音楽制作におけるアマチュアとプロの違い 26個
機材の導入・使い方
1
アマチュアは、セール品を買う。
プロは、必要なものを買う。たとえセールが開催されていても、必要なければ買わない。
2
アマチュアは、(広告向けに執筆されることも多々ある)レビュー記事を頼りに製品を評価する。
プロは自分の耳や感覚、あるいは客観的なデータを頼りに製品を評価する。
※音楽関係の製品は、個人の感性に評価が委ねられる部分も大きいため、客観的なデータを得るのが難しいところもある。
3
アマチュアは、機材やソフトを買っただけで満足してしまう。
プロは、買ったものをひたすら使い倒し、自分なりの使い方を見つける。
4
アマチュアは、サンプルをそのまま鳴らす。
プロは、サンプルの音色に不足している要素を見抜き、他のサンプルとレイヤーして(組み合わせて)独自の音色を作ることがある。
※リズムサンプルをDAWに直接貼り付けず、Batteryのようなサンプラーに読み込んで使うプロが多いのには、そういった理由もある。
Native Instruments /KOMPLETE 12
5
アマチュアは、シンセのプリセットをそのまま使う。
プロは、プリセットを必要に応じてエディットして使う。一からプリセットを自作するケースも多々ある。
音楽制作の特徴
6
アマチュアは、誰も聴いていないような細部に必要以上にこだわる。
プロは、音楽全体への影響が大きい要素から優先してこだわる。
7
アマチュアは、闇雲に上モノを飾り立てる。
プロは、曲の骨格となる4リズム(特にドラム・ベース)で手を抜かない。
8
アマチュアは、闇雲にトラック数を増やしてしまう。
プロは、聴かせたい要素を明確にして緻密に編曲する。
9
アマチュアは、コンプの使い方がおかしい。かけ過ぎていたり、逆に全然かけていなかったりする。
プロは、コンプを適切に使う。
※エフェクトの中で一番実力差が出やすいのがコンプ。
10
アマチュアの曲は、きちんとミックスしないとバランスよく聴こえない。
プロの曲は、音色選び、編曲、録音の段階で最大限工夫がされているため、フェーダーを揃えるだけで、ある程度ミックスバランスが取れている。
11
アマチュアは、ショボい素材をミックスで何とかしようとする。
プロは、高品質な素材を用意できるよう、録音や楽器、音作りに最大限こだわる。
12
アマチュアの曲は、時に音楽理論的に破綻している。
プロの曲は、一見奇抜であっても音楽理論的には破綻していない。
仕事術
13
アマチュアは、ソフトやプラグインをすぐにアップデートしてしまう。
プロは、安定した環境を維持するため、仕事が落ち着くまではアップデートしない。
14
アマチュアは、毎回イチから作業を始めてしまう。
プロは、既出のプロセスは保存して使い回し、効率化する。
※作業の効率化については、以前にも記事を書いた。具体例はこちら → 作曲家・アレンジャーがDAWで効率よく作業するためのテクニック集 10
15
アマチュアは、じっくり時間をかけないと作品を形にできない。
プロは、蓄積されたスキルとノウハウを駆使して、短時間でも最低限のクオリティを確保する。
16
アマチュアは、ファイルの管理がテキトー。
プロは、ファイルを失うことが致命的なダメージになることを知っているので、慎重かつ確実に、ファイルの整理とバックアップをしている。
17
アマチュアは、PCや機材が壊れると作業がストップしてしまう。
プロは、何かが壊れても作業を継続できるよう、最低限のサブシステムを用意している。
※「自分の体」のバックアップはできない。健康には気を使いたい。
スキル・経験・考え方
18
アマチュアは、とにかく耳が未熟。ハーモニーに濁りがあっても気づかなかったりする。リズムが走ったりモタったりしていても、気にしなかったりする。
プロは、とにかく耳が良い。ハーモニーやリズムを感じ取る能力が高い。エンジニア的な耳(トランジェントや帯域バランスへの感度)を兼ね備えた人も多い。
19
アマチュアは、「商業的な理由によって分類された音楽ジャンル」に夢中になってしまう(アニソン、アイドル、ビジュアル系など)。
※アニソンしか知らない状態でアニソン作曲家を目指したりしてしまう。
プロは、「それらの音楽のルーツとなっている音楽」を掘り下げることを忘れない。
20
アマチュアは、自分の作品が完全に"オリジナル"だと思っている。
プロは、多くの音楽が、既存の要素の組み合わせで成り立っていることを知っている。
21
アマチュアは、音楽理論の習得が、音楽に制約をもたらすと思っている。
プロは、音楽理論の習得が、制約の無い音楽を生み出すことに繋がると思っている。
22
アマチュアは、技術よりもセンスが大事だと思っている。
プロは、技術を磨くことでセンスが開花すると思っている。
23
アマチュアは、DTMのスキルだけを頼りに音楽を作ろうとする。
プロは、DTMをこなせるだけではなく、何かしらの楽器を演奏できる人がほとんど。何気なく楽器を弾いている最中に、曲作りのインスピレーションを得たりする。
24
アマチュアは、音楽に触れてきた時間がそこまで多くない。
プロは、音楽を聴くことや、音楽を演奏(コピー)することに膨大な時間を費やしてきている。
25
アマチュアは、自分の好みに合わないという理由で、売れているアーティストを安易に批判・卑下する。
※アマチュアのメジャー批判ほど、みじめで愚かなことはない。
プロは、アーティストが売れているのには、それなりの理由があると理解している。たとえ好みではなくても、彼らの音楽や活動を客観的に分析し、フィードバックできる部分は自分の活動に役立てて行く。
26
アマチュアは、「プロという肩書き」を時に崇高なものと捉えてしまうことがある。
プロは、「プロという肩書き」が音楽に与える本質的な影響は、それほど無いことを知っている。
※大事なのは作り手の肩書きではなく、音楽の中身。
おわりに
今回はアマチュアとプロの違いをまとめてみた。
少し偉そうな言い回しが多くなってしまったが、これらの多くは、他でもない僕自身の成長記録の一部だ。もし役立ちそうな項目があれば、参考にしてほしい。
音楽家がかかりやすい「楽器/機材/プラグイン収集病」について
はじめに
わずか数週間程度だが、昔、大学の軽音楽部に体験入部していたことがある。そのときに違和感を覚えた経験について、本題に入る前に語っておきたい。
その軽音楽部では「音が良いこと(≒高価な楽器を使っていること)」が、「演奏が良いこと」以上に、極端に重要視されていたのだ。もちろん出音が良いというのは音楽を演奏する上で重要なことだ。しかし、それから僕は軽音楽部のライブを見て驚くことになる。
良い機材を所有していた彼らの中には、演奏技術が低い人も多かったのだ。左手の運指と右手のピッキングのシンクロが上手く行っていない。不自然な運指をしている。リズムが悪い。そんな状態で、高いマーシャルのアンプを使って満足していたのだ。
大学の軽音部というのは、音楽のプロが在籍しているコミュニティではない。レベルの高い人が少なければ、異質な価値観が支配的となることもあるだろう。
しかし、この「演奏の中身よりも機材・楽器に価値を置いてしまう」という現象は、「アマチュアレベルだから仕方がない」という単純な話ではなく、実はプロレベルの人でも陥ってしまうような、いわば「機材収集病」の症状のひとつなのではないか。最近そんなことを考えたので、今回記事を書いてみることにした。
収集病の定義
楽器や機材、プラグイン等を集めることを、作曲・演奏等の生産的な作業よりも優先してしまう病のこと。
道具か腕か?
先に断っておくが、音楽に携わる人の中には、良い機材を所有しておく必要があるポジションの人もいる。エンジニア、マニピュレーター、楽器のテクニシャン。こういった職業の人は、(腕のほうが重要ではあるにせよ)良い道具を持つことが、良い仕事をすることにつながっていく部分も大きい。
しかし、いわゆる音楽家――作曲家や演奏家の人は注意しなければならない。作曲家や演奏家は、自身の作曲能力や演奏スキル、音楽性が、機材よりもはるかに大切だからだ。
サウンドのクオリティが高いデモ音源を作れる作曲家でも、人を感動させるような良い曲が書けるとは限らない。良い楽器を使っているギタリストでも、優れた演奏ができるとは限らないし、出音が良いとも限らない。
作曲家が本質的に目指すべきなのは、良い曲を書くこと。演奏家が本質的に目指すべきなのは、良い演奏をすること。このことを忘れてはいけない。そして、これらは決して高級な楽器や機材が届けてくれるものではない。
収集病がもたらす弊害
音楽家は本来、音楽を演奏したり作るための道具として楽器や機材を手に入れる。しかし、収集病にかかってしまうと、集めること自体が目的になってしまい、手段と目的が逆転してしまう。その結果、本来の目的である「演奏」や「作曲」といった作業が疎かになってしまう。
また、その結果、せっかくの良い機材もその潜在能力をフルに発揮できないということも起こり得る。道具は、使いこなすことが何より大事なのだ。
例えば、僕は過去に仕事で「ピアノのトラックが良い音にならないので、音源を差し替えて欲しい」という依頼を受けたことがある。もらったMIDIデータを見ると、なんとベロシティが全てMAX。これでは当然生っぽいピアノトラックにはならない。何の音源を使っているのか聞くと、なんとIvory(高品質ピアノ音源)。打ち込みが良くないと、良い音源を使ってもダメという一例だろう。
道具ではなく、人の手が良い音を生み出していく。これはDTMだけではなく、あらゆる作業に言えることだろう。
収集病にかかる原因
マルチな能力が求められる時代だから
今の作曲家は、求められるスキルが多岐に渡っている。ひとりの人間が多くの作業をこなす必要があるのだ。音楽制作の予算が縮小したことと、PCベースの音楽制作スタイルが主流になったことがその理由だ。
作曲ができるだけでは仕事にありつけない。作曲の仕事を獲得するには、完成品に近い品質のデモ音源を用意する必要があるからだ。
そのため作曲家は、作曲以外にも様々なスキルを持っていることが多い。編曲、演奏、録音、ミックスダウン、マスタリング、MIDIプログラミング、シンセマニピュレート……一線で活躍している人は、どの作業も高水準でこなせることが多い。そしてこれらの作業の多くは、良い道具を持っている人ほど、高いクオリティに仕上げやすい。
そんな状況が背景にあるため、人によっては機材収集に走ってしまうのも仕方がないだろう。そうしているうちに、本来の目的である「作曲」という作業が疎かになってしまうことも想像に難くない。
漠然とした不安があるから
「新しい道具を手に入れれば、何かが良い方向に変わるんじゃないか」。こう考えてしまうことも、収集病にかかる原因のひとつだろう。しかもやっかいなことに、この考えはある程度正しい。
作曲家なら、プラグインやソフト音源にお金をかければデモ音源のクオリティが上がる。演奏家なら、楽器のグレードが上がれば音は良くなる。ひいてはクライアントに良い印象をあたえることができ、仕事が上手く回ることもあるだろう。
なら問題ないのでは?と思うかもしれないが、ここがまさに収集病の落とし穴なのだ。選択肢が限りなくある以上、道具探しの旅が終わることはない。だからこそ、自分でゴールを決めなければならない。
ひと通り良さそうな道具が手に入ったら、あとは余計なことを考えずに作曲や演奏に専念する。そういった割り切りも必要になってくるのではないだろうか。
収集病にかからないための対策
本質的な目的を常に意識しよう。作曲家は、曲を作るのが目的。演奏家は、演奏をするのが目的。機材や楽器を買うのは、そのための手段にすぎない。
「TAKモデルのギターを買えば、B'zのようなかっこいいギターを弾けるかもしれない」「EOSを買えば、小室哲哉みたいな作曲家になれるかもしれない」こんな風に考えるのは、好きなミュージシャンがいる人なら自然なことだ。
しかし、音楽を突き詰めていくと、遅かれ早かれ自分の音楽を確立して行く必要が出てくる。それを作り上げていくのは、楽器や機材ではなく、その人自身のセンスや技術といった部分になってくる。
プロの世界には、特別な道具を使っているわけではないのに、個性的な音を出しているミュージシャンが大勢いる。機材マニアの人なら薄々気づいているであろうこの事実を、いつも忘れないでおきたい。
最後に中田ヤスタカ氏の名言を紹介しよう。氏がJ-POP界の革命児となる前の、まさに革命前夜のインタビューだ。
「一時期は電源ケーブルから変えていこうかなと思っていたくらい音質にこだわっていたのですが、踏みとどまりました。やっぱり、電源ケーブルを変えるよりも自分が変わったほうがいいかなと思って。」
出展:サウンド&レコーディング・マガジン 2006年7月号
このような哲学を持っていたことも、彼が音楽の世界で成功した理由のひとつではないだろうか。
皆さんもぜひ、収集病にかかることなく、自分自身の音楽を磨いて行ってください。
【DTM】作曲家が知っておきたい、制作環境へのお金のかけ方
音楽制作には、とにかくお金がかかる。
