優れた転調テクニックが使われている12曲を紹介する
曲づくりをしているとき、曲の中で転調を使うことができれば、作曲の可能性は大いに広がる。「美味しいメロディのパターンはすでに出尽くしている」という説もある中、他の曲と差別化を図るための手法としては、これほど効果的なテクニックも無いだろう。
反面、上手く転調させなければリスナーに違和感を与えてしまうこともある。作曲に慣れていない人が作った曲で、不自然な転調が発生しているのを耳にすることもある。この問題を解決するには、音楽理論を習得したり、ハーモニーのセンスを磨いたりと、自身の音楽的なスキルを高めていくしかない。
一番効果的なのは、既存の曲の転調方法を分析して学んで、自身の血肉とすることだ。理論書を読みあさるよりも、転調が使われている名曲を片っ端からコピーしていったほうが得られるものは大きい。
今日は日本のポップス・ロック系の音楽から、秀逸な転調が行われている作品を12曲紹介する。どれも多かれ少なかれヒットしており、音楽的にも評価されている。
転調する前後のコード譜も合わせて用意したので、ぜひコード進行をギターやピアノで演奏してみて欲しい。そして転調の瞬間のハーモニーを感じてみて欲しい。
- 曲のタイトルをクリックするとYouTubeが開きます(一部のみ)。
- コードは耳コピで採譜しています。
- 1. Get Wild/TM Network
- 2. 名もなき詩/Mr.Children
- 3. 奏/スキマスイッチ
- 4. ポニーテールとシュシュ/AKB48
- 5. 制服のマネキン/乃木坂46
- 6. Hello, Again ~昔からある場所~/My Little Lover
- 7. Pieces/L'Arc~en~Ciel
- 8. ボクノート/スキマスイッチ
- 9. 行くぜっ!怪盗少女/ももいろクローバー
- 10. プラチナ/坂本真綾
- 11. 創聖のアクエリオン/AKINO from bless4
- 12. ROCKET DIVE/hide with Spread Beaver
1. Get Wild/TM Network
[B](7小節目~)(Key = Bm)
| GM7 | F#m7 | B(no 3rd) | |
[C](Key = G#m)
| G#m F# E | F# B |~
Bメロ終わりの4小節から、上記のような進行になっている。AメロとBメロはKey = Bm、サビはKey = G#mとなっている。すなわち「同主調(Key = B)の平行調」に転調することになる。この曲のように短三度の関係にある調に転調するパターンは頻出だ。
サビ直前の2小節は本来Bmとなるところだが、3度を抜くことで、メジャーともマイナーとも付かない雰囲気を出している。それが2つのキーに共通するコードとなり、スムーズな転調が実現しているのだ。
2. 名もなき詩/Mr.Children
[E](5小節目~)(Key = G)
| Am7 | Bm7 | C | D | C/D | Db/Eb |
[C] (Key = Ab)
| Ab | Cm7 |~
楽曲そのものが見事だが、転調も優れている曲だ。
曲の後半、間奏の後のEメロでは、細かいフレーズを歌った後、Bメロのフレーズをオクターブ上で歌う形で再登場させている。この時点でかなりの高揚感を感じることができるが、さらにダメ押しの転調技を繰り出してくる。
サビのフレーズを歌い出した……と思いきや歌うのを止め、その刹那、半音上に転調する。そしてサビが始まる。このようにしてリスナーに強烈なカタルシスを与えているのだ。
Eメロの後半からのコード進行は上記のようになっている。ドミナントの代理コードのC/Dを挟んでから転調後のドミナント代理であるDb/Ebへと、半音上に進行する。これにより、ドミナント感が和らぎ、スムーズな転調が実現している。
転調テクニックとしてはオーソドックスな手法だが、ここまで効果的に使われているケースは他に類を見ないだろう。「楽曲をドラマチックに彩るための転調」という意味では、お手本のような素晴らしい転調テクニックの使い方だ。
3. 奏/スキマスイッチ
[C] (Key = Bb → Key = Db)
| EbM7(9) | F | Dm7 D7 | Gm7 |
| GbM7 Ab | Fm7 Bbm7 |~
Cメロ(※2サビ後の部分)からのコード進行は、上記のようになっている。それまでKey = Bbで進行していたが、5小節目からKey = Dbに転調する。その後、転調したままラストのサビへと突入していく。
短三度上に転調しているので違和感もなくスムーズにつながっている。ふたつのキーの共通音であるF音が転調前後のメロディで多く使われているのも、転調がスムーズな要因の一つだろう。転調を上手く行うためには、メロディとの兼ね合いも大事なことがわかる一曲。
4. ポニーテールとシュシュ/AKB48
[B](Key = A)
| C#m7 | F#m7 | C#m7 | F#m7 |
| B7(9) | | C#7 | |
[C](Key = F#)
| D#m7 | B |~
Bメロからのコード進行は上記のようになっている。Key = AからKey = F#に転調している(※厳密にはF#の平行調のD#m)。この曲は、短三度下に転調するパターンだ。
注目すべき点は、Bメロ7小節目からの歌メロ。7小節目ではまだ転調するかどうかはわからない。しかし、8小節目では歌メロにD#音とF音が使われている。これらはスケール内の音ではなく、転調後のキーのスケールに含まれる音だ。この2音がメロディに登場することで転調を予感させる仕掛けとなっているのだ。
これらの音使いは、全て同一の「C#7」というコードが鳴っている最中に行われている。そのため、背景のコード感が変わることなく、スムーズな転調が実現している。
歌メロのスケールを変えることで、転調のきっかけを生み出している。非常に高度な転調テクニックといえるだろう。
5. 制服のマネキン/乃木坂46
[B] (Key = Dm)
| BbM7 | C/Bb | Am7 | Dm7(9) Dm7(9)/C |
| Bm7-5 | BbM7 | C | C7-13 C7 |
[C] (Key = Fm)
| DbM7 Eb | Fm7 Cm7 |~
Bメロからのコード進行は上記の通り。Key = DmからKey = Fmへと転調している。短三度上へ転調するパターンだ。
C7のコードをきっかけに転調が行われている。このコードは転調前のキーにとってはV7だが、転調後のキーにとってはIII7。そのため、転調後のIV△7であるDbM7というコードにスムーズにつながるのだ。
もう一つ面白いのがBメロ8小節目のメロディ。転調前のスケールには出てこないAbの音が歌メロに使われている。これはC7にとってはb13thというオルタードテンションになっているので違和感なく使える音だが、それだけではなく転調後のスケールに含まれる音でもある。そのため転調がよりスムーズに実現しているのだ。
この「転調後のスケールに含まれる音をメロディに使うことで、転調をスムーズに行う」という技は、前述の「ポニーテールとシュシュ」でも出てきた。現代のJ-POP作曲家のクレバーさを思い知らされる一曲だ。
6. Hello, Again ~昔からある場所~/My Little Lover
[B] (Key = E)
| A A/B | G#m C#m | A G#7 | C#m Bm7|
| A A/B | G#m C#m | F#m7 | F#m7/B |
[C] (Key = G)
| C D | G D/F# |~
Bメロからのコード進行は上記の通り。Key = EからKey = Gに転調している。短三度上へ転調するパターンだ。
F#m7/Bをきっかけに転調が行われているが、これはB7の代理コードと考えればよい。転調前のキーにとってはV7、転調後のキーにとってはIII7となるコードだ。
この曲で面白いのは、3小節目・8小節目の歌メロの音使いだ。まず3小節目の4拍目でG音が出てくる。これはスケール外の音。G#7というコードにとっては非和声音なので、すぐにG#音に解決する。その後8小節目の4拍目にもG音が出てくる。その直後に転調が起こる。この瞬間、G音は転調後のキーのスケールから持ってきた音だということがリスナーに分かるカラクリとなっているのだ。
「転調する直前に、転調後のスケールに含まれる音を登場させる」という技は、「ポニーテールとシュシュ」や「制服のマネキン」でも出てきた。この曲でも同じ手法が用いられているが、転調する直前だけではなく、さらにそれよりも前でも転調後のキーのスケール音を登場させているのがポイントだ。
言うならば、「転調の伏線を張り、それを回収している」といったところだろう。リスナーの潜在意識に訴えかけるような、巧妙な転調テクニックだ。
7. Pieces/L'Arc~en~Ciel
[B] (Key = A)
| D | C#m | Bm | A |
| D | C#m | Bm | Esus4 E Esus4 E |
[C] (Key = C)
| FM7 | G | Em7 | Am |~
Bメロからのコード進行は上記の通り。Key = AからKey = Cへと、短三度上へ転調している。ふたつのキーで共通して使えるEというコードをきっかけに転調が行われている。「制服のマネキン」や「Hello, Again」と同じパターンの転調方法だ。
この曲のメロディにも「転調の伏線」的な音使いが登場する。Bメロの6小節目では歌メロにさりげなくG音が出てくる。これは転調後のキーのスケールに含まれる音だ。キーが変わったことを感じさせないほどの、きわめて自然な転調となっている。
Clicked Singles Best 13 / L’Arc~en~Ciel
8. ボクノート/スキマスイッチ
[B] (7小節目~)(Key = A)
| DM7(9) B7/D# | Esus4 E Cm7/F F7/A |
[C] (Key = Bb)
| Bb Dm7 |~
イントロからKey= Aで進行していく。1番Bメロの7小節目からは、上記のようなコード進行になっている。
サビ直前でツーファイブを挟んで、Key = Bbに転調している。サビだけ雰囲気を変えるために転調させるパターン……と思いきや、なんとそれ以降Key = Aに戻ることなくKey = Bbのまま進んでいく。
つまり2番のAメロとBメロは、1番の半音上のキー(Bb)で演奏していることになる。言われなければ気づかない人も多いかもしれない。
余談だが、1B、2Bともに、終わりの1小節のストリングスのラインは同じ音型となっている。こういったさり気ないアレンジ面での工夫も、転調が自然に演出されている要因の一つだろう。
9. 行くぜっ!怪盗少女/ももいろクローバー
[B] (5小節目~)(Key = Am)
| Dm7 G | C FM7 | Bm7-5 | E7 | |
[C] (Key = Ebm)
| Ebm7 | Abm7 | Db7 | Gb Db/F |~
Bメロの5小節目からのコード進行は上記の通り。Key = AmからKey = Ebmへと、増四度上へ転調している。
増四度上という遠縁のキーへの転調ではあるが、E7がEbm7に対するドミナント7thコードになっている(半音上から解決するパターン)ため比較的自然につながっている。Bメロ8小節目のメロディに、転調後のキーのスケール音に含まれるF#音が一瞬出てくるのもポイント。
増四度の転調でリスナーに意外性を与えつつも、理論的な部分では破綻していないという、大胆かつ巧妙な転調といえる。
