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JASRACについての正しい知識と、現状のシステムの問題点について解説

コラム

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はじめに

JASRACが大手音楽教室から著作権料を徴収する意向を示し、そのニュースが世間を騒がせている。人々の反応を見てみると、誤った知識に基づいたJASRAC批判を繰り広げている人が非常に多いと感じる。

しかし実際は、「JASRACが不当に利益を得ている」という単純な話ではなく、そもそも著作権使用料の分配システムに構造的な問題がある状態なのだ。

メジャーの作詞家や作曲家のほとんど全員が、JASRACを経由したお金を受け取っている。条件反射的にJASRAC批判をする前に、実際に何が起きているのかを知ってほしい。

前提となる正しい知識

著作権使用料の流れ

作曲家が曲を作り、めでたくCDがメジャーリリースされることになった。その場合、作曲家はどのようにしてお金を受け取るのだろうか?

メジャーリリースされた曲は音楽CDだけではなく、テレビ、ラジオ、コンサート、動画サイトなど、多くのメディアで使用される。CDがどこのショップで何枚売れているのか?自分の曲が、どのメディアでどのくらい使われているのか?

そういったことを作曲家が個人で調べるのは、現実的に考えて難しい。その作業を行うのが、JASRACという著作権管理団体だ。

作曲家が著作権使用料を受け取るまでの流れは、次のようになっている。

  1. 作曲家が音楽出版社著作権を譲渡する。
  2. 音楽出版社JASRAC著作権を信託する。
  3. JASRACがレコード会社や放送局、カラオケ業者、コンサートの主催者など、音楽の使用者から著作権使用料を徴収する。
  4. JASRAC音楽出版社著作権使用料を分配する。分配額は、管理手数料(たとえばCDなら6%)を差し引いた残りの金額すべて。
  5. 音楽出版社が作曲家に著作権使用料を分配する。作曲家への分配額は音楽出版社と折半が一般的(作詞25%、作曲25%、出版社50%)。

三者の役割をまとめると、下記のようになる。

  • 作曲家 → 曲を作っている。その対価としてお金を受け取っている。
  • 音楽出版社 → 曲がさまざまなメディアで使用されて世の中に広まるよう努力をしている。曲のプロモーションをする対価としてお金を受け取っている。
  • JASRAC → 曲の使用状況を把握し、著作権使用料を音楽の使用者から徴収している。この管理業務の対価としてお金を受け取っている。

メジャー作曲家が利益を得るためには、現状、JASRACのような著作権管理団体の存在が必要になってくる。

曲を利用する障壁になるのは、JASRACではなく「著作権

どんな曲にも著作権がある。これは何もメジャー作品に限ったことではない。

もしあなたがアマチュアミューシャンで、趣味で曲を作った場合でも、その曲には著作権が存在する。作者であるあなたの許可がない限り、友達がコンサートでカバー演奏することはできない。さもないと著作権(正確には、支分権の「演奏権」)の侵害になる。

このような「許可を取る」という作業を不要にし、面倒をなくすためのシステムが「JASRACへの著作権信託」だ。多くのライブハウスではメジャー楽曲のカバー演奏が自由に行えるが、これは楽曲の著作権JASRACに信託されていて、かつライブハウスがJASRACに使用料を払ってるからこそ実現できること。

こういったシステムがあるおかげで、いちいち許可を取らなくても、誰でもカバー演奏が可能になっているのだ。

よくある誤解について

飲食店でJASRAC管理曲を演奏すると、店は不当に使用料を徴収される?

→ 不当ではない。そもそも営利目的の場合、人の曲を無断で演奏することは出来ない(著作権の侵害になる)。飲食店ではお客さんが料理や飲み物にお金を払っているため、非営利目的の演奏とはならない。実際ほとんどの(演奏ができる)飲食店は使用料を払っているので、払わないという店の判断が間違い。

JASRAC管理曲だと、道端で鼻歌を歌うだけでも使用料が取られる?

→ デマ。非営利目的の演奏は自由に行える(JASRACのサイトでも「鼻歌は自由に歌っていいです」とわざわざ説明されている)。

著作権のルールを知ろう!」 JASRAC公式サイト(PDF)
http://www.jasrac.or.jp/park/inschool/pdf/copyright_0912.pdf

JASRACがネットのMIDI文化を奪った?