作曲をするだけなら安い電子ピアノで問題はない。しかし、現代の作曲家は「デモ音源」を求められるケースがほとんど。打ち込み、レコーディング、ミキシングなどの作業も行う必要がある。
これらの作業を行うために必要な機材やソフトは多い。パソコン、スピーカー、オーディオインターフェイス、DAWソフト、ソフトシンセ、プラグインエフェクト、マイク、楽器……品質の高いものは、どれも数万~数十万円という値段がする。
プロの作曲家は、これらのアイテムに多くのお金をつぎ込んでいることが多い。機材環境のクオリティは、音源のクオリティに直結するからだ。
これらのアイテムを闇雲に買っていては、お金がいくらあっても足りない。そこで、機材やソフトに何百万とつぎ込んできた僕の経験をもとに、効率の良いお金のかけ方について記事にまとめていこうと思う。
- お金をかける前に知っておきたい予備知識
- 優先的にお金をかけたい部分
- 必要に応じてお金をかけたい部分
- 一点豪華主義よりもバランス
- セールを狙う
- サポート不要なソフトは海外サイトで買う(要英語力)
- 必要のないものは買わない
- 雑誌やネットの評価を信用しすぎない
- おわりに
お金をかける前に知っておきたい予備知識
ソフトやデジタル機材は、10年後は価値が下がる
ソフトやデジタル機材の進化は日進月歩。音楽機材も、デジタルものは時が経てば価値が下がってしまう。
現在の音楽制作はコンピューター・ベースでの作業が主流。DAWソフトやソフトシンセ等ソフトウェアへの投資は避けて通れない。とはいえ、長期的に音楽制作を続けることを考えた場合、なるべくパソコンやソフト、デジタル機材には極端に高額な投資をしないほうが資金を有効に使っていけるはずだ。
楽器やアナログ機材は価値が下がりづらい
ソフトウェアに対して、生楽器やマイク、マイクプリアンプなどのデジタル要素がない機材は、時が経っても価値が下がりづらい。それどころか、楽器やマイクは古いものほどヴィンテージ扱いされて価値が上がるケースもある。
思い切ってお金をたくさんつぎ込むなら、こういった機材にするとよい。
なお、テクノロジーの発展によりこれらがデジタル技術で代替される場合もあるため、それによって相対的な価値が下がる可能性はあるので注意。
優先的にお金をかけたい部分
モニター環境(スピーカー、ヘッドホン)
いちばん大事なのが、モニター環境(音を聴く環境)だ。音楽制作のあらゆる局面で、「良い演奏・歌唱ができているか」「良い音が出ているか」といった判断をする必要がある。
研究・勉強のために既存の曲を聴くような場合、例えば「メインボーカルの後ろで小さく鳴っているハイハットの音」をしっかり聴き取りたいようなときもある。新しくソフトシンセやエフェクトプラグインを買う場合も、「良い音が出るか」「欲しい効果が得られるか」という判断をしなくてはならない。
これらの作業は、いずれもモニター環境が整っていないと難しい。モニタースピーカーは、最優先で用意すべき機材だと僕は考えている。
どれを選ぶかについては、事前に入念にリサーチをし、楽器屋に足を運び試聴して判断して欲しいが、一つ挙げるとすればYAMAHA MSP5 Studioは初めてモニタースピーカーを買う人にも推奨できるモデルだ。色付けも少なく正確なモニタリングができるし、価格もお手頃でコストパフォーマンスが高い。プロユースにも耐えうるクオリティだ。
GENELEC、YAMAHA、ADAMあたりのモニタースピーカーはオススメ。プロの作曲家や編曲家でも使用者が多い。住宅環境によってはモニタースピーカーを鳴らせない人もいるかもしれないが、そういう場合でも良いヘッドホンを使うことを心がけたい。おすすめは、AKG K702のような、奥行きを感じやすいヘッドホンだ。
※イヤーパッドから音が漏れるため、マイク録音時のモニタリングには使えないので注意。歌や楽器をマイク録音するときは、SONY MDR-CD900STなどの密閉型ヘッドホンで音を聴こう。
マイク
歌やアコースティックギターなどを録音する場合の必須アイテム。録音の品質を最も左右するのは、何と言ってもマイクだ。レコーディングではコンデンサーマイクが使われることが多い。
今では低価格帯のコンデンサーマイクでもそこそこ良い音で録れる。しかし、高品質なマイクを選ぶことを考えた場合、20万~という値段がするのは今も昔も同じ。時が経っても価値が下がりづらい機材の一つなので、思い切ってお金をかけてもよいと僕は考えている。
オーディオインターフェイス(ある程度の金額まで)
音を再生したり、楽器や歌を録音するのに必要な機材だ。一部の業務用ハイエンドモデルを除き、マイクプリアンプやAD/DAコンバーターと一体型になっていることが多い。
いちばん大事なのが「安定して動くかどうか」ということ。ドライバが粗悪な物を避けて、実績のあるメーカーから選ぶようにしよう。オーディオインターフェイスは録音の品質や再生される音の品質にも影響するので、多少は良いものを手に入れたい。
僕のオススメは断然RMEのインターフェイスだ。ドライバの性能・安定性が断トツで優れているのが一番の理由。WindowsとMac両方の環境で使えるし、相性問題が出やすいWindowsマシンであってもトラブル知らずの安定動作が期待できる。レイテンシーも下げやすいし、Total Mixで内部信号のルーティングも自由自在。
※使い方の解説記事も書いています → RME TotalMix FXの使い方を、5つの具体例を挙げつつ解説してみる - Nomad Diary
Macなら相性問題が少ないので選択の幅も広くなるが、Windowsユーザーなら安定動作を優先し、RMEがファーストチョイスという人も多いだろう。
なお、オーディオインターフェイスは基本的にはデジタル機材。優先度は高いが、必要以上にお金をかけてもコストパフォーマンス的には微妙。音質面に関しては、時代が進めば進むほど、安くて良いものが手に入るようになるからだ。作曲家ならば、RME程度の一体型インターフェイスがあれば問題ない。それ以降は、単体マイクプリ、単体コンバーターに手を出そう。
生楽器系のソフト音源
※2018年9月追記
ピアノやドラム、ベース、ストリングスのような楽器は、様々なジャンルの音楽で使われる。その分使用頻度も高いので、これらの楽器については思い切って良い音源を手に入れてしまおう。ドラム音源のBFD、ピアノ音源のIvory、ベース音源のTrilianなどは定番だ。
生楽器の音源の多くは、「録音されたサンプルを、ソフト内で再生する」という、いわゆる「サンプリング」の手法を利用して音を出す仕組みになっている。この仕組み自体が本質的に変わらない限り、ソフト音源が大きく進化することはないのだ。現に生楽器系のソフト音源に関しては、10年前の製品が現役で使われていることも多い。
これを裏付ける例として、冨田ラボ氏のドラムを紹介したい。冨田ラボ氏は、大容量ソフト音源が一般的になる前――遅くとも2000年代前半の時点で、自作の大容量ドラム音源を使っていたのだ。当時はPCのスペックも低かっただろうに、ドラム専用のPCを用意して鳴らすという徹底ぶりだ。
1キットにつき3GBを超える自作ライブラリーの音色は、生ドラムと聴き違うほどのリアルさだ。
出展:サウンド&レコーディングマガジン 2006年3月号
氏がこの時期のドラム音源を今でも使っているかどうかは不明。だがそれでも、当時の作品のドラムトラックが、現在主流の大容量ドラム音源であるBFDやSuperior Drummer等と比べても勝るとも劣らないクオリティであることは、「STARS/中島美嘉」「Everything/MISIA」などの曲を聴いてみれば一目瞭然。これを15年も前にやっていたのだから恐れ入る。
結局、ソフト音源のクオリティは、
- 良い楽器を使っているかどうか
- 収録時に良い演奏ができているか
- 良い録音ができているか(=録音空間やマイクの品質は十分か)
- サンプルの容量が十分確保されているか
- サンプルをエンジン(Kontakt等)に上手く組み込めているか
これらの要素で決まってくる。テクノロジーが進化しても録音の方法そのものは変わらないので、ソフト音源の進化は意外と遅いといえる(プラグインエフェクトの進化が日進月歩なのとは対照的)。
※「録音に使うADコンバーターが時代とともに進化している」という部分はあるので、厳密にいうと同じ手法でも出音は進化することになるが、他の要素に比べれば微々たる差だろう。
現に、Vienna Symphonic Library社は、"SYNCHRON-ized"と銘打った「過去の音源のサンプルを流用した音源」を"新製品"としてリリースしている。音色自体が定番のものなら、録音したサンプルが古くても問題ないことの表れだろう。
後発の製品でより良いものが登場する可能性はあるにせよ、今の音源の価値がすぐに下がるということはない。したがって、ソフト音源にはきちんと投資しても問題ない。これが僕の見解だ。
※オススメのソフト音源については、別に記事を書いている。
必要に応じてお金をかけたい部分
※2018年9月追記
プラグインエフェクト
EQ、コンプ、リバーブは、ミックス作業においてメインで使う道具だ。できれば良いものを手に入れておきたい。EQならNeve 1073、コンプならUrei 1176やTeletronix LA-2Aなどが定番なので、これらを再現したプラグインを持っておくと便利。
ただし、特にコンプは、「どのタイプ(FET/光学式/デジタル等)のコンプを選ぶか」「どういったセッティングにするか」という判断が、使う道具の品質以上に大事になってくる。オーディオエンジニアリングの基礎的な知識をひと通り学んで、それから製品を選んで行くのがオススメだ。
スキルやノウハウへの投資
一線で活躍するプロが登壇するセミナーなどは、積極的に参加するとよいだろう。自身の実力の底上げにつながる。僕も以前、著名なプロデューサー/アレンジャーの講座を受けたことがあるが、非常に有意義な内容で、今でもその学びが生きていると感じている。
なお、講師が本業の人や、実績に乏しい人のレッスンはそれほどオススメできない。プロの現場のノウハウを知らない状態で独自の指導をしているケースも多く、実際に仕事をする上で役に立つとは限らないからだ(趣味で曲作りを楽しむのが目標なら問題ないが)。
とはいえ一線で活躍している人はレッスンを開催していないことも多く(忙しいので)、結局は売れっ子の人の講座を受けられる機会は少ないというジレンマもある。もし開催されることがあれば、ぜひチェックしておきたい。
書籍を読むのもいい。オススメの本は以前にも記事を書いた。
また、今はネットでノウハウを公開している人も多い。現役のプロがTwitterやブログなどでTipsを公開している場合もあり、勉強になることもある。ネットの情報は質が低いものも多いので、そこだけは注意したい。
YouTubeでは海外のクリエイターが制作風景を公開していたりする。海外のクリエイターは日本のクリエイターよりも情報をオープンにする傾向があるので、海外の文献を漁れるように英語力を身につけておけば、心強い武器になるだろう。
一点豪華主義よりもバランス
作曲家の久石譲氏が、著書でこのように語っている。
国際級のすごいソリストを入れても、中に一人ヘタな人間がいると、アンサンブルとしての実力はそのレベルに下がってしまう。
出典:感動をつくれますか?- 久石譲(第二章より)
音楽制作でも同じようなことがいえる。いくら良いギターを使っていても、アンプが低品質だと良い音は出ない。演奏や録音が良くても、ミックスが悪いと音源のクオリティは低くなる。
あらゆる要素の積み重ねで音楽はできている。
制作環境のどこかに安物が混じっているような場合、それが総合的なクオリティを下げる原因になっていないか定期的に考えてみることが必要だと思う。
また、以下のようなケースでは、前者の方が品質が上がったように感じやすい。
- 1万円のマイク → 10万円のマイクにグレードアップ
- 10万円のマイク → 20万円のマイクにグレードアップ
現在使用している機材の品質が高ければ高いほど、そこからグレードアップするために必要な金額は大きくなる。一点豪華主義よりもバランス良くお金をかけていくのが効率的だ。
セールを狙う
ソフトウェア、ハードウェア問わず、音楽制作のアイテムはセールを行うことがある。音楽制作のアイテムはどれも高額なので、1~2割引き程度であっても大きな節約になることが多い。楽器店や代理店のメルマガ、Twitterアカウントなどをチェックして、セール情報が流れてこないかマメにチェックしよう。
特に、11月下旬のBlack Friday(通称「黒金」)の時期は、様々なプラグインデベロッパーがこぞってセールを開催する。50%OFFになるプラグインもある。そこで、11月下旬になったら「欲しいプラグインが、Black Fridayセールで値引きされていないか」を必ずチェックしよう。
- Black Fridayに向けて資金を貯める
- Black Fridayに向けて買い物の計画を立てる
こういうのは、慣れた人なら当たり前のようにやっていることだ。