なお、サビの後は再びKey = Amに戻る。そこはDb7 → Amという進行なので、元のキーに戻るときは何のクッションも挟まずに転調していることになる。しかしながら、この後のセクションはバックトラックがリフ的な演奏で、ボーカルはラップ調。そのため突然転調の不自然さも緩和されているのだ。この「転調を不自然に感じさせないような楽曲構成」もまた見事な部分といえるだろう。
10. プラチナ/坂本真綾
[B] (Key = D)
| Bm7 | GM7 | A B| C#m | G#m B C#|
| D#m7 | C#m7 | C#m7/F# C7(9)-5|
[C] (Key = F#)
| BM7(9) |~
Bメロからのコード進行は上記の通り。大きく見ると、Key = DからKey = F#へと、長3度上へ転調していることになる。
Aメロから部分転調的な仕掛けがたくさん出てくるが、分かりやすいのがこのBメロの部分だろう。IV→V→VImというケーデンスをつなげる形でキーが1音ずつ上がっていく(※Bm → C#m → D#mとキーが変化する)。その際の歌メロは似たような音型になっており、コードの3度を通っているので転調した感じも分かりやすい。
楽曲全体に部分転調がふんだんに盛り込まれているのもあり、他の曲のシンプルな転調とは一線を画している印象。菅野よう子氏の才能を強く感じさせる、非常に独自性のある一曲だ。
11. 創聖のアクエリオン/AKINO from bless4
[B] (9小節目~)(Key = Bm)
| GM7 | | Dadd9/F# | Bm7 |
| Bm7/E | Am7/D | Gm7/C | |
| Em7/A | F#m7/B |
[C] (Key = C#m)
| C#m G#m7 | AM7 G#m7 |~
Bメロ9小節目からのコード進行は上記の通り。Key = BmからKey = C#mへと、1音上へ転調している。
この曲のポイントは、「Dm7/G型」のコードを転調のきっかけとしていることだ。このコードはV7の代理コードとして使われることが多いが、ドミナント感を和らげて、調性をぼかすことできるのが特徴。また、同じ型のまま平行移動させて使ったりしても不自然になりにくい(※フュージョン系の音楽でよく出てくる)。
Bメロ13小節目のBm7/Eのところから、「Dm7/G型」コードの連続で調性感をあいまいにしつつ、目的のキー(C#m)に着地させるようなコード展開になっている。
Lost in Time / AKINO from bless4
12. ROCKET DIVE/hide with Spread Beaver
[B] (Key = D)
| A | | Bm | |
| C | | D | B |
[C] (Key = E)
| E | B |~
ギターソロの後からのコード進行は上記の通り。Key = DからKey = Eへと、1音上へ転調している。
ギターソロの後はBメロの部分の繰り返しだが、途中から少し変形していき、そのまま転調したサビへと突入していく。Cというコードの部分からキーがEに変わっていると解釈してもよいだろう。C、D、Bというコードは、それぞれ転調後のキーにとってはVIb、VIIb、Vというコードになる。
ここで見事なのは、転調に向けて変化していく歌のメロディだ。5小節目からの部分では、Bメロ頭のフレーズと同じ音型のフレーズが、コードに合わせる形で変化して歌われている。コードの変化とメロディの変化が渾然一体となって、転調がドラマチックに演出されている。楽曲に導かれるようにして生まれた転調からは、高い音楽センスを感じさせられる。
【FF名曲】ファイナルファンタジーの音楽でオススメの50曲を紹介する
日本を代表するRPG、ファイナルファンタジー(FF)。FFシリーズはゲーム中のBGMの人気も高い。そこで今回は、FF1~FF15の中で、優れた音楽を50曲厳選した。
※オンラインゲームのFF11とFF14は除外
個人的な好みも大いに含まれるが、FFシリーズの音楽を探すための参考にして欲しい。なお、ストーリーのネタバレとなるような記述は極力避けている。
※曲のタイトルをクリックすると、YouTubeが開きます。
FF1
プレリュード
ファイナルファンタジーと言えばこの曲。流れるようなコードトーンのアルペジオで構成されているのが特徴。
オープニング・テーマ
初期のFFシリーズではよく流れていたテーマ曲。最近のFFでも、しばしエンディング中などに流れることもある。
FF2
チョコボのテーマ
チョコボ初登場!シリーズを通して使われている、FFでも有名な一曲。
FF3
悠久の風
FF3のフィールド曲。勇壮さや冒険への期待感を感じさせる、RPGらしい曲調だ。FF3を代表する一曲だろう。
FF4
バトル2
ボス戦で流れる戦闘曲。緊迫感や勇壮さを感じさせる、RPGらしい一曲だ。
某有名ゲームキャラRPGの、ゲーム中に出てくるFFパロディでも、やはりこの曲が戦闘曲として使われていた。
FFの戦闘曲では最も有名な曲のひとつだろう。
少女リディア
のどかで美しく、優しい旋律が印象的。FF4でも有数の名曲だ。
FF5
ビッグブリッヂの死闘
FFシリーズの音楽でも有名な一曲。イントロのオルガンのsus4的な高速アルペジオが最高にかっこいい。
FF6
決戦
ボス戦で流れる、緊張感と疾走感のある一曲。The Black Magesでもカバーされている。
※The Black Mages:スクウェア社員で結成した、FFの曲をHR/HMアレンジして演奏するバンドのこと。CDもリリースしている。
妖星乱舞
プログレッシブ・ロック的な展開がすごい、FFでも一番の大曲だ。4つの楽章に分かれており、曲の長さは17分にも及ぶ。変拍子が出てくる11分過ぎのところからが非常にカッコイイ。
The Black Magesでもカバーされている。
FF7
更に闘う者たち
3連系リズムのロック曲。Deep Purpleを思わせるようなハモンドオルガンがカッコイイ。
The Black Magesでもカバーされているが、そちらもクオリティが高いのでオススメだ。
エアリスのテーマ
シンプルかつ印象的な一曲。ピアノの旋律が優美さや寂しさを感じさせる。キャラクター固有のテーマ曲としては、最も有名な曲のひとつだろう。
J-E-N-O-V-A
ジェノバのイメージによく合った、疾走感と緊迫感のある印象的な曲。The Black Magesでもカバーされている。
片翼の天使
色々とネタにされることも多いが、当時では珍しいボイスサンプリングを取り入れたりと、革新的な曲。
なお、映像作品「FF7AC」では、「再臨:片翼の天使~Advent:One-Winged Angel~」というアレンジバージョンが流れる。こちらは本格的なオーケストラに加え、The Black Mages的なHR/HM系のギターが取り入れられたサウンドになっており、非常に豪華な曲になっている。こちらもオススメだ。
FINAL FANTASY VII Original Soundtrack
FF8
FF8の音楽は、シリーズでも屈指の完成度を誇ると僕は感じている。作品全体を覆うややダークな雰囲気が、音楽でも上手く表現されている。
Balam Garden
バラムガーデンで流れる曲。シンプルで安心感がありつつも、独特の雰囲気を持った一曲。
音楽理論的には、リディアン・スケールが使われているのがポイント。これにより独特の不思議な雰囲気が生まれている。バラムガーデンの雰囲気にマッチしたサウンドと言えるだろう。
Breezy
バラムで流れる。ガットギターのシンプルな曲だ。ゆったりとしたアルペジオがのどかで心地よい。
この曲の良いところは、実際に本物のギターで演奏できるような音使いがされているところだ。ギターを想定して曲が作られているあたりに、植松氏のこだわりを感じる。ずっとアルペジオ奏法なので耳コピもしやすい。ギターが弾ける人はぜひ演奏してみよう。
The man with the Machine Gun
戦闘曲のうちの一つだ。4つ打ちのリズムに乗せたシンセのリフが印象的な、テクノ風楽曲。疾走感がありクールな一曲。
The Black Magesでもカバーされている。
Fisherman's Horizon
フィッシャーマンズ・ホライズンという街で流れる曲。FFシリーズでも屈指の名曲だろう。ずっと聴いていたくなる、美しく牧歌的な一曲だ。印象的なメロディラインに凝ったコード進行は、まさに植松節といったところか。
Julia
FF8の主題歌である「Eyes On Me」のピアノアレンジバージョンだ。曲が流れるシーンとそのストーリーの背景がとても感動的なので、個人的にはこちらを推したい。
Ride on
飛空艇で流れる曲。イントロの木管のハモりが小気味良い、明るい曲だ。
FINAL FANTASY VIII Original Soundtrack
FF9
いつか帰るところ
タイトル画面で流れるリコーダーの曲。リコーダー数本のシンプルな編成にもかかわらず、非常に印象的な一曲だ。植松氏の作曲能力の偉大さを思い知らされる。
Vamo' Alla Flamenco
6/8拍子のフラメンコ曲。ポップにデフォルメされたメロディと曲調が、FF9のキャラのイメージとよく合っている。
ハンターチャンス
ゲーム中のあるイベント時期にしか流れないが、緊迫感と勇壮さを持つ、非常に印象に残る一曲。
The Black Magesでもカバーされている。
ローズ・オブ・メイ
6/8拍子のリズムで、流麗な旋律が印象的なピアノ曲。美しいメロディの中にも、哀愁や気高さのようなものが感じられるのが特徴的だ。ベアトリクスの登場シーンでよく流れる。彼女のキャラクター性がよく表現された一曲だ。
FF9屈指の名曲といっても過言ではないだろう。
Melodies of Life
エンディングテーマとなっているボーカル曲。90年代風アレンジの王道バラード曲だ。ストーリーとも相まって、非常に感動的な一曲となっている。
FINAL FANTASY IX Original Soundtrack
FF10
ザナルカンドにて
タイトル画面で流れる曲。FF10という作品を象徴するような、とても印象的なピアノ曲。FFシリーズ屈指の名曲だろう。
浄罪の路
切なくダークな旋律が印象的なピアノ曲。
いつか終わる夢
とある遺跡で流れる曲。FF10主題歌である「素敵だね」のアレンジバージョンとなっている。シンセのノイズを使ったSEがファンタジックで印象的だ。
???バトル
曲タイトルがストーリーのネタバレなので伏せている(そのためサントラ発売前に一部で批判されていた)。4つ打ち+シンセサウンドという、テクノっぽい一曲。オルガンのアルペジオが植松氏っぽさを感じさせる。
The Black Magesでもカバーされている。
FINAL FANTASY X Original Soundtrack
FF10-2
久遠~光と波の記憶~
流麗なピアノのアルペジオが心地よい一曲だ。美しく幻想的な曲調になっている。
FF12
安息の時
美しいハープのアルペジオとフルート、ストリングスが中心の幻想的な一曲。FF12でも有数の名曲だろう。
パンネロのテーマ
木管楽器とストリングスが中心の、朗らかで透明感のある一曲。キャラクターの雰囲気によく似合っている。
FF13
発売前の期待が大きかった分、ゲーム内容には賛否両論あるが、音楽ではとにかく高い評価を得ているのがFF13。「閃光」はFFシリーズを通しても屈指の名曲だ。
ブレイズエッジ
ボス戦で流れる曲。雄大なストリングスや管楽器が印象的なオーケストラ曲。緊迫感と躍動感を持った、美しい一曲だ。
閃光
通常戦闘曲。FF13でも抜群の人気を誇る一曲だ。疾走感あふれるリズムの上で、壮大で迫力のあるオーケストラやエッジのあるディストーションギターが躍動する。サビのバイオリンのメロディが非常にキャッチーで印象的。FFシリーズでも屈指の名曲だろう。
