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作曲家・アレンジャーがピアノを弾けるようになるメリット

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ピアノの練習をしよう。作曲やアレンジなどの音楽制作を行う人が、ピアノを弾けることのメリットは多い。

プロでもアマチュアでも、ポップスを作る人であっても、ロックバンドで作曲を担当している人であっても、誰しもピアノを習得するだけで、曲作りは断然やりやすくなる。ピアノを全く弾けない状態の人が初心者レベルになるだけでも、曲作りにおいては大いに役に立つ。

今回は音楽制作において、ピアノを弾けることのメリットを挙げていく。

 ハーモニーやアンサンブルを考える上で圧倒的に有利

音楽の三大要素は、リズム、メロディ、ハーモニーだ。音楽を新しく作るときは、必然的にこれらの要素も考えることになる。リズムやメロディを表現できる楽器は多いが、ハーモニーを考えるためには、和音を演奏できる楽器を使う必要がある。

それに適しているのが鍵盤楽器。中でも最適なのはピアノだ。

ギターでも和音は鳴らせるが、同時に最大で6音までしか鳴らすことができない。ボイシングにも制約があるし、複雑なテンションコードやアッパーストラクチャー的なコードを表現するのは難しい。またギターは、メロディと和音を同時に演奏するのが難しく、その自由度も鍵盤楽器に比べてはるかに低い(クラシックギター奏者を想像すると分かりやすい)。

ギタリストならばギターで作曲したくなる気持ちもわかるが、優れた作曲家になりたいのであれば、ピアノで作曲できるようになることをオススメする。指で押さえるだけで音が鳴り、ダンパーペダルで音を伸ばせるというピアノの特性は、ハーモニーを考える上では圧倒的に有利なのだ。

DAWを使わずとも、大まかなハーモニーを確認することができる。これは作業効率上、大きなメリットになる。

複雑なボイスリーディングを含むような和声だと、ピアノでも再現しきれないこともあるだろう。しかし、オーケストラのスコアリーディング(曲全体を確認する作業)でもピアノを使うことから、音楽を"確認"する上で、ピアノより優れた楽器は無いと言っても過言ではない。

ピアノを弾ければ、ちょっとハーモニーを確認したいときでも、軽く鍵盤を叩いてみるだけで済む。ボイシングやリズム、ダイナミクスを少し変えたりして試行錯誤することもたやすい。その都度MIDIを打ち込みシーケンサーを走らせて聴くのと比べて、はるかにシンプルで効率が良い。

MIDI打ち込みの作業効率が格段に上がる

普段マウスでMIDIノートを入力している人は、ピアノを練習し、リアルタイム入力をマスターすることをオススメする。そうすれば打ち込みの効率は飛躍的に高くなる。

MIDIキーボードでリアルタイム入力をする場合、30秒のセクションならば、30秒あればMIDI入力が完了する(細かなCC情報は除く)。多少リズムがズレていても、簡単にクオンタイズもできる。特にピアノやエレピ、オルガン等の鍵盤楽器の打ち込みにおいては、リアルタイム入力は断然有利だ。

もちろん、その他の方法で素早くMIDI入力をすることも可能かもしれない。しかし、リアルタイム入力ならば、必然的に曲のリズムやハーモニー、メロディーを感じながらMIDIを入力することになる。作業をするたびに、体に音楽を叩き込むことができる。これは音楽制作というクリエイティブな作業をする上で、大きな優位点であるのは間違いない。

また、ピアノやエレピのようなパートを打ち込むとき、マウス入力だと、人間が演奏したような演奏データに調整するのは難しいものだ。(ベロシティや音価、リズムのばらつき等の要素が機械的になりやすい)。生っぽいニュアンスを出すのであれば、自分で鍵盤を演奏してMIDIデータを入力するのが一番良い。たとえ演奏データが上手でなくても、それを修正するほうが効率が良い。

ピアノパートに限ったことではないが、鍵盤の演奏能力が高ければ高いほど、MIDI入力の作業効率も高くなる。音楽制作者なら、ピアノが上手いに越したことはないのだ。

耳コピが得意になる

曲作りをするためには、日常的に既存の曲を分析したり演奏して自身の血肉とし、音楽的な感性を高めていくことも大事になってくる。曲のコード進行を分析するメリットについては、このブログでも以前記事を書いている。

ピアノが弾けるようになれば、コード進行分析に必要な「耳コピ」の作業も一気にやりやすくなる。曲に合わせてコードを弾けば、そのコードが合っているか外れているか、瞬時に分かるからだ。

厳密にコードネームを確定するには、コードの構成音を一音ずつ聴き取っていくようなハイレベルな聴き方も必要。しかしそういった作業をする上でも、ピアノを弾けるかどうかで効率は変わってくる。

他の楽器を使って耳コピをすることもできるが、前述の通り、ハーモニーを確認する手段としては、ギターはピアノには及ばない。ギターだと必ず両手がふさがるのもイマイチなところだ。

おいしいメロディを戦略的に生み出しやすい

音楽理論の教本は数多くあるが、良いメロディを生み出す方法については特別語られていない。とはいえ、作曲を理論的な観点から行うときに重要なのが、「コードに対して、メロディがどのテンションノート(9th等)になっているか」ということ

たとえば、「ルート音とメロディの音が同じ音の場合、ハーモニーに広がりが生まれない」というのは和声を学んだ人なら知っていることだし、作曲が得意な人なら感覚的に理解していることだろう。

もしギターの弾き語りで作曲をしている場合、「コードのルート音とメロディの音程」を瞬時に把握するのは難しいはず(普段から訓練している人は別だが)。しかし、ピアノで作曲をしている人にとっては、こういった情報は常に鍵盤上に表示されているに等しい。これは良いメロディを考えるための大きなアドバンテージとなる。

もちろん、作曲においては自分の感性・感覚が一番大事だ。それでも、上手く行かないときや調子が悪いときに、論理的に考えを突き詰めることで、スランプを抜け出せることも多い。

アンサンブルの構造を視覚的に把握することができる

アレンジ(編曲)における大事なポイントとして、

  • パートごとに音域を分けて、低域から高域までまんべんなく音を配置する

という考え方がある。何も考えずに音を重ねていくと、ある特定の音域に音が集中してしまい、全体のサウンドが団子状態になってしまうことも多い。

これを避けるには、全楽器の演奏音域について、ピアノの鍵盤と照らし合わせる癖をつけると良い。

  • 歌メロはC4~C5の間
  • ベースはE1~E2あたり
  • ディストーションギターはE2~A3あたり
  • オルガンはA3~E5

例えばこのように、あらゆるパートを鍵盤に置き換え、どのあたりの音域で音が鳴っているかを常に意識しよう。楽器をたくさん重ねていく場合でも、音の配置に無駄がなくなっていくはずだ。音域を意識した音の積み方ができれば、編曲のクオリティも上がっていくだろう。

譜面に強くなる

自分以外のボーカリストや演奏者の力を借りて音楽を完成させる場合、譜面を元にコミュニケーションを取ることも多い。特に管楽器や弦楽器を録音する場合は、玉譜(コード譜ではないオタマジャクシの譜面)が必ず必要になる。

ピアノを習得する過程で、必然的に読譜力も高くなっていく。五線譜をすらすら読めるようになれば、レコーディングのときも慌てなくて済む。

KORG 電子ピアノ LP-180-BK

おわりに

楽器はとても奥が深い。ピアノという楽器を本当の意味で弾きこなすには膨大な時間と経験値が必要だ。プロのピアニストになろうと一念発起したところで、大人になってからそれを実現するのは難しいかもしれない。