プラグインの多くはWeb経由で購入することになるので、もし持っていなければ、通販用に1枚はクレジットカードを作っておこう。クレカのことがよく分からない人は、楽天カードを選ぶのがオススメ。年会費無料でポイント還元率も高く、楽天市場に音楽関係のショップが多いというのがその理由だ。
サポート不要なソフトは海外サイトで買う(要英語力)
音楽制作のソフトはほとんどが海外製。国内で買う場合、基本的には代理店を通して買うことになる。代理店を通して買うメリットは、日本語で製品サポートが受けられたり、ソフトによっては日本語マニュアルがもらえたりすることだ。
反面、代理店を通すと価格は高くなってしまうことが多い。ある程度DTMに慣れた人なら代理店のサポートは不要なので、プラグイン関係は海外のサイトで購入するとよい。
僕は普段、AudioDeluxeという海外のサイトを使っている。店独自の割引が日常的に行われており、何でも安く手に入る。商品購入後にシリアルが送られてくるまでのスピードも速く、使い勝手が良い。
音楽関係の商品に限ったことではないが、海外のショップで買い物をする場合、支払い方法はPayPalがオススメ。手数料はかかるが、クレジットカード情報をお店に渡すことなく安全に買い物ができる。PayPalに1枚だけクレカを登録しておけば、海外の色々なショップで好きなだけ買い物ができるようになる。
ただ、海外ショップの利用は万人におすすめできるものではない。万が一トラブルがあったときのために、英文でメールを書ける程度の英語力は持っておくのがマナーだろう。また、日本のショップのような迅速丁寧な対応を求める人は、海外のショップで買い物をするべきではない。
なお、オーディオインターフェイス等のハードウェアは、故障時に修理することも考え、国内で買うことをオススメする。DAWソフトに関しても、操作習熟の重要度が高い部分なので、いざというときに日本語サポートが受けられるよう国内で買うのがよいと思う。
必要のないものは買わない
歌とアコギしか録音しないのに、8chもある10万円のマイクプリアンプを持っていても、チャンネル数を持て余すだけ。同じ10万円なら2chのマイクプリアンプの方が1chあたりのクオリティは高いはずなので、その人にとっては良い結果を得られるはず(注:価格がクオリティに比例するという前提)。
DAWやプラグインも、リリース直後のアップデートはしない。多少機能が刷新されようが曲作りへの影響は出ないことがほとんどだし、初期バージョン特有のバグに翻弄されて消耗することもある。安定した頃にアップデートするのが賢い。
安売りしているだけのプラグインも、なんとなく買ったりしないようにする。気に入ったものでなければ結局使わなくなる。気になったものは事前にデモを試し、吟味してから買う。
何か新しいものを買う場合、自分にとって本当に必要か、どのような効果が得られるのかを事前に考える。そうすれば買い物で失敗することは少なくなる。
※「機材コレクター」になることの弊害については、別の記事でも意見を書いている。
雑誌やネットの評価を信用しすぎない
雑誌では商品を宣伝することで報酬が発生する。ブログでも紹介した商品が売れれば、アフィリエイト収入を得ることができる。商品の核を捉えた記事であればそれは参考に値する情報だといえるだろう。しかしながら報酬を得るための手段として、いい加減なレビュー記事を量産している人も世の中には存在する。
自分の頭で考え、耳で判断してから購入を決断するよう、日ごろから心がけるべきだと思う。
おわりに
今回は作曲家が制作環境にお金をかける場合の考え方について書いた。制作環境のグレードが高くなれば、音源のクオリティは間違いなく上がる。
ただし、クオリティの高い音源の中身が、必ずしも良い音楽であるとは限らない。そのことはいつも心に留めておきたいと思っている。
Cubase9にもなってハイパースレッディング問題で消耗した話
※当記事は、一部の方のみに役立つような備忘録的な内容となっています。
トラブルの概要
先日PCを新調した。Core i7、6コア12スレッドの高性能なマシンだ。OSもWindows7からWindows10にアップグレードした。これで制作も捗るはず!と思っていたところ、Cubaseで制作している最中になぜかプチる。
※プチる:音飛びや、「プチッ」とうノイズが発生すること
Ivoryでピアノを弾いていたりすると、プチノイズが発生するのだ。また、曲の再生中に音飛びが発生することもある。
Cubaseはテンプレートを起動した瞬間の状態なので、プラグインもソフトシンセもそれほど立ち上げていない。そもそも前のPCでは問題なく使えていたプロジェクトファイルだ。
インターフェイスは長年愛用しているRMEのFireface。この上ない安定性を誇るオーディオインターフェイスだ。バッファサイズは以前と同じ128sample。レイテンシーを詰め過ぎということはないはず。それに、CPU負荷はまだ20~30%程度。この程度の負荷でプチるのは何かがおかしい。
他にも、Windowsのタスクマネージャーを開いた瞬間に、高確率でプチるという症状がある。やはり何かがおかしい。
対策したこと
NIのサイトで公開されているオーディオ処理のためのWindows最適化のTipsなども参考にしつつ、以下の対策を行った。しかしどれも効果がなかった。
- Windows 10の省電力設定の解除(←これはもともとやってた)
- UEFI (BIOS) の省電力設定の解除(「高パフォーマンスモード」に変更)
- 「マルチプロセッシングを有効化」のオン/オフ切り替え(Cubase設定)
- ASIO-Guardのオン/オフ切り替え(Cubase設定)
- Steinberg Audio Power Schemeのオン/オフ切り替え(Cubase設定)
- オーディオインターフェイスを接続するUSBポートの変更(PCIeのインターフェイスカードのUSB端子に変更)
- ビデオカード(NVIDIA製)のドライバを更新
- LatencyMonで高い数値を出したドライバの無効化
原因究明へ
おとなしくバッファサイズを512くらいまで上げて使おうか。それともレイテンシーを詰めやすいThunderboltやPCIタイプのインターフェイスに買い換えようか。こんなことを考え始めるくらいには、解決を諦めかけていた頃だった。
ふと、昔のCubaseではハイパースレッディング(以下HT)を無効にすることが推奨されていたのを思い出す。
よって Steinberg では、パフォーマンスに問題が発生したときにはHyper-Threading (HT) を無効にすることを推奨してきました。Cubase 6.x、および Nuendo 5.x 以前のバージョンでは、今後も引き続き HT 無効化を推奨します。
とはいえASIO-Guardが搭載されてずいぶん経つし、現在のCubase9においては、「HT無効」が公式に推奨されているわけではない。どうせ意味ないだろう……そう思いながらも、一縷の望みを託し、BIOSを開いてHyper Threadingを無効に設定。
さっそくCubaseを立ち上げて検証。タスクマネージャーを開く。プチノイズは鳴らない。ウィンドウを閉じて、再度タスクマネージャーを開く。何度試しても、やはりプチらない。
その後、実際にCubaseで作業を進めた。以前と同じバッファサイズの128sampleで制作を続ける。やはりプチノイズは発生しない。そのまま丸一日Cubaseで制作を行ったけど、一度もプチることはなかった。
というわけで、原因は「ハイパースレッディングを有効にしていたこと」でした。CPUが6コア12スレッドに増えた関係で、今まで落ち着いていたはずのHT問題が表面化したのだろうか。そんなことは知るよしもないが、とにかく自分の環境では、HTを無効にすることで安定動作が可能となった。
EDM向けシンセ、LennarDigital Sylenth1を徹底解剖【レビュー】
はじめに
LennarDigital Sylenth1は、昨今のEDM系の音楽でよく使われている、人気の高い定番のソフトシンセだ。基本的なシンセ波形をフィルターに通して音作りをするタイプの、いわゆるアナログシンセの音が出るソフトシンセとなっている。
使い勝手が良く、出音が良い。Sylenth1が長く愛されてきたのは、こんなシンプルな魅力を持っているからだろう。EDM向きとされる後発のシンセは多くあるが、音質の良さ、CPUへの負荷、使い勝手など、総合的に考えると、今でもこのシンセがベストだと僕は思っている。
今回はこのSylenth1について徹底解剖していきたい。
Sylenth1の良いところ
操作がシンプル
必要なパラメーターだけを過不足なくいじれるようになっている。信号の流れも分かりやすく、使用するオシレータが2個以内であれば、1つの画面で音色作りが完結する。操作がシンプルな分、ゼロから自分で音色を作る場合も気が楽。
音が良い
例えばSuperSawのような音で和音を鳴らすような場合。Native Instruments Massiveで音を作ると、どこかデジタルっぽい無機質な印象を受ける。しかし、Sylenth1ならアナログのハードシンセを思わせるような、綺麗な心地よい音が鳴ってくれる。そんなイメージだ。
また、Sylenth1は今どきのシンセらしく、高域まで伸びたレンジの広い出音をしているので、現代的なダンスミュージックを作る上で使い勝手が良い。
もちろんフィルターを絞って甘い音にすることも可能なので、どんなジャンルの音楽でもオールマイティーに使うことができる。
軽い
CPUへの負荷は少なめ。EDMではエフェクト処理も大事になってくるため、そちらにCPUのパワーを回せるのは嬉しい。
市販のプリセットが多い
有料・無料問わず、プリセットが多く出回っている。クオリティの高い音色を販売しているVengeanceからも、Sylenth1のパッチ集は多くリリースされている。音作りが苦手な人でも、安心して使うことができるはずだ。
Sylenth1のイマイチなところ
プリセットの音色がそれほど使いやすくない
Sylenth1のプリセットも、多くのソフトシンセ同様、派手なエフェクトが掛かっていたり、アルペジエーターが鳴り出したりと、実際の曲の中では使いにくい音色が多い。
実際に曲中で使えそうな音色は、2~3割くらい(※個人の感想です)。まあ「よく分からないけど、なんかカッコイイ音が出る」ようにしといたほうがシンセの性能をアピールしやすいだろうし、ソフトを売りたいメーカーの事情を察すれば仕方ない部分もある。
音色管理がしづらい
Sylenth1は音色管理の機能が充実していない。音色のタグ管理や、レーティング管理はできないし、ユーザープリセットを保存しておくような枠も無い(ファクトリープリセットを上書きする形になる)。
Omnisphereあたりと比べると、音色管理のしやすさは雲泥の差。Sylenth1では、自分なりに工夫をして音色管理する必要がある(後述)。
複雑な音色は作れない
- 2個の波形をモーフィングさせる
- エンベロープの角度を自由に調整する
こういったことはできない(MassiveとかOmnisphereならできる)。とはいえ実際の曲作りでは、複雑な音色を使う機会は意外と少ない。特殊な音色を使うのでなければ、まず困ることはないはず。
パラメーターの見方
一般的なアナログシンセと同じように、「オシレーター → フィルター → アンプエンベロープ」と信号が流れていく。この基本的な流れの中で、必要に応じてLFOやモジュレーションエンベロープを使い、各種パラメーターを変調させていくこともできる。シンセとしては、ごくシンプルな設計となっている。
オシレーターは最大4つ、フィルターは最大2つまで使うことができる。(たくさん使うときは、Part Bの部分も開いてみよう)。フィルターエンベロープはデフォルトでは用意されておらず、自分で設定してやる必要があることに注意。
ここではSylenth1のパラメーターについて、重要な部分を抜粋して見ていくことにする。
オシレーター
※重要な項目は太字
- Octave:ピッチをオクターブ単位で変える。
- Note:ピッチを半音単位で変える(例:+7なら完全5度高くなる)。
- Fine:チューニングの微調整。※Sylenth1にはマスターチューニング機能がないので、A=440Hzから変える場合はここをいじる。→ Ver3.050以降はSettings.xmlをいじることで一応マスターチューニングの設定が可能になった。
- Volume:オシレーターの出力音量。
- Phase:発音時の位相(波形の開始地点)を変える。RetriggerがONのときのみ有効。
- Detune:デチューンの度合い(ピッチのずれる量)を決める。当然Voicesが2以上のときのみ有効。
- Stereo:デチューンした波形を、どの程度左右に広げるかを決める。Voicesが2以上のときのみ有効。
- Pan:オシレーター出力の定位を決める。基本的にセンターで良い。
- Inv:オシレーター出力が逆相(波形が反転)になる。普通はOFFで良い。