サンレス水郷
「サンレス水郷」という地域で流れる曲。一昔前に流行した、キラキラしたハウス風の曲調だ。2コーラス目から女性ボーカルが入ってくる。
ちなみに、サウンドが特徴的なので気づきにくいかもしれないが、「FINAL FANTASY XIII ~誓い~」(タイトル画面の曲)のアレンジバージョンとなっている。
パルスdeチョコボ
昨今のチョコボ曲のアレンジでは、個人的に断トツでお気に入りの一曲。軽快なブラスが印象的なファンク系のアレンジになっている。4リズム(ドラム、ギター、ベース、ピアノ)のグルーヴも素晴らしい。
生演奏で、非常に躍動感あふれる一曲となっている。
ヴァニラのテーマ
優しいピアノの演奏が心地よい一曲。
ヤシャス山
「ヤシャス山」という地域で流れる曲。ボサノバ風のアレンジで、ガットギターの演奏が気持ち良い一曲。
ファイナルファンタジーXIII オリジナル・サウンドトラック
FF13-2
ゲームとしては賛否両論あるFF13-2だが、音楽はFFシリーズでも一二を争うクオリティだと僕は感じている。前作の音楽で高い評価を得た浜渦氏を含め、3人の作曲家が分担して音楽を手掛けている。
FINAL FANTASY XIII-2~願い~
タイトル画面で流れる曲。美しさと悲愴感を併せ持った、作品の世界観に非常にマッチした名曲。これぞ浜渦節!と言わんばかりの一曲。ドラマチックなコード進行の上で鳴るピアノとストリングスのサウンドが印象的。
作曲は浜渦正志氏。
女神の騎士
FF13-2を代表する名曲だろう。ホルンやバイオリンの音色が、前作の名曲「閃光」を連想させる。
ハーフテンポになるところから、溜めて溜めて溜めて、サビ頭でバイオリンのフレーズが炸裂する展開。その瞬間、最高のカタルシスを感じることができるだろう。
こちらも作曲は浜渦氏だ。
疾走
荒野を思わせるような、乾いたロックサウンドの一曲だ。バイオリンのメロディと、間奏のギターのアルペジオが印象的。主旋律は「ノエルのテーマ」と同じものなので、同曲のアレンジバージョンでもある。
作曲は水田直志氏。
ネオ・ボーダム
浮遊感のあるサウンドが心地いい、近未来的な雰囲気の一曲。
透明感のあるシンセの音色に、アコースティックギターのストロークや女性ボーカル(ORIGA氏)が乗り、オーガニックな雰囲気が出ている。歌もインストの一部という感じになっており、主張しすぎず耳馴染みが良い。
ネオ・ボーダムという街を上手く表現した一曲だ。作曲は鈴木光人氏。
ヒストリアクロス
「ヒストリアクロス」の画面で流れる曲だ。部分的に女性ボーカル(ORIGA氏)が入っている。
5/4拍子、6/8(6/4かも?)拍子が切り替わるトリッキーさを持ちつつも、安定感のある心地よいサウンドが楽しめる。浮遊感のあるシンセサイザーとストリングスの調和が絶妙だ。
後半から展開が変わるので、最後まで聴くことをオススメする(ゲーム中では長く聴く機会が少ないのが惜しいところ)。非常にクオリティの高い一曲。
こちらも作曲は鈴木氏が手掛けている。
FINAL FANTASY XIII-2 オリジナル・サウンドトラック
LRFF13(ライトニングリターンズ)
こちらも前作に続き、浜渦・鈴木・水田氏の3名が音楽を担当している。BGM然とした曲が多くなった印象だが、相変わらずクオリティは高い。
箱舟
アンビエントな雰囲気の、美しさと不思議さを持つ一曲だ。女性のクワイアコーラスや、シンセとピアノの旋律が印象的。
作曲は鈴木氏が手掛けている。
光都ルクセリオ
ライトニングが最初に訪れる街で流れる曲。ストリングスの刻みにピアノや木管楽器の旋律が印象的。美しくも、不思議な調性を持った一曲だ。
作曲は浜渦氏。
魂の解放者
戦闘時に流れる曲の一つ。4つ打ちのリズムに乗せたギターやバイオリンの旋律がカッコイイ。ギターソロではテクニカルなスウィープ的フレーズが聴ける。
作曲は水田氏。
LIGHTNING RETURNS:FINAL FANTASY XIII オリジナル・サウンドトラック
FF15
FF15の音楽は劇伴に徹している感じも強く、メロディの主張が強いものは少ないが、どの曲も総じてクオリティは高い。特に戦闘曲はオーケストラに歌も入っていたりと、派手で豪華な曲が多い。
レスタルム
最序盤で訪れる、レスタルムという街で流れる曲。ガットギターとパーカッションのシンプルな編成。明るく楽しげな雰囲気の一曲。
Veiled in Black
戦闘時に流れる曲だ。緊迫感があってスリリングでカッコイイ。FF15らしい一曲。
APOCALYPSIS NOCTIS
エピックなオーケストラサウンドの、勇壮な一曲だ。FF15を象徴する曲だろう。
カエム
アコースティックギターのアルペジオやピアノの音色が印象的。アンプラグドなアレンジが、のどかな雰囲気を出している。
Somnus
FF15のテーマ曲的な位置づけ。ストーリー中の佳境でも流れる。
おわりに
音楽と人の記憶は密接に関わっている。ゲームをプレイするときは、ぜひ音楽も心に刻みつけよう。そうすればゲームをプレイした思い出は、より一層豊かなものとなるはずだ。
FFのサントラがサブスクで聴けるように!(2019年6月追記)
2019年6月、FFシリーズのサントラが、Spotify、Apple Music、Amazon Music Unlimited等の主要サブスクリプションサービスで解禁された。
サントラが1枚数千円することを考えると、非常にコスパが高い。FFの音楽目当てで加入しても十分元を取れると思うのでオススメです。
ポップスの作曲・アレンジに役立てるための、効率的なピアノ練習法【独学OK】
「作曲・アレンジに役立てる」のが目的なので、ポップスやロック等の、いわゆるポピュラー音楽を想定している。次の4点を意識して練習するのが良い。
- コードを押さえられるようにする
- クラシックの教本で基礎練習をする
- メロディを弾けるようにする
- 応用編(好きな曲を練習する、etc.)
ピアニストになるのでなければ、独学でも十分ピアノの習得は可能だ。
1. コードを押さえられるようにする
ポップスの作曲をするには、コードの知識が必要だ。弾き語りでもバンドでの演奏でも、ピアノパートの役割の多くはコードバッキングだ。それにコードが弾ければ、MIDI打ち込み作業も圧倒的に時間短縮できる。
そこで、まずは各種コードを押さえられるようになろう。左手でルート音、右手でその他の構成音(+ルート音)を押さえる。これがピアノでコード弾きをするときの基本スタイルだ。同じコードネームでも転回形が複数あるので、それらも押さえられるようにしておこう。
いきなり12キー全てを拾わずに、シャープやフラットが少なめのキーのダイアトニックコードから覚えていくと良い。お気に入りの曲のコード進行を演奏してみるのも良い練習になる。
トライアド、4和音、ディミニッシュコード、テンションコード、分数コード……必要に応じて、押さえられるコードを増やしていこう。
なお、コードの押さえ方についてはネットで検索するなり本を読むなりして欲しいが、一点重要なことを書いておく。
- ルート音が同じ場合、他の構成音の順番を入れ替えても、同じコードとみなす
(例:「ドミソシ」、「ドソシミ」、「ドシソミ」 → ぜんぶ「CM7」というコード)
ルート音(=最低音)が同じなら、右手の押さえる順番は自由。この大原則を覚えておけば、自分でコードのボイシングを考えられる。きれいな響きになるよう、自分なりに考えて工夫してみよう。
2. クラシックの教本で基礎練習をする
クラシックピアノの教材は、やはり指の運動能力を高める上では最も効率が良い。「指越え」や「指くぐり」など、基本的な指使いを学ぶにも良い。読譜力も身につく。
指のトレーニングツールとしては、「ハノン」がオススメ。初心者から上級者まで幅広く使われている。ハノンを全部やるのは大変なので、練習効果の高いものだけ厳選しよう。下記サイトでは、おすすめの曲が抜粋されている。
練習曲の教本は、バイエルやブルクミュラー、ツェルニーなどがある(←難易度順)。自身のレベルに合わせて選ぼう。
3. 右手でメロディを弾けるようにする
基礎練習で指が動くようになれば、お気に入りのヒット曲の歌メロをなぞることも難しくないだろう。気になったメロディはどんどん弾こう。
慣れてきたらメロディを弾きながら、左手でルート音やコードを押さえてみよう。
また、左手でルート音を押さえる場合は、右手でメロディと同時にコードの構成音を弾くのも良い。メロディとコードの構成音を、3度や6度の関係になるようにするのがポイントだ(そうならないケースも多いが)。これができれば、ピアノ一台で曲を表現するのも可能になる。
4. 応用編
好きな曲を練習する
バンドスコアでもピアノソロの作品でも、好きな曲の楽譜を買ってきて練習しよう。楽器.meのように、J-POPのコード進行が掲載されているサイトを見ながら、音源と合わせて弾くのも良い練習になる。
どんな曲を弾いても音楽力のアップにつながるが、おすすめはジャズ系の作品。ポップスの音楽はジャズがベースになっている部分も多く、使われている和音も上位互換的なものが多い。
なお、ジャズ的な演奏にオススメの教本としてジャズハノンを紹介したい。古くからあるが、今でもよく売れている一冊だ。タイトルに「ハノン」と付いているだけあって基礎的なトレーニングが中心の本だが、ジャズのコードやフレーズを効率よく学ぶことができる。
MIDI打ち込みを、鍵盤のリアルタイム入力で行う
DAWで曲を作る人も多いだろう。MIDIを打ち込むときは、全てのパートを鍵盤からリアルタイム入力しよう。最初は大変かもしれないが、地道に続ければ上手くなっていく。何より、圧倒的な速度で打ち込み作業が進んでいくのは快感だ。どんな練習よりも効果的だと僕は感じている。
練習に必要な楽器
本物のグランドピアノで練習するのが一番良いが、日本の住宅環境を考えると、なかなか現実的ではない。練習には電子ピアノやステージピアノなど、88鍵のハンマーアクションのものが望ましい。夜間でもヘッドホンを繋いで練習できる。
なお、安いMIDIキーボードだと、鍵盤の長さが本物のピアノよりも短かったりする。気持ちよく演奏できないので、練習用途にはあまりオススメできない。また、シンセ鍵盤のような柔らかいタッチに慣れていると、本物のピアノの重い鍵盤で弾くときに大変だ。その逆は割と問題なく行けるので、ピアノタッチの鍵盤で練習するのが良い。
電子ピアノは安いものなら、KORG LP-180は3万円台から売られている。コストパフォーマンスを考えるなら電子ピアノが最適だ。予算と相談して、楽器屋で試奏してから買うと良い。
DTMでも使いやすいステージピアノだと、もう少し高く(10万円台)なるが、YAMAHA CP40 STAGEあたりは、コンパクトでタッチもよくオススメだ。なおステージピアノタイプはスピーカーが内蔵されておらず、キーボードスタンド等も別途必要になってくるので注意。
さいごに
楽しく練習するのが一番大事。作曲やアレンジに役立てるだけなら、必死で練習しなくても何とかなる。気楽にやろう。
関連記事
作曲家・アレンジャーがピアノを弾けるようになるメリット
ピアノの練習をしよう。作曲やアレンジなどの音楽制作を行う人が、ピアノを弾けることのメリットは多い。
プロでもアマチュアでも、ポップスを作る人であっても、ロックバンドで作曲を担当している人であっても、誰しもピアノを習得するだけで、曲作りは断然やりやすくなる。ピアノを全く弾けない状態の人が初心者レベルになるだけでも、曲作りにおいては大いに役に立つ。
今回は音楽制作において、ピアノを弾けることのメリットを挙げていく。
- ハーモニーやアンサンブルを考える上で圧倒的に有利