しかし、作曲や編曲に役に立つレベルで、ピアノを「ちょっと弾ける」ようにするのは、意外と難しいことではない。ポップス系のプレイヤーには独学でピアノを習得した人も多い。

ピアノを独学で練習するための方法も、現代はインターネットで学ぶことができる。実際、僕も独学でピアノを練習し、作編曲に役立つレベルまでは弾きこなせるようになっている。

もしピアノを全く弾けないままマウスでDTMをやっているなら、ぜひピアノを始めてみてほしい。便利なだけではなく、音楽が楽しくなること間違い無しだ。

Jacob Collier(ジェイコブ・コリアー)がスゴい。インタビューを要約・考察してみる

はじめに

今、ジャズ界隈を賑わせているJacob Collier(ジェイコブ・コリアー)という若きミュージシャンをご存知だろうか。

2017年のグラミー賞で2部門を受賞。アカペラと楽器の多重録音で音楽を作り上げる「宅録」のスタイルで音楽を生み出している。ジャズをベースにしていながら、その音楽性は非常に革新的なものだ。

未聴の方は、スティーヴィー・ワンダーの「Don't You Worry 'bout a Thing」のカバーを聴いてみてほしい。彼の凄さが分かってもらえるはずだ。

彼は多くの楽器を自在に操り、歌も上手く、高度な音楽理論(ジャズ理論)にも精通しているというスーパーマンだ。海外だけではなく、日本のプロミュージシャンからも高く評価されている。

今回は彼の音楽を解析しているJune Lee氏が、Jacob本人にインタビューをした動画について、僕が気になった箇所の要約を記事にしてみる(日本語の翻訳が無かったので)。意訳が多く含まれることに注意しつつ、元の動画を理解する補助として活用して欲しい。

ピュア・イマジネーション ~ヒット・カヴァーズ・コレクション~

1. リディアン・スケールの連結

インタビュー動画の1つ目の冒頭で語られているのが「Super-Ultra-Hyper-Mega-Meta Lydian」というもの(動画0:02~)。これは、彼がインプロビゼーション(アドリブ)のときに使用している独自のスケールだ(名前は造語だと思われる)。

これは「Cリディアン→Gリディアン→Dリディアン→…」という風に、リディアンスケールを連続してつなぎ合わせたものとなっている。Jacobの発言をまとめてみる。

五度圏(Circle of Fifth)について

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  • 五度圏が音楽を作っている
  • 五度圏の時計回り(C→G→D→A…)は明るくなっていく、逆は暗くなっていく
  • 変格終止(アーメン終止・IV→I)は安心できる感じがする。「そのキーを抱くような」感じ
  • 完全終止(V→I)はそのキーに到達する感じがする

Super-Ultra-Hyper-Mega-Meta Lydianとは?

  • スケールと呼んでいいかは分からない
  • スケールを上がっていくときも、ルートのところで「止まる感じ」にならないのが良い
  • リディアンが最も心地よく感じる
  • 「最も良い明るさ」を持つサウンドだと思う

逆回りのスケールについて

  • (逆回りのスケールだと)五度圏の「暗い方」で音階自体が包まれている感じになる
  • 「F→Bb→Eb→Ab」(←コード)というケーデンスも同様の印象になる

「Super-Ultra-Hyper-Mega-Meta Lydian」は、五度圏をリディアンで時計回りに進むことで得られたスケールだった。では、この逆のスケールだとどうなるのか?「CDEF、GABbC、DEbFG、…」のように、メジャースケール等の最初の4音を、どんどんつなぎ合わせていくようなスケールになる。

しかし、Jacobはこのスケールについては「これだと五度圏の『暗い方』で音階が包まれる感じになる」と語っている。あくまでリディアン推しのようだ。

2. ボイシング(和音の積み方)について

次はJacobの和音に関する考え方をひも解いて行く(動画3:27~)。

要約

  • 「全てのメジャーコードは5度で組み立てられ、全てのマイナーコードは4度で組み立てられる」という独自の理論を持っている
  • Cm7(9,11,13)のコードはむしろメジャーコードのように感じる
  • むしろ完全四度で積んだコードのほうがマイナーコードっぽい
  • 短9度の音程ができる和音も、普通に使う

マイナーコードはマイナーっぽく感じない?

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「C Bb D Eb F A D ※Cm7(9,11,13)」というボイシングのコードについては、「マイナーコード以上にメジャーコードのように感じられる」と語っている。「Ebメジャーの平行調みたいだから」という理由だ。

四度堆積和音について

さっきの和音よりも、もっとマイナーっぽいコードとしてJacobが挙げたのが、「C F Bb Eb Ab Db」というボイシングのコード。

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四度で堆積されている和音なので、コードネームを付けるのが難しいが、むりやり表すならば、Cm7-9,11,-13といったところか。Ab6(9,11)の転回形という解釈もできるかもしれない。いずれにせよ、ルートであるCとDbが短9度の音程を形成しているため、一般的には不協和音ということになる。

インタビュアーのJuneが「Jacobの短9度の使い方って、他のあらゆるミュージシャンとは違っているよね」とすかさずツッコミ。これを受けてJacobは別のコードを挙げる。

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「A E B D G C」というボイシングで、コード表記ではAm7(9,11)となる。コード的には普通のテンション入りのマイナー7thコードなのだが、短9度の音程を含むボイシングになっていることに注目(B‐C間)。これは不協和音だ。

しかし、この響きについてJacobは次のように語っている。

  • 特徴的な響きで、ぼーっとしちゃう
  • もっと「欲しい」ときにはエモーショナルな選択だよ

短9度という音程は、最も不自然な響きがしてしまう音程だ。そのためドミナント7thのコードでオルタード・テンションとして使うとき以外、基本的には使えない。しかしJacobはそういった既成の理論を超えたところでハーモニーを感じ取っているのかもしれない。

3. 微分音を用いたボイス・リーディング

動画の10:12~では、「赤鼻のトナカイ」という有名なクリスマスソングを挙げて、微分音を使ったフレージングについて解説している。

GからEへと進む際、その音程は半音3つ分。本来G→F#→F→Eと進むのが普通だが、それを4つに分け、「3/4半音」ずつ下降していくかのようなフレーズを歌っている。「5つに分けても良いよ」とまで言っている。

IN MY ROOM

4. 倍音列に合わせたチューニング

ここからは、インタビュー動画のPart 2について触れていく。興味深いのが、チューニングについて語るシーンだ(動画5:35~)。

要約

  • 平均律のチューニングは、ジャズの和音を成立させるためには欠かせない。基本的にはありがたい、良いもの
  • しかし、「純正律でチューニングしたほうがコードの響きは良くなる」ことに気づいた(倍音列の関係)
  • それ以来、「全ての長三度を低くし、短三度を高く」設定するようになった
  • C6(9)など、純正律じゃ成立しないコードもある

純正律について

楽器や人の声などを含む、自然界の音には倍音が含まれる。倍音を第1倍音、第2倍音、第3倍音……と順に並べたものを倍音列という。

この倍音列に従ったチューニングが純正律だ。自然な倍音列に即したチューニングなので、より美しい響きがすると言われている。

倍音列に存在する長3度の音は、平均律と比較して約14セントも低い。半音が100セントなので、これは比較的大きなズレだと言えるだろう。

※参考:倍音 - Wikipedia

声を重ねてハーモニーを作ることが多いJacobが、純正律の響きに興味をもつのは必然かもしれない。

Jacob独自のハーモニーの探求

倍音列に従って音程を考えると、短7度(7th)の音は、平均律と比べて31セントも低くなる。

この7thの音をルートとして扱うと、当然コード全体の音が31セント低くなる。そこでJacobは、チューニング基準をA=442Hz→A=432Hzに下げたらしい(動画7:30~)。