- Wave:シンセ波形を選ぶ。ノコギリ波、矩形波("Pulse"表記)、パルス波、三角波、サイン波、ノイズと、基本的な波形は揃っている。
- Voices:重ねる波形の数を決める(0だと音は出ない)。
- Retrig:リトリガーのON/OFF。基本はOFFで良い(後述)。
フィルター
フィルターはごく一般的なものが搭載されている。ハイパス、ローパス、バンドパス、フィルター無しの4つから選べて、12dB/octと24dB/octの切り替えが可能。カットオフ、レゾナンスも一般的な挙動をする。
Driveを上げると、音を歪ませることができる。これが他のシンセと違う、Sylenth1の特徴といえるかもしれない(※フィルター未使用のときはDriveは無効)。歪みの性質としては、奇数倍音が付加されるタイプになっている。ある程度歪ませたほうがアンサンブルに馴染みやすいので、適度に上げると良い。
Sylenth1ではオシレーターAの信号をフィルターAに通して音作りをするのが基本だ。Input SelectでAを選択すると、オシレーターAがフィルターAを通過するようになる。
※オシレーターA = オシレーターA1+オシレーターA2 のこと
もしオシレーターを3基以上重ねてフィルターAを通したい場合は、Input Selectを「A and B」にしよう。それからPart Bのページに移動し、オシレーターBの調整をすればよい(その際、フィルターBのInput Selectは「No Input」にする)。
フィルターコントロール
フィルターAとフィルターBを同時に操作するために用意されている機能だ。各々のフィルターで設定した値を基準とし、そこからさらにパラメーターを調整できる。なお、KeyTrackの調整と、Warm Driveのオンオフはここで行う仕様となっている。したがって、フィルターを1つしか使わないときでも、意外といじることが多い項目だ。
Keytrack
このパラメーターを上げると、フィルターのカットオフ周波数を、演奏される音の高さに応じて変えることができる。「低い音のときはOKだけど、高い音を演奏すると音がこもっている…」みたいな時に上げてやるとよい。
Warm Drive
ONだと、フィルターの歪みが強いモードに切り替わる(※より高次倍音まで付加されるようなサチュレーションになる)。ONだとCPU負荷も高くなる。
モジュレーション
Mod Env
エンベロープを各種パラメーターにかけることができる。フィルターエンベロープとして使うケースが多いだろう。
LFO
一般的なLFO。波形も各種選択可能。
Misc
MIDI情報を元に各種パラメーターを変化させるときに使う。
- モジュレーションホイールでビブラートをかける
- ベロシティに応じて音色を変化させる
上記のようなことをやりたいときに使うとよい。
上部のセクション
Polyphony
同時発音数の設定。和音を鳴らすときは多くすると良い。
Solo
現在選択されているパートのみをソロで鳴らせる。Part AとPart Bでそれぞれ音を作って、それらを重ねるような音色のときに、各々の音色の確認に使うと便利。
Sync
LFOやディレイなどを、DAWソフトのテンポに応じた設定にできる。
下部のセクション
Bend Range
ピッチベンドで変化する音程を決める。デフォルトが3(1音半)と、少し特殊。
Mono Legato
出音をモノフォニック化できる。シンセリード等を演奏するときにはONに。
Portamento
次の音を演奏する際にポルタメントがかかる。こちらもシンセリード音色で使うとよい。つまみでポルタメントの速度を調整することができる。
なお、NとSの違いは次の通り。
- N(ノーマルモード):レガート演奏時のみポルタメントが効く。
- S(スライドモード):発音に間が空いてもポルタメントが効く。
メニュー項目について
音色の管理について
- 音色を作ったら、Menu > Preset > Save as で音色を保存できる。
- 音色名は、音色名の左側にある黒丸をクリックすると変更できる。
よく使うコマンド
- Insert:現在選択している音色とその前の音色の間に、初期化された音色を挿入する。
- Delete:現在選択している音色をバンクから削除。それ以降の音色を前に詰める。
- Clear:現在選択している音色を消去し、音色を初期化する。
- Reset:現在選択している音色について、変更したパラメーターを初期状態に戻す。
おすすめの使い方
起動時のプリセットをユーザーバンクに変更する
前述のとおり、Sylenth1は音色管理の機能がイマイチ。ユーザープリセットを使う場合は、その都度ファイルをロードする必要がある。これは少し面倒くさい。ある程度使い慣れてくると、ファクトリープリセットを使うことは少なくなる。そこで、起動時のプリセットが自分のお気に入り音色になるように変更しよう。
手順は次の通り。まず、ユーザーバンクを作る。
- 音色のファイルを種類別(Pad、Lead等)にフォルダに分ける。
- Menu > Preset > Load と進み、フォルダ内のパッチをすべてロード。
- プリセットが複数、上書きされる。
- 次のプリセットに移動。手順2と同じように、別のフォルダのパッチをロード。
- すべての音色を読み込んだら、Menu > Bank > Save as より、バンクを保存。「UserBank.fxb」とでも名付け、ファクトリーバンクと同じフォルダに保存する。
これで、音色ジャンルごとにプリセットが整列した、自分仕様のユーザーバンクが作られる。次に、デフォルトで読み込まれるバンクを、ファクトリーバンクからユーザーバンクに切り替える。やり方は次の通り。
- Menu > Open Datafolder とクリック。Sylenth1のデータフォルダが開く。
- Configフォルダ内の「Settings.xml」ファイルをメモ帳などのテキストエディタで開く。
- <DefaultBank name="UserBank.fxb"/>と書き換えて、上書き保存する。
これでOK。もし元に戻したくなったときは、手順3で書き換えた内容を「FactoryBank1.fxb」に戻せばよい。
※作業は自己責任で。不安な人は書き換え前に、元の「Settings.xml」ファイルのバックアップを取っておきましょう
(参考)Soundbanks and Presets(公式サイト)
知っておきたいTips
パラメーターのコピペ
オシレーター、フィルター、エンベロープ、LFOのパラメーターは、コピー&ペーストすることが可能。各項目の右側の▽をクリックするとメニューが出てくるので、そこからコピペ可能。
デフォルトの出力音量が大きすぎる
プラグインを通すときに歪んだりクリップする原因になるので、Main Volを下げたほうがいい。
アタックタイムとリリースタイム
エンベロープのアタックとリリースは0に設定できるが、0だとノイズが出ることもある(アンプエンベロープで試すと分かりやすい)。これを防ぐには、ほんの少しだけ値を上げてやると良い(マニュアルにも記載あり)。
リトリガーが初期状態でONになっている
リトリガーとは、デチューンして重ねられた波形の頭を、それぞれ揃える機能だ。ONだと、音が発音される瞬間の波形がどれも同じ形になるので、出音をステレオで広げていても、発音の瞬間には広がりが得られなかったりする(ON/OFF比較するとわかる)。シンセはデチューンして鳴らすことも多いので、基本OFFでいいと思う。
フィルターを自己発振させる方法
少々やり方が分かりづらいが、Sylenth1でフィルターを発振させることも可能。まず、スピーカーを飛ばさないように、Main Volを1くらいまで下げておこう。何かしらの波形を選択し、Voicesは1以上、Volumeを0にする。この状態で、フィルターのレゾナンスをMAXにし、さらにFilter Controlのレゾナンスも上げる(MAXくらいでいい)。
これでフィルターの自己発振音が出てくれる。フィルターのカットオフを調整すれば、発振音の高さも変えられる。
パラメーターの微調整
Shift + ドラッグで微調整可能。
OSを再インストールするときはDeactivateを忘れずに
PCを買い替えたりするときは、Deactivateを行ってライセンスを解除しておく。これをやらないと、アクティベーション回数を1回分失ってしまうので注意(サイト上で復活可能だが、回数制限があるので)。
【上もの編】ポップスのアレンジ/編曲のアイディアを楽器別にまとめてみる
はじめに
前回は4リズムの楽器について、アレンジのアイディアをまとめた。今回はシンセ、オルガン、ストリングス、ブラス、オーケストラ系楽器、パーカッション。「上もの」と呼ばれる類の楽器について記事を書く。今回も前回同様、各楽器の音色と奏法をまとめることで、アレンジの助けになるような記事を目指していく。
シンセ(和音)
パッド系
持続するタイプの音色だ。アタック感が少なく、音の立ち上がりはゆったりとしている。
主に和音を白玉で演奏するのに使われる。コード感を補える、オケが埋まるという特性から、ボップスで使われることは非常に多い。音色的には、高域を抑えたものから、フィルターを開いた明るいものまで幅広い。
徐々にフィルターが開いていくようなパッドや、フィルターが閉じていくようなパッド(例:「Puppy love/Perfume」)も定番。こういった「スウィープ系のパッド」はフィルターのレゾナンスを少し上げ、フィルターエンベロープを設定することで作れる。
なお、PCMのハードシンセの中には、アナログシンセでは出せないような質感のパッドもある(Roland JD-800、D-50等)。きらびやかな成分を持ちながらも、うるさくない出音というのは、ハードシンセのパッドの特徴かもしれない。
パッドの音は当然どんなシンセでも作ることが可能だが、やはりSpectrasonics Omnisphereは最もシンセパッドに向いているソフトシンセだろう。上記JD-800等のハードシンセをサンプリングした音色も入っているため、非常に幅広いサウンドを得ることが可能だ。
Pluck系
アタック感のある、音価の短い音。主にコードを刻むのに使われる。フィルターのカットオフがすばやく閉じるようにエンベロープを設定することで、アタック感が作られている。
元はプログレッシブ・ハウスで多用されてきた音色だが、現在の多くのEDMで定番となるサウンドだろう。アタック感のある音色なので、ポップスのアレンジで脇役的に登場することも多い。
ブラス系
「明るい音色のシンセパッド」とやや区別が曖昧だが、ここでは「高域まで伸びた明るい音色で、アタック感のあるシンセ和音」を、「ブラス系」と定義する。Super Saw、シンセブラスなどが該当する。
音色が派手なのでオケが埋まってくれるし、また歯切れのよい音色でもあるので刻むとリズムも出てくれる。オケを占領する割合が多くなりがちな音色なので、曲が求めるサウンドに上手く合っているかを考えて使いたいところだ。
シンセ波形的には、Supersawや、デチューンしたノコギリ波の音色がよく使われる。なお、EDM系の音楽では、こういった音にサイドチェインコンプを掛けてダッキングさせるのが定番だ。また、オシレーターへのピッチ下降でアタック音を付け、さらにビブラートをかけると、往年のユーロビートで使われたようなサウンドになる。
ベル系
アタック感がある、発音してすぐ減衰が始まる、長いサステインを持つ…といった特徴がある音色だ。高域で何かしらの旋律を奏でることが多い。シーケンスフレーズとして使うのもよい。
なお、J-POPによく出てくるような、きらびやかでデフォルメ感のあるシンセベルの音色は、PCMのハードシンセの音を使うのが手っ取り早い(色々音がレイヤーされているので、普通の減算式シンセだけでは再現が難しかったりする)。Roland INTEGRA-7など、Rolandのハードシンセがオススメだ。
シンセ(単音)
シンセリード
単音で、太く伸び、持続するという性質をもつ音色だ。必要に応じてポルタメントを設定すると良い。主旋律に使ってもいいし、オブリ的に使うのも良い。シーケンスフレーズを鳴らしても良い。高速アルペジオで効果音的に使っても良い。
ノコギリ波(Saw)
やはりノコギリ波は最もポピュラーな音色だろう。デチューンして音を重ねることで広がりが出せる。
Supersaw系
デチューンして重ねる数を多く(8個くらい)することで、より派手な音色になってくれる。
矩形波(Square)
矩形波には「偶数倍音が含まれていない」という特徴がある(クラリネットと同じような特性)。デチューンして鳴らすと独特の透明感が出て良い。
三角波(Triangle)/サイン波
倍音が少ないので、柔らかく聴かせることができる音色だ。R&Bの曲などで多用されている。ポップスの曲でも、しっとりと聴かせたい場合などに有効。
シーケンス音