→ 著作物のWeb上へのアップロードは、非営利目的であっても認められていない(著作権の支分権である「公衆送信権」の侵害)。著作権法で禁止されているだけであって、JASRACの都合で禁止しているわけではない。

現状の著作権使用料徴収システムの問題点

では、何が問題なのか。

楽曲の使用状況が正確ではない

一番の問題はこれだと思っている。端的に表現すると、現在の著作権使用料徴収&分配のシステムは、少し「どんぶり勘定」なところがあるのだ。

例えば、音楽CDのように売上げが正確に計算できるものに関しては、著作権使用料を作曲家に正確に分配することは容易に行えるだろう。しかし、テレビやラジオで流れた分の金額が、きちんと分配されないという問題が指摘されている。

なぜこういったことが起きるかというと、「包括契約」に伴う「サンプリング報告」が原因だ。

まずは「包括契約」について。1曲ごとに使用料を計算していては、放送局にとってもJASRACにとっても手間が膨大になる。そのため「年間いくら」という形で、JASRACは放送局から包括的に使用料を徴収している。

次に「サンプリング報告」について。これは「特定のサンプリング期間における楽曲の使用状況から、年間の使用状況を割り出す」という方法だ。この方法を採用している理由もやはり、手間が膨大になるのを防ぐためだ。放送局のサンプリング報告をもとに、JASRACは使用料を計算する。

参考URL
「主な利用形態ごとの許諾・請求・分配のしくみ>放送」(JASRAC公式サイト)
http://www.jasrac.or.jp/bunpai/broadcast/detail1.html

こういった状況のため、もし運悪くサンプリング期間中に曲が使用されなければ、いくら他の期間で曲が使われても、使用料が入ってくることはなくなってしまう。

放送局だけではなく、ライブハウスもサンプリング方式を取っている。このため、ライブで曲が演奏されていても、やはり作曲家に使用料が入らないケースが出てくる。

 使用料が妥当なのか判断しづらい

ここでようやく、最近話題になっている「レッスン料の2.5%を、大手音楽教室から一律で徴収する」という話。

「そもそもレッスン料の2.5%は妥当なのか?」という話になってくるし、例えば著作権切れのクラシック曲ばかり題材にしているピアノ教室では、どう考えても徴収の対象にするのはおかしい。このあたりもやはり、手間の煩雑さを避けるための「どんぶり勘定」が問題になっていると感じる。

個人的な意見だが、音楽レッスンでは使用料は一切取らなくてもよいと思う。さすがに「営利目的の演奏」とするには無理がある気がするので。徴収するにしても、きちんと曲を使った分だけ逐一取る形式にして、クラシックのレッスンからは取らないようにするべきだろう。

JASRACサイドが改善できそうなこと

楽曲の使用状況を正確にする

サンプリング報告によってデータの不確実性が出てくるのだから、全曲報告が主流になるようにできないか、模索していくべきだろう。JASRACの公式サイトにも以下のような記述がある。実現すれば、各方面に良い影響があるのではないかと考える。

>最新の技術を利用することにより全曲報告が以前に比べ少ない労力で可能になりつつあります

「主な利用形態ごとの許諾・請求・分配のしくみ>放送」(JASRAC公式サイト)
http://www.jasrac.or.jp/bunpai/broadcast/detail1.html

 一般の人からも理解が得られるようイメージアップに務める

「作曲家からの不当な中間搾取で飯を食っている銭ゲバ組織」。JASRACに対して、そんなイメージを持っている人も多いと思う。もちろん、この記事で説明してきた通り、それは正しい理解ではない。

僕自身も、音楽の仕事をするまではあまり良いイメージは持っていなかった。しかし著作権の勉強をし、今ではその必要性をきちんと理解しているつもりだ。

おすすめの書籍

最後に、音楽著作権に関して非常に良く解説されている本を紹介する。

 

よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編

 

音楽著作権ビジネス全般についてわかりやすく丁寧に書かれている、素晴らしい一冊だ。JASRAC音楽出版社が何をしている組織なのかも、これを読めば理解できるだろう。少しボリュームがある本だが、イラスト(マンガ形式)や図も多く読みやすい。読み終えたときにはJASRACに対する見方も変わってくると思う。

最後に皆さん、ネットのまとめサイトに惑わされず、きちんとメディアリテラシーを持ってニュースを読み解いて行ってください。

よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 4th Edition

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