- MIDI打ち込みの作業効率が格段に上がる
- 耳コピが得意になる
- おいしいメロディを戦略的に生み出しやすい
- アンサンブルの構造を視覚的に把握することができる
- 譜面に強くなる
- おわりに
ハーモニーやアンサンブルを考える上で圧倒的に有利
音楽の三大要素は、リズム、メロディ、ハーモニーだ。音楽を新しく作るときは、必然的にこれらの要素も考えることになる。リズムやメロディを表現できる楽器は多いが、ハーモニーを考えるためには、和音を演奏できる楽器を使う必要がある。
それに適しているのが鍵盤楽器。中でも最適なのはピアノだ。
ギターでも和音は鳴らせるが、同時に最大で6音までしか鳴らすことができない。ボイシングにも制約があるし、複雑なテンションコードやアッパーストラクチャー的なコードを表現するのは難しい。またギターは、メロディと和音を同時に演奏するのが難しく、その自由度も鍵盤楽器に比べてはるかに低い(クラシックギター奏者を想像すると分かりやすい)。
ギタリストならばギターで作曲したくなる気持ちもわかるが、優れた作曲家になりたいのであれば、ピアノで作曲できるようになることをオススメする。指で押さえるだけで音が鳴り、ダンパーペダルで音を伸ばせるというピアノの特性は、ハーモニーを考える上では圧倒的に有利なのだ。
DAWを使わずとも、大まかなハーモニーを確認することができる。これは作業効率上、大きなメリットになる。
複雑なボイスリーディングを含むような和声だと、ピアノでも再現しきれないこともあるだろう。しかし、オーケストラのスコアリーディング(曲全体を確認する作業)でもピアノを使うことから、音楽を"確認"する上で、ピアノより優れた楽器は無いと言っても過言ではない。
ピアノを弾ければ、ちょっとハーモニーを確認したいときでも、軽く鍵盤を叩いてみるだけで済む。ボイシングやリズム、ダイナミクスを少し変えたりして試行錯誤することもたやすい。その都度MIDIを打ち込みシーケンサーを走らせて聴くのと比べて、はるかにシンプルで効率が良い。
MIDI打ち込みの作業効率が格段に上がる
普段マウスでMIDIノートを入力している人は、ピアノを練習し、リアルタイム入力をマスターすることをオススメする。そうすれば打ち込みの効率は飛躍的に高くなる。
MIDIキーボードでリアルタイム入力をする場合、30秒のセクションならば、30秒あればMIDI入力が完了する(細かなCC情報は除く)。多少リズムがズレていても、簡単にクオンタイズもできる。特にピアノやエレピ、オルガン等の鍵盤楽器の打ち込みにおいては、リアルタイム入力は断然有利だ。
もちろん、その他の方法で素早くMIDI入力をすることも可能かもしれない。しかし、リアルタイム入力ならば、必然的に曲のリズムやハーモニー、メロディーを感じながらMIDIを入力することになる。作業をするたびに、体に音楽を叩き込むことができる。これは音楽制作というクリエイティブな作業をする上で、大きな優位点であるのは間違いない。
また、ピアノやエレピのようなパートを打ち込むとき、マウス入力だと、人間が演奏したような演奏データに調整するのは難しいものだ。(ベロシティや音価、リズムのばらつき等の要素が機械的になりやすい)。生っぽいニュアンスを出すのであれば、自分で鍵盤を演奏してMIDIデータを入力するのが一番良い。たとえ演奏データが上手でなくても、それを修正するほうが効率が良い。
ピアノパートに限ったことではないが、鍵盤の演奏能力が高ければ高いほど、MIDI入力の作業効率も高くなる。音楽制作者なら、ピアノが上手いに越したことはないのだ。
耳コピが得意になる
曲作りをするためには、日常的に既存の曲を分析したり演奏して自身の血肉とし、音楽的な感性を高めていくことも大事になってくる。曲のコード進行を分析するメリットについては、このブログでも以前記事を書いている。
ピアノが弾けるようになれば、コード進行分析に必要な「耳コピ」の作業も一気にやりやすくなる。曲に合わせてコードを弾けば、そのコードが合っているか外れているか、瞬時に分かるからだ。
厳密にコードネームを確定するには、コードの構成音を一音ずつ聴き取っていくようなハイレベルな聴き方も必要。しかしそういった作業をする上でも、ピアノを弾けるかどうかで効率は変わってくる。
他の楽器を使って耳コピをすることもできるが、前述の通り、ハーモニーを確認する手段としては、ギターはピアノには及ばない。ギターだと必ず両手がふさがるのもイマイチなところだ。
おいしいメロディを戦略的に生み出しやすい
音楽理論の教本は数多くあるが、良いメロディを生み出す方法については特別語られていない。とはいえ、作曲を理論的な観点から行うときに重要なのが、「コードに対して、メロディがどのテンションノート(9th等)になっているか」ということ。
たとえば、「ルート音とメロディの音が同じ音の場合、ハーモニーに広がりが生まれない」というのは和声を学んだ人なら知っていることだし、作曲が得意な人なら感覚的に理解していることだろう。
もしギターの弾き語りで作曲をしている場合、「コードのルート音とメロディの音程」を瞬時に把握するのは難しいはず(普段から訓練している人は別だが)。しかし、ピアノで作曲をしている人にとっては、こういった情報は常に鍵盤上に表示されているに等しい。これは良いメロディを考えるための大きなアドバンテージとなる。
もちろん、作曲においては自分の感性・感覚が一番大事だ。それでも、上手く行かないときや調子が悪いときに、論理的に考えを突き詰めることで、スランプを抜け出せることも多い。
アンサンブルの構造を視覚的に把握することができる
アレンジ(編曲)における大事なポイントとして、
- パートごとに音域を分けて、低域から高域までまんべんなく音を配置する
という考え方がある。何も考えずに音を重ねていくと、ある特定の音域に音が集中してしまい、全体のサウンドが団子状態になってしまうことも多い。
これを避けるには、全楽器の演奏音域について、ピアノの鍵盤と照らし合わせる癖をつけると良い。
- 歌メロはC4~C5の間
- ベースはE1~E2あたり
- ディストーションギターはE2~A3あたり
- オルガンはA3~E5
例えばこのように、あらゆるパートを鍵盤に置き換え、どのあたりの音域で音が鳴っているかを常に意識しよう。楽器をたくさん重ねていく場合でも、音の配置に無駄がなくなっていくはずだ。音域を意識した音の積み方ができれば、編曲のクオリティも上がっていくだろう。
譜面に強くなる
自分以外のボーカリストや演奏者の力を借りて音楽を完成させる場合、譜面を元にコミュニケーションを取ることも多い。特に管楽器や弦楽器を録音する場合は、玉譜(コード譜ではないオタマジャクシの譜面)が必ず必要になる。
ピアノを習得する過程で、必然的に読譜力も高くなっていく。五線譜をすらすら読めるようになれば、レコーディングのときも慌てなくて済む。
おわりに
楽器はとても奥が深い。ピアノという楽器を本当の意味で弾きこなすには膨大な時間と経験値が必要だ。プロのピアニストになろうと一念発起したところで、大人になってからそれを実現するのは難しいかもしれない。
しかし、作曲や編曲に役に立つレベルで、ピアノを「ちょっと弾ける」ようにするのは、意外と難しいことではない。ポップス系のプレイヤーには独学でピアノを習得した人も多い。
ピアノを独学で練習するための方法も、現代はインターネットで学ぶことができる。実際、僕も独学でピアノを練習し、作編曲に役立つレベルまでは弾きこなせるようになっている。
もしピアノを全く弾けないままマウスでDTMをやっているなら、ぜひピアノを始めてみてほしい。便利なだけではなく、音楽が楽しくなること間違い無しだ。
Jacob Collier(ジェイコブ・コリアー)がスゴい。インタビューを要約・考察してみる
はじめに
今、ジャズ界隈を賑わせているJacob Collier(ジェイコブ・コリアー)という若きミュージシャンをご存知だろうか。
2017年のグラミー賞で2部門を受賞。アカペラと楽器の多重録音で音楽を作り上げる「宅録」のスタイルで音楽を生み出している。ジャズをベースにしていながら、その音楽性は非常に革新的なものだ。
未聴の方は、スティーヴィー・ワンダーの「Don't You Worry 'bout a Thing」のカバーを聴いてみてほしい。彼の凄さが分かってもらえるはずだ。
彼は多くの楽器を自在に操り、歌も上手く、高度な音楽理論(ジャズ理論)にも精通しているというスーパーマンだ。海外だけではなく、日本のプロミュージシャンからも高く評価されている。
今回は彼の音楽を解析しているJune Lee氏が、Jacob本人にインタビューをした動画について、僕が気になった箇所の要約を記事にしてみる(日本語の翻訳が無かったので)。意訳が多く含まれることに注意しつつ、元の動画を理解する補助として活用して欲しい。
ピュア・イマジネーション ~ヒット・カヴァーズ・コレクション~
- はじめに
- 1. リディアン・スケールの連結
- 2. ボイシング(和音の積み方)について
- 3. 微分音を用いたボイス・リーディング
- 4. 倍音列に合わせたチューニング
- 5. グルーヴについて
- おわりに&参考になりそうな本
1. リディアン・スケールの連結
インタビュー動画の1つ目の冒頭で語られているのが「Super-Ultra-Hyper-Mega-Meta Lydian」というもの(動画0:02~)。これは、彼がインプロビゼーション(アドリブ)のときに使用している独自のスケールだ(名前は造語だと思われる)。
これは「Cリディアン→Gリディアン→Dリディアン→…」という風に、リディアンスケールを連続してつなぎ合わせたものとなっている。Jacobの発言をまとめてみる。
五度圏(Circle of Fifth)について
- 五度圏が音楽を作っている
- 五度圏の時計回り(C→G→D→A…)は明るくなっていく、逆は暗くなっていく
- 変格終止(アーメン終止・IV→I)は安心できる感じがする。「そのキーを抱くような」感じ
- 完全終止(V→I)はそのキーに到達する感じがする
Super-Ultra-Hyper-Mega-Meta Lydianとは?
- スケールと呼んでいいかは分からない
- スケールを上がっていくときも、ルートのところで「止まる感じ」にならないのが良い
- リディアンが最も心地よく感じる
- 「最も良い明るさ」を持つサウンドだと思う
逆回りのスケールについて
- (逆回りのスケールだと)五度圏の「暗い方」で音階自体が包まれている感じになる
- 「F→Bb→Eb→Ab」(←コード)というケーデンスも同様の印象になる
「Super-Ultra-Hyper-Mega-Meta Lydian」は、五度圏をリディアンで時計回りに進むことで得られたスケールだった。では、この逆のスケールだとどうなるのか?「CDEF、GABbC、DEbFG、…」のように、メジャースケール等の最初の4音を、どんどんつなぎ合わせていくようなスケールになる。
しかし、Jacobはこのスケールについては「これだと五度圏の『暗い方』で音階が包まれる感じになる」と語っている。あくまでリディアン推しのようだ。
2. ボイシング(和音の積み方)について
次はJacobの和音に関する考え方をひも解いて行く(動画3:27~)。
要約
- 「全てのメジャーコードは5度で組み立てられ、全てのマイナーコードは4度で組み立てられる」という独自の理論を持っている
- Cm7(9,11,13)のコードはむしろメジャーコードのように感じる
- むしろ完全四度で積んだコードのほうがマイナーコードっぽい
- 短9度の音程ができる和音も、普通に使う
マイナーコードはマイナーっぽく感じない?