シンセリードとの区別がややあいまいだが、「音価が短い音色で演奏されているもの」と定義する。波形的には、ノコギリ波や矩形波(or それらをデチューンしたもの)、Supersawがよく使われる。
フィルターのカットオフをフレーズの最中に動かしたり、各種モジュレーションエフェクトを掛けて音色に変化を付けるのも良い。
シンセ(効果音)
Riser/Falls
シンセリードの音を用意し、そのピッチが少しずつ上がっていく(下がっていく)ように設定すればOK(エンベロープをピッチに掛ける)。Riserのほうははリズミックに刻むのも良い。LFOでピッチやカットオフを揺らしてエフェクティブにするのも定番テクニックだ。
EDM的な効果音のイメージが強いかもしれないが、大人しめの音色に調整し、ファンタジックな雰囲気に仕上げるのも良い。
ノイズスウィープ系
ホワイトノイズを用意し、フィルターのレゾナンスを上げた状態でカットオフを上昇/下降させればOK(エンベロープを、カットオフに掛けて設定する)。
セクションの頭では下降系の音がよく使われる。EDMでいうビルドアップのところでは、上昇系の音が使われることが多い。
ダンスミュージックに限らず、幅広いジャンルのポップスで使える汎用性の高い効果音だ。
Wobble Bass
元はダブステップで使われている音色だ。ポップスでは効果音的に使われることが多いので、このカテゴリで紹介する。
シンセベースの音を用意し、LFOでカットオフ等のパラメーターを揺らすことで再現できる。デチューンを多めに設定することができ、派手な音が出るシンセだとカッコよく仕上げやすい。やはりNI Massiveあたりのシンセが適任だろう。
Native Instruments KOMPLETE 11
SE(効果音)のアイディア
- リリースの長いクラップ(リバーブを掛けて作ってもOK)
- リバーブを掛けたキック(トランスっぽい音色)
- リバースシンバル(サビ前の盛り上げに)
- 曲全体にフィルターを掛けて開閉(DJ的な演出)
- サンプルの再生速度を徐々に遅くする(DJ的な効果)
- 波形を切り貼りし、Glitch/Stutter的な効果を出す
- グラスの割れる音
- 時計の針の音
オルガン(ハモンド)
ドローバーのセッティングによって音(倍音の鳴り方)が変わるので、出したいサウンドに合わせて調整しよう。また、どれだけ歪ませるかもポイント。ロックでは派手に歪ませて、ギターに負けないような激しい音にすることも多い。
白玉
オルガンは持続する音なので、白玉でコードを補うことが多い。
刻み
オルガンはリリースが短い音でもあるので、休符を生かしてリズミカルに刻むのも良い。パーカッションスイッチをONにするとアタック音が得られるので、パーカッシブに刻むこともできる。適宜ゴーストノートを入れると効果的。
アルペジオ
アルペジオで演奏するのも良い。往年のハードロックでよく使われた。
グリッサンド
グリッサンドもオルガンらしい奏法のひとつだ。エクスプレッションペダルを上手く使って強弱をつけるとよい。黒鍵と白鍵をまとめてグリッサンドすると激しい音にできる(手のひらでやる)。
レスリーのslow/fast切り替え
ロングトーンの最中などに、レスリーの速度を切り替えるのは定番テクニック。
ストリングス
ポップスのストリングスアレンジでは、1stバイオリン、2ndバイオリン、ビオラ、チェロの4パートでアレンジするのが一般的だ。
カウンターメロディ(裏メロ)
カウンターメロディを演奏するのは、ポップスにおけるストリングスの大きな役割の一つだろう。主旋律を引き立てるような、グッと来る裏メロを考えたい。
カウンターメロディは1stバイオリンが担当することが多い。ポップスのアレンジにおいては、2ndバイオリンとユニゾン(or オクターブユニゾン)になることも多い。
駆け上がり
駆け上がりは、クラシックの頃から長らくストリングスの得意技であり続けた。ポップスでも頻繁に出てくる奏法だ。1stバイオリンと、2ndバイオリンのオクターブユニゾンで行うことが多い(ハモることもある)。迫力を出したいときなどは、ヴィオラやチェロが参加することもある。
刻みの役割
アタック感のある音色でスタッカート気味に刻むのも、ロックやポップスではよく出てくる奏法だ。曲に躍動感が出てくれることうけあい。
「トップのラインをペダルポイント的に固定して刻む」のはポップスでは定番のフレーズだ。もちろん4声で和音を刻んでもOK。
パッドの役割
白玉でふわっとコードを鳴らすのもストリングスの得意分野だ。4つのパートでコードの構成音を補うようにすると良い。なお、パッドの役割といえども、もちろんシンセパッドとは違って、各声部を適切に動かすのがとても大事。
テンションコードを鳴らすときなどは、ディビジで声部を増やすのも効果的。各声部の連結が美しくなるよう、和声的に充実させるといっそう良い響きになる。
ピチカート
弓ではなく、指で弦を弾いて音を出す奏法だ。あまり音量は稼げないので、比較的静かな場面で使うことも多い。柔らかい雰囲気のポップスにもよく合う音色だ。
トレモロ
高速で同じ音を繰り返し鳴らす奏法だ。音量を自由に変えられるという弦楽器の特性上、クレッシェンドやデクレッシェンドと一緒に使うと非常に効果的。
トリル
半音 or 全音の関係にある2音を、交互に素早く鳴らす奏法だ。ストリングスのトリルは、複数人で演奏するという性質上、微妙なタイミングのズレによって広がりのあるサウンドになる。
フォール
音を出して、即座に弦を押さえる位置を動かし、ピッチを下げる奏法。アシッドジャズ、ディスコといった音楽でよく使われる奏法だ。
Audiobro LA SCORING STRINGS 2.5
ブラス
ポップスでは主に、ファンク的なアプローチをする場合に登場する。トランペット、サックス、トロンボーンでセクションを構成することが多い。定番の奏法は意外と決まっている。
刻み
休符を効果的に使い、音を歯切れよく刻む。ブラスではこの演奏スタイルが基本となるだろう。16ビートの場合、16分のフレーズを効果的にいれるとよい。
3声で和音を鳴らす場合と、オクターブユニゾンで単音を鳴らす場合がある。演奏したいフレーズに合わせて、適切に切り替えるとよい。
フォール(グリスダウン)/グリスアップ
4分程度の長さのフォールは定番フレーズだ。フォールほどではないが、グリスアップもまれに登場する。
フォルテピアノ&クレッシェンド
音を出してすぐに弱くし、クレッシェンドしていく。これもブラスらしい奏法といえる。
グロウル
サックスで行うテクニック(主にテナーサックス)。歪んだような音色になるので、ロックやブルースにもよく合う。ソロパートで使うと効果的。
シェイク
3度程度の広めの間隔でトリルを行う奏法だ。トランペットがソロになるときに使うと効果的。
その他のオーケストラ系楽器
ハープ
美しくファンタジックな響きの楽器なので、バラードを中心としたキレイめな曲で登場することが多い。
やはりグリッサンドがハープの必殺技といえるだろう。基本的な音階は「ドレミファソラシ」だが、7つの音は、それぞれ半音上 or 半音下に変更可能。これにより、色々な音階を鳴らすことが可能になる。コードに合わせて、適切にスケールを決定しよう。なお、楽器の性質上、クロマティックスケールは演奏不可能なので注意。
アルペジオを鳴らすのも良い。
グロッケン
意外とポップスで出番が多いのがグロッケン。弦など、他の楽器の旋律を補強するのに使われることが多い。
ビブラフォン
ポップスでもまれに登場する。かわいいらしい雰囲気の音色なので、そういった曲調によく合う。
ティンパニ
ポップスでもまれに登場する。ロールでクレッシェンドさせて盛り上げるのが定番の奏法。
チェンバロ
鳴らすだけでバロック音楽っぽい雰囲気が出てくれる楽器だ。耽美的な雰囲気を狙いたいときにもよい。
パーカッション
チューブラーベル
「の○自慢」の鐘で使われる楽器だ。荘厳でゴージャスな雰囲気を出すことができる。
スレイベル
クリスマスソングで非常によく登場する楽器だ。R&B系楽曲でもしばし使われる。
ウィンドチャイム
多くの音楽にマッチするため、非常に重宝する楽器。キラキラした音色で、場面転換を印象づけることができる。
シェイカー
本来は振ってビートを刻む楽器だが、単発の音をサンプリング的に鳴らすことも多い。R&B系楽曲でもしばし使われる。
トライアングル
ミュート/オープンを使い分ける。R&B系楽曲でもしばし使われる。
カスタネット
フラメンコなサウンドの楽器だが、アイドルポップスでもよく出てくる。
ティンバレス
ポップスでもまれに登場する。ラテンっぽい雰囲気を出すのに最適。
スティールパン
鳴らすだけで南国の夏を感じられる楽器だ。スティールパンは音程のある楽器なので、メロディを演奏することができる。
サンバホイッスル
その名の通り、サンバの演奏で使われる楽器だ。こちらも夏っぽい曲によく合う。
おわりに
2回に分けて、ポップスのアレンジに登場する楽器の記事を書いた。こうしてまとめてみると、本当に数多くの楽器、奏法があることがわかる。音楽のスタイルは日々進化し変わっていくが、使われる楽器は普遍的なものであることも多い。今回の記事をぜひ音楽制作の役に立ててもらえればと思う。
【4リズム編】ポップスのアレンジ/編曲のアイディアを楽器別にまとめてみる
はじめに
ポップスにはあらゆるジャンルの音楽のエッセンスが取り込まれている。聴きやすい音楽性とは対象的に、実はアレンジの難易度はかなり高い。
そこで、これから2回に渡って、各楽器ごとに定番の奏法をまとめて、アレンジの助けになるような記事を書いてみることにした。今回はドラム、ベース、ピアノ(エレピ)、ギター。いわゆる4リズムと呼ばれる楽器を取り扱っている。
もっとも、この記事を読んだところでアレンジという高度な作業が、急にスラスラできるようにはならないだろう。ただ、「何か音を足したいけど、思いつかない……」そんなときにこの記事を眺めてみて、突破口を見つけるきっかけにしてもらえればと思う。
ドラム
ドラムはアレンジの骨格となる重要なパート。アレンジ作業の初期段階で、大枠を決めてしまうのが望ましい。リズムは奥が深い領域なので簡潔にまとめるのも難しいが、使用頻度の多い例をまとめている。
音色について
生ドラム系 or ドラムマシン系(TR-909やサンプリング音源など)のどちらかに分かれる。ロックなら生ドラムが使われるし、ダンスミュージックならドラムマシン系の音色になることが多い。
もちろん、両者の音色が混在することも多いし、フィルインのときだけ片方の音色を登場させることもよくある。また、セクションごとにリズム全体の音色が入れ替わる曲もある(例:「打上花火/DAOKO×米津玄師」)。
リズムの音色が曲にもたらす影響は非常に大きく、音楽ジャンルそのものを決めてしまうようなケースもある。各ジャンルのリズム音色を把握しておくと、ポップスの編曲にも役に立つはずだ。
リズムパターンについて
4つ打ち
ダンスミュージックの定番パターンだ。生ドラム系、ドラムマシン系、どちらでも使うことができる。元はテクノやハウス、ディスコといった音楽のリズムだが、今やアイドルポップスやロックバンドに至るまで、多くの音楽で使用されている。
4つ打ちでは、文字通り、キックを4分で鳴らす。あとはジャンル感が出せるように調整していけば良いだろう。裏拍にはオープンハイハットが入ることも多い。
EDM等のダンスミュージックでは、キックの鳴る位置で他のパート(ベース、シンセ等)にサイドチェインコンプをかけてダッキングさせるのも定番の手法だ。
8ビート
生系、ドラムマシン系、どちらでも使えるパターンだ。「ドンパンドンパン」というように、1・3拍目にキック、2・4拍目にスネアを鳴らす王道パターン。多くのポップスでこのパターンになっている。3拍目のキックは8分で2発連打したり、前後の裏拍にズレることも多い。
※「8ビート」は本来リズムパターンを指す言葉では無いのだが、今回は4つ打ちとの差別化をするために、このように紹介させてもらった。
16ビート
どちらかといえば、生系のリズムで組まれることが多いパターンだろう。ミディアムテンポのポップス全般で出てくる。またバラード曲はテンポが遅くなる関係上、このパターンに当てはまることが多い。
リズムの最小単位が16分音符になるため、16分の裏をどのように鳴らすかがポイントになってくる。16の裏にアクセントが来るものから、スネアのゴーストノートが軽く入る程度のものまで様々。曲に上手く合ったリズムを構築したいところだ。
なお、16ビートではリズムがハネる(スウィングする)ことも多々ある。どの程度ハネさせるかでノリが全く変わってくるので、気持ちいいグルーヴを追求したいところ。
R&B、HipHop、Trap系リズム
本来は別物だが、今回はまとめて紹介する。日本のポップスではそれほど出てこないかもしれないが、今のアメリカのヒットチャートでは主流となるパターンだ。
ドラムマシンの音色や、サンプリング音色を使うことが多い。BPMが比較的遅く(60~90台程度)、基本は16ビートだ。細かくハイハットを刻んだり、スネアの代わりにクラップやスナップを鳴らすことがある、といった特徴がある。シェイカーやトライアングル等のパーカッションも、リズムを構成する楽器としてよく使われる。
