音楽制作者から見た、ハイレゾ音源のメリットと落とし穴

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ハイレゾ音源の基礎知識

ハイレゾ音源とは、

  1. ビット深度
  2. サンプリングレート

これら2点(あるいは片方)を、一般的な音楽CDのフォーマットよりも高く設定して販売している音源のこと。

一般的な音楽CDのフォーマットは、

  • ビット深度 → 16bit
  • サンプリングレート → 44.1kHz

となっている。これらを超える場合、ハイレゾ音源ということになる。

ビット深度について

アナログの音声信号をデジタルに変換する場合の、音量の標本化の細かさのこと。

具体的には、ダイナミックレンジ(音の大小)をどれだけ細かく区切るかの尺度だ。

音楽制作の現場では、24bit以上で録音やミックス等の作業が行われることが多い(その後マスタリングの際に16bitに落とす)。

サンプリングレートについて

アナログの音声信号をデジタルに変換する場合の、時間軸における標本化の細かさのこと。普通の音楽CDのサンプリングレートは44.1kHzなので、1秒間に44,100回だけ標本化されることになる。

実用上は「どのくらいまで高い音を記録するか」ということを決めるための尺度となっている。その根拠は、物理学(信号処理)の「標本化定理」。サンプリング周波数の1/2の周波数(ナイキスト周波数)を超える周波数成分は、正しく記録されないのだ。

CDのサンプリング周波数が44.1kHzなのは、他でもない、人間の可聴域の上限に合わせているからだ。

実際に計算してみると、人間の可聴域の上限は、ナイキスト周波数までに収まっていることがわかる。

ハイレゾ音源のメリット

実際に感じられるかは別として、

  1. 非常に小さな音まで再現できる
  2. 可聴域の外の音も再現できる

この2点を実現できることが、ハイレゾ音源のメリットだ。

ビット深度を大きくするメリット

先にも触れたが、CDのフォーマットが16bitにもかかわらず、音楽制作現場では24bit以上で録音することがほとんど。この理由について先に説明する。

録音レベルには上限が決まっているため、エンジニアはレベルオーバーしないようにマイクの感度を調整し、歌や楽器を録音する。

しかし、歌唱や演奏の表現によっては、小さい音も録音しなければならない。

そこで、録音が24bitで行われるのだ。24bitだと16bitの256(=2の8乗)倍もダイナミックレンジの情報量があるため、小さい音を録音する場合でも問題ない。

サンプリングレートを大きくするメリット

先にも触れたが、標本化定理により、96kHzのサンプリングレートで録音すれば、48kHzまでの音声は問題なく記録されることになる。

20kHzより上は人間には聞こえない高さの音だが、聴こえなくても感じ方が異なると言う人もいる(実際、生楽器や人の声には、可聴域の外の音も含まれている)。

サンプリングレートを大きくすれば、可聴域の外の周波数まで再生が可能になる。

ハイレゾ音源の落とし穴

CDと同じ16bit/44.1kHzのデジタルマスター音源しか存在しない作品を、24bit/96kHzなどにコンバートし、ハイレゾ音源として販売しているケースがある。

※実際に僕が携わった音楽作品で、そのように流通しているものも存在する

こういった「自称ハイレゾ音源」は量子化の細かさは当然16bit/44.1kHzのままなので、ハイレゾで聞く意味がまったくない(データ量が無駄になるだけ)。

例えるなら、昔のTV番組を地デジの解像度に引き伸ばして放送しているようなもの。元の映像が荒ければ、いくら引き伸ばしても当然鮮明にはならない。

また、アナログのハーフインチのマスターテープを掘り起こしてハイレゾ音源として販売するようなケースに対しても、僕は懐疑的な立場でいる。

その根拠だが、まずはビット深度について、そもそもテープのダイナミックレンジはCD以下。音の強弱に関しては特別リアルになるわけではない。

オープンリールテープが持つダイナミックレンジは、磁性体やトラック幅によって差異はあるがおよそ70dB

https://ja.wikipedia.org/wiki/ダイナミックレンジ

※普通のCDのダイナミックレンジは96dB。

サンプリングレートについても、同様に効果があるとは言い難い。
テープはCDのように可聴域の外がバッサリ切り落とされるということはないため、可聴域の外の音まで含まれている可能性もある。しかしながら、テープの性質上、可聴域よりも高い帯域がリニアな特性で正確に記録されていることには疑問が残る。

ハイレゾ音源の恩恵が受けられる作品とは

最初からハイレゾ音源として販売される前提で制作された作品」以外はハイレゾ音源の恩恵が受けられるとは限らない、というのが僕の見解だ。

レコーディング、ミキシング、マスタリングという行程を、すべて24bit/96kHzを維持したまま進められた作品ならば、リスナーに届くハイレゾ音源は、間違いなく通常のCDよりも高音質だといえる。

例えば、クロノ・トリガー(クロス)というTVゲームの楽曲のアレンジアルバム「ハルカナルトキノカナタヘ」は96kHzでセッションを進められた(言及されていないが、ビット深度は当然24bit以上だろう)。

今回、録音からMIXまで96kHzのハイレゾにしているので、ハイレゾ配信もしようと思っています

http://www.famitsu.com/news/201510/13090637.html

制作者がこのようなエピソードを明かしている場合、ハイレゾ音源を購入することで恩恵が受けられる可能性が出てくる。

ちなみに、この「ハルカナル~」は録音もミックスも良く非常に高音質なのでオススメできる作品。僕はCDでしか聴いていないが、今後ハイレゾに手を出す場合はぜひチェックしてみたい一枚だ。

ハルカナルトキノカナタへ

そもそもハイレゾは必要か

ポップスやロックでは録音やミックスの過程において、各パートにコンプレッサーなどをかけてダイナミックレンジを狭めることで、一体感や迫力を出している。こういった音楽ではハイレゾのメリットはないといえる。

逆にオーケストラのようにダイナミックレンジが大きい音楽ではきちんとハイビット、ハイレートで録音された作品ならばハイレゾのメリットはあると考える。

また、音楽制作者の立場から言わせてもらうと、演奏や録音方法、ミックス、マスタリングの方が音質に与える影響は遥かに大きい。それと比べればハイレゾかどうかなんて誤差のレベルに過ぎない。CDだろうがレコードだろうが、良い音は良いのだ。

まとめると、一部の音楽ジャンルの中のさらに一部の作品を除いて、ハイレゾで音楽を聴くメリットはないというのが僕の見解だ。

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