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中島美嘉「STARS」のコード進行を分析~J-POP史上最強のリハーモナイズ

楽曲分析

※注:音楽理論に詳しい人向けの内容になっています

中島美嘉の名曲、「STARS」。上質なメロディを緻密なアレンジで包み込んだ極上のPOPSになっている。編曲は冨田恵一氏。冨田サウンドがとことん味わえる一曲だ。

今回はこの曲のコード進行を分析していきたい。

リハーモナイズがあまりにも複雑なためか、2016年9月現在も、正確なコード進行が掲載されているサイトは存在しないようだ。また、市販のスコア等も結局は人力で耳コピして起こしたものにすぎないので、内容が正しいとは限らない。

そこで今回は、ゼロから耳コピを行った。大変骨が折れる作業ではあったが、だいぶ正確なコード譜になったと思う。

今回は「STARS」のコード進行を余すことなく紹介しつつ、「なぜそこでそのコードが使われているのか」についても解説していきたい。

※便宜上、♭→ b と表記します

Key = F

イントロ

| AbM7 DbM7 Gm7/C   |    |    |

まず、こういった複雑な曲を解析するときの前提として、キーがFの曲では、キーがFmのダイアトニックコードも使えることを覚えておこう (準固有和音と呼ぶ)。

イントロでは、ドミナントの代理コードであるGm7/Cに向けて進行していく。AbM7、DbM7は前述の準固有和音。また、DbM7はサブドミナントマイナーの代理コードでもあるので、きちんとサブドミナントマイナードミナントという進行になっていることがわかる。

Aメロ

| G/B  Csus4/Bb | Am7  Am7/D F#dim |
| Gm7  C7 Bb7(9) | Am7  Am7/D Cdim |
| Bm7-5 Bbm6   | F/A  A Bm-5 C#m-5 |
| Am7/D Dm7 G7(9,+11) | Gm7/C C/E |

| Gm7/C   C7 | FM7/C  Am7/D F#dim |
| Gm7  A Bm-5 C#m-5 |
| Dm7  Dm7/G F6 |

1~2小節目は4-5-3-6の、いわゆる"王道進行"が元になっている。G/Bは次のコードに進行するためのセカンダリードミナント。Csus4/BbはメロディがFに行く関係でCではなくCsus4になっている。F#dimも機能的にはD7の代理コードだ。

3小節目のBb7(9)はE7の代理コード(裏コード)。ジャズ等では半音上の7thコードから解決することが多いので覚えておこう。Cdim → Bm7-5の進行は機能的な解釈がしづらいが、半音上のdimからマイナー7thコードへ進行することは多いので、その応用だろう。
 ※Em7 → Ebdim → Dm7(in Key=C)のような進行はジャズでは頻出

6小節目の3・4拍目は完全にメロディに合わせたリハーモナイズ(元はA7一発)。7小節目のG7(9,+11)はオルタード・テンションを含むが、#11thのC#音とメロディでもある9thのA音が長6度の協和音程になっているため、自然に聴こえる。この辺りの音選びは非常にハイセンスだと思う。

9小節目からはベースが入ってくるため、ペダルポイントを駆使したリハモが非常に効果的に響いている。11小節目もメロディに合わせたリハモ。

Bメロ

| EbM7  Dm7  | EbM7  Dm7  |
| Gm7   F/A  | BbM7 Bm7-5 Gm7/C E7+5-9 |

EbM7は準固有和音。E7+5-9(構成音は[E G# C D F])はかなり複雑なハーモニーだが、ドミナント(C7)の代理コードと解釈できる。

また、これはあくまでも僕のごく個人的な解釈だが、以下のような経緯でこのコードに落ち着いたのでは、という予想。

  1. Gm7/Cのままだとドミナント感が出ないので、C7にしたい。
  2. しかし、メロディのFと半音でぶつかるため、E音はルートに持ってきた。
  3. だがやはりルートに対してメロディが短9度で不自然なので、7thコードのオルタード・テンション扱いにできるようE7-9に。
  4. 元はC7だったんだから、コードにB音が入るのはおかしい。B音をC音にずらしE7+5-9に。