その他のリズムパターン
- ダブルタイムフィール:倍のテンポに感じさせるリズム。
例:「紅/X」「READY STEADY GO/L'Arc~en~Ciel」
- ハーフタイムフィール:半分のテンポに感じさせるリズム。
例:「恋/星野源(Bメロ)」
- アイドル系ハーフリズム:アイドルソングのBメロで頻出。
例:「ポニーテールとシュシュ/AKB48」「Love so sweet/嵐」
- マーチングビート:スネアのマーチングで引っ張るパターン。
例:「Beautiful/Superfly(サビ)」「Have a nice day/西野カナ(Aメロ)」「forbidden lover/L'Arc~en~Ciel」
- モータウンビート1:速いテンポのハネたリズムで、2小節目頭が食うのが特徴。
例:「You Can't Hurry Love/The Supremes」「Happiness/嵐」「歩いて帰ろう/斉藤和義」「Diamonds/PRINCESS PRINCESS」
- モータウンビート2:スネアを拍頭で4分打ちし、間にキックを挟む。
例:「星間飛行/中島愛」「ぐるぐるカーテン/乃木坂46」「HEAVEN'S DRIVE/L'Arc~en~Ciel」
生ドラム独自のアイディア
- スネアのゴーストノートを入れる
- ハイハットオープンを交える
- キメでフラムを入れて変化をつける
- スネアの代わりにクローズド・リムショットで軽快に(静かなとき限定)
- ここぞという場面で、ハイハットからライドシンバルに切り替え
- フィルインのときにタム回し
- ハイハットの代わりにフロアタムで刻み、ロックなビートに
打ち込みリズム独自のアイディア
- スネアやキックの波形を反転。元のスネアやキックにくっつけても、単独で鳴らしてもよい
- 32分音符等、細かいスネアの連打でフィルイン
- スネアのロール中にピッチを上げる(EDM定番フィル)
- ゴーストノートの専用のサンプルを小さく鳴らし、グルーヴを出す
- 64分音符程度の、細かいハイハット刻み(Trap定番サウンド)
エレキベース
ピック弾き、指弾き、スラップと主に3種類の演奏方法がある。ロック系の音楽など、アタック感が欲しいときはピック弾き、それ以外では指弾きになることが多い。スラップは特殊な奏法で、ファンク系のサウンドで使われることが多い。
グルーヴの要となるので、ドラム(特にバスドラム)との調和に常に気を配りたい。リズムがシンコペーションするときは、基本的にはベースも合わせること。コードチェンジする瞬間は、必ずルート音を鳴らすように。
8分ルート弾き
基本はこれ。ベースラインを動かすこともあるが、その際はコードトーンをつなぐような意識でフレーズを考える。1度と5度(しばし7度)を中心に組み立てるとベースらしいフレーズになる。経過音を使うのも効果的だ。
オクターブ
主にドラムがディスコパターンのときに使う。なお、シンセベースと違って、エレキベースで演奏するのは意外と大変。使いすぎ注意&速いテンポのときは注意(ベーシストの左手が疲れる)。
スラップ
ファンク系の音楽でよく使われる奏法だ。演奏フォームの関係上、ルート音のオクターブ演奏が基本になる。また、普段は指弾きで、アクセントのときにスラップ音を入れるのもしばし行われる。
白玉
静かなところでは、刻まずに白玉で伸ばすのも良い。落ちサビなどで出てくる、高音部の白玉フレーズは定番パターンだ。
シンセベース
シンセベースも現代の音楽には欠かせない音色だ。エレキベース同様、グルーヴの要となるので音色や音価にはこだわりたい。
シンセの波形は、ノコギリ波が使われることが多い。エレクトロなサウンドではパルス波も定番だ。Massive、Minimoogなど、太い音が出るシンセを使うとよい。
オクターブ
ルート音と、オクターブ上のルート音を交互に演奏するという、シンセベースの王道フレーズだ。やはり4つ打ちのリズムと相性がいい。フィルターを全開にして派手にしてもいいし、標準的な音色でもOK。
ルート弾き
8ビートの場合、もちろん8分を連打してもいいのだが、ところどころ休符を入れて演奏をすることも多い。他にも、4つ打ちのキックが鳴っている時、ベースを付点8分のリズムで鳴らすことで16ノリを出すのも定番パターンだ。
Funk系シンセベース
Moog系サウンドの定番音色。フィルターは絞り気味で、レゾナンスを適度に上げて表情を付ける。オシレーターを重ね、オクターブ上の音を足すのも効果的だ。
R&B系シンセベース
倍音の少ないサイン波や三角波が使われる。ベースラインをあまり動かさず、白玉主体で演奏されることが多い。
ピアノ
ポップスではピアノの登場頻度が高い。ぜひ使えるようにしておきたい楽器のひとつだ。
コードバッキング
右手で3~4音を押さえてコードを鳴らす。さらに、右手で刻むすき間に、左手のルート音を挟むのが基本スタイルだ。
音域について
- 中音域でのバッキング
右手を真ん中のド(C4)付近で鳴らす。基本的な演奏スタイルといえるだろう。例:「Let It Be/The Beatles」「カブトムシ/aiko」 - 高音域でのバッキング
右手をオクターブ上のド(C5)付近で鳴らす。音抜けが必要な場合や、繊細な雰囲気を演出する場合に有効。ギター等の中域を専有する楽器が多い場合、ピアノが高域を担当することで音域がぶつからなくなるメリットもある。例:「Rising Hope/LiSA」「GO FOR IT!!/西野カナ」「Beautiful/Superfly」「もしも運命の人がいるのなら/西野カナ」※ただ、ギターが中心のサウンドでも、ピアノは中音域を演奏するケースも多い。4リズムの楽器はそこまで音域をカッチリ分離しないことも多いので、音域の分担を緻密に構築するかどうかはケースバイケースで。
リズムについて
- 4分刻みバッキング
王道の伴奏スタイル。バラード曲を中心に、色々な場面で使いやすいパターンだ。例:「Yesterday Once More/Carpenters」「Let It Be/The Beatles」 - 付点4分系バッキング
「ターンターンタン」というような刻み方。テンポが速めの、疾走感のある曲で有効。例:「ドラマチック/YUKI」「プラチナ/坂本真綾」 - 8分刻みバッキング
ミディアムテンポの曲でたまに出てくる。ピアノの刻みで曲を引っ張るような雰囲気になる。例:「Hello, my friend/松任谷由実」「歓びの種/YUKI」 - 16系(付点8分系)バッキング
小室系サウンドで多用される。ハウス、ラテンの音楽がルーツとなるスタイルだ。例:「BOY MEETS GIRL/TRF」「硝子の少年/KinKi Kids」「Astrogation/水樹奈々」
アルペジオ
バラードや、静かなセクションで有効。また、他の楽器ですでにコードを補っているような場合、脇役としてピアノでアルペジオを重ねるのも効果的だ。
その他のテクニック
- グリッサンド(上昇系/下降系の2パターンあり)
- m3rd→M3rdへのスライド(コード演奏時。黒鍵→白鍵へ、指1本でスライドさせて演奏)
- 右手のオクターブ演奏でオブリ
- 和音のアルペジオ弾き(タララランと、コードを1音ずつずらして弾く。上昇系/下降系の2パターンあり)
Synthogy Ivory II Grand Pianos
エレピ
ローズ、ウーリッツァー、DX7系と、主に3つの代表的なサウンドがある。音色はそれぞれに個性があるが、奏法は比較的似ており、役割も「コード感を出す」といった部分が中心になってくる。
ローズ
中低域の成分が多く、包み込むような柔らかい音色が特徴。トレモロやコーラス、フェイザーといったエフェクトをかけて雰囲気を出すことが多い。高域成分が少ない分、ソウルフルでムーディな印象を出しやすくR&B/Soulの音楽で多用されてきた。
ウーリッツァー
コロコロとした独特のアタック音が特徴的。
DX7系
ファンタジックな音色で、きらびやかな高域が特徴。アコースティックピアノとDX7のエレピをレイヤーするのもよい → とたんに90年代風のサウンドになる(David Fosterがよくやる)。
エレキギター
ギターは、ポップスでは非常に出番の多い楽器。しかし、他の楽器と比べて奏法や音色が多いので、ギターを弾かない人にとっては、把握するのは結構大変。
音色によって大きく印象が変わるので、それを念頭に置いて演奏内容を把握しよう。
ブリッジミュートを交えた刻み
主にクランチ、オーバードライブ、ディストーションといった多少歪んだ音色で、低音域を演奏する。ロックギターの王道パターンだ。
和音とブリッジミュートした単音(ルート音)を切り替えて演奏することで、ギターらしいバッキングフレーズとなる。もちろん、和音をずっとストロークし続けてもいいし、ブリッジミュートしたルート音をずっと弾き続けても良い。
なお、ディストーション音色(激しい歪み)のときは、基本的にパワーコードで演奏するとよい(3度を入れると音が濁るので)。
ストローク
クランチ~オーバードライブ程度の、比較的浅めの歪みで演奏されることが多い。6本の弦すべてをジャカジャカと、かき鳴らすようなスタイルの演奏だ。最近(2000年~くらい)のロックバンドでは、上記の「ブリッジミュートを交えた刻み」よりも、こちらの奏法が使われることのほうが多い。
カッティング
カッティングはギターらしい奏法の一つといえるだろう。ブラッシング(※)の音が入るため、軽快なリズムを演出しやすい。
※弦に触れただけの状態でピッキングして、パーカッシブな音を出すこと。別名「空ピッキング」。
ここでは演奏内容別に紹介するが、もちろん演奏中に和音~単音~オクターブという風に切り替えても構わない(そういう演奏もかなり多い)。
和音のカッティング
コードを刻みつつ、間にブラッシングを交えてリズムを出す。これがカッティングの基本スタイルだ。ファンク系の演奏では、6弦全部鳴らすよりも、2~3本の弦を鳴らして演奏することが多いかもしれない。クリーントーンで演奏することが多いが、ロック系の音楽では歪んだ音で荒々しいカッティングをすることも。
単音カッティング
キーボードがすでにコードを補っている場合は、ギターはリズムを出すのに徹することも多い。そんなときに有効なのが単音カッティングだ。ブリッジミュートをかけて、サステインを抑えた音で演奏することも多い。
オクターブでカッティング
演奏の都合上、オクターブで音を鳴らすためには、ブラッシング音も必ず入る。自然とパーカッシブな音になってくれる奏法だ。オクターブで音を重ねる都合上、音が際立ちやすいので、バッキングというよりも、リフやオブリで使われることが多いかもしれない。
ワウのカッティング
チャカポコという独特のパーカッシブな音が特徴的。他のカッティング同様、コード音にブラッシングの音を交えて演奏する。ポップスのようにトラック数の多いジャンルでは、単音~2音程度を鳴らすことが多いかもしれない。
ブラッシングの音だけを1~2拍程度、サンプリング的に挟むのも定番パターンだ(ずっと演奏しっぱなしにせず、要所で挟む)。
アルペジオ・白玉
クリーン~クランチ程度の音色で演奏することが多い。コーラスやトレモロといったモジュレーション系エフェクトもよく使われる。
ブリッジミュート
音粒をハッキリさせるため、多少歪んだ音色で演奏することが多い。アタック感がありつつも、サステインの短い歯切れのよい音になるので、意外とアレンジで役立つ奏法だ。アルペジオでも、単音の刻みでもOK。
なお、ミュートしたフレーズに付点8分のディレイをかけるのは定番パターン(「U2ディレイ」などと呼んだりする)。
リードギター
純粋なギターソロというものは、昔と比べてすっかり影を潜めてしまった。しかし、他の楽器とのユニゾンなどでリードギターを使うことは、今でもよくある。オブリで使うのも良い。
Kemper Profiling Amplifier Black
アコースティックギター
ストローク
他のパートが多数入っている場合、アコギはストロークで演奏することが多い。アコギのストロークを入れると、オケ全体のアタック感やグルーヴ感が増す。また、他のパートにはあまり含まれていない超高域の成分を補えるというメリットもある。
なお、アコギのストロークは、ダブルで(2回録音して)左右に振り切るのが定番だ。
アルペジオ
静かな雰囲気の曲では、アルペジオも有効だ。ピック弾きと指弾きで音が変わるので、求めるサウンドに合わせて奏法を決めよう。
ガットギター
あまり使用頻度は多くないかもしれないが、R&B系の曲や、一時期流行ったボサノバ風アレンジでよく使われる。
アルペジオ
R&B系の曲で多用され、定番サウンドとなっている。また、ハウスミュージック等でもよく登場する。
おわりに
今回は4リズムについて記事を書いた。4リズムはアレンジの骨組みとなる部分なので、ここをしっかり作れれば、曲の躍動感も増すはずだ。
【教則本・書籍】作曲・編曲・DTMに役立つ、おすすめの本11冊
