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作曲家・ミュージシャンのための部屋探しを考える【楽器・歌・DTM】

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はじめに

音楽家は、音を出さなきゃ始まらない。作曲家は音楽を作るためにスピーカーで音を鳴らす。演奏家は楽器を演奏して音を奏でる。

だけど、気軽に音を出せる環境は簡単には手に入らない。僕も昔、部屋探しで苦労したことがある。楽器可物件にするかどうか、防音室を入れるかどうか、家賃はいくらになるのか。考えることが多いし、人によって適した環境も変わってくる。

今回は、音楽家のための部屋探しについて記事を書いてみる。集合住宅の賃貸物件で音を鳴らすためにはどうすればいいのか。楽器の音圧レベル等の具体的なデータも交えつつ、部屋探しの際に把握しておくべきポイントについて、僕の経験をもとに紹介していくので参考にしてほしい。

自分の楽器(歌・スピーカー)の音圧レベルを把握する

まずは、自分の楽器(歌・スピーカー)の音圧レベルを把握する必要がある。主な楽器の音圧レベルについては、色々なサイトで詳しくリストアップされている。

こういったサイトをじっくり読み込んで、自分が出そうとしている楽器(歌・スピーカー)が、どの程度の音圧レベルなのかをまず把握してほしい。

音圧レベルを測定できるスマホアプリもある。測定の正確さは業務用機器には及ばないかもしれないが、データが無いよりはずっと良いので測定してみよう。

デシベル X - dBA デシベルテスター (iPhoneアプリ)

スピーカーの音圧レベル

スピーカーは音量を好きなように変えられるので、正確に音圧レベルを定義することは難しい。

そこで、作編曲・ミックス等の作業でスピーカーを使う上で、どの程度の音圧レベルが必要なのか、私見を述べておきたい。個人的には80dBA SPL程度の音圧レベルがあれば、ミックス作業を行う上でも困らないと感じる。少なくとも「モニター音量が小さすぎて、ミックス作業に支障が出る」ということはないはず。

プロエンジニアが業務スタジオでミックス作業をしている様子を見ていると、もう少し大きな音を出していることが多い(90dBAは出ていると思う)。ただ、作曲家の自宅作業では、それよりも小さい「長時間聴いていても疲れない音圧レベル」に慣れるのが良いと感じる。そこで、80dBA SPLを目安に考えていきたい。

そして、この80dBAという騒音レベル。「作りのしっかりした鉄筋コンクリート造(以下RC造)のマンションなら、音が漏れない or 生活音レベルの音漏れで済むこともある」という絶妙なラインだと思う。楽器可物件でなくとも作業が可能になるかもしれないので、物件を選ぶ際はじっくり検討する必要が出てくる。

ボーカル(ポピュラー音楽系)の音圧レベル

ボーカリストの声量次第で大きく変わってくるだろうが、少なくとも90dBA程度は発生すると考えたほうがいい。さすがにこのレベルになってくると、作りのしっかりしたRCマンションであっても、音漏れが発生してくる可能性がある。

自宅で本格的に歌う必要がある場合、楽器可物件にするか、楽器不可物件なら防音室の導入も検討する必要がある。

アコースティックギターの音圧レベル

ボーカルより少し小さい、80~90dBA程度の音圧レベルとなる。大きめの音でストロークをすると90dBA程度は出てくる。指弾きのアルペジオとかならそこまで大きくなく、70~80dBA程度だろう。

思いっきりアコギを演奏することを考えると、楽器可物件にするか、防音室の導入が必要になってきそうだ。

グランドピアノの音圧レベル

90~100dBAは出ている。ffで強く弾くと相当音が大きいので100dBA以上出ているかも。

賃貸住宅の場合、多少なりとも音は漏れると思われるので、楽器可物件にすることは必須だと思われる。もちろん防音室導入という手段もあるが、楽器のサイズが大きいので割高になりそう。

その他の楽器の音圧レベル

金管楽器(トランペット)、打楽器(ドラム)、アンプを通したエレキギター。こういった楽器は非常に音が大きい。音圧レベルでいうと、100dBAはゆうに超えてくる。そのため、高い防音性能が必要になってくる。

※ギターアンプは音量調整が可能だが、真空管アンプの場合、良い音を出すにはある程度大きく鳴らす必要があるため、ここで取り上げる。

特に、低音の音漏れを防ぐのは物理的に難しいということもあり、集合住宅でドラムが叩ける物件を探すのは難しい。

※楽器可物件であっても、打楽器は禁止されていることが多い。

部屋の遮音性についての基礎知識

必ずRC(鉄筋コンクリート)造の部屋にする

音を出すことを考えるのであれば、鉄筋コンクリート(RC)造の物件にすること。

構造 遮音性能
木造 低い
鉄骨造 低い
RC(SRC)造 高い

木造や鉄骨造だと遮音性能が低いので、RC造にするのは必須。多少駅から離れていようが、築年数が経っていようが、家賃が高かろうが、田舎にあろうが、RC造にするのは必須。音楽のためには決して妥協してはいけない要素なので覚えておきたい。

RC造でも壁の遮音性には注意

RC造のマンションであっても、2部屋を1セットで作り、後から遮音性の低い素材で壁を付け足しているようなこともある。1K物件などではこういった仕様になっていることも多いが、こういう部屋は、当然となりの部屋に音漏れが発生しやすい。

部屋を内見する際は、必ず壁を叩いてみて素材をチェックしよう。コツコツとした、音が響かない硬い素材ならコンクリートなのでOK。「ボン」と音が響く場合は、遮音性の低い素材の可能性があるので注意。

裏側に響くような高い音がなったら、コンクリート壁ではなく、石膏ボードなど、防音性が低い壁である可能性があります。

出典:騒音トラブルを回避するための防音性がある賃貸物件を見分けるポイント  | 住まいのお役立ち情報【LIFULL HOME'S】

低音の遮音には限界がある

物理的に考えると、低音ほど波長が長くなるので、他の障害物にぶつからずに進んでしまいやすい。そういったわけで、低い音ほど遮音するのが難しい。ヤマハのサイトで防音室の帯域ごとの遮音性能が紹介されているが、やはり図を見ると低い帯域ほど遮音性能が低いことが分かる。

ヤマハ | AMCC08H - 定型タイプの防音室 - 特長

上のほうで「集合住宅ではドラムを叩ける物件を探すのが難しい」と書いたが、その理由としては、ドラム自体の音圧レベルが高いというのもあるが、バスドラムの低音を遮断するのが難しいというのも大きい。

楽器可物件について知っておきたいこと

音楽大学の近くによくある

「楽器可物件」とは、部屋での楽器演奏が許可されている物件のことだ。潜在的な需要が高いせいか、音大の近辺では物件を探しやすい。

防音性能はまちまち。音漏れの度合いもケースバイケース

「楽器可物件」と表示されていても、防音性能は物件ごとに異なっている。

  1. 本格的に防音している物件(家賃がとても高額)
  2. 軽く防音している物件(音大近辺に多い)
  3. 特に防音対策はしていない物件(オーナーの裁量で「楽器可」に)

2のタイプの部屋は、2重サッシ&全面コンクリート壁など、簡易的な防音がされている。そのため普通の部屋よりは遮音性が高いが、他の住人の演奏した音が漏れてくることも多い(これを「お互い様物件」と呼ぶ)。一応、気兼ねなく音を出すことはできる。

問題は3のタイプ。防音性能が低いのに大きな音の楽器をOKしているような物件だと、楽器可といえど苦情が来てしまう可能性が出てくるし、逆にこちらが騒音に悩まされてしまうかもしれない。

そんな状況を避けるにはどうすればよいか。正直住んでみるまで分からないことも多いし、運の要素が大きい。ただ、間違いなく言えるのは、音漏れの大きさは、

  • 部屋の遮音性
  • 他の住人が出す音の大きさ

この2点を元に決まるということだ。そこで、できる限りの対策をするため、僕は次の2項目を意識している。

1. 防音性能を把握する

1つ目は、部屋の防音性能に関する情報をなるべく集めるようにすることだ。まず、木造や鉄骨造を除外して探すことで、最低限の遮音性は確保できる。

それから、きちんと不動産屋さんに話を聞き、

  • 壁の厚さ・材質(コンクリートかどうか)
  • 「体感的な音漏れの度合い」はどの程度か
  • 住人から騒音への苦情が発生することはあるか

こういった生の情報を得るようにするのが大事。

2. 演奏可能楽器を把握する

2つ目は、どういう楽器が許可されているのかを把握することだ。打楽器やギターアンプが許可されているような物件だと、並の防音性能では多少の音漏れは避けられない。

部屋の防音性能が大したこと無さそうな場合は、音圧レベルの高い楽器が許可されているようなことがないか、きちんとチェックする。

演奏時間のルールが明確に定められているか確認する

演奏可能時間がきちんと定められているかは大事なポイント。例えば「9~21時まで楽器演奏可能」というルールがあれば、少なくとも深夜に騒音に悩まされることはない。

「常識的な時間帯で」のようなあいまいな表現だと、人によって解釈が変わってしまうので、次のような不利益を被る可能性が出てくる。

  • 本当は20時くらいまで演奏したいのに、18時までに制限されてしまった
  • 土日は9時まで寝ていたいのに、隣人の早朝練習に起こされてしまう

集合住宅の楽器可物件だと、防音性能をどれだけ高くしていても、少なからず音漏れの可能性は出てくる。そんな状況では、演奏可能時間を明確に決めておくほうが、入居者にとっては断然メリットが大きいと僕は考える。

宅録(マイク録音)する人は少しリスクもある

マイク録音をする場合、周囲からの音漏れがあるような環境では、音漏れの度合いによっては録音に支障が出ることもある。

歌やアコースティックギター、バイオリンなどは、マイクで録音をする必要がある。こういった楽器を自宅で録音する人は注意が必要だ。仕事で宅録をする必要がある等、確実性を求める場合は防音室を導入すべきだろう。

なお当然だが、ライン録音の場合、音漏れは全く問題にならない。アンプシミュレーターを使ったギターや、DI直のベースはラインで録音することになるので、多少音漏れがある部屋でも録音に支障は出ない。

※とはいえモニタリングの音や、プレイヤーの集中力への影響はある。静かな環境のほうが良いのは言うまでもない。

防音室(防音ブース)について知っておきたいこと

静かな環境を確実に得られる

静かな環境を確実に得られるというのは、防音室を導入する最大のメリット。楽器可物件のように、隣人の騒音が原因で録音に支障が出るようなこともない。

人を招いて録音をするような場合は、特に役に立つ。もし防音ブースを使わずにゲストと同じ部屋で録音する場合、次のような手間が発生してしまう。

  • ノイズが入らないよう部屋のエアコンを切る必要がある
  • モニタースピーカーの音を消して、自分もヘッドホンでモニターする必要がある

防音室があればそんな煩わしさからも解消される。

大きくて場所をとる

※一部例外あり(後述)

人が中に入るためのものだから当然だが、防音室は自宅に置くとかなり大きく感じる。高さもあるので、狭い部屋だと圧迫感は出てくる。また、使っていないときは、防音ブースのある場所はデッドスペースになりがち。東京近郊など、地価が高い地域に住む場合は少しもったいない。

※東京では、1畳の家賃単価は約5千円もある(少し古いデータだが)。
→ 総務省統計局サイト(借家の家賃・間代)

また、ヤマハのアビテックスなどの一部の防音室は、解体するのにもお金がかかる。

防音部材は重量が重く、安全面及び遮音性への考慮から、解体組立は全て専門業者で作業させていただいております。

出典:お引っ越し・移設について

 引っ越し時に防音室を運搬することなども考えると、「防音室を導入するための潜在的なコスト」は、意外と高いのかもしれない。

暑い(エアコン無しタイプの場合)

※一部外あり(後述)

防音ブースの中は狭い上に気密性が高いので、熱がこもりやすい。そのため、夏場は演奏者やボーカリストが大変かもしれない。電話ボックス状のブースで歌を録っていたことで有名なPerfumeのメンバーも、次のように語っている。

―その後は中田さんスタジオのブースも広くなりましたよね。歌いやすくなりましたか?
かしゆか: 暑さが無くなったというか、電話ボックスがすごく暑かったんですよ。(中略)
のっち: 電話ボックスは空気がこもって結露するくらいだったよね。

出典:サウンド&レコーディング マガジン 2018年10月号

熱中症になってしまってはレコーディングどころではないので、

  • あらかじめブースがある部屋をエアコンで冷やしておく
  • 休憩(換気)の頻度を多めにする
  • エアコン付きのブースを導入する

このように気を配る必要が出てくるだろう。

録音するたびに防音室に入る必要がある

普段、防音室の外でDAW作業をしているという前提で話をする。自分の演奏(or 歌)を録音することを考えると、ブースは意外と不便だ。なぜなら、ブースの中からPCを操作する必要が出てくるからだ。何かしらPCを遠隔操作できるようなデバイス(タブレット等)は必要になってくる。