サビ

| FM7      | Bbaug/E Eb/A  |
| G/A F#/A F/A C#dim | Am7/D Dm7  Cm7 F7 |
| BbM7  Bbdim | Am7-5   D7(-9,-13) D7/F# |
| Gm7  F/A  | Bbm Bbm/Db Gm7-5/C E7+5,-9 |

| FM7      | Bbaug/E  Eb/A  |
| G/A  F#/A F/A C#dim | Am7/D Dm7 C#m7 Cm7 F7 |
| BbM7  C/Bb   | Am7-5 Am7-5/Eb D7(-9,-13) D7/F# |
| Gm7   F/A   | EbM7 Dm7 Gm7/C   |

2小節目は一見すごい進行だが、Em7-5(9) → A7-9,+11 のリハモ。音が濁りやすいローズ系のエレピでコードを弾いている関係で、不要な音をオミットしていると思われる。

3小節目はメロディに合わせたリハーモナイズ。元はG/A → A7-9だ。

5~6小節目、ここも4-5-3-6の王道進行が元になっている。王道進行なら本来C7となる箇所をBbdimにしたり、その後をマイナーのトゥー・ファイブ進行に変えたりするのは、J-POPでもよく出てくるテクニックだ。

サビの2回し目は基本的には同じ進行だが、ところどころ変化がつけられている。注目すべきは、13小節目3・4拍目のC/Bb。メロディが高く抜けるようなファルセットになるのに合わせて、よりドラマティックな進行に変わっている。こういった細かい部分も、アレンジャーの腕の見せどころだ。

間奏1

| FM7        | Gm7/C  Bbdim  |
| Am7  D7+9 Cdim | BbM7  Gm7-5/C  |

2~3小節目では、またディミニッシュからマイナー7thへの進行が見られる。3小節目のCdimはD7-9の代理コードだ。

間奏2

| FM7  Eb/G F7/A B7-13 |

2サビ後の短い間奏(というほどの尺ではないが)。Eb/Gからの部分は、元はCm7 → F7という進行。この次のコードがBbM7なので、それに向かって進行していく。B7-13はF7の代理コードで、例によってジャズ的に半音下に解決する。

Dメロ

| BbM7   Bm7-5   | F/C  C#dim  |
| Em-5/D Dm7 C#m7 Cm7 B7-13 | BbM7    Cm7/F  |
| Bbm7   Eb7    | Ab/Eb  Cdim  |
| DbM7   Bbm7 Fm/Ab | Gm7(11)   |
| Gm7/C    |     |

その後のDメロ。3小節目はオブリガートのメロディに合わせたリハモが見事。5~7小節目は一時的にKey = Abに転調していると考える。8小節目のGm7をきっかけにキーがFに戻っていく。

3サビ終わり

| Gm7  F/A  | Eb7(9)  Am7/D F#dim |
| Gm7  Gm7-5/C | (2/4)     |

2小節目のEb7(9)がよい浮遊感を出している。静かになる展開と相まってとても効果的。

エンディング

| FM7(9)/C  | Gm7/C  | FM7(9)/C  | Gm7-5/C  | FM7(9)  ||

最後はAメロでも出てきたペダルポイントを駆使しつつエンディングを迎える。「STARS」というタイトルの雰囲気にもピッタリな浮遊感を醸し出している。

終わりに

2016年現在流行している音楽では、複雑なコード進行の曲はそれほど多くない。しかしながら、こういった楽曲を分析し、コード進行やリハモのテクニックを研究することは必ず血肉となり、その後の音楽制作において役に立つと僕は考えている。今回の記事が音楽を制作する人の手助けになれば幸いだ。

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