同じ曲で異なるチューニングを混在させるのは、スリルがあってとても面白いと語っている。なかなか常人にはたどり着けない発想である。

5. グルーヴについて

動画10:58~では、グルーヴに関する彼の考えを聞くことができる。

要約

  • 「全ての半音が等間隔に存在するのが、あまり心地よくない」のと同じように、全ての拍や音符が同じサイズになるのは窮屈だと考えている
  • クオンタイズの利便性そのものは、素晴らしいものだと考えている
  • Jacobにとってエキサイティングなグルーヴとは、必ずしもストレートなリズムではない
  • 2つの拍があった場合、「3:2」や「4:3」のように解釈すると面白い

Jacobのグルーヴへの見解

Jacobはエキサイティングなリズムの例として、サンバや、モロッコの伝統音楽「グワナ」を挙げている。Jacobによると、そういった音楽では3つの音符が「4:2:3」という割合の長さで鳴っているそうだ(動画の12:14~)。そして、これこそまさに彼が自分の部屋で追求していたグルーヴそのものらしい。

グルーヴは、ハーモニー的な要素等とは別のベクトルに、音楽的な推進力を付加してくれると彼は語っている。

2つの拍の割合について

Jacobがカバーした「Close to You」の話題が挙がると、彼は拍の長さについてユニークな考えを話してくれる。

「2つの拍がある場合、前の方を長く取ることで、みんな興奮する」という現象があるそうだ。Jaobもその現象について理論的に解明しようとしていたそうだが、彼の出した結論は次の通り。

  • ビートを5つに分けて「3:2」と解釈する
  • ビートを7つに分けて「4:3」と解釈する

こういった解釈を行っているそうだ(動画の13:25~)。「いい感じに聴こえるかどうかが根本的には大事」とも語っている。

おわりに&参考になりそうな本

Jacob Collierは、その天性の才能ばかりに目が行ってしまうが、インタビューを聞くと、理論的な側面にも精通していることが分かり、勉強熱心な努力家という一面も見て取れる。これからの活躍も楽しみだ。

最後に、Jacobの音楽性を紐解く上で参考になりそうな本を2冊紹介する。

リディアン・クロマティック・コンセプト

ジョージ ラッセル (著)

Amazon

これだけ「リディアン推し」なJacobのことだから、たぶんこの「リディアン・クロマティック・コンセプト」はみっちり習得しているような気がする。

A Theory of Harmony

Ernst Levy (著)

Amazon

「Negative Harmony」についての記述がある本。

なお、Negative Harmonyについては、少なくとも動画を見る限りではJacobが強く主張している理念かどうかは分からなかったので参考までに(Jacob自身、Negative Harmonyの理論には非常に詳しいようだが)。

クロノ・トリガー「樹海の神秘」のコード進行を徹底分析 ~テンションノートが織り成す神秘のアルペジオ~

はじめに

今回はクロノ・トリガーの「樹海の神秘」のコード進行を解析していく。前回の記事同様、ゲーム音楽ならではの教会旋法的な音使いがされている。また、ゲームのメインテーマ曲(「クロノ・トリガー」)との共通項ともなるような、隠れたエッセンスの存在についても紹介する。

  • コードは耳コピで採譜しています

※Key = Db

イントロ~Aセクション

[Intro]
| GbM7(13) |   | Fm7(9) |   |
| GbM7(13) |   | Fm7(9) |   |

[A]
| GbM7(13) |   | Fm7(9) |   |
| GbM7(13) |   | Fm7(9) |   |
| GbM7(13) |   | Fm7(9) |   |
| GbM7(13) |   | Fm7(9) |   |

美しいアルペジオが印象的だ。IVM7→IIIm7というコード進行はよくあるが、注目すべきは、IIIm7であるFm7のコードに、9thのテンション(G音)が加わっているという点。これは通常のメジャースケールに含まれる音ではない。結果的に主旋律もDbリディアン・スケールとなり、モード的な雰囲気が出ている。

Aセクションでは、主旋律がGbM7(13)の部分では#11th(C音)、Fm7(9)の部分では9th(G音)のテンション音で長く伸ばしているのが特徴的。これにより、実に神秘的な雰囲気の響きが生まれている。

Bセクション

| Ebm7(9) | B7(9,+11) | Bbm7(9) |   |
| Ebm7(9) | B7(9,+11) | Cm7(11) | F7 |

2小節目のB7(9,+11)は、その次のコードに対するドミナントコードだ(半音上から解決するパターン)。

Cm7(11)以降は、次のセクションへ向けたツーファイブだ。主旋律のF音がペダルポイント的になっていて、直前のコードからのつながりが自然になっている。

主旋律のほとんどがテンション・ノートになっているのが見事だ。

Cセクション

| Bbm7(9) | Gm7(9) | Ebm7(9) | Fm7(9) |
| Bbm7(9) | Gm7(9) | Ebm7(9) | Fm7(9) |
| Eb/Db DbM7 Cm7 | Fsus4 F |

トニックのマイナーコード(VIm)から始まり、短三度下のマイナー7thコードへ進行していく。実はこの2小節は、前回の記事で紹介した「クロノ・トリガー」という曲のコード進行と同じ

「クロノ・トリガー」ではAm7 → F#m7という進行が印象的だったが、この曲ではそれをさらに発展させたものとなっている。作品のサウンド感に一貫性を持たせるための、絶妙な隠し味といえるだろう(意識してやっているのか、それとも無意識のうちにやっているのかは不明)。

このセクションでも、やはり主旋律が全て9thのテンション音を経由する形となっていて、とても美しいハーモニー感が演出されている。

このあとイントロに戻る。最後のFは、GbM7に対してのドミナント的な役割を果たしている(GbM7はBbmと構成音が似ている)ため、イントロへと上手くつながるようになっている。

クロノ・トリガー オリジナル・サウンドトラック

おわりに

SFCという同時発音数に制約があるハードの中で、これだけの美しいハーモニーを生み出すことができているのは、しっかりとした音楽理論に基づいた作曲の賜物といえるだろう。

これを22~23歳という若さで作曲した光田康典氏。彼の溢れんばかりの才能を感じさせる一曲だ。

クロノ・トリガー「クロノ・トリガー」のコード進行を徹底分析 ~モード感あふれるm7の短3度下降~

はじめに

今回は、スクウェア(現スクウェア・エニックス)の名作RPG「クロノ・トリガー」のタイトル曲、「クロノ・トリガー」のコード進行を解析してみる。

ゲーム音楽では、モード(教会旋法)的な音使いや、部分転調の多用など、ポップスではあまり登場しないサウンドも多い。こういった曲のコード進行を分析すれば、ハーモニーの引き出しが増えること間違いなし。

※コードは耳コピで採譜しています

イントロ~Aセクション(Key= G)

[Intro]
| Em/A |  | F#m7 |  |
| FM7 |  | Bm/E | Em7 |

[A]
| Am7 |  | F#m7 |  |
| Am7 |  | F#m7 |  |
| FM7 |  | Bm7/E |  |
| CM7 | FM7 | Bm7/E |  |

※便宜上Key = Gとしているが、一定の調性を保ちながら進んでいく曲ではないため、あくまで目安。

まずAセクションを見ていく(※イントロはAセクションの5小節目~とほぼ同じ進行なので省略)