自分の演奏を録音するなら、正直ブースを使わないほうが手軽だし手間がかからない。「宅録界のマスター」とでもいうべき存在の冨田ラボ氏も、自身のアコギ演奏に関しては、PCが操作できる部屋で、普通にマイクを立てて録っているようだ。


※4:23~くらい

主にゲストを録るのか、自分を録るのか。この違いによって、ブースの存在価値も大きく変わってきてしまうだろう。ゲストを録る機会が少ないせいで、結局ブースが無用の長物になってしまった……そんな展開も想像できるので、導入の際は事前にじっくり検討したい。

また、宅録環境が昔より安価に用意できるようになったこともあり、現在は少なくともデモ段階(仮歌など)の録音は、奏者やボーカリストが自宅で録音してデータ納品をすることが主流となりつつある。そのため作曲家の立場で考えた場合、作業場にブースを導入することの価値は、昔よりも低くなっているといえそうだ。

主な防音室(防音ブース)について

別途記事を用意したので、そちらを参照してほしい。

上記記事でも紹介しているが、ISOVOX Isovox 2という「頭部のみのボーカルブース」もある。歌録りにしか使えないが、「暑い」「大きい」というデメリットを解消できる画期的な商品となっている。歌を録る必要がある人は、部屋を探す前にチェックしておくとよいだろう。

具体的な4つの選択肢

はじめにも書いたが、どのみち遮音性は大事になってくるので、楽器可物件かどうかに関わらずRC造の部屋を選ぶことは必須だろう。それをふまえて、

  1. 楽器可にするかどうか
  2. 防音ブースを入れるかどうか

この2点について考えていく必要がある。選択肢は4パターンある。

1. 楽器可物件×防音ブース無し

  • 自宅で自分の歌や演奏をたまに録音する作曲家
  • 自宅でゲストの仮歌等を録音することはあるが、本番の録音はしない作曲家
  • ステージで仕事をしている楽器の演奏家・シンガー

こういった人に適した環境といえそうだ。

メリット

許可された上で音を出せるというのは、精神衛生上良い。あと、移動できる楽器(ギターやバイオリンなど)の場合、部屋のどこにいても音が出せるので、狭いブースの中で演奏するのと比べて断然快適。

録音に関しても、ブースを使わずにマイクを好きに立てて録音できる分、スピーディーな作業が可能。ブースがない分部屋も狭くならないので、広い部屋に住む必要もない。

デメリット

楽器可物件の多くは「お互い様物件」なので、音が漏れてくる可能性もかなり高い。これがデメリットだ。

音漏れの大きさや、音漏れが発生している時間帯はケースバイケース。レコーディング向けの静かな環境が得られるかどうかは、運次第だ。音漏れが大きい場合、「静かな時間帯・曜日を狙って録音する」という工夫が必要になってくることもある。

ゲストを招いて録音をする場合、隣人の音漏れによって録音に支障が出るリスクがある(仮歌等ならさほど問題ないだろうが)。

2. 楽器不可物件×防音ブースあり

  • 自宅でゲストの歌や演奏を録音することが多い作曲家
  • 宅録で仕事をしているシンガー・演奏家

こういった人に適した環境といえそうだ。

メリット

まず、楽器不可でもRC造の遮音性の高さがあるので、隣人に迷惑がかからない範囲でスピーカーを鳴らせる可能性は高い。そして、RC造が持つ元々の遮音性に加えてブースの遮音性がプラスされることになるため、普通の楽器可物件と比べて、音の大きな楽器を鳴らせる可能性も出てくる。ボーカル程度の音量なら、24時間録音をすることができるかもしれない。

作曲家の立場で考えると、「ゲストを招いて録音する」という作業がやりやすいのが嬉しい。「モニタースピーカーで演奏を聴きつつ、ブース内部のゲストにディレクションする」という伝統的な録音スタイルを取ることができる。エアコンを切ったり、自分自身がヘッドホンをする必要もない。

宅録するシンガーや演奏家にとっても防音室を導入するメリットは大きそうだ。時間をあまり気にせずに、静かな環境で演奏を録音することができる。仕事で録音をする必要があるミュージシャンならば、防音室導入の優先度は高いだろう。

なお余談だが、ブースの中にマイクとPC、オーディオインターフェイス一式をセットしておくという方法もある。多少広めのブースが必要になってくるが、ブースの中で作業が完結するため、前述の「遠隔操作」の煩わしさからも解放される。宅録に特化したボーカリスト等にとっては、検討すべき選択肢だろう。

デメリット

演奏は防音ブースの中で問題なく行えるが、モニタースピーカーはブースの外で鳴らすことになる。楽器不可物件なので、もし「スピーカーの音がうるさい」と苦情が入った場合は対策する必要が出てくる。部屋の遮音性次第ではスピーカーで満足に音を出せない可能性も出てくる。

また、ブースに関してだが、仮にボーカルが録れる程度のブースを入れる場合、1畳程度のスペースが塞がることになる。ブースのスペースを確保するために、少し広めの部屋を選ぶとなると、その分家賃も高くなる。ブース導入の費用も考えると、楽器可物件を選ぶのとコスト的に大差なかったりする。

3. 楽器不可物件×防音ブース無し

  • 自宅でマイク録音をする機会がない作曲家
  • 気軽に引っ越しができる人(フットワークが軽い人)

こういった人に適した環境といえそうだ。

メリット

コストが低くて済むのがメリット。RC造の部屋なら元々の遮音性が高いので、スピーカーで音を出せる可能性も高い。自宅でマイク録音をしない人には良い選択肢だろう。生楽器や歌が必要になったら、宅録環境があるミュージシャンに外注して乗り切ることも今の時代なら十分可能。

デメリット

デメリットはパターン2と同じで、「スピーカーの音が他の部屋に漏れた場合、苦情が入る可能性がある」ということ。

4. 楽器可物件×防音ブースあり

メリット

楽器可物件が持つ遮音性の高さに加えて、防音室の遮音性も加わることで、よりレベルの高い防音が可能になるというのがメリットだ。音の大きい楽器(金管楽器・打楽器・ギターアンプなど)を鳴らせる可能性も出てくるし、そうでない楽器を演奏する場合でも隣人への音漏れを完全に排除できるという効果が期待できる。

プロギタリストの渡辺香津美氏は「楽器可物件にアビテックスを入れている」とインタビューで語っている。

もともとこのマンションは、防音性のある 「ピアノ可」の集合住宅なのですが、我々は音を出すのが商売ですから、逆に音のことで周囲にご迷惑をかけたくないという気持ちがあります。そこでこの際、 防音室にして万全を期そうということで、アビテックスを入れることにしました。

出典:ヤマハ | ギタリスト 渡辺香津美さん - アーティストインタビュー

フリーサイズの11畳ということで、防音工事の代わりにアビテックスを使っているような状況。万全を期すにはこのような方法もある。

デメリット

楽器可物件にした上でさらに防音室を入れることになるため、どうしても割高になってしまう。「防音室を入れるなら、楽器可物件にする必要ないのでは?」と言われればそれまでだし、コストパフォーマンスの観点から考えると今ひとつ。

結局どうすればいいのか

僕の結論

何だかんだで楽器可物件で探すのがスムーズだし、コスパが高いと思う。自宅で本番のマイク録音をしないなら防音ブースは要らない。それに作曲・アレンジ・ミックス・ギター等のライン録音・仮歌録音など、音楽制作の大部分の作業は問題なくこなすことができる。

そもそも「楽器不可だけど遮音性が高い」という物件は、意外と探すのが難しい。僕も昔さんざん探したが、東京近郊の単身者物件の場合、家賃が10万円未満程度だと、RC造でも「片側がコンクリートで、片側が石膏ボード」という部屋が多かった。壁の材質がどのようになっているかは、内見時に壁を叩いて音を確認してみるまでは分からない。そのため、地道に足で物件を探す場合は、時間や交通費といったコストがかさみがち。

※特に遠方に引っ越すような場合、無駄な内見はなるべく避けたい。

だけど楽器可物件なら、家賃が同程度でもすべての壁がコンクリート壁になっていることが多かった。同じ家賃なら「楽器可」を明示している物件のほうが、「遮音性が高そうな物件」の割合は大きい印象だ。

もっとも、これは僕の体験談に過ぎないし、2LDKとかのファミリー・カップル向け物件だったり、単身者向け物件でも家賃が高ければ、話は変わってくる可能性もある。あくまで参考までに留めておいてほしい。

プロのインタビュー記事を読んで情報収集する

雑誌やWeb記事などで、ミュージシャンのプライベートスタジオが紹介されることがある。そのときに「音が満足に出せない環境だったので引っ越しました」的なことを語っている人がしばし出てくる。物件の仕様についても話していたりするので、部屋探しをしたい人にとっては貴重な情報だ。

※ちなみにサンレコ2013年1月号ではそんな話をしている人が複数いた。僕にとっては役に立つ情報だった。→ サウンド&レコーディング マガジン 2013年 01月号 (Amazon)

おわりに

良い物件に出会えるかどうかは、運に左右される部分も大きい。だけど、良い物件を探すための努力はできる。

楽器の音圧レベルと部屋の遮音性について徹底的に勉強して、できる限りの情報を集めて真剣に部屋を探せば、良い物件に巡り会える確率も上がるだろう。

一人でも多くの人が、快適な音楽ライフを送れることを願っています。

防音室を徹底比較!遮音性能は?どれを選べばいいのか?

はじめに

家で歌ったり楽器の演奏をしたりする場合、「近隣の住民への音漏れ」のことを考える必要が出てくる。特に楽器の演奏家や、自宅録音をする作曲家やボーカリストにとっては、騒音問題は悩みのタネだろう。

そんな問題を解決する方法の一つが、防音室(防音ブース)を導入することだ。防音室を導入すれば、手っ取り早く、家の中に「音を出せる空間」を作ることができる。楽器可物件に引っ越したり、部屋を防音工事したりする必要もない。

各メーカーが様々なタイプの防音室を発売している。今回は各種防音室を比較してみる。

VERY-Q

概要

VERY-Q(ベリーク)は、「吸音素材でできた壁」を組み合わせて作られている防音室だ。

VERY-Q 公式サイト

初代VERY-Qが発売されたのは、2010年末頃(僕調べ)。その時はまだ、吸音に特価しているだけのブースだった。そして2013年8月頃、ユーザー待望の、遮音性能をパワーアップさせた「防音タイプ」のVERY-Qが新しく発売された。

型番的には、次のようになっている。

  • 「VQ/HQ」シリーズ:吸音タイプ
  • 「VQP/HQP」シリーズ:防音(+吸音)タイプ

なお、あまりアピールされていないが、VERY-Qは宮地楽器が展開している商品のようだ。

遮音性能は-18dB(吸音版)/-30dB(防音版)

VERY-Qの遮音性能は、-18dB(吸音タイプ)/-30dB(防音タイプ)となっている(1kHz以上の音で)。

ちなみに吸音タイプのほうはユーザーの方のレビューがあり、遮音性能はスペック通りといった様子だ。

-20db程度といったところでしょうか。
出典:nit房 VERY-Q導入  

音場はデッド気味

吸音パネルを組み合わせて作っているのだから当たり前だが、デッドな響きになっているようだ。このため、ボーカル録音ブースとして使うのにうってつけだろう。

パネルの下にケーブルを通せる

素材が柔らかいので、ケーブルをパネルの下に通すこともできる。

素材の布は柔らかくお部屋や機材を傷つけずケーブルをパネルの下に這わせることも可能です
出典:VERY-Q HQP960 Booth Set|宮地楽器:ららぽーと立川立飛店

確かに画像を見ても、底面パネルと側面パネルの隙間に、マイクケーブルを通していることが分かる。ケーブル用にわざわざ穴を開けたりしなくて済むのは非常にありがたい。 

VERY-Q VQ910 Vocal Booth Set(吸音タイプ)

VERY-Q HQP960 Booth Set(防音タイプ)

ヤマハ セフィーネ(アビテックス)

概要

ヤマハの防音室は「アビテックス」という名称で商品展開されている。※電子オルガンを「エレクトーン」、電子ピアノを「クラビノーバ」と呼ぶのに似ている。

そして、アビテックスの中でも、

  • 定型タイプ(大きさが○畳と決まっている)
  • 素材が不燃仕様ではない

これらの条件に当てはまるものが「セフィーネ」と名づけられていて、ヤマハの防音室の主力製品となっている。

YAMAHAセフィーネ 公式サイト

遮音性能はDr-35 or Dr-40

遮音性能は、Dr-35、Dr-40の2つから選ぶことができる。他の防音室と比較すると、遮音性能は高い。※DR-35:外への音漏れを35dBだけ減らすことができる遮音性能(500Hzの帯域が基準)。