この記事にたどり着いた人の中には、ふだん音楽制作の情報をネットで収集している人も多いかも知れない。しかし、インターネット上の情報は玉石混淆。鮮度の高い情報が入るというメリットはあるにせよ、時間を無駄にするリスクと常に隣り合わせだ。
音楽の本質的なルールや法則については、数百年に渡って変わらない部分も多い。音楽制作についての普遍的な知識を学ぶためには、やはり本を読むのが良い。
今回は、僕が読んだ本の中で特にオススメできるものを11冊紹介する。
リズムについて
※2018年10月追記:新版が発売されていたので、加筆修正しました。
「サウンド&レコーディングマガジン」の連載を一冊にまとめた増刊号だ。オークションでプレミア価格が付くほどの人気を博した、『MPCで学ぶリズム打ち込み入門』の新版だ。旧版の内容を踏襲しつつ、DAW時代に合わせて内容がアップデートされている。
- ロックの8ビート
- テクノやハウスなどの4つ打ち
- ヒップホップ/R&Bのリズム
- ジャズの4ビート
このような基本的なジャンルのリズムパターンが、章ごとに紹介されている。
「○○というジャンルでは、△拍目の表(裏)で音を抜くのが肝」。こんな風に、この本を読めばジャンルごとのリズムのポイントを理解できるようになる。コンガやボンゴといったパーカッションのリズムパターンが紹介されているのも嬉しい。
ちなみに、「MPCで~」というタイトルだが、別にMPCを使わなくても、普通にDAWのMIDI打ち込みで使える内容になっている。なお、この本は残念ながら現在絶版となっている。復刊に期待しよう(オークションでもプレミア価格が付いている。出版社には何かしらの対策を講じて欲しいところだ)。
Tips集
「テクニック99」シリーズはひと通り読んだが、この本が一番オススメ。メジャーの第一線で活躍するプロのアレンジャー数人の共著となっている。
音楽ジャンルごとのアレンジにおける要点。ギター、ストリングス、ブラス、コーラスといった楽器別のアレンジ方法。メロディへのコードの付け方。その他編曲を行う上で知っておきたい小話。こういった内容が、広く浅くまとめられている一冊だ。
難しい音楽理論の話は登場せず、コツをまとめた実践的なTips集として価値がある。「アレンジをしたいけど、何から手を付けていいのやら……」そんな初級者や中級者の人こそ、ぜひ読んでみてほしい良書。どのトピックも見開き2ページにまとめられているので、気軽に読める。
この本はなんと、現在AmazonのKindle Unlimitedの対象となっている。
とはいえ、どう考えても無料で読めるのはおかしいレベルの本なので、普通に紙の本で買って、じっくり読み込んでみてもいいと思う。
『編曲テクニック99』と同じく、「マニュアル・オブ・エラーズ」の著書だ。こういった「プロが教える」的なタイトルの本はよくあるが、良い本は少ない。そんな中で、この本は実践的なTipsが中心になっていて、すんなりと曲づくりに役立てることができる。
編曲テクニック99とテーマが重複するトピックも多いが、編曲以外にも、ボーカルディレクション、アレンジ仕事におけるパラデータの作り方、キャッチーな曲を作るための方法論、楽曲構成の考え方など、プロの作曲家・編曲家として活動する上で、より実践的な内容が記されている。エンジニア的なテクニックにも触れられており、高品質なデモ音源が求められる現代の作曲家にとっては、一見の価値があるだろう。
アレンジ(編曲)、オーケストレーション
※オーケストレーションといっても、今回紹介するのはジャズ~ポップス寄りの内容の本です。
ビギナーの人にオススメ。ポップスの曲にストリングスやブラスを入れる方法を学ぶには、この本で基本的な奏法を押さえるのがよい。
ボイスリーディング(声部の連結)についても少し紹介されているので、和声の考え方にも少し触れられるのが良い。
なお、この本では「歌メロのカウンターライン」という考え方には特に触れられていない。そのため、これ一冊読んだだけで自由自在にアレンジをするのは、実際は難しいかもしれない。あくまで、楽器の基本的な鳴らし方(ボイシング、定形フレーズ等)を学ぶための初歩的な本ととらえるのが良いだろう。
付属CDも付いているので、音で確認することもできる。
『コンプリート・アレンジャー』(※絶版)
僕が特にオススメしたいのが、このアレンジ教本。サミー・ネスティコの『コンプリート・アレンジャー』だ。ジャズのコードの知識をひと通り習得した、中~上級者向けの本となっている。
アレンジ教本として有名なドン・セベスキーの『コンテンポラリー・アレンジャー』も良書だが、譜例に対応した音源が少ないのが弱点。対して、この本の付属CDには79曲も収録されている(重複はあるが)。総ページ数は349ページとボリュームも多い。
とにかく音源の曲数が多いので、それら全てに対応したスコアが読めるというだけでも、かなりの価値がある本だと思う。音楽は、言わば「百聞は一聴にしかず」のような部分もあるので、譜例の大半が音源とセットになっているのは非常に魅力的。付属音源は当然生演奏で、ノイズもなく高音質。
もっとも、手取り足取り教えてくれるような本ではない。スコアと音源から自分で分析していく必要もあるため、多少は独学的な要素が求められる。それでも、教本としての完成度は非常に高い。僕が読んだアレンジ教本の中では、最も参考になった一冊だ。
金管楽器やサックスの入った譜例は、ビッグバンドの曲が中心となっている。著者もビッグバンドの仕事が多かったようで、ビッグバンドのアレンジについて学びたい人にはもってこいの一冊だと思う。ボイシングのコツについても書かれているのが良い。
ストリングスや木管楽器の入った譜例は、テンションが多めのコードを使った、劇伴風/近代クラシック風の曲が多い。楽器の選び方、重ね方が非常に参考になる。
シンセサイザーを取り入れたオーケストレーションの譜例まである。シンセが入った譜例があるというのは、マンシーニの本やセベスキーの本など、他のアレンジ教本とは一線を画する部分ではないだろうか。
なお、一部の曲では複雑なテンションコードだけでなくアッパー・ストラクチャー・トライアドを使っていたりするので、音楽理論に詳しい人じゃないと分析が難しいかもしれない。
ここまで紹介してきておきながら、興味を持ってくれた方には申し訳ないのだが、残念ながら、この本は絶版となっている(良い本なのに)。ただし、英語版の原著は米Amazonで普通に売っている。解説を読むというよりも、スコアと音源を自分なりに読み解いていくというのが大事なので、英語が苦手な人でも、譜面と音源を目当てに輸入するのはアリだと思う。
ヘンリー・マンシーニという超有名な作曲家の著書というだけで、一見の価値がある。譜例は彼の手がけた作品から抜粋されているので、当たり前だが、ヘンリー・マンシーニっぽい雰囲気の曲ばかりだ。「ピーター・ガン」や「Mr. Lucky」といったドラマの音楽や、彼のソロ作品を題材にスコアが掲載されている。ただ、「ピンク・パンサー」「ティファニーで朝食を」といった名作映画の曲は残念ながら含まれていない。
前述の『コンプリート・アレンジャー』よりも、ポップで分かりやすい曲が多いので、取っつきやすい印象だ(とはいえ大部分の曲はジャズのフォーマットに基づいているが)。和声的にも通常のテンションコードが多く、ネスティコ本のように複雑なコードも出てこない。普通のポップスに応用するなら、こちらの本の方が役に立つと思われる。白玉でアレンジされているパートも多いので、ボイシングも確認しやすい。
曲の重複も多いが、付属CDには66トラック収録されている。音源にノイズがあるのと、各トラック冒頭の「譜例番号読み上げ」が少しうるさいのが惜しい。ページ数は207ページと、ネスティコ本よりはボリュームは少なめ。それでも、多くの譜例がCD音源に対応している。
曲は60年代のジャズらしい、柔らかいものが多い。スウィングジャズの曲や、ムーディな曲が中心だ。ディビジを駆使したストリングスでテンションコードを鳴らすような曲もあり、参考になる。
スコアは見やすい。手描き風などではなく、日本で売っている譜面のように、きちんとコンピュータで浄書されたタッチのスコアになっている。
音楽理論
通称「黄色い楽典」。音楽を学ぶ人の多くが手にしたであろう一冊だ。音符や休符、拍子、音程など、音楽の基礎事項について書かれている。特に音程に関する記述(長・短・増・減音程)は一枚の図で分かりやすくまとめられていて良い。
教科書的な基礎事項を確認したいときのために、手元に置いておきたい一冊だ。
ポピュラー音楽で使われるコードについて詳しく解説されている名著だ。ある程度基礎的なコードの知識を習得した、中級者~上級者向けの一冊。
テンションコード、分数コード、アッパーストラクチャートライアド等、複雑なコードについても網羅されている。モードに関しても触れられており、高度なポップス~ジャズ方面の音楽まで幅広くカバーできるだろう。
きれいに響くボイシングの例、テンションコードを押さえる際に省略すべき音、転調のきっかけを作る方法など、理論編でありながら、実践に即した記述が多いのが嬉しい。小難しくなりがちな理論書というジャンルにおいて、他とは一線を画する優れた一冊だ。
こういう少しハイレベルな理論書を読む場合は、ピアノでコードを押さえられる程度のスキルは持っておきたい。付属CDが付いているので、音を聞いて確認することもできるが、やはり自らの血肉とするためには、鍵盤を弾いて確認したいところだ。
※このブログでも、そういった趣旨の記事を書いている。 → 作曲家・アレンジャーがピアノを弾けるようになるメリット
なお残念ながら、この本も絶版となっている。復刊に期待したいところだ。
オーケストレーションやストリングスアレンジのような高度な編曲を行う場合、ボイスリーディング(声部の連結)やボイシング(音の積み方)に気を使う必要がある。これらは、ポピュラー音楽のコード理論だけではカバーしきれない。
そこで必要になってくるのが和声学だ。和声のルール上、やってはいけないことは「禁則」と呼ばれているが、この禁則を知っておくことで、音をどのように展開させていくべきか迷わなくなる。これが非常に大きい。音楽制作をスムーズに行う上で強力な武器となる。
もし「和声上、正解とされているサウンド」が欲しい場合、和声を知らなければ、何度も試行錯誤する必要があるだろう。しかし和声を知っていれば、作るより先に音をイメージすることができる。
何を当たり前のことを……と思うかもしれないが、そもそも多くの人が気持ちよく感じる経験則をまとめたものが音楽理論。和声上の正解は、それなりに説得力があるサウンドであることが多いのだ。限られた時間を有効に使うためにも、和声を習得するのは意味のあることだと僕は考える。
なお、和声に関する教本は『和声―理論と実習』(通称「芸大和声」)の3巻セットが有名だが、この『総合和声』の方が新しい本で読みやすく、要点がよくまとまっており分かりやすい。独学で学ぶ場合は、なおさら総合和声の方ががオススメだ。
世の中の音楽はホモフォニックな音楽がほとんど(メロディという主役があり、コードという脇役がそれを支える構造)。しかし、対位法を知っていると、ポリフォニックな音楽を作ることができる。メロディの背景でコードを鳴らさなくても、単旋律を複数組み合わせることで、音楽を成立させることができるのだ。
そんな音楽作らないよ……と思うかもしれないが、「対位法で良しとされる音の運び」を知っておくと、ストリングスアレンジや、コーラスアレンジでとても役に立つ。何気ないハモリのパートであっても、コードトーンを繋ぐだけのメロディから一歩先に進んだ、一本の太いメロディに仕上げることができるだろう。
また、少ないパートで曲を成立させたいときにも、対位法の考えはおおいに役に立つ(最先端のEDM系ダンスミュージックでも、そういった作りの音楽をしばし耳にする)。
この「長谷川対位法」は文体も古く、やや読みづらいところもあるが、対位法を学ぶ上では定番の一冊だ。独習するのは大変だろうが、意欲のある人はトライしてみても良いと思う。
なお、対位法の概念は、和声の考え方に通じる部分も出てくる(例を挙げると、「並達5度・8度」に関する記述など)。なので、先に和声学をひととおり学んでおくのがオススメ。
録音・ミックスなど
教則本ではなく雑誌だが、最後はコレ。サウンド&レコーディングマガジン、通称サンレコだ。音楽不況やレコーディングスタジオの相次ぐ閉鎖に伴い、最近はどの読者層をターゲットにしているのか分かりづらい部分もあるが、一昔前は、本当に権威あるプロ向けの雑誌だった。
とはいえ、レコーディング機材やエンジニアリングに関する雑誌の中では、やはり未だにサンレコが一番信頼できるだろう。某通販サイトのカタログページが多いのが玉にキズだが、今でも良い特集を行ってくれることは多い。たとえば、例年1月号で企画されているプライベートスタジオ特集は、読む価値が高いので買ってみてもいいと思う。音楽制作環境を構築する参考になるはずだ。