1~2小節目のコードはAm7。主旋律が7th(G音)や9th(B音)、11th(D音)、13th(F#音)を中心に構成されているため、独特の浮遊感が出ている。

3~4小節目はF#m7。Key= Gと考えた場合、ダイアトニックコードで考えるとF#m7-5となりそうなところ。しかしF#m7という、構成音にC#の音が入るコードとなり、不思議な響きになっている。ポップスでもこういった音使い(※一時的にリディアンやドリアン的な響きになる)は珍しくはないが、この箇所は主旋律にG#の音(9thのテンション)が入ってくる。これが非常に特徴的!そのためKey = Gという前提は崩れ、一定の調性で進んでいくと考えるのは難しくなる。ここだけ部分転調をしていると解釈したり、モード的に捉えるのが良さそうだ。

この「Am7 → F#m7」というコード進行、主旋律によるテンション・ノートの響きと相まって、非常に特徴的。クロノトリガーというゲームを特徴づけるような、印象的なサウンドだ。

5~8小節目は、1~4小節目の繰り返し。

9~10小節目はFM7(VIIbM7)。これはサブドミナントの代理コードや、下属調からの借用和音と解釈できるだろう。ポップスでもよく出てくる音使いだ。

11~12小節目は本来トニックのEmとなるところだが、調性をぼかすためにBm7/Eとしている。このコードはポップスやフュージョンでは頻出だ。

13~16小節目は、普通のIVM7から、先程のVIIbM7と進み、トニックのマイナーコードであるBm7/Eで締める形となっている。

以上がAセクションまでの解説となる。ちなみに、このセクションのコード進行は、「みどりの思い出」や、「遥かなる時の彼方へ」の間奏など、同じゲームの他の曲でも使われている。

Bセクション(Key = D)

| GM7(13) | A6(9) | Bm7(9) |  Bm7(9)/A |
| GM7(13) | F#m7 | Bsus4 | B B/A |
| GM7(13) | A6(9) | Bm7(9) |  Bm7(9)/A |
| GM7(13) | F#m7 |

Bセクションではkey = Dに転調するので、前のセクションから違和感なくつながっている。ここは「IV → V → VIm」という、ありふれたコード進行といえるだろう。テンション表記に関しては、高音のアルペジオのフレーズをもとに記している。

Aセクションとの対比で、落ち着いて聞かせるような場面となっている。

Cセクション(Key = G)

| CM7 |  | D |  |
| CM7 |  | D |  | Bm7/E |

ここから元のキーに戻る。コード進行は普通のIV→Vの繰り返し。最後はトニックのマイナーコードで終わるが、やはり調性をぼかすためにBm7/Eとしている。

おわりに

この曲のキーポイントは、なんといっても冒頭のAm7→F#m7というコード進行に尽きるだろう。テンションノートも上手く駆使しており、クロノトリガーというゲームの持つシリアスな雰囲気が上手く表現されている。

クロノ・トリガー オリジナル・サウンドトラック

DAW作業に必須!おすすめのモニターコントローラーを7つ紹介【DTM】

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※2019年9月15日:記事をアップデート

DAWで音楽を制作しているとき、私たちは何度も、スピーカーから出ている音量を調整する必要がある。

例えば、「マスタリング済みの2mix音源」と「マイクで録音した歌のデータ」では、音の大きさ(ラウドネス)が大きく異なってくる。適切な音量でモニタリングするには、どうやったって、スピーカーからの出力を調整しなければならない。

そのために必要なのが「モニターコントローラー」という機材だ。

  • 「音量を調整するだけなら、DAWのマスターフェーダーをいじればいいのでは?」
  • 「音楽鑑賞中ならiTunesのボリュームをいじればいいのでは?」

こんな風に思う人もいるかもしれない。しかしこれらの方法にはデメリットがある。

  • DAWのマスターフェーダーをいじる:利便性の面でNG。※24bit以上で制作していれば、音質劣化は気にならないかもしれないが。
  • iTunesのボリュームをいじる:音質が劣化するのでNG。多くの音源は16bitなので、デジタル的にボリュームを落とすと音質の劣化が目立つ。iTunesのボリュームはMAXの状態で音楽を聴くのが望ましい

そういったわけで、モニターコントローラーはDAWで音楽を制作するための必需品となる。

モニターコントローラーでできること

手元でのボリューム調整

どのモニターコントローラーでもできることが、この「ボリューム調整」だ。

オーディオインターフェイスとスピーカーの間に、モニターコントローラーを挟む。モニターコントローラーのボリュームをいじることで、スピーカーから流れる音量を調節できる。

複数のスピーカー切り替え

モニターコントローラーの多くは、出力系統を複数持っているので、複数のスピーカーを切り替えながらミックス作業を行うこともできる。

ヘッドホン端子の追加(ヘッドホンアンプの役割)

ヘッドホンアウトを搭載しているモニターコントローラーなら、当然ヘッドホンアンプの役割も果たすことになる。

オーディオインターフェイスの出力をステレオで1系統だけモニターコントローラーに送ってしまえば、ヘッドホン出力についても、モニターコントローラーで一元管理できて便利だ。

DAコンバート(※一部の機種)

デジタル入力を搭載しているモニターコントローラーは、当然DAコンバーターも搭載していることになる。DA部分の品質が売りになるようなモニターコントローラーは少ないが、この部分にも相応のコストがかかっている。デジタル入力を搭載している場合は、チェックしたいポイントだ。

エントリーモデル

ここからはモニターコントローラーを紹介していく。価格帯ごとに、おすすめモデルを列挙していく。

TC Electronic Level Pilot

パッシブのボリュームだけという非常にシンプルな構造をしている。単純に1組のモニタースピーカーの音量調節に使える。他の多機能なモニターコントローラーのように、ヘッドホン端子はついていないので注意。

コネクターはXLR端子となっている。

TC Electronic Level Pilot

PreSonus Monitor Station V2

僕も昔、初代Monitor Stationを使用していた。その前に使っていたBEHRINGER MON800から乗り換えたときに、音質が明らかに上がったのを覚えている。

アナログ入力をステレオ3系統(うち1つはRCA)、出力もステレオ3系統持っていて、トークバックマイクも付いている。同価格帯の中では機能が豊富なモデルと言えるだろう。

さらにV2からはS/PDIF入力も搭載され、別途デジタル入力が可能になったのが特徴だ。

後述のCentral Stationもそうだが、PreSonusのモニターコントローラーはとにかく使い勝手が良い。音質劣化も許容範囲。この価格帯の中では、最もオススメできるモデルだ。

Mackie Big Knob Studio

Big Knobといえば、モニターコントローラーの草分け的存在。2000年代後半ころは、中田ヤスタカ氏をはじめ多くのクリエイターが使っていた。

そんな製品がBig Knob Studioとしてリニューアルされた。USBオーディオインターフェース機能が付いていたりと、コストが分散してそうなのが個人的に残念だが、音質は申し分ないクオリティで安心して使うことができる。

「Big Knob」の名の通り、大きなボリュームツマミが健在なのが嬉しい。

ミッドレンジモデル

SPL 2Control

僕のオススメはこれ。ステレオ2系統ずつの入出力にヘッドホン端子2つというシンプルな設計。必要最低限の機能のみを備えており、音質面での評価が非常に高い。

同価格帯の他のモニターコントローラーからこれに乗り換え、「音が良くなった!」と言っている人を多数知っている。音質優先の人や、特に機能的な部分にこだわらない人は、これを選ぶとよい。

入出力端子は全てXLRとなっている。

Conisis M04

国産メーカーのモニターコントローラーだ。信頼できる音響メーカーのため音質への信頼度も高い。惜しむらくはヘッドホン出力がステレオミニジャックなところ。

中田ヤスタカ氏はずっとBig Knobを使用してきたが、2012年頃よりこのモデルを使用しているようだ。

※出典:サウンド&レコーディング・マガジン 2012年4月号

Presonus Central Station + CSR-1

アナログ入力をステレオ3系統(うち1つはRCA)、出力もステレオ3系統、トークバック付きと、同メーカーのMonitor Station V2と基本スペックは似ているが、それをパワーアップさせたラックマウントタイプのモデルとなっている。

別途デジタル入力も1系統搭載している。

特筆すべきはCSR-1というコントローラーが付いている点。本体はラックにマウントさせ、普段のボリューム操作はCSR-1で行う。これによりケーブルがごちゃごちゃせず、スッキリとしたセッティングが可能になる。

音質だけを考えるならConisisやSPLの方が上だろうが、機能性ではこちらに軍配が上がる。Central Stationは、音質と使い勝手のバランスに優れたモデルと言えるだろう。

注意すべき点としては、ヘッドホンのボリューム操作をするときに、CSR-1ではなく、本体側で調整する必要があるということ。海外のフォーラムでもネタになっている。

So every time I need to adjust my headphone volume, I have to get up and go to the rack which is a PITA.