(参考):[セフィーネNSの遮音性能]

音響は自然な響き

セフィーネは楽器の音が心地よく響くような、自然な音場をしているようだ。※オプションでデッドな状態にすることもできるようだが。

というわけで、録音よりも練習に向いてそう。

エアコン付きは1.2畳から

0.8畳サイズはエアコンを取り付けることができません。
出典:ヤマハ | エアコン取付について

とのことで、1.2畳以上じゃないとエアコンは付けられない。夏場などは、防音室の中が暑くなりやすい。エアコン無しで長時間の使用を続ける場合は、こまめな換気が必要になってくる。

組み立て/解体は専門業者が行う

組み立てや解体は、専門業者が行う必要がある(ことになっている)。

防音部材は重量が重く、安全面及び遮音性への考慮から、解体組立は全て専門業者で作業させていただいております。組立に必要な器具又は資料のみのご提供はいたしかねますので、予めご了承ください。
出典:ヤマハ | お引っ越し・移設について

また、解体費用・運搬費用もけっこう高い。

ヤマハの防音室、アビテックス1.5畳タイプを解体撤去しました。(中略)費用・・・9万円(税込)
出典:相模原市中央区で防音室1.5畳(アビテックス)の解体処分

ヤマハに解体・搬送・組立一式を依頼するパターンと解体・組立だけの2パターンの見積り依頼。(中略)一式依頼時は18万+税、解体・組み上げの依頼で9万+税
出典:アビテックス セフィーネII の防音室解体日 

なのでアビテックスを導入する際は、組み立て・解体の費用のことも考えておく必要が出てくるだろう。「導入したはいいが、結局使わなくなった」という状況は避けたい。

ケーブル穴は無い

セフィーネには、「ケーブル用の穴」は空いていない。録音ブースとして防音室を使う場合、自分でケーブル穴を開ける必要がある。実際に穴を開けて使っている方もいるようだ。

レコーディング用に、配線を通す穴も開けてもらいました。
出典:STUDIO KENT2.0 - アビテックス設置

レンタルでアビテックスを使う場合、もちろん勝手に穴は開けられないので注意。ヤマハの「音レント」などを利用予定の人は気をつけたい。

価格は高め

他の防音室に比べると、値段はだいぶ高め。遮音性がDr-35と高いことに加えて、ブース内部の調音もきちんと考えられており、本格的な仕様となっている。

ISOVOX Isovox 2

概要

「近所迷惑にならないよう、布団を被って歌ってました」。こんな下積みエピソードを語る歌手はよくいるが、このISOVOX Isovox 2はそんな状態を洗練させ、実用レベルまで高めた上で製品化してしまったようなユニークな商品だ。

 ISOVOX 2 国内公式サイト

Isovox 2は頭部のみを包むようなブースだ。中にマイクをセットできるので、ボーカル録音に使うことができる。軽い遮音と吸音を同時に実現しつつ、録音できる空間を作り出せるようになっている。

この製品は他のブースタイプの防音室とは違って、使用時はボーカリストの首から下の部分が外気に触れることになる。そのため、夏場のレコーディングなどでありがちな「ブースの中が暑くてしんどい」という状況を、ある程度解消できるようになっている。

Isovox 2はもちろんボーカル専用だが、「歌しか録らない」という人も多いので、意外と需要が高そうな商品だ。

遮音性能は-20~-30dB

サンレコの商品レビューによれば、遮音性能は-20~-30dBのようだ。

感覚で大体10~20dB程度、計測アプリを使ってみたところ20~30dB程度の音量差があることが分かりました。
出典:「ISOVOX Isovox 2」製品レビュー:不要な室内反射を防ぎ自宅でも録音を可能にするボーカル・ブース

また、海外の楽器店によると「最大で-35dB」という情報もある。

Practise and record professional vocals at home with up to -35 db in soundproofing
出典:Isovox Mobile Vocal Booth V2 – Thomann UK

いずれも公式の数値ではないので信憑性は未知数だが、それなりに遮音性能はありそうな雰囲気だ。

公式の製品紹介動画でも「近所迷惑を気にせずに歌えます」的なことを言っている。

余談だが、中田ヤスタカ氏も、この製品には関心を示しているようだ。

多分、今だったらISOVOX Isovox 2を使っていると思うんですよ。(中略)体は涼しいから、あのときにIsovox 2があったら買っていたと思いますね。
出典:サウンド&レコーディング・マガジン 2018年10月号

なお、別途PAスタンドが必要なので、予算に組み込むのを忘れずに。

だんぼっち

概要

だんぼっちは、ダンボール製の簡易的な防音室だ。「歌唱動画をニコニコ動画に投稿する」という、いわゆる「歌ってみた文化」の需要から誕生し、製品化されたという経緯がある。

だんぼっち 公式サイト

開発はメーカー主導ではなく、有志の人のようだ。自作防音室を元に、ダンボールメーカーの協力を得て、商品レベルに改良されていった。そんな経緯もあってか、他の防音室に比べて安価に手に入れることができる。

遮音性能は-30dB(公称)

遮音性は500Hzの帯域で、-30dB程度。カタログスペック上は、意外にもしっかりした防音性能を誇っているようだ。

(参考):だんぼっち 特徴

ただ、Amazonレビューを見る限りだと「音が漏れる」という報告も多く、実際に「VERY-Qの防音タイプ並の防音性能」があるかどうかは分からない。

また、ダンボール製なので、音響特性はそこまで考えられているわけではない。吸音などは自分で行う必要がありそうだ。※専用の吸音材(「だんぼっち専用公式吸音材」)も売られているようだ。 

組立式 簡易防音室 だんぼっち

インフィストデザイン ライトルーム

概要

ライトルームは、布製の簡易吸音ルームだ。

ライトルーム 公式サイト

キャンプで使うようなテントみたいな形になっていて、ファスナーを開けて人が中に入るような構造になっている。吸音・防音性能をアップさせた「ライトルームプラス」もある。

遮音性能は-15dB

遮音性能は、「ライトルーム」「ライトルームプラス」ともに、Dr-15。ソファで使われるような布の生地で出来ているということもあってか、遮音性能は高くない。あくまでも簡易的なブースという位置づけだ。 

インフィストデザイン ライトルーム

結局どれがいいのか

用途次第だが、大まかな方針としては、次のような選択をするとよいだろう。

  • 録音用のブースとして使う:VERY-Q or Isovox 2
  • 楽器の演奏家が練習に使う:セフィーネ(アビテックス)
  • 予算を低く抑えたい:だんぼっち

セフィーネは響きがあるので、気持ちよく演奏するのによい。対して、VERY-Qは響きの少ない空間になるので、録音に使うのに向いているだろう。ボーカル録音にしか使わないのであれば、Isovox 2がベストだ。

僕の用途としては録音で使うことが多いので、VERY-Qの防音タイプがファーストチョイスになりそうだ。総合的に考えて、今回紹介した中では一番オススメできる商品だと思う。

【レビュー】Focusrite Scarlett 6i6 G2は安いのに高音質。コスパの高いオーディオインターフェイスです

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はじめに

Focusriteのオーディオインターフェイス「Scarlett 6i6 G2」を紹介する。主に音楽の再生用として使っているため部分的なレビューとなってしまうが、安価な製品とは思えないような音質の良さに驚いたので記事にしてみる。

簡単なスペック詳細

  • アナログ4入力(2入力はXLRコンボでMic/Line/Inst切替可、2入力はTRSフォン)
  • アナログ4出力(TRSフォン)
  • デジタル入出力(S/PDIF)
  • ヘッドフォン端子2つ(TRSフォン)
  • MIDI入出力1つずつ
  • USB接続

Scarlett 6i6 G2の良いところ

安いのに音が良い

「音が良い」というのは、個人の主観に大いに左右される話でもある。ただ、音質に影響を与えるAD/DAの部分については、昔よりも高品質なチップが安いコストで搭載できるようになってきている、そんな客観的事実もあるのだ。

具体的に見てみよう。Scarlett 6i6 G2の下位機種(※入出力数が違うだけ)に、Scarlett 2i4という製品がある。これに搭載されているAD/DAコンバーターのチップは「CS4272」だ。

(参考)bo: Focusrite Scarlett 2i4 inside.

上位機種のScarlett 6i6 G2にも、同等以上のチップが搭載されていると考えるのが自然だろう。そして、この「CS4272」というAD/DAのチップは、Apogee Ensembleに搭載されていたAD/DAと同じチップだ(確定情報ではないが)。

(参考)Audio interfaces and their AD/DA chips LISTED - Gearslutz

Apogee Ensembleといえば10年ほど前、15万円くらいで販売されていたオーディオインターフェイス。当時プロミュージシャンの愛用者も多く、文字通りプロユースのオーディオインターフェイスといえる製品だ。

もちろんAD/DAだけではなく、他の要素(クロック、アナログ回路、電源など)も音質には影響してくる。だが、このクラスのAD/DAを積んでいる機種が安価に手に入るというのは、当時を知る者としては信じられない感覚だ。

もっとも、これはたぶんScarlettシリーズに共通している話で、もっと言えば最近のオーディオインターフェイスの多くに当てはまる話かもしれない。ただ、10年前のオーディオインターフェイスのラインナップを考えると、今は非常に恵まれている時代だと感じる。

スタンドアローンのミキサーとして使える

コレが個人的には嬉しいポイント。Scarlett 6i6 G2は、スタンドアローンのミキサーとしても使える。PCの電源が入っていなくても、シンセやらデジピ、アンプシミュレーター等をつないで音を出すことができるので、楽器の練習や作曲をする上で非常に便利。

なお、6i6未満のScarlettのマニュアルには、「スタンドアローンのミキサーとして使える」という記述は見当たらなかったので、機能がカットされているような雰囲気だ。

S/PDIF端子が付いている

最近の安いオーディオインターフェイスにはS/PDIF端子(デジタル端子)が付いていないことも多いが、Scarlett 6i6 G2にはちゃんと搭載されている。

他の機材との連携を図る上では、S/PDIFのようなデジタルの端子があるのは心強い。例えば、将来Grace Design m905のようなDAC付き高級モニターコントローラーを手に入れたとする。S/PDIFで接続すれば、Scarlettからの出音はm905のDACの音質になるので、Scarlettという資源を活用することもできる。S/PDIFが付いていないと、こういう使い方はできない。

アナログの入出力も本格的

基本的なアナログの入出力も充実している。「TRSフォンじゃなくてTSフォン」「ヘッドホン端子がミニプラグ」みたいな、安いインターフェイスにありがちな仕様ではない。

他機種との音質比較

※完全に個人の主観となるのでご了承ください。

Echo AudioFire 4と比較

Echo AudioFire 4も、安価な割に高音質なオーディオインターフェイスだった。音質面でScarlett 6i6 G2と比較すると、出音の傾向は違えど、クオリティは同等という印象だ。

音質の傾向に関して。AudioFire 4の方は出音がクッキリしていて、解像度が高い印象。各楽器の音が分離して聞こえやすい。RME的な正確な出音という印象。

Scarlett 6i6 G2は出音がまろやかで暖かい印象。解像度が高いというよりも、各楽器が上手く馴染む印象。音楽的な出音をしているイメージ。

RME Fireface UCと比較

Fireface UCと比較しても、Scarlett 6i6 G2の音質が劣るようなことはない。24bit/48khzのwav等だとまた変わってくるかもしれないが、普段mp3で音楽を楽しむ限りでは大きな差はなさそう。

音質の傾向に関しては、AudioFire 4との比較と全く同じ。Fireface UCは解像度の高い出音。Scarlett 6i6 G2は暖かい出音をしている。

Echo AudioFire4とRME Fireface UCは使っているAD/DAチップの型番も近い(AK4620系。未確定情報だが)ので、音質の傾向が近いのも頷ける。

(参考:さっきと同じ)Audio interfaces and their AD/DA chips LISTED - Gearslutz

Focusrite Controlについて

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Focusrite Controlとは、オーディオインターフェイスの入力/出力信号や、PC内部の音声信号を調整するためのミキサーソフトだ。信号のレベルや定位を調整することができる。RMEのTotalMixのような自由度はもちろん無いけど、通常用途では問題ない。

ミキサーの設定をスナップショットとして保存することも可能だ。

Focusrite Controlの注意点

スナップショットのセーブ/ロードをするときは、保存ファイルの場所に注意。ディレクトリ(フォルダ名)に2バイト文字(半角英数字以外の文字)が含まれていると、セーブ/ロードに失敗してしまうようだ。

