目立ってしまうのだが、ディメオラの高度なピッキング技術も見どころだ。