出典:Presonus Central Station headphone volume control

ハイエンドモデル

この価格帯のものは僕も実際に使ったことがなく、未知の領域となっている。これは間違いない!と思えるものを1点だけ紹介する。

GRACE design m905

最高級の品質を誇るGRACE design社のモニターコントローラー。

スピーカー、ADC、DAC、クロック精度などはもちろん、部屋の音響特性も万全の状態でその真価を発揮するだろう。お金に糸目をつけず、とにかく最強のモニターコントローラーが欲しい人はこれで決まり。値段が値段なので、プロ作編曲家やエンジニアの愛用者もしばし見受けられる。

デジタル入力にも対応しており、DAコンバーターもついている。このクラスになってくると、他のモデルとは異なり、単体の高級コンバーターにも引けを取らないクオリティとなってくる。質の高いDAコンバーター目当てで買うのもアリ。

※デジタル入力無しのモデル(m905 Analog)もある。そちらはもう少し安い。

おわりに

モニターコントローラーは基本的に値段が音質に直結する(音痩せの度合いなど)。お使いのスピーカーやオーディオインターフェイスのグレードに合わせて、適切な価格帯のものを選びましょう。

Cubaseでオススメの環境設定方法

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※2019年11月6日:記事をアップデート

今回はCubaseの環境設定等の項目で、オススメのセッティングを紹介してみる。

1. 「環境設定」の項目

メニュー>ファイル>「環境設定」と進んで設定する。

ASIO レイテンシー補完をデフォルトで有効

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どんなソフトシンセでも、CPU演算という処理が挟まれる以上「レイテンシー」が発生する。

試しに、キーボードでMIDIデータをリアルタイム入力する様子をイメージしてみよう。我々演奏者は、当然、正しいリズムで演奏したいと考える。しかし音源のレイテンシーが多少なりともある場合、正しいリズムで鍵盤を叩いても、演奏者の意図よりも遅れて発音されてしまうのだ。

そこで、我々人間は無意識のうちに、そのレイテンシーを補うように、実際よりも早いタイミングで(=突っ込み気味に)演奏する。そのため、実際よりも早い位置にMIDIノートが記録されてしまうという現象が起こるのだ。

「正しいリズムで演奏しているはずなのに、なぜか突っ込んだ演奏(MIDIデータ)になってしまう」。普段MIDIをリアルタイム録音している人なら、体験したことのある現象かもしれない。

これを解消するのが、この「ASIOレイテンシーを補完」という設定。「レイテンシーが原因の突っ込み演奏」を全て補正してくれるので、常に有効にしておいて問題ない。

設定方法は次のとおり。

  • メニュー>ファイル>「環境設定」のウィンドウを開き、録音>MIDI>「ASIOレイテンシー補完をデフォルトで有効」にチェック

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ここを有効にしておけば、新しくMIDIトラックやインストゥルメントトラックを立ち上げたときでも、最初から補完が有効になっているはずだ。

※余談だが、この機能は、Cubase5の頃にアップデートによって実装されたと記憶している。僕自身も、MIDIが突っ込んで記録されて不自由な思いをしていたので、この実装には相当助けられたのを覚えている。

プロジェクトの自動保存を有効にする

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Cubase含め、DAWソフト全般はいつクラッシュするかわからないので、自動保存を有効にしておこう。

設定方法は次のとおり。

  • メニュー>ファイル>「環境設定」と進み、全般>「自動保存」にチェック

自動保存の間隔は、1~10分程度にしておけば良いだろう。

これで「bak」という拡張子のバックアップファイルが、一定時間ごとに生成されるようになる。

このバックアップファイルの拡張子を「cpr」に変更すれば、そのままCubaseのプロジェクトファイルとして読み込むことができる。突然の強制終了に見舞われても、安心して作業を再開することができる。

なお、「自動保存」という名前がついているが、作業中のプロジェクトファイルが自動で上書き保存されるわけではない。別途バックアップファイルが生成されるだけなので、安心だ。

タイムストレッチのアルゴリズムを高音質なものに変更

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オーディオのタイムストレッチを使う機会は意外と多い。例としては、次のようなケースが挙げられる。

  • リズムループのサンプルを使うとき:素材のBPMと、プロジェクトファイルのBPMをあわせる必要がある
  • ギターの全音符のオーディオ素材をもっと伸ばしたいとき:タイムストレッチで引き伸ばす必要がある

Cubaseのデフォルトのタイムストレッチは、「リアルタイム」というアルゴリズムになっている。瞬時にタイムストレッチが可能な反面、音質は良くない。

※歌のトラックを引き伸ばしたりすると、劣化しているのが分かると思う。「Melodyneとかだと引き伸ばしても気にならないのに、おかしいなぁ……」←これはアルゴリズムのせい。

そこで、高音質なアルゴリズムに変更しよう。設定手順は次の通り

  1. メニュー>ファイル>「環境設定」ウィンドウを開く。
  2. 編集操作>Audio>「タイムストレッチツールのアルゴリズム」から変更する。

僕は汎用性の高そうな「MPEX – Poly Complex」に設定している。

MPEX – Poly Complex

さまざまな種類の音が入り交じった素材を扱う場合や、大きいサイズにストレッチする場合に使用します。高品質なサウンドを得られますが、プロセッサーへの負荷もかなり大きくなります。

出典:タイムストレッチ/ピッチシフトアルゴリズムMPEX|Cubaseオンラインマニュアル

ただ、こだわるひとは素材に応じて変えてみてもいいかもしれない。各々のアルゴリズムについてはマニュアルに記載があるので、参照してみてほしい。

2. 「スタジオ設定」の項目

メニュー>デバイス>「スタジオ設定」と進んで設定可能だ。

Steinberg Audio Power Schemeをオンにする

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マシンに負荷をかけて制作する人は、「Steinberg Audio Power Scheme」をオンにしたほうがいい。「Steinberg Audio Power Scheme」とは、ひとことでいうと「省電力解除モード」のことだ。

Steinberg Audio Power Scheme を有効化 (Activate Steinberg Audio Power Scheme)

このオプションをオンにすると、リアルタイム処理に影響を与えるすべての電力セーフモードが無効になります。ただし、レイテンシーが非常に低い場合にのみ効果があり、消費電力が上がることに注意してください。

出典:VST オーディオシステム|Cubaseオンラインマニュアル

この項目を有効にする手順は次の通り。

  • メニュー>デバイス>「スタジオ設定」のウィンドウを開き、VSTオーディオシステム>「詳細設定」の欄で、「Steinberg Audio Power Scheme」にチェック 