僕の環境固有の問題かもしれないが、一応メモしておく。

その他のTips

出力レベルについて(キャリブレーション用)

最大出力レベルは+16dBu(out1/2) or 14.5dBu(out3/4)。マニュアルには記載がないが、公式サイトに書いてある。

(参考)Scarlett 6i6 | Focusrite

Scarlett 6i6 G2の出力をモニターコントローラーに通すときなど、レベルのキャリブレーションの際に知っておきたい情報だ。

Focusrite Controlでは、出力端子からのレベルは1dB単位でしか調整できないが、PC内部音声のレベルは0.5dB単位で微調整できる。なので、out3/4からの出力も上手くやればキャリブレーション可能だ。

サポートからの返事が速い

後述のクラックルノイズの件で、一度Focusriteのサポートにコンタクトを取ってみたが、すぐに返事をもらうことができた(もっとも、そのときは具体的な解決方法は得られなかったが)。

ある程度英語が得意な人なら、バグ報告などは直接送っても良さそうだ。

イマイチなところ

通電時、音が途切れる

スタンドアロンのミキサーとして使っていても、PCに接続する瞬間、再接続が行われるようで、音が途切れてしまう。

クラックルノイズが発生する@Win10(対処法あり)

2019年に入って、Windows 10を最新ビルドにアップデートしたところ、ノイズが発生するようになってしまった。iTunesで音楽を再生している最中に、ランダムに「エフェクターの"トレモロ"のようなノイズ」が発生してしまう。そんな症状だ。

実はこのノイズの件、海外ではよく報告されていて、Google検索で製品名を入力すると「crackling noise」というサジェストが出るくらい。YouTubeにも動画が上がっていて、うちとまったく同じ症状だ。

僕も最初は困っていたのだが、無事に解決できたので対処法を紹介しておく。

  • バッファサイズを短めに設定する(僕の場合128くらい)

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これだけ。これでなぜか問題なく再生できるようになった。たしかに僕は今まで、バッファサイズを512や1024で使っていた気がするが、128に下げてからは一度もノイズは出ていない。

ちなみにこの対処法は、上記のYouTubeのコメント欄で紹介されているものだ。

Hello, I was having this issue and so far this has worked: Lower buffer size! It's kind of the opposite you would think of, but I think larger buffer sizes doesn't give enough time to the internal clock source to adjust itself. Type on the Windows search bar "ASIO control panel" and lower the buffer size (I have it at 64). Maybe the explanation is wrong, but so far it's working. Hope it helps!

https://www.youtube.com/watch?v=85Y9OMJ56Tk

それを試して直った人からの感謝のコメントも複数あるので、効果的な対策法なのかもしれない。

おわりに

この価格でこれだけ充実した機能を搭載しているのはすごい。テクノロジーの恩恵を感じさせるような、コストパフォーマンスの高い製品だと感じた。

クラックルノイズの報告があったりと、ドライバの安定性はさすがにRMEには及ばない気もするが、安定動作さえ勝ち取ってしまえばこちらのもの。普段RMEのような上位機種を使っている人にも、サブ機としてオススメできるモデルだ。

GeForce GT710のブラックアウト問題で消耗した話(@WQHD液晶)

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※当記事は、一部の方のみに役立つような備忘録的な内容となっています。

はじめに

ディスプレイのブラックアウト現象に1年近く悩まされ、結局ビデオカードが原因だったという話です。誰かの参考になればと思ったので、記事にしてみます。

ビデオカードの導入~ブラックアウト発生まで

WQHD(解像度2560x1440)のディスプレイを使うために、「玄人志向 GF-GT710-E1GB/LP」というビデオカード(以下グラボ)を購入した。最も安い価格帯のグラボだが、WQHDの解像度に対応しているという理由でこれにした。

さっそく新しく買ったWQHDディスプレイを表示させてみる。大画面で快適!そう思ったのもつかの間、しばらく使っていると突然画面が真っ暗に。それから2~3秒経って、元の状態に復帰。PCはそのまま問題なく使える。なんだこれ。

調べてみると、この現象は「ブラックアウト」というらしい。人によってはPCにエラー画面が表示されたりするらしいが、僕の環境ではPCの挙動に影響はなく、再起動などの必要もない。大きな支障がないといえば、ない。

しかし僕はこの後、この症状に1年近く悩まされることになるのだった。

ブラックアウトの詳細

  • PC2台で同じグラボを使用しているが、いずれのPCでも発生する
  • グラボとディスプレイは、HDMIで接続(HDMI切替器経由)
  • 発生はランダム。1日に複数回起こることもあるが、1週間くらい起きないこともある
  • 画像を開いたり、ブラウザのタブを開いたり、グラフィックの表示が変わるような操作を行う(=グラボに負荷がかかる)と発生する
  • PCの動作自体に影響はない(アラート等も出ない)
  • 「HDMI切替器で共有している別PC」の電源を入れる(裏起動する)と、「現在表示中のPC」の映像出力がブラックアウトする(!)。しかし、HDMI切替器の補助電源(USB)をPCから抜いた状態だと、なぜかブラックアウトは起きない(電源供給の問題?)

対策したけどダメだったことリスト

グラボ周りの対策

  • グラボのドライバ更新
  • グラボのドライバの完全消去&入れ直し
  • NVIDIAコントロールパネルの設定を調整
    • 「デスクトップカラー設定の調整」を「デスクトッププログラム」に
    • 「PhysX構成の設定」を「GT710」に
    • 省電力をオフに
    (参考)NVIDIAの環境で動画を再生すると画面が真っ黒になる

その他ハードウェア周りの対策

  • HDMIケーブルの交換
  • HDMI切替器を外してディスプレイ直結でチェック
  • ディスプレイを交換(型番は同じ)
  • PC周りで使っている電源タップの交換(電源供給の改善)

ソフト周りの対策

  • OSをクリーンインストールしてWindows7 → Windows10へ
  • Windowsの省電力設定をオフに

原因究明へ

海外で有力な情報を発見

色々と対策を講じたものの、根本的な解決には至らず。僕は半ば諦めながらも、暇を見ては海外のWebで情報収集をしていた。そんなある日、海外のGeforceのフォーラムで、有力な手がかりを得る。

with resolution 1920x1200 i get random blackouts with no error
It worked fine with integrated GPU (i3-3240, Intel HD 2500).
it can be set to 1920x1080 - everything's ok

(参考)GT710 Random blackouts resolution 1920x1200

まとめると、次のような状況だ。

  • 1920x1200だとブラックアウト発生。1920x1080だと問題ない
  • オンボードグラフィック(Intel HD 2500)なら問題ない
  • ドライバ更新も効果なし
  • DVIで接続している

「解像度が普通のフルHDよりも高い」「ブラックアウトする」。僕の症状に近いものを感じた。とはいえ、GT710はスペック上は「2560x1600」の解像度まで対応している。

「最大デジタル解像度:2560x1600」

(参考)GeForce GT 710 グラフィックスカード | GeForce|NVIDIA

 それに何より、実際に僕の環境でもWQHD(2560x1440)の解像度をきちんと表示できているのだ。※たまにブラックアウトしてしまうという、一つの問題を除いては。

「解像度が高いとブラックアウトする」なんてこと、本当にあり得るのだろうか?にわかには信じられない話だった。とはいえ、他にできる対策もないし、この外国人の話も気になるので、グラボの交換を試すことにした。

検証&結論

オンボードグラフィックでの表示は、Win7のときは普段使っているソフトとディスプレイドライバの競合があって敬遠していたが、Win10にアップしてからはそれが起こらなくなっていた。そこで、グラボをオンボード切り替えてしばらく使うことにした。

その後1ヶ月以上、毎日数時間はPCを使っていたが、一度もブラックアウトが発生することはなかった。原因はグラボだったのだ!問題が発生してから解決するまで、実に11ヶ月、1年近くが経とうとしていた。

まとめてみる。

  • 高解像度で表示する場合、GT710だとグラボの性能が十分ではない(カタログスペックと実際の挙動に差がある)。

少なくとも僕の環境においては、この仮説が正しいのではないかと思っている。グラフィック周りに負荷がかかったときにブラックアウトするという条件も、グラボが原因なのであれば納得も行く。

原因は、いわゆる「相性問題」の"亜種"と言えそうだ。とはいえ、機器同士の相性ではなく「WQHDで表示すること」との相性なので、相性問題と言われても納得行かないのだが……。

ドライバに問題があるのか、それともハードウェアの設計に問題があるのかは不明。だがそれでも、僕の環境ではグラボを交換することで解決した。

なぜ解決に時間がかかったのか(反省会)

  • 同じ型番のグラボを搭載した2台のPCで、同じ症状が起きていた。だから、「グラボ-PC間の相性問題」ではないし、グラボが故障しているわけでもない。グラボが原因と考えるための判断材料に乏しい状況だった。
  • 初期は「何もしていないのにブラックアウトが起こる」という、別の要素が原因のブラックアウトも同時に起こっていた(←これはディスプレイ交換や接触不良の改善で直ったと思われる)。そのため、問題の切り分けに時間がかかった。
  • HDMI切替器を経由していたこともあり、切り分けに時間がかかった(切替器が原因のブラックアウトも多いらしい)。
  • 「高解像度のディスプレイ(特に4Kとか)ではブラックアウトは付き物」という話も聞いていた。
  • 正直「今どきの自作PCでは相性問題なんて起きない」と油断していた。

おわりに

最後に補足しておくが、レビューサイトではGT710でWQHD解像度を問題なく表示できているという報告もある。そもそもGT710はスペック上・設計上はWQHDの表示に対応している。

この記事を見て、「GT710でWQHDを使うのはダメだ」などと判断せず、あくまで個人の環境に即した現象であることを了承いただきたい。ただ、もし同じような状況で悩んでいる人がいれば参考にしてほしい。

DAWに最適な液晶ディスプレイはどれか?オススメは断然WQHDの32インチです【DTM】

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はじめに

1日の大半を音楽制作に費やす僕が、DAW作業に最適な液晶ディスプレイについて書きます。作業効率に関わってくる部分なので、適切に選びたいところですね。

考えるべきこと

1枚置き vs 2~3枚置き

DAWで作業をする場合、作業領域が広いほうが嬉しいことも多い。そこで、まずはディスプレイを1枚の環境にするか、それともデュアル(or トリプル)ディスプレイにするかを考える必要がある。

1枚のディスプレイで作業をする場合、単純にディスプレイの解像度が高ければ作業領域が広くなる。

ディスプレイを2枚以上使う場合は、それだけで広い作業領域を得ることができる。

解像度と画面サイズ

ディスプレイの解像度を考える。現在最も普及している解像度はフルHD(1920x1080)だ。また、フルHDの解像度に適した画面サイズは、24インチ程度だろう。

※実際、24インチのフルHDのディスプレイは最もラインナップが豊富。

そこで、この「フルHDの24インチ」のディスプレイを基準に、DTMで使うディスプレイを考えていくとよい。

結論:WQHDの32インチが最適

先に結論を言ってしまおう。WQHD(2560x1440)の32インチを1枚で使うのが断然オススメ(厳密には31.5インチのことが多いが)。

WQHD 32インチ

MIDIの打ち込みやエディット、プラグイン操作、録音、ミックス、譜面の確認など、多くの作業で快適に使うことができるからだ。

以下、その根拠について書いていく。

WQHDの32インチが最高な6つの理由

1. ディスプレイは1枚で完結させたほうが快適

個人的に、デュアルディスプレイはオススメしない。ディスプレイに繋ぎ目が出てしまうので、見ていて快適じゃないからだ。

それにデュアルディスプレイにする場合、一般的な16:9のワイドディスプレイを使う前提だと、どのように設置しても不都合が出てくる。

  • 左右に並べる → 幅を取りすぎ → モニタースピーカーの設置場所に困る
  • 上下に並べる → 上のディスプレイは見上げる必要が出てくる → 首が疲れる

ディスプレイ1枚では実現できないような広い表示領域が必要な場合は別だが、基本的には「高解像度ディスプレイの1枚置き」を前提に考えていくのがよい。

2. 解像度が高いと作業効率が断然高くなる

  • トラック一覧
  • ピアノロール
  • プラグイン

DAW作業では、このようなウィンドウを切り替えていく必要がある。また、複数のウィンドウを同時に表示したくなるケースも多い。したがって、ディスプレイの解像度が高ければ作業効率が上がるのは明白だ。

