スティーヴィー・ワンダー「Overjoyed」で学ぶ、美しい転調術

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曲について

スティーヴィー・ワンダーのヒット曲「Overjoyed」は、美しくグラデーションした色彩を思わせるかのような、滑らかな転調が心地よい名曲だ。

転調をスムーズに聴かせるためのテクニックが、無理なく自然に散りばめられている。今回はこの名曲を題材に、スムーズな転調方法について学んでいきたい。

基本的にはKey = E♭で曲が進んでいきます。

※コード進行は耳コピで採譜したものになっています。

イントロ(Key = E♭)

| Db6 C7 | BM7 C7+11,-13 | Db6 C7 | BM7 Bb7 |

イントロから非ダイアトニックコードの連発。Db6は同主調からの借用和音だ(Bbm/Dbの転回形とも解釈できるが、いずれにせよ借用和音)。

C7はダイアトニックコードではないが、このVI7というコードはよく出てくるので違和感はないだろう。ここでは次のコードへのドミナント7thという役割になっている(半音下へ解決する)。

BM7はディグリー表記だとVIbM7。これも頻出の借用和音だ。

2小節目の3・4拍目のC7には、#11thとb13thのオルタードテンションを表記した。全体の響きというよりも、ピアノのフレーズがこれらの音をなぞっているという意味合いだ。このため一瞬だけホールトーンスケール的な雰囲気になり、不思議な印象を演出するのに一役買っている。

ちなみに、イントロで出てくるコードには、どれも構成音にBb音が含まれている。これがペダルポイントとなりコードが展開されていくのがこのセクションの特徴といえる。

4小節目の3・4拍目でようやく、ダイアトニックコードであるBb7が出てくる。これはトニックへ解決するためのドミナントコードだ。

ヴァース(Key = E♭、部分的にKey = C)

| Eb  | Cm7  | Fm7  | Bb7  |
| Eb  | Cm7  | F/A  | G/B  |
| C  | G/B  | Cm7 F7 | Bb7 |

| Eb  | Cm7  | Fm7  | Bb7  |
| Eb  | Cm7  | F/A  | G/B  |
| C  | G/B  | Cm7 F7 | Bb7(9) |

ヴァース(いわゆるAメロ)のコード進行を見ていく。1~4小節目は「1625(イチ・ロク・ニー・ゴー)」と呼ばれるようなごく一般的なコード進行だ。

5小節目からも同じように進んでいく…と思わせつつ、7小節目にはダイアトニックコードではないF/Aが出てくる。とはいえ、Fm7と比べて構成音が近いため違和感なく聴けるだろう。

しかしこのコードをきっかけに、次にG/Bと来て、その後Cへ解決する。後から振り返ってみると、ここからKey = Cに部分転調していることがわかるだろう。

F→G→Cという基本的なケーデンス(終止形)になっているため、展開が極めて自然。また、転調前のキー(Eb)はCキーから見ると同主調になるため、このことも自然な転調を演出する要因となっている。

11小節目のCm7をきっかけに、Key = Ebに戻っていく。その前のG/BがCm7に対してのドミナントコードになっているため、違和感なくつながっている。

13小節目からはそれまでの繰り返し。その後コーラス部分へと突入する。

コーラス(Key = E♭、部分的にKey = F)

| AbM7  | Eb/G  | Fm7 Bb7 | Db6 C7 |
| BbM7  | F/A Bb7/Ab | Fm7  | Fm7/Bb  |

コーラス(いわゆるサビ)部分のコード進行だ。IVM7から下がって行くごく普通のコード進行…と思わせつつも、4小節目で借用和音のDb6が登場し、その後C7と進む。

実はこれ、イントロで出てきたのと同じコード進行なのだ。伏線を回収しているかのような展開が実に見事。

5小節目のBbM7からKey = Fに部分転調する。直前のC7がキーFにとってのV7(ドミナント)になっているので、V→IVという進行ではあるが比較的自然に転調できている。Key = Fに部分転調した状態で、同じメロディが同じコード進行上で演奏されている。

6小節目の3・4拍目のBb7/Abをきっかけに、キーがEbに戻っていく。

 2番コーラスの終わり(7小節目~;Key = E♭)

| Fm7 | Fm7/Bb | Gm7/C | C7 |

2番コーラスの7小節目からの部分だ。9小節目は本来はEbに解決するところだが、代わりにGm7/Cになっている。Cm7の代理コードという解釈もできるかもしれない。

ここからの2小節が、次のセクションのKey = Fに対して、V7(ドミナント)の役割になっているのがポイント。

10小節目ではGm7/C → C7へと変化し、より次へのコードへの進行感が高まっている。

ラストコーラス(Key = F、部分的にKey = G)

| BbM7  | F/A  | Gm7 C7 | Eb6 D7 |
| CM7  | G/B C7/Bb | Gm7 | Gm7/C |

ラストのコーラスでは、セクション全体のキーが2つ上がり、Key = Fの状態になっている

ただ前述の通り、1番のコーラスでも途中で+2だけ部分転調しているため、「BbM7 → F/A」という進行はすでに登場している。そのため、言われなければキーが上がっていることに気づかない人も多いだろう。

しかし、5小節目にCM7というコードが出てきて、セクション全体のキーが高くなっていることにリスナーは気づく。5小節目からはKey = Gに部分転調しているのだ。小説の叙述トリックを思わせるかのような見事な構造だ。楽曲的にも歌唱的にも、まさにクライマックスといってよいだろう。

ここも6小節目の3・4拍目のC7/Bbをきっかけに、やはりキーがFへと戻っていく。

エンディング(Key = F、終わりはKey = E♭)

| F  | GbM7 FM7 | EM7  | Bb7/F Bb7 |
| Eb  |

歌も続いているが、ここから曲のエンディング部分と解釈する。2小節目のGbM7はサブドミナントマイナーの代理コード(IIbM7はまれに出てくる)。

その後メジャーセブンスのまま平行移動していく。EM7で1小節引っ張るが、この時点でキーがEbになっていると考えてもよいだろう(キーがEbにとってのIIbM7と解釈できる)。

その後、ドミナント7thであるBb7/Fへと進行し、Ebで終了。ラストコーラスでキーが上がったにもかかわらず、スタート時と同じEbキーで曲を終わらせているあたりに、こだわりを感じる。

最後に

全く同じメロディが、3つのキーで演奏される。Overjoyedは、そんなユニークさを持つ曲だ。

スティーヴィー・ワンダーは、「コーラス部分を何回か転調させて盛り上げる」という手法を取ることがある(「I Just Called to Say I Love You」、「Ribbon in the Sky」などの曲)。

しかしこのOverjoyedでは、セクションの途中で部分転調したときにそれをやっている。これにより、単純にセクションの繰り返し時にキーを変えるだけでは生み出せない、楽曲の独自性が生まれているのだ。

The Definitive Collection / Stevie Wonder

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