この項目を有効にすると、高負荷時の制作において、「real-time peak」メータの振れが明らかに落ち着いてくれる。レイテンシー低め(128sampleくらい)で、CPU使用率がそこそこ高い(50%前後)場合、この傾向は顕著だ。

ただ、これは僕の環境においての話。個別の環境において異なってくる可能性は十分にあるので、必要に応じて使用して欲しい。

ASIO-Guardを有効にする

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ASIO-Guardとは、「リアルタイムでの計算が必要ない処理をあらかじめ行っておくことで、マシンへの負荷を軽減する機能」のことだ。

設定方法は次のとおり。

  • メニュー>デバイス>「スタジオ設定」のウィンドウを開き、VSTオーディオシステム>「詳細設定」の欄で、「ASIO-Guardを有効化」にチェック 

このASIO-Gurdという機能。Cubase 7の時点ではプラグインの対応状況が不十分であったからか、効果がいまひとつだったり、動作が不安定になることがあった。しかし、Cubase8になってからは明らかに安定性が増し、マシンへの負荷も小さくなった。僕自身、Cubase7→8に上げた途端に、挿せるプラグインの数が増えたのを覚えている。

特に問題が出ない限り、ASIO-Guardeは有効にしておいてよい。

システムのタイムスタンプを使用(Windows環境の場合)

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Windowsでは、デフォルトの状態だと、キーボードでMIDIデータをリアルタイム入力する際にタイミングがズレてしまうことがある。

そんなときは、同様に「スタジオ設定」のウィンドウ内で、

  • MIDIポートの設定>「"Windows MIDI"入力にシステムのタイムスタンプを使用」にチェックを入れる

これで、正しいタイミングでMIDIデータが記録されるようになることがある。

僕自身、このオプションにはずっとチェックを入れた状態でCubaseを使用してきている。Cubase5のころは、この項目にチェックしないと、MIDIデータのズレが生じて大変だった。

最新のCubaseではもしかすると改善されているかもしれないが、不具合が生じている人は、一度確認してみるとよいだろう。

参考:【Cubase共通】外部MIDI入力鍵盤からMIDI入力を行うとタイミングがずれます。(Windowsのみ)

3. ミキサーの設定

マスターフェーダーを右端に常時表示

マスターフェーダーは常にミキサーの右端に表示させておいた方がいい。理由は、

  • 楽曲全体の音量レベルが、0dBを超えないように(クリップしないように)常に監視したほうがいいから

曲作りのとき、トラックをたくさん重ねていくと、マスターチャンネルのメーターが赤く点灯してしまうことがある。これは、楽曲全体の音量レベルが0dBを超えているサインだ。この状態で曲を書き出すと、音割れや歪みに繋がってしまうので良くない。

マスターフェーダーを常にミキサーの右端に表示させておく手順は次の通り。

  1. ミキサー画面左上の、「ウィンドウレイアウトの設定」ボタンをクリックし、 「チャンネルセレクター」にチェックを入れる。

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  2. 左端に2つのタブが表示されるので、「ゾーン」タブを表示し、マスターの出力チャンネル(Stereo Out)の、右側の◯を点灯させる。

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これで、「Stereo Out」が常に右端に表示されるようになる。

4. オートメーションパネルの設定

オートメーションを"間引く"度合いを調整する

ボーカルのボリュームをオートメーションで調整する際、細くボリュームを描いたのに、間引かれて表示されてしまうことはないだろうか。この「間引かれる度合い」については、設定をいじることで調整が可能だ。

手順は次の通り。

  1. 下記画像で示したボタンをクリックし、オートメーションパネルを開く。

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  2. オートメーションパネルの左下の「歯車マーク」をクリックして設定画面を開く。

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  3. 「リダクションレベル」を調整する。※値が小さいほど、間引かれる度合いは小さくなる。

この「リダクションレベル」を10~20%程度に設定すれば、ボーカルを1音ごとにボリューム調整するような、緻密なオートメーションが可能になるだろう。

デフォルトだともっと大きい値になっているので、細かいオートメーションを描きたい人は要チェックだ。

【Tips】Cubaseの実践的な使い方を18個紹介

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※2019年7月14日 追記:Tipsを3つ追加

Cubaseの操作において、知っておくと役に立つTipsをまとめてみる。実践的なものだけを集めている。

なお、基本的な操作については割愛する。基本的な操作については、初級~中級ショートカットキーの記事を参照してほしい。

1. 複数のボーカルテイクから1本のOKテイクを作成する

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一般的にボーカルを録音する際は、何テイクか録音した後で、1本のOKテイクを作成することが多い。そのため、複数のテイクからよく歌えている部分を選び、つなぎ合わせるという作業が必要になってくる。

その際の具体的な手順について解説していく。

Cubaseでは1つのオーディオトラックに複数回録音をした場合、オーディオトラックのレーンを表示させると、全てのテイクが表示される。画像は3つのボーカルテイクからOKテイクを作る作業のシーンだ。まったく同じ歌唱をした3つのテイクの中から、上手く歌えている部分をチョイスしている。

OKテイクを作成する手順は次のとおり。

  1.  はさみツールでオーディオクリップを切る。レーンではなく、一番上の部分(画像の白くハイライトされている行)を切ることで、全てのテイクを同時に切ることができる。
  2. コンプツール(指のマーク)でテイクを選択する。選択されている部分は、色が明るくなる。
  3. 1と2を繰り返し、OKテイクを作成する。
  4. オーディオクリップをすべて選択し、クロスフェードをかける。
  5. メニューバーから「Audio>高度な処理>重複するイベントを削除」で、使われていない部分が消える(プールには残っている)。
  6. メニューバーから「Audio>選択イベントから独立ファイルを作成」で、OKテイクを1つの独立したwavデータにできる。

手順5と6は省略してしまっても問題ない。後からテイクを選び直したくなる可能性がある場合は、重複部分を消す必要もないだろう。なお、当記事の「項目6」で後述するが、オーディオクリップをはさみツールで切る際は「ゼロクロスポイントにスナップ」を有効にすることを忘れずに。

ボーカルをつなぎ合わせる際のコツについても書いておく。

  • はさみを入れるのは、フレーズの切れ目にする
  • 「S」の子音がある部分は、ハサミを入れる狙い目

1点目について:ロングトーンで伸ばしている部分でつなぎ合わせるのは難しく、つなぎ合わせても不自然になってしまうので、フレーズの切れ目でカットするようにしよう。

2点目について:「S」の子音がある部分(日本語なら「さ」行の音)は、フレーズの途中でもつなぎ合わせることができる。Sの音はノイズの音と帯域成分が近いため、途中で切れても音が不自然にならないのだ。

2. トラックアーカイブでソフトシンセを高速セッティング

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トラックアーカイブは、Cubaseのトラック(インストゥルメントトラック、オーディオトラック等)の情報を、xmlファイルに記録したものだ。

この機能の用途は、主に次の2つだろう。

  • トラックを他のプロジェクトファイルに移す
  • トラック起動時のテンプレート的に使う

僕は主に、テンプレート的な使い方をしている。このトラックアーカイブという機能は、インストゥルメントトラックと併用すると便利だ。インストゥルメントトラックをトラックアーカイブとして保存した場合、次のような情報がxmlファイルに保存されることになる。

  • インストゥルメントトラックに立ち上げたソフトシンセと、そのセッティング
  • インサートエフェクトスロットに立ち上げたプラグインと、そのセッティング
  • センドエフェクトの情報と、そこへの送り量