各々のウィンドウについても、解像度が高いことの恩恵は多い。以下で詳細を掘り下げていく。

トラック一覧

解像度が高ければ一度に多くのトラックを俯瞰できるため、より音楽の全体構造をを把握しやすい。また、解像度が高ければスクロールや拡大/縮小といった操作の頻度を減らすことができる。キー操作の回数が減れば疲労も軽減できるし、効率的な作業にもつながっていく。

ピアノロール

例えばストリングスの打ち込み作業を行う場合、MIDI CCを細かく描いたり、複数のパートを同時に表示させたりすることが多い。「1stバイオリン~チェロまでの4パートのMIDIノートを同時に表示させつつ、そのうちの1パートのMIDI CCやベロシティを表示させる」みたいなことも、WQHD程度の解像度があれば快適に行うことができる 。

strings↑WQHDの解像度にて、ピアノロールを全画面表示した状態の画像(をトリミングしたもの)

特に「縦の解像度が高い」というのは非常に助かるポイントだ。ストリングスは4~5オクターブ程度の音域に渡って音が配置されるし、おまけにCCを表示させる分、縦の解像度を消費してしまう。フルHDだとどうしても縦が足りないと感じることが多いが、WQHDだと余裕がある。

ストリングスに限らず、複数パートのMIDIを同時に表示させることが多い人にとっては、ディスプレイの解像度の高さが作業効率に大きく影響してくるだろう(一度に俯瞰できるのと、何度もスクロールしなきゃ確認できないのとでは大違い)。フルオーケストラの打ち込みをするような人にとっては、なおさら重要な要素となるはずだ。

プラグイン

最近のプラグインはウィンドウが大きいものが多い。プラグインが進化している分、表示させるべき項目も増えているからだろう。

Omnisphere 2みたいにGUIの中に複数のカラムがあったりすると、ウィンドウも大きくなりがち。狭い解像度のディスプレイでは、1つのプラグインが画面の大部分を占めてしまうようなこともある。そうなってくると、やはりプラグインの切り替え操作を多く行う必要が出てくるので、その分作業効率は落ちてしまう。

他にも、Melodyneでピッチ補正をするときなどは、縦・横ともに解像度が高いと作業が非常にはかどる。

Melodyne

  • 縦が広い → ピッチの微調整がやりやすい。
  • 横が広い → リズムの微調整がやりやすい。また、より長い範囲を見渡せる分、スクロール操作の回数を減らせる。

歌入りのデモを作るような作曲家にとっては、メリットも大きいだろう。

3. ドットピッチ(≒文字の大きさ)が適切

WQHDの解像度の場合、ディスプレイを快適に見ることができる画面サイズの目安は、およそ32インチ程度となる。理由は、ドットピッチが適切な大きさになっているからだ。

※ドットピッチとは大ざっぱにいうと、1つのドットの大きさのことだ。ドットピッチが小さいと、画面が高精細になる反面、文字が小さく読みづらくなることもある。

WQHDの32インチディスプレイの場合、ドットピッチは0.277mm。これは普及モデルであるフルHDの24インチと同じドットピッチなので、ディスプレイを視認する上で適切な大きさだといえるだろう。

もちろん、適切なドットピッチは人によって変わってくるだろうし、WQHDの27インチ程度で十分だと感じる人もいるかもしれない。ただ、NI KONTAKTのように文字が小さいプラグインも多い。やはりDAW環境では、ドットピッチはある程度大きいほうがいいと僕は考えている。

4. A4サイズのPDF譜面も快適に読める

WQHDの32インチのディスプレイなら、A4譜面の表示も問題ない。見開きで2ページ分、きちんと表示できる。僕は以前、26インチのWUXGA(縦の解像度は1200ピクセル)ディスプレイを使っていたが、当時はA4の譜面ファイルを表示させた場合の視認性はイマイチだと感じていた。

WQHDの32インチディスプレイを導入してからは、紙の譜面と比べても見劣りすることなく、ディスプレイ上で譜面を確認できるようになった。おかげで譜面を印刷する頻度も減り、ペーパーレス化の促進という嬉しい副産物も生まれた。

5. モニター環境への影響もそこまで大きくない

音楽制作の環境にディスプレイがあると、スピーカーからの音を反射したり、共鳴したりしてしまう。これは音響的には好ましくない。音響的なことを考えた場合、ディスプレイは小さいほうがいい。むしろディスプレイなんて無いほうがいい。

だけどそういうわけには行かないので、妥協点を探すことになるのだ。32インチ程度であれば、スピーカーからの出音に悪影響を及ぼすほどではないし、作業領域が広くなるメリットのほうが圧倒的に大きい。僕はそのように感じている。

6. ビデオカードを買い足さなくても使える

よほどパソコンが古くない限り、マザーボードのオンボードグラフィック機能はWQHDの解像度に対応しているはず。僕のサブPCは6年前に発売されたものだが、オンボードグラフィックでWQHDの表示ができている。フレームレートも60fpsで出ているので遅延の問題もない。

4Kディスプレイにしない3つの理由

1. 人間が快適に見渡せる画面サイズには限界がある

僕は普段、70~80cm程度の距離でディスプレイを見ている。32インチのディスプレイは、首を動かさず、目の移動だけで全領域を視認できる限界のサイズだと感じる。

仮に4K(3840x2160)のディスプレイを使う場合、画面サイズが32インチ程度では文字が小さすぎる。そのため、画面サイズを40インチ~と、かなり大きくする必要が出てくる(詳細は後述)。だから普通に机の上でパソコンを使う場合、快適に利用するのは難しいと僕は考えている。

解像度的にも、WQHDの作業領域は快適に使うための上限という印象もある。WQHDのディスプレイに移行してからは、正直マウスのカーソルを見失うことが多くなった。これ以上解像度を上げると、カーソルを見失う回数も増えそう。

2. スケーリングの問題がある

「4Kディスプレイで文字が小さく感じるなら、文字が見やすくなる程度に拡大して使えばいいのでは?」と思う人もいるかもしれない。確かにMacではスケーリング*機能が優秀なので、4Kディスプレイでも拡大表示をすれば高精細な表示を得られるというメリットはある。

しかし、4Kの解像度を持て余すことになるので、音楽制作の用途に限っていえば作業効率的な恩恵は無い。また、Windowsではそもそもスケーリングの機能があまり実用的ではない。

(参考)Windowsの4Kスケーリング環境を検証する - PC Watch 

結局、ドットバイドット*で表示させるのが現実的になってしまう。ドットバイドット表示が前提の場合、4Kの解像度で表示するためには、よほど大きいサイズの画面にしない限りは文字が小さくなって見づらくなる。

具体的な数字を挙げる。普及モデルであるフルHDの24インチのドットピッチは0.277mm。4Kディスプレイで同じドットピッチを得るためには、画面サイズを48インチ(!)まで大きくする必要があるのだ。前述の「快適に見渡せるサイズの限界」の話を考えると、僕の感覚では、やはり4Kの解像度でディスプレイを利用するのは現実的ではない。

用語の説明

  • スケーリング:
    「ディスプレイが持つ解像度」よりも低い解像度で、画面を拡大表示させること。データ上の1ドットを、ディスプレイ上の複数のドットで担当することになるため、文字がきれいになったりするメリットがある。しかし、アプリが対応していない場合、逆に文字にジャギー(ギザギザ)が出たりして、表示が汚くなることもある。
  • ドットバイドット:
    データ上の1ドットを、ディスプレイ上の1ドットに、一対一に対応させること。

3. コストが高くなってしまう

WQHDの32インチなら3万円程度から手に入るが、4Kのディスプレイだと、安くても4万円台後半。純粋にディスプレイ自体の値段が高い。

また、4Kの解像度で表示させる場合、遅延のない状態(60fps)で表示させるためには、前述の通りビデオカードを増設する必要が出てくることも多い。

ディスプレイとビデオカード、両方でコストが増えてしまう。なので現状、コストパフォーマンス的にはイマイチだといえる。 

WQHDの32インチディスプレイの紹介

最後に、WQHDの32インチ(正確には31.5インチ)ディスプレイをいくつか紹介する。

32インチと大きめのディスプレイになるので、視野角(ディスプレイを斜めから見たときに正常に表示できる度合い)は重視したいポイント。視野角の広さに定評がある、「IPS(ADS)パネル」を採用しているものを選びたいところだ。

とはいえ、今回紹介するものはどれも似たようなスペックをしている(31.5インチ、WQHD、ノングレア、IPS(ADS)パネル)。こういったスペックのディスプレイが手頃な価格で売っているのを見ると、本当に恵まれた時代になったと感じる。

I-O DATA EX-LDQ321DB

画面の端から端まで問題なく視認することができ、視野角に問題はない。パネルはADSパネル(アイオーデータの採用するIPS形式に準じたパネル)を採用している。僕はかなり輝度を下げて使っているが、長時間見ていてもそれほど疲れは感じない。国産メーカーにこだわりたい人にも良さそうだ。

I-O DATA EX-LDQ321DB

ViewSonic VX3276-2K-MHD-7

価格.comで人気のディスプレイ。売っている店が少ないが、3万円を切る価格には驚きだ。

ViewSonic VX3276-2K-MHD-7(ドスパラ)

ASUS VA32AQ

自作PCのマザーボードで有名なASUSのディスプレイ。今回紹介する中では値段は少しだけ高め。

ASUS VA32AQ

LGエレクトロニクス 32QK500-W


LGは昔から、買いやすい価格帯のディスプレイを提供してくれているイメージがある。そんなLGからも、WQHDの32インチのディスプレイが発売されている。

LG 32QK500-W

曲にハモリやコーラスを入れる方法。正しい入れ方とルールについて【譜面・音源あり】

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はじめに

今回は、曲にハモリやコーラスを入れる方法について、音楽理論的な解説を交えながら紹介する。曲を作りたい人、バンドの演奏にコーラスを取り入れたい人、「歌ってみた動画」を投稿したい人。そんな人がいれば、ぜひ役立ててみてほしい。

記事中のデモ音源について

  • デモ音源はすべて、筆者が適当に作曲したものです。
  • 音源では、ピアノ音色でメロディ、エレピ音色でコードを演奏しています。※多重コーラスではクワイア音色を使用

ハモリを入れるための2大ルール

1. スケール(音階)の音を使う

言うまでもないが、ハモリのラインを考えるときは、曲で使われているスケールの音を使う。

例:曲のキーがC → 歌メロはCメジャースケール → ハモリもCメジャースケールの音を使う

2. コードに合わせる

この「コードに合わせる」という意識が抜け落ちている人が意外と多い。特に伸ばしている音にハモリを付けるような場合は、コードの構成音になっている or テンション音として成立している必要がある

単純に3度上 or 3度下で音を出しているだけだと不協和音になることもあるので、そういう時はコードの構成音に合わせて調整しよう(具体例は後述)。

ハモリを入れる具体的な方法

ここからは譜面と音源を交えつつ、ハモりを入れる具体的な方法について解説していく。

  • 黒い音符が主旋律青い音符がハモリのメロディです。
  • 音源は「主旋律のみ → 主旋律&ハモリ」という順で再生されます。

字ハモ(並走タイプ)

主旋律(メインボーカル)が上下するのに合わせて、ハモリも一緒に上下する。この「並走タイプ」のハモリが最も多いパターンだ。

3度でハモる

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3度でハモるケースが最も多い。一番自然に聴かせることができる。

例:「CHE.R.RY/YUI」「波乗りジョニー/桑田佳祐」「YAH YAH YAH/CHAGE and ASKA」「You've Got A Friend/Carole King」

6度でハモる

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6度のハモリも自然に聞かせることが出来る。

3度のハモリをオクターブ上げ下げすれば、それは6度のハモリとなるのだ。歌う人の音域の関係で3度のハモリを作りづらいときなどに良い。

3度のハモリと比べると、主旋律との音程が広い分、それぞれが独立した旋律として聴こえやすいという性質もある。

例:「Marshmallow day/Mr.Children」「So Sick/Ne-Yo」

4度でハモる

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4度でハモることもまれにある。4度のハモリが成立するときは、次のようなケースが多いだろう。

  1. 主旋律がコードに対するテンション音になっていて、 普通の3度のハモリじゃ合わない
  2. それに合わせてハモリのラインを考えているうちに、自然と4度のハモリになった

4度のハモリはどこかエキゾチックな雰囲気になる。

例:「Merry Christmas Mr.Lawrence/坂本龍一」「PIECES OF A DREAM/CHEMISTRY」

オクターブユニゾン

主旋律のオクターブ上/下で歌うことで、主旋律を補強するのもひとつのテクニックだ。厳密にはハモリではないが、ここで取り上げておく。

例:「To Feel The Fire/Stevie Wonder」「Because Of You/Ne-Yo」「白日/King Gnu」

(参考)5度のハモリ

5度でハモることは少ないし、基本的にはオススメしない。ハモリが浮いて聴こえてしまいやすいし、ハーモニー的な広がりを得ることが出来ないからだ。

和声的にも、5度の音程を保ったまま2つの声部を動かすことは「連続5度」という禁則と定められている。多重コーラス等では結果的に5度のハモリが生成されることはあるが、何か1つだけラインを考える場合は、やはり3度や6度を使うのがよい。