「C Bb D Eb F A D ※Cm7(9,11,13)」というボイシングのコードについては、「マイナーコード以上にメジャーコードのように感じられる」と語っている。「Ebメジャーの平行調みたいだから」という理由だ。
四度堆積和音について
さっきの和音よりも、もっとマイナーっぽいコードとしてJacobが挙げたのが、「C F Bb Eb Ab Db」というボイシングのコード。
四度で堆積されている和音なので、コードネームを付けるのが難しいが、むりやり表すならば、Cm7-9,11,-13といったところか。Ab6(9,11)の転回形という解釈もできるかもしれない。いずれにせよ、ルートであるCとDbが短9度の音程を形成しているため、一般的には不協和音ということになる。
インタビュアーのJuneが「Jacobの短9度の使い方って、他のあらゆるミュージシャンとは違っているよね」とすかさずツッコミ。これを受けてJacobは別のコードを挙げる。
「A E B D G C」というボイシングで、コード表記ではAm7(9,11)となる。コード的には普通のテンション入りのマイナー7thコードなのだが、短9度の音程を含むボイシングになっていることに注目(B‐C間)。これは不協和音だ。
しかし、この響きについてJacobは次のように語っている。
- 特徴的な響きで、ぼーっとしちゃう
- もっと「欲しい」ときにはエモーショナルな選択だよ
短9度という音程は、最も不自然な響きがしてしまう音程だ。そのためドミナント7thのコードでオルタード・テンションとして使うとき以外、基本的には使えない。しかしJacobはそういった既成の理論を超えたところでハーモニーを感じ取っているのかもしれない。
3. 微分音を用いたボイス・リーディング
動画の10:12~では、「赤鼻のトナカイ」という有名なクリスマスソングを挙げて、微分音を使ったフレージングについて解説している。
GからEへと進む際、その音程は半音3つ分。本来G→F#→F→Eと進むのが普通だが、それを4つに分け、「3/4半音」ずつ下降していくかのようなフレーズを歌っている。「5つに分けても良いよ」とまで言っている。
4. 倍音列に合わせたチューニング
ここからは、インタビュー動画のPart 2について触れていく。興味深いのが、チューニングについて語るシーンだ(動画5:35~)。
要約
- 平均律のチューニングは、ジャズの和音を成立させるためには欠かせない。基本的にはありがたい、良いもの
- しかし、「純正律でチューニングしたほうがコードの響きは良くなる」ことに気づいた(倍音列の関係)
- それ以来、「全ての長三度を低くし、短三度を高く」設定するようになった
- C6(9)など、純正律じゃ成立しないコードもある
純正律について
楽器や人の声などを含む、自然界の音には倍音が含まれる。倍音を第1倍音、第2倍音、第3倍音……と順に並べたものを倍音列という。
この倍音列に従ったチューニングが純正律だ。自然な倍音列に即したチューニングなので、より美しい響きがすると言われている。
倍音列に存在する長3度の音は、平均律と比較して約14セントも低い。半音が100セントなので、これは比較的大きなズレだと言えるだろう。
※参考:倍音 - Wikipedia
声を重ねてハーモニーを作ることが多いJacobが、純正律の響きに興味をもつのは必然かもしれない。
Jacob独自のハーモニーの探求
倍音列に従って音程を考えると、短7度(7th)の音は、平均律と比べて31セントも低くなる。
この7thの音をルートとして扱うと、当然コード全体の音が31セント低くなる。そこでJacobは、チューニング基準をA=442Hz→A=432Hzに下げたらしい(動画7:30~)。
同じ曲で異なるチューニングを混在させるのは、スリルがあってとても面白いと語っている。なかなか常人にはたどり着けない発想である。
5. グルーヴについて
動画10:58~では、グルーヴに関する彼の考えを聞くことができる。
要約
- 「全ての半音が等間隔に存在するのが、あまり心地よくない」のと同じように、全ての拍や音符が同じサイズになるのは窮屈だと考えている
- クオンタイズの利便性そのものは、素晴らしいものだと考えている
- Jacobにとってエキサイティングなグルーヴとは、必ずしもストレートなリズムではない
- 2つの拍があった場合、「3:2」や「4:3」のように解釈すると面白い
Jacobのグルーヴへの見解
Jacobはエキサイティングなリズムの例として、サンバや、モロッコの伝統音楽「グワナ」を挙げている。Jacobによると、そういった音楽では3つの音符が「4:2:3」という割合の長さで鳴っているそうだ(動画の12:14~)。そして、これこそまさに彼が自分の部屋で追求していたグルーヴそのものらしい。
グルーヴは、ハーモニー的な要素等とは別のベクトルに、音楽的な推進力を付加してくれると彼は語っている。
2つの拍の割合について
Jacobがカバーした「Close to You」の話題が挙がると、彼は拍の長さについてユニークな考えを話してくれる。
「2つの拍がある場合、前の方を長く取ることで、みんな興奮する」という現象があるそうだ。Jaobもその現象について理論的に解明しようとしていたそうだが、彼の出した結論は次の通り。
- ビートを5つに分けて「3:2」と解釈する
- ビートを7つに分けて「4:3」と解釈する
こういった解釈を行っているそうだ(動画の13:25~)。「いい感じに聴こえるかどうかが根本的には大事」とも語っている。
おわりに&参考になりそうな本
Jacob Collierは、その天性の才能ばかりに目が行ってしまうが、インタビューを聞くと、理論的な側面にも精通していることが分かり、勉強熱心な努力家という一面も見て取れる。これからの活躍も楽しみだ。
最後に、Jacobの音楽性を紐解く上で参考になりそうな本を2冊紹介する。
これだけ「リディアン推し」なJacobのことだから、たぶんこの「リディアン・クロマティック・コンセプト」はみっちり習得しているような気がする。
「Negative Harmony」についての記述がある本。
なお、Negative Harmonyについては、少なくとも動画を見る限りではJacobが強く主張している理念かどうかは分からなかったので参考までに(Jacob自身、Negative Harmonyの理論には非常に詳しいようだが)。
クロノ・トリガー「樹海の神秘」のコード進行を徹底分析 ~テンションノートが織り成す神秘のアルペジオ~
はじめに
今回はクロノ・トリガーの「樹海の神秘」のコード進行を解析していく。前回の記事同様、ゲーム音楽ならではの教会旋法的な音使いがされている。また、ゲームのメインテーマ曲(「クロノ・トリガー」)との共通項ともなるような、隠れたエッセンスの存在についても紹介する。
- コードは耳コピで採譜しています
※Key = Db
イントロ~Aセクション
[Intro]
| GbM7(13) | | Fm7(9) | |
| GbM7(13) | | Fm7(9) | |
[A]
| GbM7(13) | | Fm7(9) | |
| GbM7(13) | | Fm7(9) | |
| GbM7(13) | | Fm7(9) | |
| GbM7(13) | | Fm7(9) | |
美しいアルペジオが印象的だ。IVM7→IIIm7というコード進行はよくあるが、注目すべきは、IIIm7であるFm7のコードに、9thのテンション(G音)が加わっているという点。これは通常のメジャースケールに含まれる音ではない。結果的に主旋律もDbリディアン・スケールとなり、モード的な雰囲気が出ている。
Aセクションでは、主旋律がGbM7(13)の部分では#11th(C音)、Fm7(9)の部分では9th(G音)のテンション音で長く伸ばしているのが特徴的。これにより、実に神秘的な雰囲気の響きが生まれている。
Bセクション
| Ebm7(9) | B7(9,+11) | Bbm7(9) | |
| Ebm7(9) | B7(9,+11) | Cm7(11) | F7 |
2小節目のB7(9,+11)は、その次のコードに対するドミナントコードだ(半音上から解決するパターン)。
Cm7(11)以降は、次のセクションへ向けたツーファイブだ。主旋律のF音がペダルポイント的になっていて、直前のコードからのつながりが自然になっている。
主旋律のほとんどがテンション・ノートになっているのが見事だ。
Cセクション
| Bbm7(9) | Gm7(9) | Ebm7(9) | Fm7(9) |
| Bbm7(9) | Gm7(9) | Ebm7(9) | Fm7(9) |
| Eb/Db DbM7 Cm7 | Fsus4 F |
トニックのマイナーコード(VIm)から始まり、短三度下のマイナー7thコードへ進行していく。実はこの2小節は、前回の記事で紹介した「クロノ・トリガー」という曲のコード進行と同じ。
「クロノ・トリガー」ではAm7 → F#m7という進行が印象的だったが、この曲ではそれをさらに発展させたものとなっている。作品のサウンド感に一貫性を持たせるための、絶妙な隠し味といえるだろう(意識してやっているのか、それとも無意識のうちにやっているのかは不明)。
このセクションでも、やはり主旋律が全て9thのテンション音を経由する形となっていて、とても美しいハーモニー感が演出されている。
このあとイントロに戻る。最後のFは、GbM7に対してのドミナント的な役割を果たしている(GbM7はBbmと構成音が似ている)ため、イントロへと上手くつながるようになっている。
おわりに
SFCという同時発音数に制約があるハードの中で、これだけの美しいハーモニーを生み出すことができているのは、しっかりとした音楽理論に基づいた作曲の賜物といえるだろう。
これを22~23歳という若さで作曲した光田康典氏。彼の溢れんばかりの才能を感じさせる一曲だ。
クロノ・トリガー「クロノ・トリガー」のコード進行を徹底分析 ~モード感あふれるm7の短3度下降~
はじめに
今回は、スクウェア(現スクウェア・エニックス)の名作RPG「クロノ・トリガー」のタイトル曲、「クロノ・トリガー」のコード進行を解析してみる。
ゲーム音楽では、モード(教会旋法)的な音使いや、部分転調の多用など、ポップスではあまり登場しないサウンドも多い。こういった曲のコード進行を分析すれば、ハーモニーの引き出しが増えること間違いなし。
※コードは耳コピで採譜しています
イントロ~Aセクション(Key= G)
[Intro]
| Em/A | | F#m7 | |
| FM7 | | Bm/E | Em7 |
[A]
| Am7 | | F#m7 | |
| Am7 | | F#m7 | |
| FM7 | | Bm7/E | |
| CM7 | FM7 | Bm7/E | |
※便宜上Key = Gとしているが、一定の調性を保ちながら進んでいく曲ではないため、あくまで目安。
まずAセクションを見ていく(※イントロはAセクションの5小節目~とほぼ同じ進行なので省略)。
1~2小節目のコードはAm7。主旋律が7th(G音)や9th(B音)、11th(D音)、13th(F#音)を中心に構成されているため、独特の浮遊感が出ている。
3~4小節目はF#m7。Key= Gと考えた場合、ダイアトニックコードで考えるとF#m7-5となりそうなところ。しかしF#m7という、構成音にC#の音が入るコードとなり、不思議な響きになっている。ポップスでもこういった音使い(※一時的にリディアンやドリアン的な響きになる)は珍しくはないが、この箇所は主旋律にG#の音(9thのテンション)が入ってくる。これが非常に特徴的!そのためKey = Gという前提は崩れ、一定の調性で進んでいくと考えるのは難しくなる。ここだけ部分転調をしていると解釈したり、モード的に捉えるのが良さそうだ。
この「Am7 → F#m7」というコード進行、主旋律によるテンション・ノートの響きと相まって、非常に特徴的。クロノトリガーというゲームを特徴づけるような、印象的なサウンドだ。
5~8小節目は、1~4小節目の繰り返し。
9~10小節目はFM7(VIIbM7)。これはサブドミナントの代理コードや、下属調からの借用和音と解釈できるだろう。ポップスでもよく出てくる音使いだ。
11~12小節目は本来トニックのEmとなるところだが、調性をぼかすためにBm7/Eとしている。このコードはポップスやフュージョンでは頻出だ。
13~16小節目は、普通のIVM7から、先程のVIIbM7と進み、トニックのマイナーコードであるBm7/Eで締める形となっている。