こういった情報が一式保存される。インサートエフェクト込みでソフトシンセを立ち上げたい場合や、複数のインストゥルメントトラックをまとめて立ち上げたいときに便利だ。

例えば、Vienna Instrumentsというオーケストラ音源はマルチティンバーに対応していないので、楽器ごとにインストゥルメントトラックを立ち上げる必要がある。しかしこのトラックアーカイブ機能を使えば、1stバイオリン、2ndバイオリン、ビオラ、チェロという4つのインストゥルメントトラックを、パンニングを済ませ、「Strings」というグループチャンネルトラックに送った状態で、まとめてトラックアーカイブとして保存しておくようなことができる。

※さらにグループチャンネルからセンドエフェクトのリバーブに送っておけば、その情報も保存されます。

ストリングスセクションを入れたくなった場合、トラックアーカイブを読み込むだけでトラック一式が立ち上がってくれる。いちいちインストゥルメントトラックを一つずつ立ち上げなくて済むので、効率が良い。

僕は使用していないが、インストゥルメントトラックならMIDIファイルも併せて保存することができる。必ず使いたいフレーズ(駆け上がりなど)があるような人には良いかもしれない。

他にも、ベース音源をアンプシミュレーター込みで立ち上げたい場合などに役立つだろう。グループチャンネルトラックを駆使すれば、DIとアンプの音を半々で混ぜたテンプレートの作成なども容易だ。

トラックアーカイブの読み込み/書き出しの操作は、次のとおり。

  • トラックファイルの読み込み: ファイル>読み込み>トラックファイル
  • トラックファイルの書き出し: (保存したいトラックを選択した状態で)ファイル>書き出し>選択されたトラック

ちなみに、似たような機能として「トラックプリセット」がある。単体のインストゥルメントトラックを呼び出すときは、トラックプリセットを使うと便利だ。

3. 複数のMIDIノートをまとめてベロシティ変更

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  • Ctrl/Command + Shift + ドラッグ:選択ノートのベロシティ変更

キーエディターを開き、MIDIノートを選択。Ctrl(MacならCommand)とShiftを押しながら、ノート上でドラッグする。これでベロシティを調整できる。ピアノトラックなど、同時に複数のノートが鳴っている場合に便利だ。

なお、「Ctrl/Command + Shift」というコマンドはデフォルトのもの。「環境設定>編集操作>制御ツール」から、エディットすることも可能だ。

4. サイドチェインの設定

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EDMなどのダンスミュージックでは、キックの鳴る位置でベースにコンプがかかるような、いわゆる「サイドチェインコンプ」がよく登場する。

これを行うための方法は次の通り。

  1. インサートエフェクトスロットにエフェクト(コンプ等)を立ち上げる。
  2. エフェクトのプラグイン画面から、「Side-Chainを有効化」ボタンを点灯させる(画像)。
  3. サイドチェインのソースとなるシグナルを決め(キックなど)、そのチャンネルからセンドで、サイドチェイン設定をしたエフェクトに送る。

これでサイドチェイン信号がエフェクトに送られる。あとはスレッショルドやレシオを調整すれば、サイドチェインコンプの設定が完了する。

5. インサートエフェクトを"オフ"にする

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インサートエフェクトは、ミキサー画面でスロット左部のスイッチをクリックすることでバイパスできる。このことは誰でも知っているはず。しかし、これは単に信号を通していないだけで、処理自体はバックグラウンドで行われているのだ。

遅延の大きいプラグインエフェクトを使っている場合、キーボードでソフトシンセを演奏する際に、レイテンシーが発生して演奏しづらくなってしまう。

※Waves L2などの先読み演算系リミッター、LinMBなどのリニアフェイズ系エフェクトを挿すとわかりやすい。

そこで、完全に電源を切ってしまうという方法が存在する。

  • Alt/Option +クリック: インサートエフェクトをオフ

これでプラグインの処理自体を完全にオフにしてしまうことができる。遅延のあるプラグインを使っている場合、レイテンシーは無くなる。もちろん、プラグインの設定内容はCubaseのプロジェクトファイルに保存されているので、再び同様の操作でエフェクトをオンにすれば、プラグインを再度有効にできる。

なお、画像の表示からも推察されると思うが、プラグインのウィンドウからもオフ状態にすることができる。その際は、電球のマークをクリクすればOKだ。

ピッチ補正ソフトなどの重いプラグインを使う際、活用できるテクニックだ。

6. オーディオ切り貼り時に不快なノイズを出さないようにする

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オーディオクリップを切るとき、波形が振れている部分でカットしてしまうと、再生時に「プチッ」という不快なノイズが発生してしまうことがある。これを防ぐためには、波形の振幅がゼロの箇所でカットしなければならない。

「ゼロクロスポイントにスナップ」というオプションを有効にしておけば、自動的に振幅がゼロの箇所(=ゼロクロスポイント)にカーソルをスナップさせることができる。特別な意図がない限り、常に有効にしておいてよい。

7. 別名で保存/新しいバージョンで保存

DAWで楽曲制作を進める時、プロジェクトファイルを常に上書き保存していくのはオススメできない。理由は、次のようなことがしばし発生するからだ。

  • プラグインが増えていくに連れて、相性問題などでプロジェクトファイルが開けなくなることがある
  • 前のフレーズに戻したくなることがある
  • プロジェクトファイルが破損してしまう(最近のDAWでは少ないが)

そのため、定期的に新規に別のファイルとして保存していくのが望ましい。その方法だが、まずWordやExcel等の一般的なパソコンソフトと同じように「別名で保存」ができる。

もう1つ、「新しいバージョンで保存」という方法もあり、これはファイルの末尾に「-01」のような通し番号を加えて保存するものだ。用途に応じて使い分けていくとよい。

ショートカットキーは次のとおり。

  • 別名で保存:    Ctrl/Command + Shift + S
  • 別バージョンで保存:Ctrl/Command + Alt/Option + S

8. 感度指定クオンタイズ

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リアルタイム入力で録音したMIDIデータをクオンタイズする際、普通にクオンタイズすると、正確すぎて機械的に聞こえてしまうことがある。

これを解消するのが「感度指定クオンタイズ」だ。キーエディタ内のクオンタイズのボタン(Qという部分)を押すと、「iQ」という表示に変わる。この状態でクオンタイズを適用すると、"少しだけ"クオンタイズが行われる。これが感度指定クオンタイズ(Iterative Quantize)だ。

感度指定クオンタイズを繰り返すと、どんどん正確な位置にクオンタイズされていく。繰り返す回数を調整することで、リズムのズレを感じない程度に正確な演奏に仕上げることが可能だ。

9. ミキサー画面で複数トラックを一括操作する

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複数のトラックを選択した状態で、ShiftとAlt(MacならOption)を同時に押しながらフェーダーを操作すると、まとめて音量を変更することができる。フェーダー操作に限らず、定位の調整や、インサートエフェクトの追加なども一括で行うことが可能。

なおこの操作を行うと、ミキサー画面の「Q-Link」というボタンが点灯しているのがわかるはず。ShiftとAltの同時押しの代わりに、マウスでこのボタンを点灯させてもOKだ。

10. 未使用のオーディオファイルを削除する

レコーディングの際、何テイクも録音していると、未使用のオーディオファイルがどんどん増えていく。HDD容量の無駄になってしまうので、プロジェクトファイルで使用しているオーディオデータのみを残して、それ以外は消してしまおう。

手順は次のとおり。

  1. 「プール」を開く(「Ctrl/Command + P」または「メディア>プールを開く」)
  2. ウィンドウ内を右クリック → 使用していないメディアを削除 → ごみ箱へ移動
  3. 同様に右クリック → ごみ箱を空にする → (ハードディスクから)削除