字ハモ(コードタイプ)

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並走タイプでしっくりこないときは、ハモリのラインを動かさずに、コードの構成音で同音連打するとよい。コードが変わるときも共通音を利用するなどして、なるべくハモリの高さを変えないようにすると自然に聴かせることができる。

ハモリの数を3声程度に増やすと、コード感がはっきり出るので効果的だ。テンションコードを表現するときなど、4声以上に増やすこともある。

例:「STARS/中島美嘉」「クリスマス・イブ/山下達郎」「R.Y.U.S.E.I./三代目 J Soul Brothers」

ウーアーコーラス

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「ウー(フゥー)」とか「アー(ハァー)」といった音でコーラスを入れることを、ウーアーコーラスという。オケに厚みが出てドラマチックになるので、バラードやR&B、ソウル系の曲では特に有効だ。

例:「Because Of You/Ne-Yo」「クリスマス・イブ/山下達郎」「全力少年/スキマスイッチ」

上ハモ or 下ハモ

上と下、どちらでハモっても大丈夫。上ハモと下ハモが途中で切り替わることもある。大事なのはコードに合っているかどうかだ。

上ハモと下ハモの性質は次の通り。

上ハモ

主旋律より上でハモることになる。ハモりのパートが目立ちやすいので、主旋律を食わないよう、歌い方や声の大きさに気を配るとよい。例えば、地声で出せる音域でも、あえてファルセットで歌い、目立たなくさせる等のテクニックがある。

スタジオ録音の音源を作る場合、ミックスバランスにも気をつけたい。基本的には、主旋律がどちらなのか判別できる程度に、ハモりパートを小さくするのがベターだろう。

下ハモ

主旋律より下でハモることになるので、主旋律を支えるような寄り添った響きになる。ハモりパートを極力目立たせたくないようなときは、まず下ハモが付けられないかを考えてみるとよい。

よくある間違ったハモリの例

いかなる状況でも、3度上 or 3度下でハモってしまう

前述の通り、ハモリパートがコードに合わない音を出していると、きれいに聴こえない。

まずNG例の譜面を見てみよう。

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1小節目はコードがCMaj9で、主旋律はレで伸ばしている。上記画像のように、3度上でハモってしまうとハモリがファの音になってしまい、コードの構成音とぶつかるのできれいに聞こえない(※コードがCMaj9のとき、ファはアボイドノートなので)。

そこで、音がぶつかる部分のみ、ファ→ソの音に変更する。OK例の譜面は次の通りだ。

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こうすると、ハモリがコードの構成音となり、きれいなハーモニーにすることができる。2小節目に関しても、同様にファ→ソに変更している。

  • 基本的には3度でハモるが、コードに合わない音(かつ長めの音)のときは4度などに変更する

こういった方針でハモリを考えるとよい。

音源でも確認してみよう。「主旋律のみ → NGハモリ例 → OKハモリ例」という順で再生される。

sus4コード時に、3度のハモリを入れてしまう

コードがsus4になっているのに、安易に3度上(下)のハモりを乗せてしまうのもよくある間違いだ。3度の音と4度の音は、お互い半音の関係だ。音がぶつかるので、きれいに聴こえない。

まずNG例の譜面を見てみよう。

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基本的には3度でハモればよいが、2小節目、Gsus4のときは注意。主旋律はソで伸ばしている。ここで上記画像のようにハモリを3度上のシにしてしまうと、コード(Gsus4)の構成音に含まれるドの音とぶつかってしまう。

そこで、やはりコードの構成音に合わせて、Gsus4のときはシ→ドに変更する。OK例の譜面は次の通りだ。

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これで適切なハモリになる。

音源でも確認してみよう。「主旋律のみ → NGハモリ例 → OKハモリ例」という順で再生される。

覚えておきたいTips

ハモリを入れる場所について

サビの最初から最後まで、ずっとハモリが付いている。そんなハモリも悪くはない。しかし、要所要所でハモリを登場させたほうが効果的なことも多い。曲の核になるような印象的なフレーズ。どうしても伝えたい歌詞のワード。そういった重要度の高い部分で、ここぞとばかりにハモリを付けると印象に残る。

ハモリを付ける部分と、あえて付けない部分。うまく使い分けていくとよい。

上ハモと下ハモの共存について

主旋律の3度上と3度下、両方にハモりを入れてしまうと、ハモリ同士が5度の関係になる。その結果、ハモリパートが強調されてしまい、主旋律をじゃまするような、浮いた響きになってしまうことがある。

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和声の禁則にある「連続5度」は、まさにこういった現象を避けるために定められている。しかし、実際はポップスの曲では――特にスタジオ録音の音源では――3度の上ハモと下ハモが共存していて、それらが5度の関係になっていることも少なくない。「レコーディングにおいては、ハモリの音量を自由に調整できるので問題ない」。そんな考えに基づいた結果だろう。

和声的にも、「ハモリパートは独立した声部ではなく、主旋律を補強しているパートにすぎない」と考えれば、連続5度の禁則には当てはまらないという解釈もできそうだ。それに、そもそも古典和声の規則を厳密に守るべきか?という話にもなってくる。クラシックですら、近代以降の作曲家は和声の禁則を守っていないことも多々あるのだ。

結論としては、聴いて変でなければOK!というスタンスで行くのがいいと思う。

  • レコーディングでは細かくミックスバランスを調整できるので、和声の禁則は無視し、好きなようにコーラスを作ることにした。
  • ライブでのコーラスを大事にしたい。完璧なミックスバランスが実現できないことも想定し、生演奏でも美しく聴こえるよう、和声のルールをきちんと守る。

ポップスを作る上では、このように臨機応変に行くのがよいと筆者は考えている。

最後に、和声の初歩について学びたい人にオススメの本を紹介する。

『対話式! 「なぜ?」が分かるとおもしろい和声学〈基礎編〉』

川崎絵都夫・石井栄治(著)

和声学はポピュラー音楽理論に比べて学習難易度が高いが、この本は対話形式で分かりやすく説明されている。早い段階で前述の「禁則」についても触れられているので、和声のエッセンスを知るのに最適だ。

ある程度ポピュラー理論のことが分かっていて、本腰を入れて勉強したいという人は、『総合和声―実技・分析・原理』あたりで学習するとよいだろう。

知っておきたいシンセの音作り:基本テクニックを8つ紹介(デモ音源あり)

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はじめに

シンセサイザーってよく分からない。ツマミが多すぎるし、どこをいじれば音がどう変わるのかサッパリ……。そんな人も多いのではないだろうか。僕も例にもれず、ビギナーの頃はそんな状態だった。

しかし、多くのシンセは、同じような信号の流れで音が出ている(※少なくとも、大半のシンセ=減算式シンセでは)。パラメーターの意味さえ理解してしまえば、他のシンセにも応用が効くし、複雑な音のプリセットでも自分なりに調整していくことができる。シンセの知識を習得することは、音楽を作る人にとってはコストパフォーマンスの高い学びなのだ。

今回の記事では、実際に音を作る手順も交えつつ、シンセの音作りの基本テクニックを8つ紹介してみる。シェアの高そうなSpectrasonics Omnisphereを使っているが、大半のシンセでも同じような音は出せるのでご安心を。

今風の音楽を作りたい人にとって、シンセの習得は必須。ビギナーの人も気軽に読んでみてほしい。

1. オシレーターの波形選び

まず大事なのが、「オシレーターにどの波形を選ぶか?」ということ。元の波形に適切な倍音が含まれていないと、意図した音色に調整するのは難しい。なのでオシレーター波形はきちんと選ぶようにする。

例:激しい音を出したい場面で、サイン波を選んでも上手くいかない(倍音が少ないので)。

実際に音を聴いてみよう。5つの波形でそれぞれ、単音→和音→ベース音域での単音、と演奏している。

波形が持つ音色のイメージは、次のような感じだ。

  • ノコギリ波(Saw):ブーブー

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  • 矩形波(Square):ポーポー

    f:id:singingreed:20190201185039j:plain

  • パルス波(Pulse):コーコー、ゴーゴー

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  • 三角波(Triangle):ホーホー

    f:id:singingreed:20190201184131j:plain

  • サイン波(Sine):ホーホー(三角波よりおとなしめ)

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自分で音色を作るときはもちろん、プリセットを使うときでも、どの波形が使われているかを意識してみるとよい。

2. フィルターの基本的な調整

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シンセでは、ローパスフィルター(LPF)で高い周波数の倍音を削って音作りをすることが多い。なので、フィルターの仕組みについても知っておく必要がある。シンセのフィルターには2つの重要なツマミがあるので押さえておきたい。

カットオフ

ローパスフィルター使用時は、カットオフは「高域をどの程度削るか」を決めるパラメーターになる。

  • カットオフ小:暗い、地味、落ち着いた音
  • カットオフ大:明るい、派手、うるさい音

レゾナンス

カットオフ周波数の帯域をブーストすることで、音色に独特のキャラクターを持たせることができる。上げすぎると耳障りな音になるが、適度に上げることも多い。ただ、まったく上げないことも多い。

3. フィルターエンベロープの調整

フィルターエンベロープを使うと、時間経過に応じて、フィルターの開き具合を変化させることができる。「時間が経つにつれて、カットオフが上がって、そして下がる」。基本的にはこんな挙動をイメージするとよい。

実際に音色を作る上では、発音の瞬間にフィルターが素早く閉じるようにすることで、アタック感を演出することが多いだろう。ひとことで言うと「ボン」あるいは「チャン」という感じの音になる。

  • 「ボ」:フィルターは開いている
  • 「ン」:フィルターは閉じている

Funk的なアタック感のあるシンセベースや、EDMのPluck音は、これを利用して作られている。表情豊かな音色を作る上で重宝するだろう。

なお、レゾナンスを少し上げると、フィルターが閉じることによる音色変化が際立つようになる。フィルターエンベロープを使うときは、カットオフはもちろん、レゾナンスの値も意識してみるとよい。

音色の例を2つ用意した。音作りの手順も記載したので、参考にしてみてほしい。

例1. ファンク風シンセベースの作り方

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  1. 波形はSawを選択(SawSquare Fatを選び、SHAPEを左端に)。
  2. フィルターはLPF Juicy 24dbを選択。
  3. カットオフは低め。レゾナンスはほんの少しだけ上げる。
  4. フィルターエンベロープを設定し、アタック感を付ける。
  5. 原音より少し小さい程度の音量で、オクターブ上の音を加える(HARMONIAより設定可能)。
  6. 付属エフェクトのTape SlammerとTube Limiterでわずかにサチュレーションを加える。

例2:Pluckの作り方

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  1. 波形はSawを選択(SawSquare Fatを選び、SHAPEを左端に)。
  2. フィルターはLPF Juicy 24dbを選択。
  3. カットオフは低め。レゾナンスはほんの少しだけ上げる。
  4. フィルターエンベロープを設定し、アタック感を付ける。
  5. デチューンを加える(設定深層でUnisonを有効にする。DetuneとDepthを適度に上げる)

4. デチューン

「ピッチ(音の高さ)をわずかにズラしたシンセ波形を、2個以上同時に鳴らす」。これがデチューン(Detune)という技だ。まずは、デチューンさせたものと、させていないもの。実際に2つを聴き比べてみよう。

「Not Detuned」は単純なノコギリ波で和音を鳴らしたもの。「Detuned」はそれをデチューンさせたもの。デチューンさせたほうが、音の厚み、広がり、浮遊感といったものが増しているのがわかるはず。実際に曲の中で使うときも、デチューンされた音色のほうがオケへのなじみは良い。シンセ音色の多くでこのデチューンが使われているので、音色を作成・調整するときには意識してみるとよい。

なお、ベース音域でデチューンを行うと位相的な不都合が生じやすいので注意。基本的には上モノで使うものだと考えたほうがよい。

ちなみにOmnisphereでは、UNISONというパラメーターでデチューンを設定できる。

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(※デモ音源では上記画像のように設定している)

余談だが、デチューンしたノコギリ波を複数(8個程度)重ねたものを、「Super Saw」などと呼んだりすることもある(Roland JP-8000の波形が由来)。派手な音色に調整しやすく、オケへの馴染みも良いので、トランス、EDM、アニソンといった分野でよく使われる。