以上がAセクションまでの解説となる。ちなみに、このセクションのコード進行は、「みどりの思い出」や、「遥かなる時の彼方へ」の間奏など、同じゲームの他の曲でも使われている。
Bセクション(Key = D)
| GM7(13) | A6(9) | Bm7(9) | Bm7(9)/A |
| GM7(13) | F#m7 | Bsus4 | B B/A |
| GM7(13) | A6(9) | Bm7(9) | Bm7(9)/A |
| GM7(13) | F#m7 |
Bセクションではkey = Dに転調するので、前のセクションから違和感なくつながっている。ここは「IV → V → VIm」という、ありふれたコード進行といえるだろう。テンション表記に関しては、高音のアルペジオのフレーズをもとに記している。
Aセクションとの対比で、落ち着いて聞かせるような場面となっている。
Cセクション(Key = G)
| CM7 | | D | |
| CM7 | | D | | Bm7/E |
ここから元のキーに戻る。コード進行は普通のIV→Vの繰り返し。最後はトニックのマイナーコードで終わるが、やはり調性をぼかすためにBm7/Eとしている。
おわりに
この曲のキーポイントは、なんといっても冒頭のAm7→F#m7というコード進行に尽きるだろう。テンションノートも上手く駆使しており、クロノトリガーというゲームの持つシリアスな雰囲気が上手く表現されている。
DAW作業に必須!おすすめのモニターコントローラーを7つ紹介【DTM】
※2019年9月15日:記事をアップデート
DAWで音楽を制作しているとき、私たちは何度も、スピーカーから出ている音量を調整する必要がある。
例えば、「マスタリング済みの2mix音源」と「マイクで録音した歌のデータ」では、音の大きさ(ラウドネス)が大きく異なってくる。適切な音量でモニタリングするには、どうやったって、スピーカーからの出力を調整しなければならない。
そのために必要なのが「モニターコントローラー」という機材だ。
- 「音量を調整するだけなら、DAWのマスターフェーダーをいじればいいのでは?」
- 「音楽鑑賞中ならiTunesのボリュームをいじればいいのでは?」
こんな風に思う人もいるかもしれない。しかしこれらの方法にはデメリットがある。
- DAWのマスターフェーダーをいじる:利便性の面でNG。※24bit以上で制作していれば、音質劣化は気にならないかもしれないが。
- iTunesのボリュームをいじる:音質が劣化するのでNG。多くの音源は16bitなので、デジタル的にボリュームを落とすと音質の劣化が目立つ。iTunesのボリュームはMAXの状態で音楽を聴くのが望ましい。
そういったわけで、モニターコントローラーはDAWで音楽を制作するための必需品となる。
モニターコントローラーでできること
手元でのボリューム調整
どのモニターコントローラーでもできることが、この「ボリューム調整」だ。
オーディオインターフェイスとスピーカーの間に、モニターコントローラーを挟む。モニターコントローラーのボリュームをいじることで、スピーカーから流れる音量を調節できる。
複数のスピーカー切り替え
モニターコントローラーの多くは、出力系統を複数持っているので、複数のスピーカーを切り替えながらミックス作業を行うこともできる。
ヘッドホン端子の追加(ヘッドホンアンプの役割)
ヘッドホンアウトを搭載しているモニターコントローラーなら、当然ヘッドホンアンプの役割も果たすことになる。
オーディオインターフェイスの出力をステレオで1系統だけモニターコントローラーに送ってしまえば、ヘッドホン出力についても、モニターコントローラーで一元管理できて便利だ。
DAコンバート(※一部の機種)
デジタル入力を搭載しているモニターコントローラーは、当然DAコンバーターも搭載していることになる。DA部分の品質が売りになるようなモニターコントローラーは少ないが、この部分にも相応のコストがかかっている。デジタル入力を搭載している場合は、チェックしたいポイントだ。
エントリーモデル
ここからはモニターコントローラーを紹介していく。価格帯ごとに、おすすめモデルを列挙していく。
TC Electronic Level Pilot
パッシブのボリュームだけという非常にシンプルな構造をしている。単純に1組のモニタースピーカーの音量調節に使える。他の多機能なモニターコントローラーのように、ヘッドホン端子はついていないので注意。
コネクターはXLR端子となっている。
PreSonus Monitor Station V2
僕も昔、初代Monitor Stationを使用していた。その前に使っていたBEHRINGER MON800から乗り換えたときに、音質が明らかに上がったのを覚えている。
アナログ入力をステレオ3系統(うち1つはRCA)、出力もステレオ3系統持っていて、トークバックマイクも付いている。同価格帯の中では機能が豊富なモデルと言えるだろう。
さらにV2からはS/PDIF入力も搭載され、別途デジタル入力が可能になったのが特徴だ。
後述のCentral Stationもそうだが、PreSonusのモニターコントローラーはとにかく使い勝手が良い。音質劣化も許容範囲。この価格帯の中では、最もオススメできるモデルだ。
Mackie Big Knob Studio
Big Knobといえば、モニターコントローラーの草分け的存在。2000年代後半ころは、中田ヤスタカ氏をはじめ多くのクリエイターが使っていた。
そんな製品がBig Knob Studioとしてリニューアルされた。USBオーディオインターフェース機能が付いていたりと、コストが分散してそうなのが個人的に残念だが、音質は申し分ないクオリティで安心して使うことができる。
「Big Knob」の名の通り、大きなボリュームツマミが健在なのが嬉しい。
ミッドレンジモデル
SPL 2Control
僕のオススメはこれ。ステレオ2系統ずつの入出力にヘッドホン端子2つというシンプルな設計。必要最低限の機能のみを備えており、音質面での評価が非常に高い。
同価格帯の他のモニターコントローラーからこれに乗り換え、「音が良くなった!」と言っている人を多数知っている。音質優先の人や、特に機能的な部分にこだわらない人は、これを選ぶとよい。
入出力端子は全てXLRとなっている。
Conisis M04
国産メーカーのモニターコントローラーだ。信頼できる音響メーカーのため音質への信頼度も高い。惜しむらくはヘッドホン出力がステレオミニジャックなところ。
中田ヤスタカ氏はずっとBig Knobを使用してきたが、2012年頃よりこのモデルを使用しているようだ。
※出典:サウンド&レコーディング・マガジン 2012年4月号
Presonus Central Station + CSR-1
アナログ入力をステレオ3系統(うち1つはRCA)、出力もステレオ3系統、トークバック付きと、同メーカーのMonitor Station V2と基本スペックは似ているが、それをパワーアップさせたラックマウントタイプのモデルとなっている。
別途デジタル入力も1系統搭載している。
特筆すべきはCSR-1というコントローラーが付いている点。本体はラックにマウントさせ、普段のボリューム操作はCSR-1で行う。これによりケーブルがごちゃごちゃせず、スッキリとしたセッティングが可能になる。
音質だけを考えるならConisisやSPLの方が上だろうが、機能性ではこちらに軍配が上がる。Central Stationは、音質と使い勝手のバランスに優れたモデルと言えるだろう。
注意すべき点としては、ヘッドホンのボリューム操作をするときに、CSR-1ではなく、本体側で調整する必要があるということ。海外のフォーラムでもネタになっている。
So every time I need to adjust my headphone volume, I have to get up and go to the rack which is a PITA.
ハイエンドモデル
この価格帯のものは僕も実際に使ったことがなく、未知の領域となっている。これは間違いない!と思えるものを1点だけ紹介する。
GRACE design m905
最高級の品質を誇るGRACE design社のモニターコントローラー。
スピーカー、ADC、DAC、クロック精度などはもちろん、部屋の音響特性も万全の状態でその真価を発揮するだろう。お金に糸目をつけず、とにかく最強のモニターコントローラーが欲しい人はこれで決まり。値段が値段なので、プロ作編曲家やエンジニアの愛用者もしばし見受けられる。
デジタル入力にも対応しており、DAコンバーターもついている。このクラスになってくると、他のモデルとは異なり、単体の高級コンバーターにも引けを取らないクオリティとなってくる。質の高いDAコンバーター目当てで買うのもアリ。
※デジタル入力無しのモデル(m905 Analog)もある。そちらはもう少し安い。
おわりに
モニターコントローラーは基本的に値段が音質に直結する(音痩せの度合いなど)。お使いのスピーカーやオーディオインターフェイスのグレードに合わせて、適切な価格帯のものを選びましょう。
Cubaseでオススメの環境設定方法
※2019年11月6日:記事をアップデート
今回はCubaseの環境設定等の項目で、オススメのセッティングを紹介してみる。
1. 「環境設定」の項目
メニュー>ファイル>「環境設定」と進んで設定する。
ASIO レイテンシー補完をデフォルトで有効
どんなソフトシンセでも、CPU演算という処理が挟まれる以上「レイテンシー」が発生する。
試しに、キーボードでMIDIデータをリアルタイム入力する様子をイメージしてみよう。我々演奏者は、当然、正しいリズムで演奏したいと考える。しかし音源のレイテンシーが多少なりともある場合、正しいリズムで鍵盤を叩いても、演奏者の意図よりも遅れて発音されてしまうのだ。
そこで、我々人間は無意識のうちに、そのレイテンシーを補うように、実際よりも早いタイミングで(=突っ込み気味に)演奏する。そのため、実際よりも早い位置にMIDIノートが記録されてしまうという現象が起こるのだ。
「正しいリズムで演奏しているはずなのに、なぜか突っ込んだ演奏(MIDIデータ)になってしまう」。普段MIDIをリアルタイム録音している人なら、体験したことのある現象かもしれない。
これを解消するのが、この「ASIOレイテンシーを補完」という設定。「レイテンシーが原因の突っ込み演奏」を全て補正してくれるので、常に有効にしておいて問題ない。
設定方法は次のとおり。
- メニュー>ファイル>「環境設定」のウィンドウを開き、録音>MIDI>「ASIOレイテンシー補完をデフォルトで有効」にチェック
ここを有効にしておけば、新しくMIDIトラックやインストゥルメントトラックを立ち上げたときでも、最初から補完が有効になっているはずだ。
※余談だが、この機能は、Cubase5の頃にアップデートによって実装されたと記憶している。僕自身も、MIDIが突っ込んで記録されて不自由な思いをしていたので、この実装には相当助けられたのを覚えている。
プロジェクトの自動保存を有効にする
Cubase含め、DAWソフト全般はいつクラッシュするかわからないので、自動保存を有効にしておこう。
設定方法は次のとおり。
- メニュー>ファイル>「環境設定」と進み、全般>「自動保存」にチェック
自動保存の間隔は、1~10分程度にしておけば良いだろう。
これで「bak」という拡張子のバックアップファイルが、一定時間ごとに生成されるようになる。
このバックアップファイルの拡張子を「cpr」に変更すれば、そのままCubaseのプロジェクトファイルとして読み込むことができる。突然の強制終了に見舞われても、安心して作業を再開することができる。
なお、「自動保存」という名前がついているが、作業中のプロジェクトファイルが自動で上書き保存されるわけではない。別途バックアップファイルが生成されるだけなので、安心だ。
タイムストレッチのアルゴリズムを高音質なものに変更
オーディオのタイムストレッチを使う機会は意外と多い。例としては、次のようなケースが挙げられる。
- リズムループのサンプルを使うとき:素材のBPMと、プロジェクトファイルのBPMをあわせる必要がある
- ギターの全音符のオーディオ素材をもっと伸ばしたいとき:タイムストレッチで引き伸ばす必要がある
Cubaseのデフォルトのタイムストレッチは、「リアルタイム」というアルゴリズムになっている。瞬時にタイムストレッチが可能な反面、音質は良くない。