あと、チェックすべきはバックナンバー。プロのエンジニア数人に同じ素材をミックスしてもらう企画(マジカル・ミックスダウン・ツアー)や、プロのアレンジャー数人に同じ曲をアレンジしてもらう企画(マジカル・アレンジメント・ツアー)。そんなスゴい特集が普通に組まれていた。中古で見かけたら是非ゲットしておきたいところだ。
コード進行を耳コピするコツ
はじめに
このブログでは、コード進行の分析記事をいくつか書いてきた。
それらの記事のコード進行は、どれも耳コピで採譜している。僕は音楽を始めたばかりのころは全く耳コピはできなかったが、今ではどんな曲でもコードを聴き取れるようになった。
数年~十数年という長いスパンで、徐々に音を聴くスキルが上がってきたように感じている。音楽鑑賞、楽器演奏、作曲、アレンジ、音楽理論の勉強。どの経験も耳コピ作業には役立っている。
耳コピ作業には、多少の努力や執念が必要だ。ビギナーにとっては簡単にこなせる作業ではないかもしれない。しかし、そのコツを知っていれば作業の労力が減る可能性はある。今回は、僕の今までの経験を元に、コード進行の耳コピをするコツについて書いていく。
耳コピのポイント
音は全部で12個だけ
オクターブの違いを無視すれば、基本的にドレミファソラシドの7音と黒鍵の5音、全部で12音しかない。例えば、コードのルート音がどうしても聴き取れない場合でも、12回試せば、そのうち1回は必ず正しいことになる。
コード(和音)も、これらの12音を組み合わせて同時に鳴らしているだけだ。焦らずじっくりやれば、誰でも正解に近づくことはできるはずだ。
ピアノを弾けると有利
ギターでも和音が押さえられるので、ギターを使って耳コピ作業をすることも十分可能。しかし、やはりピアノが便利だ。ピアノは複雑なコードでも簡単に押さえられるので、色々なジャンルの曲で耳コピに役立てられる。
※ピアノを習得するメリットについては、このブログでも以前記事を書いた。→ 作曲家・アレンジャーがピアノを弾けるようになるメリット
できればピアノを少しずつ練習していくのがオススメ。
コードを耳コピするコツ
最初に曲のキーを見つける
最初にやるべき作業は、曲のキーを判別することだ。これは耳コピ初心者だろうが上級者だろうが同じ。曲のキーを知らないまま耳コピ作業をしても遠回りになる。かならず最初にキーを探し当てよう。
キーの判別方法は次の通り。曲を流しながら、各キーの「ドレミファソラシド」を弾いてみる。例えば、次のようなメジャースケールがある。
- 「ドレミファソラシド」(Cメジャースケール)
- 「レミファ#ソラシド#レ」(Dメジャースケール)
- 「ファソラシ♭ドレミファ」(Fメジャースケール)
いくつかスケール(音階)弾いているうちに、その曲で使われているのが「何メジャースケール」なのか分かるはず。たとえば、もしCメジャースケールがしっくり当てはまる曲なら、その曲のキーはCだ。
正しいスケールを弾かない限り、どこかで外れてしまう音が出てくる。全部で12キーしか無いのだから、いつかは探し当てられる。
なお、この方法は曲中のキーが一定であることが前提だ。曲中で転調していたり、一瞬だけ部分転調が起こっているような場合は、箇所ごとにキーを判別していく必要があるので注意しよう。
ダイアトニックコードを把握する
曲のキーが分かったら、そのキーのダイアトニックコードを確認する。当ブログの別記事に、ダイアトニックコードの一覧を用意したので参照してほしい。
詳細は上記の記事で解説しているが、ダイアトニックコードは、スケール内の音だけを組み合わせて作られている。必然的に、曲の中で出てくるコードの多くはダイアトニックコードになる。
言い換えると、変わった響きのコードなら非ダイアトニックコードである可能性が高いということだ。このことを知っていれば耳コピもしやすくなる。
ルート音を先に見つける
コードを耳コピする場合、コードのルート音が分かればその後もスムーズだ。探しているコードがダイアトニックコードなら、ルート音さえ分かれば即座にコードが判明する。そうではない場合も、ルート音さえ分かればいくつかに絞っていくことができる。
ルート音はベースの音を聴くことで判断できる。耳コピをするときは、低音がきちんと聴こえる環境で作業するとよい。大きな音が出せず、低音がよく聞こえない場合は、ヘッドホンを使おう。
※耳コピ作業に使うヘッドホンは、SONY MDR-CD900STよりもAKG K240MK2のほうがおすすめ。音を何度も繰り返し聴くことになるので、音質・装着感ともに耳に優しいほうが快適に作業をできるはず。おまけにK240MK2のほうが低音も分かりやすい。
オンコードに気をつける
単純なダイアトニックコードだけではなく、オンコードが使われることもある。たとえばキーがCのときは、次のようなコードがよく出てくる。
- G/B、C/Eなどの転回形
- F/G、Dm7/Gなどのドミナント代理系
特に変わった響きのコードではないのに、なぜかどのコードを当てはめてもしっくりこない……sus4のコードでもない……そんな場合は、オンコードの可能性がある。特にギターではオンコードが押さえづらいことも多く、盲点になりがちなので気をつけたい。
コードを度数で把握する
(※クリック or ピンチアウトで拡大)
今から書く内容は、耳コピのテクニックというよりも音楽を分析するためのテクニックなのだが、大事なことなのでぜひ知っておいてほしい。
実は、同じコードであっても、キーによってその機能は異なる。次のような例がわかりやすいだろう。
- キーがCのときに出てくる「C」というコード → トニック
- キーがFのときに出てくる「C」というコード → ドミナント
このように、同じ「C」というコードでも、キーによって異なる機能を持つ。コードネームのアルファベットだけではなく、そのコードが何番目のコードであるかを常に意識しよう。このクセを付けるだけで、コード進行への理解度は一気に深まる。
慣れてくると、楽器を持たなくても何番目(=何度)のコードなのか、聴いただけで分かるようになる。特にトニック(I:1度)、ドミナント(V7:5度)は分かりやすいので、普段音楽を聴くときも、意識して感じるようにするとよい。
音楽理論を学べば耳コピもはかどる
以下のようなポイントについては少しハイレベルな話になってくるので、やはり音楽理論の知識があったほうが理解しやすい。
- 使用可能なテンションノート
- 借用和音の使い方
- 自然に転調を行うための方法
- ディミニッシュやオーギュメントの使い方
音楽なのだから、机で勉強するよりも曲をたくさんコピーして経験を積むほうが有効だ。しかし、ある程度経験を積んだら、その経験則を体系的に整理するために音楽理論書を読んでみるとよい。ここではオススメの書籍を3冊紹介する。
ギタリスト向けの本になるが、宮脇俊郎氏の著書はどれもおすすめ。ギター教則本業界の草分け的存在なだけあって、教え方が非常に分かりやすい。ビギナーの人でも安心して読めるだろう。
ポピュラー音楽で出てくるコードは、それが複雑なものであっても、ジャズのハーモニーが下地になっていることがほとんど。
言いかえると、ジャズのハーモニーが分かる人にとってはポップスのコードを理解することは朝飯前なのだ。初歩的な理論が分かるようになったら、ジャズの理論をかじってみるとよい。
コード方面の音楽理論をひと通り網羅できる名著だ(大変残念なことに絶版となってしまったようだが……)。初心者向けの本ではないが、この本に書かれている内容をマスターすれば、ポピュラー音楽の音楽理論で困ることはなくなるはず。再販に期待したいところだ。
耳コピの答え合わせのやり方
耳コピしたコード進行が正しいのかどうか。経験が浅い頃はもちろん、自分で判断することは難しい。そこで、市販の楽譜やバンドスコア、コード進行掲載サイトで答え合わせをするといい。※Amazonの楽譜コーナーでも色々な楽譜が販売されている。
楽譜データを探すなら、ヤマハのぷりんと楽譜というサイトで販売されている楽譜が便利。1曲単位で購入できるし、有料だけあって採譜も正確なのでオススメ。※商品ページでサンプル楽譜を見られるのも嬉しい。
もっとも、売っている楽譜だって、しょせんは人間が自力で耳コピした結果にすぎない。必ず正しいという保証はないので、注意しておきたい。バンドスコアの採譜ミスに気づけるようになれば、あなたも耳コピ上級者だ。
答え合わせには、人の手を借りたっていい。音楽理論に詳しそうなミュージシャンの知り合いがいれば、その人に意見をもらうといい。もし知り合いがいなくても、ココナラのようなサービスを利用すれば、有償にはなるが安価に耳コピの依頼が可能だ。楽譜が存在しない曲の耳コピでは、人に聞くのが唯一の答え合わせの方法になる。
【保存版】全12キーのダイアトニックコード一覧と解説
※ダイアトニックコードの一覧は記事の後半に掲載しています。基本的な解説が不要な人は、前半を読み飛ばしてください。→ 読み飛ばす!
ダイアトニックコードとは?
多くの曲では、一定のキー(調)で曲が進んでいく。例えば曲のキーがCのとき、その曲で使われる音は、その多くがCメジャースケールの7音だ。
スケールの音だけを組み合わせて作ったコードを「ダイアトニックコード」と呼ぶ。曲の中で使われるコードも、必然的にダイアトニックコードが中心になる。
簡単にまとめると次のとおり。
- 曲のキーが分かれば、ダイアトニックコードが分かる。
- ダイアトニックコードの知識があれば、作曲や演奏、耳コピ作業などの多くの場面で役に立つ。
ミュージシャンならば、各キーにおけるダイアトニックコードを把握しておいて損はない。
ダイアトニックコードの分類
ダイアトニックコードは、次の3種類に分類される。
- トニック:落ち着く。安定感、終止感がある。
- サブドミナント:何か始まりそうな予感。トニックにもドミナントにも進める。
- ドミナント:クライマックス。緊張、不安。トニックに進みたい(=解決したい)。
コードの雰囲気(機能)は、上記のようになっている。たとえばキーがCのときは、おもに次のようにコードが分類される。
- トニック:C
- サブドミナント:F
- ドミナント:G
これらの分類は、「あるコードが、そのキーにおける何番目のダイアトニックコードか」で決まる。1番目ならトニック、4番目ならサブドミナント、5番目ならドミナントという具合だ。これは音楽を知る上で大事なことなので、覚えておいても損はない。
なお、これら3つ以外のダイアトニックコードについても、トニック・サブドミナント・ドミナントのいずれかに分類される。構成音の類似性を元に分類されているのだが、ここでは割愛する。末尾のダイアトニックコード一覧には併記しているので、興味があればチェックしてほしい。
3和音と4和音
コードには、おもに3和音と4和音がある。
- C(ドミソ)は3和音
- C△7(ドミソシ)は4和音
3和音はシンプルな響き、4和音はオシャレで都会的な響き。そういった違いがある。
しかし音楽理論上は、3和音でも4和音でもコードの機能は一緒だ。「3和音は、4和音からセブンス(△7th、m7th)の音を省いたもの」と考えよう。そうすると把握しやすい。音楽理論としては4和音で把握しておき、実際にコードを使うときは、曲に合わせて3和音/4和音を自由に使い分けるとよい。
4和音のコードネームを3和音に変換する時のルール
セブンスの音を削除すればOK。
- 「○△7」のようなコードは、「△7」を削除する
例:C△7 → C - それ以外のコードは、「7」だけを削除する
例:G7 → G Am7 → Am Bm7-5 → Bm-5
例えば、キーがCのダイアトニックコードを考えると、4和音と3和音はそれぞれ次のようになる。違いを確認してみて欲しい。
※画像クリック or 画面ピンチで拡大
他のキーでも変換ルールは同じ。当記事では4和音でダイアトニックコードを掲載するが、3和音を使いたい場合でも、上記変換ルールを駆使してうまく読み替えてほしい。
マイナーキーの場合
マイナーキーの場合でも、メジャーキーのダイアトニックコードを当てはめて考えるとよい。
本来マイナースケールは3種類ある(ナチュラルマイナー、ハーモニックマイナー、メロディックマイナー)。そのため、ダイアトニックコードも3通り出てきてしまい、把握するのが少し大変。
しかし、そのうちのナチュラルマイナースケールだけを認識することで、平行調の関係にあるメジャースケールと一本化してシンプルに考えることができる。理由はそんなところだ。
※クラシックの和声の教科書では、これとは別の考え方になっているので注意。
全12キーのダイアトニックコード
※画像はクリック(PC)や、画面ピンチアウト(スマホ)で拡大します
※トニック → T、サブドミナント → SD、ドミナント → D
キー一覧表(※クリックでジャンプ!) | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
0個 | 1個 | 2個 | 3個 | 4個 | 5個 | 6個 | |
#の数 | C | G | D | A | E | B | F# |
♭の数 | F | B♭ | E♭ | A♭ | D♭ | G♭ |
※異名同音のキー(F# = G♭)を両方掲載しているため、実際は13個あります