5. アンプエンベロープの調整

「フゥヮァァアアーーー」というように、少しずつ大きくなっていく音色。「ジャッ!」というような歯切れのよい音色。こういった違いを決めるパラメーターの一つが、アンプエンベロープだ。アタックやリリース等の長さを調整することで、目的の音色に調整していこう。

「Fast Pad」はアタックとリリースが最速の音色。「Slow Pad」はアタックとリリースを遅めにしたパッド音色だ。アタックやリリースの部分は、音色にとっては重要なパラメーターだ。じっくり煮詰めることをオススメしたい。

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(↑Fast Padのアンプ・エンベロープ)
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(↑Slow Padのアンプ・エンベロープ)

余談だが、ソフトシンセのプリセットには、「リリースタイムがやたら長く、曲中で使いづらい音色」が多い。そういった音色でも、適切にリリースタイムを短くしてやれば上手く使うことができるだろう。プリセット派の人にとっても大事なパラメーターといえそうだ。

6. ポルタメント

ある音から別の高さの音に移行する際に、ピッチの変化速度が遅くなるように調整するための機能だ。シンセリードの音色で、ニュアンスを出すために使われることが多いだろう。他にも、ポルタメント速度を遅く設定して、効果音的な音色を作ることもある。

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Omnisphereでは、GLIDEというパラメーターでポルタメントを設定可能。ポルタメントの速度次第でフレーズのノリも変わってくる。プリセットを使うときでも、曲に合うように調整するとよい。

7. LFO

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「何かしらのパラメーター」を「自動的に」「連続で」上下させるための仕組みだ。ピッチに掛ければビブラートになる。アンプに掛ければトレモロになる。最近ではワブルベースを作るためにフィルターのカットオフに掛けることも多い。 

デモトラックを2つ用意した。「LFO Vibrato」がLFOをピッチに掛けたもの。「LFO Wobble」がLFOをカットオフに掛けたものだ。さらに、モジュレーションホイールで、それらを揺らす量を調整できるようにしている。

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(↑「LFO Vibrato」の設定内容)

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(↑「LFO Wobble」の設定内容)

8. 倍音の付加

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シンセの音作りにおいては、フィルターのカットオフを調整したり、オクターブ上下の音を加えたりする作業がしばし行われる。それは音響的に考えると、倍音を調整していることに等しい。

実は、倍音を調整するには他にも方法がある。それは歪み系エフェクターを使うことだ。近年のシンセ音色では、特に歪み系エフェクトの重要性が高い。なので、この「倍音の付加」という要素も、シンセの音作りの一部だと考えてもよいくらいだと思う。

最近のソフトシンセだと、シンセ内部で歪みを加えられるものも多いが、別途プラグインで処理してもよい。

歪ませる量については、明らかに歪んだ音に調整することもあれば、ヌケを良くするためにさり気なくサチュレーションを加える程度のこともある。出したい音に応じて調整していくとよい。

 比較サンプルを用意してみた。SoundCloudの音質の関係で少し分かりづらくなってしまったが、「Saturated Pluck」が歪みを加えたものだ。ここではSoundtoys Decapitatorを使って、比較的はっきりと歪みを加えるような処理を行っている。

おわりに

今回はシンセの音作りにおける基本的なテクニックを8つ紹介した。音色を自作したい人はもちろん、プリセット派の人も知っておくと役に立つはずだ。

今回のデモ音源はすべてSpectrasonics Omnisphere2で作成している。派手な音・アンビエントな音が出るイメージを持っている人も多いかもしれないが、今回のデモ音源のように、ゼロからオシレーターとフィルターを組み合わせて、シンプルな音色を作ることもできる。エンベロープをグラフィカルに表示させたりもできるし、音作りの練習に使う上でも優れたシンセだと感じた。

Cubaseのプロジェクトロジカルエディターの解説:便利な使い方を5つ紹介

プロジェクトロジカルエディターとは?

前回はロジカルエディターについての記事を書いた。今回紹介するのは「プロジェクトロジカルエディター」。名前が似ていてややこしいが、こちらはトラックやパート、イベントに対して処理を行うためのツールだ。

言葉による説明ではピンと来ないと思うので、今回も僕が実際に使っている自作の設定をを5つ紹介してみる。

処理の流れ

前回記事で書いたロジカルエディターと同様、フィルター条件を元にイベントやトラックを絞り込み、処理を行うという流れになっている。ここでは説明を割愛する。

オススメの使い方

1. イベントの位置を微調整する

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概要

オーディオイベントやMIDIパート、オートメーションイベントの位置を微調整するコマンドだ。歌やギターなど、生演奏トラックのリズム補正をする場合に役に立つ。オートメーションの位置を動かしたいときにも便利だ。

普通にやると、イベントをドラッグしたり、情報ラインの数値をホイールで調整したりする必要がある。プロジェクトロジカルエディターを使って、ショートカットキーで実行できるようにしておくと便利。

今回は30Tickと調整幅を大きめに設定しているが、もっと小さくしても問題ない。

パラメーター解説

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まず、フィルター条件(上部リスト)の3行を見てみる。

  • 1行目 → イベントに対して作用することを意味する。
  • 2行目 → パート(※イベントが含まれる容器)に対して作用することを意味する。
  • 3行目 → 選択されているイベント(パート)に対して作用することを意味する。

これらが画像のようにOrとAndで結ばれているので、「選択中のパート or イベント」が操作の対象となる。

次に、下部のアクションリストを見てみる。これは純粋に、ポジションを30Tickだけ増やすことを表している。その下の「機能」は「変換」を選択しておけばOK。なお、「足す(+)」を「引く(-)」にすれば、イベントを前に動かすことができる。前後の移動をセットで登録しておこう。

2. オートメーションの値を微調整する

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概要

オートメーションの値を調整するコマンドだ。歌ものの曲では、ボーカルのオートメーションを緻密に描く必要がある。EDMのトラックでは、シンセのオートメーションを細かく調整することが多い。その度にマウスでドラッグしたり、情報ラインをホイールで動かすのは意外と手間がかかる。

この操作をショートカットキーに登録すれば、オートメーションの調整も一気に楽になるはずだ。

パラメーター解説

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フィルター条件の2行を見てみる。2行合わせて「選択中のオートメーションイベント」に対して作用することを意味する。

次に、アクションリストを見てみる。オートメーションに関しては、「トリム」というコマンドで数値を掛け算して調整することになる。

ここでは値を10%だけ増やすような設定になっている。なお、10%だけ減らす場合は、パラメーター1の数値を0.9にすればOK。増やす/減らす、両方登録しておこう。

3. トラックに色を付ける

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概要

トラックの色づけに関しては、「ボーカルは水色」「ギターは緑色」などといった、自分なりのルールを持っている人も多いと思う。とはいえ、トラックを追加する度に設定するのは面倒。そこで、プロジェクトロジカルエディターを使って、自動処理できるようにしてしまおう。

今回はドラムの配色設定例を紹介しているが、さらに発展的な使い方も紹介しておく。ストリングス、ブラス、ギター等、各パートごとに自動配色設定を組んだら、それらをマクロ(※ショートカット設定から登録可能)にまとめてしまおう。複数を同時に実行できるようにしておけば、数十トラックの配色をワンタッチで完了することが可能だ。

パラメーター解説

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ドラム関係のトラックの色を揃えるような処理になっている。名前に「Kick」「Snare」「HH」が含まれるトラックが操作の対象になるよう、フィルター条件で設定。それらの色が「Color4」に一律で揃うように設定している。

今回の設定はシンプルなものだが、例えば、「トラック名に"FX"が含まれるものは、対象から除外する」というような設定も可能だ。必要に応じてフィルター条件を調整していくとよい。

4. トラックの名前を変更する

概要

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Cubaseでは、インプレスレンダリングでオーディオ化すると、トラック名の終わりに「 (R)」が付くようになっている。特に必要な表記ではないので、これを「_ok」という文字列に変換するよう設定してみた。

パラメーター解説

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「検索文字列を置き換え」という操作が用意されているので、それを使っている。

なお、コンテナタイプを「トラック」に指定することで、オーディオトラックのみを対象とし、オーディオイベント(パート)は対象から除外されるようにしている。コンテナタイプによるフィルタリングは、意外とイメージしづらい部分でもある。理解を深めたい人はマニュアルP.919を参照しよう(Cubase 9.5の場合)。

 5. グループ&FXトラックの表示/非表示を切り替える

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概要

トラック数が多い曲を作っていると、全トラックを表示しきれなくなることも多い。そんなときは、グループトラックやエフェクトトラックを非表示にしてみよう。インストゥルメントやオーディオだけが表示されるようになり、スクロールの手間が緩和される。その分、打ち込みや録音の作業がはかどるはずだ。

この操作を行うと、グループトラックとエフェクトトラックが非表示になるが、もう一度処理を行えば、元に戻すことができる。ショートカットに登録して、ワンタッチで表示/非表示を切り替えられるようにしておけば、トラック数が多い曲の制作もはかどることだろう。

パラメーター解説

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グループトラックとエフェクトトラックが操作の対象となっている。「トラックを非表示」という操作が用意されているので、それを活用している。

おわりに

今回はプロジェクトロジカルエディターについての記事を書いた。ロジカルエディター同様に難解な項目だが、上手く使えば作業効率のアップに繋がるはずだ。

Cubaseのロジカルエディターの解説:便利な使い方を5つ紹介

ロジカルエディターとは?

ロジカルエディターは、MIDIデータを調整するための機能だ。MIDIイベントのパラメーターを調整したり、MIDIイベントの選択・削除・付加といった操作を行うことができる。

※「プロジェクトのロジカルエディター」という、オーディオイベントやトラック表示などを調整するための機能も別にある。混同しやすいので注意。

ロジカルエディターを使えば、普通にやると手数がかかるような操作も一発で実行できる。さらに、ロジカルエディターに登録した操作は、ショートカットに登録が可能。上手く使えば作業効率を大きくアップさせることができる。

ただ、このロジカルエディターを使うためには、ちょっとした「プログラミング的発想」が求められる上、マニュアルの解説も完全ではない(パラメーターの詳細など)。おまけにプリセット名はどれも英語。取っつきにくく、敬遠している人も多いはずだ。

今回は、僕が普段使っている自作のロジカルエディターについて、軽く解説を交えながら紹介してみる。設定を流用してもらえば、皆さんのCubaseでもそのまま使えるはずだ。

※ロジカルエディターはCubase Proでしか使えないので注意。

ロジカルエディターを覚えるには、プリセットを眺めながら実際にいじってみて、仕組みを体で覚えていくのが一番よい。これからロジカルエディターを覚えて行きたい人にとっても、役立つような記事になっているはずだ。

処理の流れ

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  1. 「フィルター条件(上部リスト)」でMIDIイベントを指定する。
  2. 「アクションリスト(下部リスト)」と「機能」を組み合わせて、1で指定したMIDIイベントに行う処理を決める。
  3. 「適用」をクリックし、操作を実行する。

値1と値2

「値1」「値2」というパラメーターが出てくる。この表記がロジカルエディターを分かりづらくしている原因ともいえる。何を表しているか整理してみよう。

フィルター条件 値1 値2
MIDIノート 音の高さ ベロシティ
MIDI CC CCの番号 CCの値

こういった値を表している。例えば、フィルター条件でMIDIノートを指定しているときは、値2はベロシティを表す。

オススメの使い方

ここでは、ロジカルエディターの使用例を5つ紹介する。

1. MIDIポジションの微調整

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概要

MIDIノートのポジション(位置)を微調整することを考える。普通にやる場合は、マウスでMIDIノートを選択してから、MIDIノートをドラッグしたり、あるいは情報ラインの数値をホイールで調整する必要がある。何度も繰り返すとなると、けっこう億劫な作業ではないだろうか。

しかし、このロジカルエディターを使えば、ノートを選択した状態で任意のショートカットキーを押すだけでOK。ワンタッチでMIDIポジションの微調整が可能になる。なお、MIDIノートだけではなく、CCイベントに関しても有効だ

人間らしいMIDIデータを目指し、タイミングをラフに調整する場合。逆に、人が演奏したMIDIデータを正確なタイミングに補正する場合。どちらのケースでも便利に使える。よく使う操作なので、使えるようにしておくと作業が捗るはず。

今回の例では調整幅を5Tickに設定しているが、もちろん任意の時間に設定することが可能。単位をTickではなくms(ミリ秒)等にすることもできる。少しずらす or 大きくずらすと使い分けたり、工夫もできそうだ。必要に応じてエディットしてみてほしい。

パラメーター解説

f:id:singingreed:20190103191626j:plainまず、フィルター条件(上部リスト)の3行を見てみる。

  • 1行目 → MIDIノートに対して作用することを表す。
  • 2行目 → MIDI CCに対して作用することを表す。
  • 3行目 → 選択されているイベントに対して作用することを表す。