※歌のトラックを引き伸ばしたりすると、劣化しているのが分かると思う。「Melodyneとかだと引き伸ばしても気にならないのに、おかしいなぁ……」←これはアルゴリズムのせい。
そこで、高音質なアルゴリズムに変更しよう。設定手順は次の通り
- メニュー>ファイル>「環境設定」ウィンドウを開く。
- 編集操作>Audio>「タイムストレッチツールのアルゴリズム」から変更する。
僕は汎用性の高そうな「MPEX – Poly Complex」に設定している。
MPEX – Poly Complex
さまざまな種類の音が入り交じった素材を扱う場合や、大きいサイズにストレッチする場合に使用します。高品質なサウンドを得られますが、プロセッサーへの負荷もかなり大きくなります。
ただ、こだわるひとは素材に応じて変えてみてもいいかもしれない。各々のアルゴリズムについてはマニュアルに記載があるので、参照してみてほしい。
2. 「スタジオ設定」の項目
メニュー>デバイス>「スタジオ設定」と進んで設定可能だ。
Steinberg Audio Power Schemeをオンにする
マシンに負荷をかけて制作する人は、「Steinberg Audio Power Scheme」をオンにしたほうがいい。「Steinberg Audio Power Scheme」とは、ひとことでいうと「省電力解除モード」のことだ。
Steinberg Audio Power Scheme を有効化 (Activate Steinberg Audio Power Scheme)
このオプションをオンにすると、リアルタイム処理に影響を与えるすべての電力セーフモードが無効になります。ただし、レイテンシーが非常に低い場合にのみ効果があり、消費電力が上がることに注意してください。
この項目を有効にする手順は次の通り。
- メニュー>デバイス>「スタジオ設定」のウィンドウを開き、VSTオーディオシステム>「詳細設定」の欄で、「Steinberg Audio Power Scheme」にチェック
この項目を有効にすると、高負荷時の制作において、「real-time peak」メータの振れが明らかに落ち着いてくれる。レイテンシー低め(128sampleくらい)で、CPU使用率がそこそこ高い(50%前後)場合、この傾向は顕著だ。
ただ、これは僕の環境においての話。個別の環境において異なってくる可能性は十分にあるので、必要に応じて使用して欲しい。
ASIO-Guardを有効にする
ASIO-Guardとは、「リアルタイムでの計算が必要ない処理をあらかじめ行っておくことで、マシンへの負荷を軽減する機能」のことだ。
設定方法は次のとおり。
- メニュー>デバイス>「スタジオ設定」のウィンドウを開き、VSTオーディオシステム>「詳細設定」の欄で、「ASIO-Guardを有効化」にチェック
このASIO-Gurdという機能。Cubase 7の時点ではプラグインの対応状況が不十分であったからか、効果がいまひとつだったり、動作が不安定になることがあった。しかし、Cubase8になってからは明らかに安定性が増し、マシンへの負荷も小さくなった。僕自身、Cubase7→8に上げた途端に、挿せるプラグインの数が増えたのを覚えている。
特に問題が出ない限り、ASIO-Guardeは有効にしておいてよい。
システムのタイムスタンプを使用(Windows環境の場合)
Windowsでは、デフォルトの状態だと、キーボードでMIDIデータをリアルタイム入力する際にタイミングがズレてしまうことがある。
そんなときは、同様に「スタジオ設定」のウィンドウ内で、
- MIDIポートの設定>「"Windows MIDI"入力にシステムのタイムスタンプを使用」にチェックを入れる
これで、正しいタイミングでMIDIデータが記録されるようになることがある。
僕自身、このオプションにはずっとチェックを入れた状態でCubaseを使用してきている。Cubase5のころは、この項目にチェックしないと、MIDIデータのズレが生じて大変だった。
最新のCubaseではもしかすると改善されているかもしれないが、不具合が生じている人は、一度確認してみるとよいだろう。
参考:【Cubase共通】外部MIDI入力鍵盤からMIDI入力を行うとタイミングがずれます。(Windowsのみ)
3. ミキサーの設定
マスターフェーダーを右端に常時表示
マスターフェーダーは常にミキサーの右端に表示させておいた方がいい。理由は、
- 楽曲全体の音量レベルが、0dBを超えないように(クリップしないように)常に監視したほうがいいから
曲作りのとき、トラックをたくさん重ねていくと、マスターチャンネルのメーターが赤く点灯してしまうことがある。これは、楽曲全体の音量レベルが0dBを超えているサインだ。この状態で曲を書き出すと、音割れや歪みに繋がってしまうので良くない。
マスターフェーダーを常にミキサーの右端に表示させておく手順は次の通り。
- ミキサー画面左上の、「ウィンドウレイアウトの設定」ボタンをクリックし、 「チャンネルセレクター」にチェックを入れる。
- 左端に2つのタブが表示されるので、「ゾーン」タブを表示し、マスターの出力チャンネル(Stereo Out)の、右側の◯を点灯させる。
これで、「Stereo Out」が常に右端に表示されるようになる。
4. オートメーションパネルの設定
オートメーションを"間引く"度合いを調整する
ボーカルのボリュームをオートメーションで調整する際、細くボリュームを描いたのに、間引かれて表示されてしまうことはないだろうか。この「間引かれる度合い」については、設定をいじることで調整が可能だ。
手順は次の通り。
- 下記画像で示したボタンをクリックし、オートメーションパネルを開く。
- オートメーションパネルの左下の「歯車マーク」をクリックして設定画面を開く。
- 「リダクションレベル」を調整する。※値が小さいほど、間引かれる度合いは小さくなる。
この「リダクションレベル」を10~20%程度に設定すれば、ボーカルを1音ごとにボリューム調整するような、緻密なオートメーションが可能になるだろう。
デフォルトだともっと大きい値になっているので、細かいオートメーションを描きたい人は要チェックだ。
【Tips】Cubaseの実践的な使い方を18個紹介
※2019年7月14日 追記:Tipsを3つ追加
Cubaseの操作において、知っておくと役に立つTipsをまとめてみる。実践的なものだけを集めている。
なお、基本的な操作については割愛する。基本的な操作については、初級~中級ショートカットキーの記事を参照してほしい。
- 1. 複数のボーカルテイクから1本のOKテイクを作成する
- 2. トラックアーカイブでソフトシンセを高速セッティング
- 3. 複数のMIDIノートをまとめてベロシティ変更
- 4. サイドチェインの設定
- 5. インサートエフェクトを"オフ"にする
- 6. オーディオ切り貼り時に不快なノイズを出さないようにする
- 7. 別名で保存/新しいバージョンで保存
- 8. 感度指定クオンタイズ
- 9. ミキサー画面で複数トラックを一括操作する
- 10. 未使用のオーディオファイルを削除する
- 11. Alt/Option + ドラッグでコピー
- 12. Ctrl/Command + ドラッグで垂直/水平移動
- 13. トラックディレイでシンセパッドの発音を早める
- 14. トラックを無効にする
- 15. テンポが変動する曲を貼り付けて、テンポを設定する
- 16. クリックをオーディオ化する
- 17. オートメーションのレーンに波形を表示する
- 18. ロケーター間の尺(時間)を数える
- おわりに
1. 複数のボーカルテイクから1本のOKテイクを作成する
一般的にボーカルを録音する際は、何テイクか録音した後で、1本のOKテイクを作成することが多い。そのため、複数のテイクからよく歌えている部分を選び、つなぎ合わせるという作業が必要になってくる。
その際の具体的な手順について解説していく。
Cubaseでは1つのオーディオトラックに複数回録音をした場合、オーディオトラックのレーンを表示させると、全てのテイクが表示される。画像は3つのボーカルテイクからOKテイクを作る作業のシーンだ。まったく同じ歌唱をした3つのテイクの中から、上手く歌えている部分をチョイスしている。
OKテイクを作成する手順は次のとおり。
- はさみツールでオーディオクリップを切る。レーンではなく、一番上の部分(画像の白くハイライトされている行)を切ることで、全てのテイクを同時に切ることができる。
- コンプツール(指のマーク)でテイクを選択する。選択されている部分は、色が明るくなる。
- 1と2を繰り返し、OKテイクを作成する。
- オーディオクリップをすべて選択し、クロスフェードをかける。
- メニューバーから「Audio>高度な処理>重複するイベントを削除」で、使われていない部分が消える(プールには残っている)。
- メニューバーから「Audio>選択イベントから独立ファイルを作成」で、OKテイクを1つの独立したwavデータにできる。
手順5と6は省略してしまっても問題ない。後からテイクを選び直したくなる可能性がある場合は、重複部分を消す必要もないだろう。なお、当記事の「項目6」で後述するが、オーディオクリップをはさみツールで切る際は「ゼロクロスポイントにスナップ」を有効にすることを忘れずに。
ボーカルをつなぎ合わせる際のコツについても書いておく。
- はさみを入れるのは、フレーズの切れ目にする
- 「S」の子音がある部分は、ハサミを入れる狙い目
1点目について:ロングトーンで伸ばしている部分でつなぎ合わせるのは難しく、つなぎ合わせても不自然になってしまうので、フレーズの切れ目でカットするようにしよう。
2点目について:「S」の子音がある部分(日本語なら「さ」行の音)は、フレーズの途中でもつなぎ合わせることができる。Sの音はノイズの音と帯域成分が近いため、途中で切れても音が不自然にならないのだ。
2. トラックアーカイブでソフトシンセを高速セッティング
トラックアーカイブは、Cubaseのトラック(インストゥルメントトラック、オーディオトラック等)の情報を、xmlファイルに記録したものだ。
この機能の用途は、主に次の2つだろう。
- トラックを他のプロジェクトファイルに移す
- トラック起動時のテンプレート的に使う
僕は主に、テンプレート的な使い方をしている。このトラックアーカイブという機能は、インストゥルメントトラックと併用すると便利だ。インストゥルメントトラックをトラックアーカイブとして保存した場合、次のような情報がxmlファイルに保存されることになる。
- インストゥルメントトラックに立ち上げたソフトシンセと、そのセッティング
- インサートエフェクトスロットに立ち上げたプラグインと、そのセッティング
- センドエフェクトの情報と、そこへの送り量
こういった情報が一式保存される。インサートエフェクト込みでソフトシンセを立ち上げたい場合や、複数のインストゥルメントトラックをまとめて立ち上げたいときに便利だ。
例えば、Vienna Instrumentsというオーケストラ音源はマルチティンバーに対応していないので、楽器ごとにインストゥルメントトラックを立ち上げる必要がある。しかしこのトラックアーカイブ機能を使えば、1stバイオリン、2ndバイオリン、ビオラ、チェロという4つのインストゥルメントトラックを、パンニングを済ませ、「Strings」というグループチャンネルトラックに送った状態で、まとめてトラックアーカイブとして保存しておくようなことができる。
※さらにグループチャンネルからセンドエフェクトのリバーブに送っておけば、その情報も保存されます。
ストリングスセクションを入れたくなった場合、トラックアーカイブを読み込むだけでトラック一式が立ち上がってくれる。いちいちインストゥルメントトラックを一つずつ立ち上げなくて済むので、効率が良い。
僕は使用していないが、インストゥルメントトラックならMIDIファイルも併せて保存することができる。必ず使いたいフレーズ(駆け上がりなど)があるような人には良いかもしれない。
他にも、ベース音源をアンプシミュレーター込みで立ち上げたい場合などに役立つだろう。グループチャンネルトラックを駆使すれば、DIとアンプの音を半々で混ぜたテンプレートの作成なども容易だ。
トラックアーカイブの読み込み/書き出しの操作は、次のとおり。
- トラックファイルの読み込み: ファイル>読み込み>トラックファイル
- トラックファイルの書き出し: (保存したいトラックを選択した状態で)ファイル>書き出し>選択されたトラック
ちなみに、似たような機能として「トラックプリセット」がある。単体のインストゥルメントトラックを呼び出すときは、トラックプリセットを使うと便利だ。
3. 複数のMIDIノートをまとめてベロシティ変更
- Ctrl/Command + Shift + ドラッグ:選択ノートのベロシティ変更
キーエディターを開き、MIDIノートを選択。Ctrl(MacならCommand)とShiftを押しながら、ノート上でドラッグする。これでベロシティを調整できる。ピアノトラックなど、同時に複数のノートが鳴っている場合に便利だ。
なお、「Ctrl/Command + Shift」というコマンドはデフォルトのもの。「環境設定>編集操作>制御ツール」から、エディットすることも可能だ。
4. サイドチェインの設定
EDMなどのダンスミュージックでは、キックの鳴る位置でベースにコンプがかかるような、いわゆる「サイドチェインコンプ」がよく登場する。
これを行うための方法は次の通り。
- インサートエフェクトスロットにエフェクト(コンプ等)を立ち上げる。
- エフェクトのプラグイン画面から、「Side-Chainを有効化」ボタンを点灯させる(画像)。
- サイドチェインのソースとなるシグナルを決め(キックなど)、そのチャンネルからセンドで、サイドチェイン設定をしたエフェクトに送る。
これでサイドチェイン信号がエフェクトに送られる。あとはスレッショルドやレシオを調整すれば、サイドチェインコンプの設定が完了する。
5. インサートエフェクトを"オフ"にする
インサートエフェクトは、ミキサー画面でスロット左部のスイッチをクリックすることでバイパスできる。このことは誰でも知っているはず。しかし、これは単に信号を通していないだけで、処理自体はバックグラウンドで行われているのだ。
遅延の大きいプラグインエフェクトを使っている場合、キーボードでソフトシンセを演奏する際に、レイテンシーが発生して演奏しづらくなってしまう。
※Waves L2などの先読み演算系リミッター、LinMBなどのリニアフェイズ系エフェクトを挿すとわかりやすい。
そこで、完全に電源を切ってしまうという方法が存在する。
- Alt/Option +クリック: インサートエフェクトをオフ
これでプラグインの処理自体を完全にオフにしてしまうことができる。遅延のあるプラグインを使っている場合、レイテンシーは無くなる。もちろん、プラグインの設定内容はCubaseのプロジェクトファイルに保存されているので、再び同様の操作でエフェクトをオンにすれば、プラグインを再度有効にできる。
なお、画像の表示からも推察されると思うが、プラグインのウィンドウからもオフ状態にすることができる。その際は、電球のマークをクリクすればOKだ。
ピッチ補正ソフトなどの重いプラグインを使う際、活用できるテクニックだ。
6. オーディオ切り貼り時に不快なノイズを出さないようにする
オーディオクリップを切るとき、波形が振れている部分でカットしてしまうと、再生時に「プチッ」という不快なノイズが発生してしまうことがある。これを防ぐためには、波形の振幅がゼロの箇所でカットしなければならない。
「ゼロクロスポイントにスナップ」というオプションを有効にしておけば、自動的に振幅がゼロの箇所(=ゼロクロスポイント)にカーソルをスナップさせることができる。特別な意図がない限り、常に有効にしておいてよい。
7. 別名で保存/新しいバージョンで保存
DAWで楽曲制作を進める時、プロジェクトファイルを常に上書き保存していくのはオススメできない。理由は、次のようなことがしばし発生するからだ。
- プラグインが増えていくに連れて、相性問題などでプロジェクトファイルが開けなくなることがある
- 前のフレーズに戻したくなることがある
- プロジェクトファイルが破損してしまう(最近のDAWでは少ないが)
そのため、定期的に新規に別のファイルとして保存していくのが望ましい。その方法だが、まずWordやExcel等の一般的なパソコンソフトと同じように「別名で保存」ができる。
もう1つ、「新しいバージョンで保存」という方法もあり、これはファイルの末尾に「-01」のような通し番号を加えて保存するものだ。用途に応じて使い分けていくとよい。
ショートカットキーは次のとおり。
- 別名で保存: Ctrl/Command + Shift + S
- 別バージョンで保存:Ctrl/Command + Alt/Option + S
8. 感度指定クオンタイズ
リアルタイム入力で録音したMIDIデータをクオンタイズする際、普通にクオンタイズすると、正確すぎて機械的に聞こえてしまうことがある。
これを解消するのが「感度指定クオンタイズ」だ。キーエディタ内のクオンタイズのボタン(Qという部分)を押すと、「iQ」という表示に変わる。この状態でクオンタイズを適用すると、"少しだけ"クオンタイズが行われる。これが感度指定クオンタイズ(Iterative Quantize)だ。
感度指定クオンタイズを繰り返すと、どんどん正確な位置にクオンタイズされていく。繰り返す回数を調整することで、リズムのズレを感じない程度に正確な演奏に仕上げることが可能だ。
9. ミキサー画面で複数トラックを一括操作する
複数のトラックを選択した状態で、ShiftとAlt(MacならOption)を同時に押しながらフェーダーを操作すると、まとめて音量を変更することができる。フェーダー操作に限らず、定位の調整や、インサートエフェクトの追加なども一括で行うことが可能。
なおこの操作を行うと、ミキサー画面の「Q-Link」というボタンが点灯しているのがわかるはず。ShiftとAltの同時押しの代わりに、マウスでこのボタンを点灯させてもOKだ。
10. 未使用のオーディオファイルを削除する
レコーディングの際、何テイクも録音していると、未使用のオーディオファイルがどんどん増えていく。HDD容量の無駄になってしまうので、プロジェクトファイルで使用しているオーディオデータのみを残して、それ以外は消してしまおう。
手順は次のとおり。
- 「プール」を開く(「Ctrl/Command + P」または「メディア>プールを開く」)
- ウィンドウ内を右クリック → 使用していないメディアを削除 → ごみ箱へ移動
- 同様に右クリック → ごみ箱を空にする → (ハードディスクから)削除
これでAudioフォルダの肥大化を防げる。なお、この操作は取り消すことができない。削除対象のデータが他のプロジェクトファイルでも使われていないか、事前に確認するのを忘れずに。
事故を防ぐため、プロジェクトフォルダ(←Audioフォルダが含まれる)は、普段からプロジェクトファイルごとに作成する習慣をつけておくのがよいだろう。
11. Alt/Option + ドラッグでコピー
Cubaseで曲を作りを進める際、オーディオイベントやMIDIパートを複製したくなることは多い。その際、通常のコピー&ペーストを行うのも一つの方法だが、もっと楽な方法も存在する。それが、Alt (Option) を押しながらドラッグするという方法だ。スナップをONにしておけば、任意の位置に簡単にコピーすることが可能。
また、このAlt + ドラッグという技は、ミキサー上のインサートエフェクトをコピーするのにも使える。すでに使われているプラグインを別のトラックにもインサートしたいときは、このコピー技を使うとよい。より素早く起動することが可能だ。
なお、項目3同様、AltやCtrlというコマンドはデフォルトのものなので、「環境設定>編集操作>制御ツール」から、エディットすることも可能だ。
12. Ctrl/Command + ドラッグで垂直/水平移動
前項とセットで覚えておきたいのがコレ。オーディオイベントやMIDIパートを、Ctrlを押しながらドラッグすると、垂直/水平方向へ移動を制限することができる。まっすぐ動かしたいときに使うとよい。
また、キーエディタ内ならばMIDIノートの移動を垂直方のみに制限できる。
ちなみに、この垂直/水平移動は先ほどの「Altを押しながらコピー」する技と同時使用も可能だ。
この技も前項目同様、制御ツールからキー割り当てをエディットできる。
13. トラックディレイでシンセパッドの発音を早める
シンセパッドやストリングスなどの音色は、音の立ち上がりが遅い。そのため、正しいリズムでMIDIノートを打ち込んでも、モタって聴こえてしまうことが多い。それを解消するのがこの技。Cubaseのトラックについている「ディレイ」機能を使い、発音を早めてやろう。
トラックを選択したときに、左側に「インスペクター」が表示される。そこの「時計」マークの数値をいじることで、トラックのディレイ(遅れ)を設定できる。発音を早めたい場合は、マイナスの値を設定すればよい。-10~-40あたりにしておけば、曲のビートと上手く合うだろう。
14. トラックを無効にする
アンプシミュレーターやピッチ補正ソフトは、コンピュータへの負荷が高く、メモリも多く消費する。そういったプラグインをインサートしたオーディオトラックは、存在するだけでマシンパワーを消費してしまう。
楽曲制作の終盤では、「使わないけど、一応残しておきたい」トラックも出てくると思う。その際、この「トラックを無効にする」を行えば、プロジェクトファイルにトラックの情報を保存したまま、トラックを消すことができる。メモリやCPUの消費がなくなるので、プロジェクトファイルの起動も速くなるはずだ。
ちなみにCubase 9以降では、インストゥルメントトラックでもこの機能が使えるようになった。ソフトシンセのオーディオ化と合わせて使えば、一層メモリ節約が捗ることだろう。
15. テンポが変動する曲を貼り付けて、テンポを設定する
テンポが変動する曲のテンポマップを作成する方法だ。オーディオから自動で検出する方法もあるが、精度の正確さを優先し、手打ちでクリック音を入力するのがよい。
その手順は次のとおりだ。
1. 下準備
- オーディオファイルをプロジェクトにインポートする。
- 曲がスタートする位置(1拍目)を任意の小節頭に合わせる。
2. クリック音の録音
- カウベル等の音が出るソフトシンセ(サンプラー)をインストゥルメントトラックに立ち上げる。
- インストゥルメントトラックの「ミュージカル/リニア」切り替えボタン(※画像参照)から、「リニア」(時計マーク)に設定。
- 曲を再生しながら、拍頭に合わせて、キーボードでMIDIデータをリアルタイム録音していく。
- 録音が終わったら、MIDIデータのズレを直す。1つめのクリック音は小節頭に揃うようにする。
3. テンポの反映
- 録音したクリック音のMIDIイベントを選択する。
- メニューバーより、MIDI>機能>タップテンポ情報とマージ と進む。タッピングを「1/4」に設定し「OK」。
- テンポトラックを立ち上げて有効にすると、テンポ情報が反映されている。
16. クリックをオーディオ化する
「メニュー>プロジェクト>拍子トラック>ロケーター間のオーディオクリックをレンダリング」で、画像のようにクリック音がオーディオ化される。
ボーカルや楽器の宅録を依頼するときなど、活用するとよい。
17. オートメーションのレーンに波形を表示する
- オートメーションパネルを開く(F6キーでショートカット)
- 左下の歯車マークをクリックし設定画面を開く
- 「トラックのデータを表示」にチェック
これで、オートメーションのラインの部分に波形が表示される。歌のオートメーションを書くときなどに便利だ。
18. ロケーター間の尺(時間)を数える
BGMや劇伴、アニソン等の作曲家は、「秒数が指定された音楽」を用意しなければならないことがある(例:「アニメの主題歌を想定し、ワンコーラスで89秒のデモを納品」)。
しかし、Cubaseのトランスポートパネル上には、特にロケーター範囲の秒数は表示されていない。開始位置と終了位置の時間をメモして、わざわざ引き算している人も多いのではないだろうか。
そこで、以下の方法を活用すると良い。
- 範囲選択ツールを選ぶ。
- 「メニュー>編集>選択>左右ロケーター間」と操作し、ロケーター間を選択状態にする。
- トランスポートパネルを開く(F2キーでショートカット)。タイムフォーマット(時計マーク)を、「秒」に設定する。
- 情報ライン上に表示される「範囲の長さ」を読む。
これで、ロケーター感の時間(秒数)を正確に割り出すことができる。納品前のチェックに使うと便利だろう。
おわりに
Cubaseにおける実践的なTipsを紹介した。何か気づいたことがあれば、今後も追記していく。