これらが画像のように、OrとAndで結ばれている。したがって、「【MIDIノート or MIDI CC】かつ【選択されているイベント】」が、操作の対象となる。

次に、下部のアクションリストを見てみる。これは純粋に、ポジションを5Tickだけ増やすことを表している。その下の「機能」は「変換」を選択しておけばOK。なお、当然のことながら、「足す(+)」を「引く(-)」にすれば、MIDIイベントを前に戻すことができる。セットで登録しておこう。 

2. 音価(デュレーション)の微調整

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概要

上記「MIDIポジションの微調整」と同様、MIDIノートの音価も調整できるようにしておくと便利。ベースやブラスなど、音価の重要性が高いパートの打ち込みで重宝するはずだ。こちらも足すと引く、両方登録しておこう。なお、当然だがこちらはCCには使えない。

パラメーター解説

f:id:singingreed:20190103191621j:plain

まず、フィルター条件の2行を見てみる。

  • 1行目 → MIDIノートに対して作用することを表す。
  • 2行目 → 選択されているイベントに対して作用することを表す。

これらがAndで結ばれているので、「選択中のMIDIノート」が操作の対象となる。

次に、下部のアクションリストを見てみる。MIDIノートの長さをを20Tickだけ増やすことを表している。機能は「変換」を選択すればOK。

3. ベロシティor CC値の微調整

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概要

ベロシティやCC値の微調整も、ロジカルエディターで出来るようにするとよい。特にCC調整はマウスでやると少し手間なので、このコマンドを使えば調整が楽になるはず。

上記GIF画像ではベロシティの調整をしているが、このロジカルエディターはベロシティとCC値、どちらに対しても使うことができる。こちらも足すと引く、両方登録しておこう。

パラメーター解説

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フィルター条件に関しては、上記「1. MIDIポジションの微調整」と考え方は一緒。

アクションリストの挙動が少し面白い仕様になっている。ロジカルエディターの「値2」は、前述の通り、次のような意味を持つ。

  • 対象がノートの場合 → ベロシティを表す
  • 対象がCCの場合 → CCの値を表す

このため、このロジカルエディターはノート選択時 or CC選択時、どちらの場合でも共通して使うことができる。

4. CC値の固定

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概要

選択したMIDI CCイベントを、任意の値に一発で変更するコマンドだ。MIDIノートのベロシティに関しては、任意の値に一発で変更するショートカットキーを元々設定できるようになっている(※メニュー>MIDI>機能>「設定したベロシティーに変更」)。CCにはそれが無いので、ロジカルエディターで出来るようにしておくと便利だ。

パラメーター解説

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画像の通り。パラメーター詳細は、他と重複するので割愛。

5. 8分裏のノートだけを選択する

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概要

8分音符の裏のノートだけを選択する操作だ。ハイハットのベロシティを調整するときなどに便利。上記「3. ベロシティor CC値の微調整」の操作と併用すると、作業がだいぶはかどるはず。

今回紹介するのは8分の裏だが、16分の裏に関しても同様に設定可能。必要ならご自身でトライしてみてほしい。

パラメーター解説

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「小節範囲内の任意のポジションに存在するMIDIノート」を「選択」する。これがこの操作の流れだ。グリッドからズレたノートにも適用できるよう、選択範囲には少しゆとりを設けている。

おわりに

今回はCubaseのロジカルエディターについて解説した。紹介した使用例以外にも、工夫次第では便利な使い方を見つけられると思う。ご自身の用途に応じて、ぜひ使いこなしてみてほしい。

新世代リバーブ、2CAudio Breeze 2を徹底解剖【レビュー】

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はじめに

Breeze 2は、2CAudio社からリリースされているプラグインリバーブだ(IRではなく、アルゴリズミックリバーブ)。同社の製品は、近年メキメキと頭角を現してきており、評価も軒並み高い。今回はこの製品について紐解いていきたい。

特徴

透明感のある美しい響き

公式サイトでデモを聴いてみると、圧倒的に美しい響きをしていることが分かる。
2CAudio - Breeze | Simple. Light. Pristine.

※上記サイト内、右上の▼マークをクリックすると、試聴用プレイヤーが展開します。

CPU負荷が比較的軽い

音色だけでいえば、同社のB2は、Breeze 2以上に美しい響きをしていると思う。しかしB2とBreeze 2では、CPUへの負荷がだいぶ違ってくる。とあるプロジェクトファイルで、イントロ8小節分の書き出し時間を比較してみた(※リバーブは1トラックのみ使用、合計20~30トラックからセンドで送られている状態)。

  • B2:21秒
  • Breeze 2:14秒
  • Lexicon PCM Hall:14秒

B2の書き出しの所要時間は、Breeze 2のだいたい1.5倍程度になると思われる。

リバーブは使用頻度が高く、複数台を立ち上げることも多いエフェクトだ。実際に曲作りで使う上で、書き出し時間の差は無視できない。そういう意味では、Breeze 2は音の良さとCPU負荷のバランスに優れており、総合力ではB2を上回る……そんな見方もできるかもしれない。

幅広い設定が可能

Size(空間の大きさ)とTime(リバーブタイム)の組み合わせで好きな空間を自由に作ることができる。もちろん他のリバーブにも同様のパラメーターは付いているが、Breeze 2は圧倒的にリアルな空間を演出することができる。音像の表現力に関しては、旧世代のリバーブとは一線を画している印象だ。

Tips

空間をイメージしてSizeとTimeを決める

どの程度の大きさの空間で音を鳴らすかをイメージしてから、リバーブのパラメーターを設定する。空間の大きさによって、適切なSizeとTimeはある程度決まってくるので、音響的に自然な値になるように上手く調整する。

上記の内容は基本的なことかもしれないが、Breeze 2にはホール/ルームといった明確な分類がないので、このことを改めて意識しておきたい。

高域が出過ぎないように気をつける

自然界の響きは、高域成分ほど速く減衰していく。そのため、多くのリバーブでは、Dampingの設定もそのようになっている。また、リバーブにもEQ処理がされていて、高域成分が削られていることが多い。

※Damping:高域と低域でリバーブタイムを変えるためのパラメーター。

さて、Breeze 2を起動したデフォルトの状態を見てみよう。

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Dampingのパラメーター(青)は高域が下がるようになっているものの、EQ設定(緑)では低域が削られている。

この状態だと、楽器によっては、リバーブの高域成分が強すぎることがある(高域が強く出たシンセなど)。なのでEQ設定に関しても、必要に応じて高域を削ったほうが使いやすいと思う。

その他覚え書き

プリセットは個性的

プリセットはたくさんあるが、個性的なものや、エフェクティブなものが多い。なので、完璧にマッチするプリセットを見つけるのは意外と大変かもしれない。イメージに近いプリセットを元に、自分でパラメーターをいじって、好みの響きに近づけたほうが手っ取り早いと思う。

アーリーリフレクションについて

他社のリバーブとは異なり、Breeze 2ではアーリーリフレクション(以下ER)とリバーブテール(以下Tail)の分量を、それぞれ個別で調整したりはできない。同社のB2もそうなので、そういう思想で設計されていると思われる。SizeやContourといったパラメーターを調整することで、ERを上手くデザインしていくのが良さそう。

パラメーターの解説

ディスプレイ

2つのディスプレイがある。それぞれダブルクリックすると、詳細設定画面に入れる。Freqディスプレイの方は開く機会も多いはず(DampingやEQの設定は、詳細設定画面でしか変更できないので)。

Freqディスプレイ

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  • 青いライン:Dampingを調整
  • 緑のライン:EQを調整

カーブの形状については、ハイ/ローのカットやシェルビングなどを設定可能。

Dampingのラインは、帯域ごとのリバーブタイムを表している。たとえば画像のように、青いラインが32kHzで1:2に到達していれば、32kHzのリバーブタイムは、Timeで設定した値の半分ということになる。

EQに関しては、こちらもdBではなく比率表示だが、「6dBで2倍になる」と覚えておけば、イメージしやすいはず。

Timeディスプレイ

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はじめの、大きなはっきりとした波形が、Primary Reflections。後ろの、小さなぼやけた波形が、Secondary Reflections。一般的なリバーブにおける、アーリーリフレクション(以下ER)とリバーブテール(以下Tail)の関係といえる。

※なぜこの呼称なのかは不明だが、マニュアルを読むとこのように解釈できる。

ツマミ

Time

いわゆる普通の「リバーブタイム」を調整するパラメーター。

Size

空間の広さを決定する(数値の単位はメートル)。実際の空間の挙動がリアルに再現されている。例えば、現実の空間と同様に、Sizeを下げれば初期反射音中心の響きになっていくことが分かる。

アルゴリズムがChamberやHyper-Plateのときは10~20、Hallのときは20~50程度に設定するとよい(マニュアルより)。

Pre-Delay

ごく一般的なプリディレイ。リバーブが発動するまでの時間を決めることができる。

Mod

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リバーブの音にモジュレーションを加える。この機能のおかげで、リバーブを幻想的な響きに調整したりすることも容易だ。AよりもBのほうが派手にかかる。

Contour(輪郭)

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初期反射音のアタックのエンベロープを調整するパラメーター。負の値にすると、アタックの立ち上がりが遅くなる。正の値にするとその逆で、リリースの側が削られる。

ディスプレイを見ながら値をいじるとイメージしやすい。ERのアタック成分を削りたいときに、負の値に動かすような使い方がメインになりそう。

Shape

「部屋の中の反射面を、どれだけ増やすか」を決めるパラメーター。さながら部屋の「Shape」といったところか。

  • 大きな負の値:反射する面が多いような、複雑な形状の部屋を表現
  • ゼロ付近:反射する面が少ないような、シンプルな形状の部屋を表現
  • 大きな正の値:初期反射のエリアを拡張して、初期反射が起こる時間を延長する

とマニュアルには書いてあるが、正直変化が分かりづらいパラメーター。ただ、リバーブタイムを極小にした状態で動かしてみると、ERの感じが変わっているのが分かる。

Density(密度)

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多くのリバーブに搭載されている、リバーブの密度を決めるパラメーター。高いほうが濃密になるので、高めで行きたいところ。

※値を上げるとディスプレイ表示も濃密になる。

正の値~負の値と設定できるが、マニュアルによれば、プラスマイナス関係なく、純粋に「単位時間あたりに発生するディレイ」(Tail)の数と考えて良さそうだ。

大きな正の値:ディレイの数が多くなる
大きな負の値:ディレイの数が少なくなる

出展:公式マニュアル(英語)

なお、アルゴリズムモードによって、Densityの効果は変わってくるとのこと。

Diffusion(拡散)

マニュアルによると、よく分からなければ中くらいの値がオススメとのこと。基本デフォルトで良さそう。

Algorithm Modes

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リバーブのアルゴリズムを選ぶ。Hall、Chamber、Hyper-Plateなどを選択できる。「Classic」と付いているものは旧バージョンのアルゴリズムらしいので、僕はそれ以外の新しい方を使うようにしている。

9 completely new modes unlike anything else in other 2CAudio products (略)3 Classic modes that have been significantly improved

出展:Breeze製品ページ

Algorithm Randomize(サイコロマーク)

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パラメーター自体は変えずに、音響にバリエーションを持たせることができる。

ミックスコントロール

Mix Lock(左下の錠前マーク)

ミックスバランスをロックすることができる。プリセットを切り替えても、Dry/Wetの割合が変わらないのでプリセットを比較試聴するときに便利。

Mix Mode → Mix

左下の「MIX」という文字を押すと切り替えられる。こちらは普通のモード。DryとWetのバランスが調整できる、ごく一般的な形式だ。

Mix Mode → Balance

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Balanceモードは少し特殊なモード。Balanceモードでは、Dry信号そのものが、空間に配置したようなステレオ信号に変換される(Dry信号が、素の状態では鳴らなくなる)。

Balanceモードの状態でWetを0まで下げて、Dry信号(厳密にはDry信号を変化させた信号ということになるが)だけを聴いてみると分かりやすい。モノラルソースでもステレオになっていることが分かるはず。

※なお、そのステレオ幅については、Widthで調整できる。

マニュアルによれば、Balanceモードは次のような状況で役に立つそうだ(一部の例を抜粋)。

  • オーケストラ:HallやChamberのアルゴリズムモードと一緒に使う。より奥行きのある感じにできる。
  • モノラルマイクで録音した素材:HallやChamberのアルゴリズムモードと一緒に使う。あたかもステレオマイクで録音したような雰囲気にできる。リアルな感じになる。

Cross

どの程度、左右の信号がクロスオーバーするかを決める。

Width

リバーブのステレオ幅を決める。