これでAudioフォルダの肥大化を防げる。なお、この操作は取り消すことができない。削除対象のデータが他のプロジェクトファイルでも使われていないか、事前に確認するのを忘れずに。

事故を防ぐため、プロジェクトフォルダ(←Audioフォルダが含まれる)は、普段からプロジェクトファイルごとに作成する習慣をつけておくのがよいだろう。

11. Alt/Option + ドラッグでコピー

Cubaseで曲を作りを進める際、オーディオイベントやMIDIパートを複製したくなることは多い。その際、通常のコピー&ペーストを行うのも一つの方法だが、もっと楽な方法も存在する。それが、Alt (Option) を押しながらドラッグするという方法だ。スナップをONにしておけば、任意の位置に簡単にコピーすることが可能。

また、このAlt + ドラッグという技は、ミキサー上のインサートエフェクトをコピーするのにも使える。すでに使われているプラグインを別のトラックにもインサートしたいときは、このコピー技を使うとよい。より素早く起動することが可能だ。

なお、項目3同様、AltやCtrlというコマンドはデフォルトのものなので、「環境設定>編集操作>制御ツール」から、エディットすることも可能だ。

12. Ctrl/Command + ドラッグで垂直/水平移動

前項とセットで覚えておきたいのがコレ。オーディオイベントやMIDIパートを、Ctrlを押しながらドラッグすると、垂直/水平方向へ移動を制限することができる。まっすぐ動かしたいときに使うとよい。

また、キーエディタ内ならばMIDIノートの移動を垂直方のみに制限できる。

ちなみに、この垂直/水平移動は先ほどの「Altを押しながらコピー」する技と同時使用も可能だ。

この技も前項目同様、制御ツールからキー割り当てをエディットできる。

13. トラックディレイでシンセパッドの発音を早める

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シンセパッドやストリングスなどの音色は、音の立ち上がりが遅い。そのため、正しいリズムでMIDIノートを打ち込んでも、モタって聴こえてしまうことが多い。それを解消するのがこの技。Cubaseのトラックについている「ディレイ」機能を使い、発音を早めてやろう。

トラックを選択したときに、左側に「インスペクター」が表示される。そこの「時計」マークの数値をいじることで、トラックのディレイ(遅れ)を設定できる。発音を早めたい場合は、マイナスの値を設定すればよい。-10~-40あたりにしておけば、曲のビートと上手く合うだろう。

Spectrasonics Omnisphere 2

Spectrasonics Omnisphere 2

14. トラックを無効にする

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アンプシミュレーターやピッチ補正ソフトは、コンピュータへの負荷が高く、メモリも多く消費する。そういったプラグインをインサートしたオーディオトラックは、存在するだけでマシンパワーを消費してしまう。

楽曲制作の終盤では、「使わないけど、一応残しておきたい」トラックも出てくると思う。その際、この「トラックを無効にする」を行えば、プロジェクトファイルにトラックの情報を保存したまま、トラックを消すことができる。メモリやCPUの消費がなくなるので、プロジェクトファイルの起動も速くなるはずだ。

ちなみにCubase 9以降では、インストゥルメントトラックでもこの機能が使えるようになった。ソフトシンセのオーディオ化と合わせて使えば、一層メモリ節約が捗ることだろう。

15. テンポが変動する曲を貼り付けて、テンポを設定する

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テンポが変動する曲のテンポマップを作成する方法だ。オーディオから自動で検出する方法もあるが、精度の正確さを優先し、手打ちでクリック音を入力するのがよい。

その手順は次のとおりだ。

1. 下準備

  1. オーディオファイルをプロジェクトにインポートする。
  2. 曲がスタートする位置(1拍目)を任意の小節頭に合わせる。

2. クリック音の録音

  1. カウベル等の音が出るソフトシンセ(サンプラー)をインストゥルメントトラックに立ち上げる。
  2. インストゥルメントトラックの「ミュージカル/リニア」切り替えボタン(※画像参照)から、「リニア」(時計マーク)に設定。
  3. 曲を再生しながら、拍頭に合わせて、キーボードでMIDIデータをリアルタイム録音していく。
  4. 録音が終わったら、MIDIデータのズレを直す。1つめのクリック音は小節頭に揃うようにする。

3. テンポの反映

  1. 録音したクリック音のMIDIイベントを選択する。
  2. メニューバーより、MIDI>機能>タップテンポ情報とマージ と進む。タッピングを「1/4」に設定し「OK」。
  3. テンポトラックを立ち上げて有効にすると、テンポ情報が反映されている。

16. クリックをオーディオ化する

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「メニュー>プロジェクト>拍子トラック>ロケーター間のオーディオクリックをレンダリング」で、画像のようにクリック音がオーディオ化される。

ボーカルや楽器の宅録を依頼するときなど、活用するとよい。

17. オートメーションのレーンに波形を表示する

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  1. オートメーションパネルを開く(F6キーでショートカット)
  2. 左下の歯車マークをクリックし設定画面を開く
  3. 「トラックのデータを表示」にチェック

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これで、オートメーションのラインの部分に波形が表示される。歌のオートメーションを書くときなどに便利だ。

18. ロケーター間の尺(時間)を数える

BGMや劇伴、アニソン等の作曲家は、「秒数が指定された音楽」を用意しなければならないことがある(例:「アニメの主題歌を想定し、ワンコーラスで89秒のデモを納品」)。

しかし、Cubaseのトランスポートパネル上には、特にロケーター範囲の秒数は表示されていない。開始位置と終了位置の時間をメモして、わざわざ引き算している人も多いのではないだろうか。

そこで、以下の方法を活用すると良い。

  1. 範囲選択ツールを選ぶ。
  2. 「メニュー>編集>選択>左右ロケーター間」と操作し、ロケーター間を選択状態にする。
  3. トランスポートパネルを開く(F2キーでショートカット)。タイムフォーマット(時計マーク)を、「秒」に設定する。

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  4. 情報ライン上に表示される「範囲の長さ」を読む。

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これで、ロケーター感の時間(秒数)を正確に割り出すことができる。納品前のチェックに使うと便利だろう。

おわりに

Cubaseにおける実践的なTipsを紹介した。何か気づいたことがあれば、今後も追記していく。

【DAW】作業効率が格段にアップ!音ネタ管理術

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はじめに

音ネタの整理、していますか?

ダンスミュージックで使うような、キックやスネア。カスタネットやウィンドチャイムなどのパーカッション。ノイズのスウィープ音などのSE(効果音)。

こういった、いわゆる「音ネタ」は、1つのサンプリングCD(サンプルパック)の中で、「wavファイル」という形で大量に用意されていることが多い。例えば、EDMクリエイター御用達の「Vengeance Essential Clubsounds Vol.4」というサンプルパックには、3100以上ものサンプルが収録されている。

EDMではなくポップスを作るような人でも、曲中にカスタネットやタンバリンの音色を入れてみたくなることはあるはず。「大量のサンプルから目的の音を選ぶ」というのは、DAWで音楽制作をする人なら避けては通れない作業だ。

その際、サンプリングCDのフォルダを開いて、すべてのサンプルを最初から最後まで通して聴いたりしていないだろうか。その方法は、実は効率が良くない。僕も以前はそのようなサンプルの探し方をしていたが、無駄が多いことに気づいた。

では、どうすればよいか。今回は音ネタの管理方法について解説していく。

音ネタの仕分け作業

お気に入りフォルダを作る

音ネタを聴いて確認するだけでも、それなりに時間がかかる。1個の音ネタをプレビューするのに1秒かかるとしても、500個プレビューすれば500秒。それだけで8分以上かかる計算になる。

※キック、スネア、ハイハット、クラップ、シンバル等、ドラムキットの各パーツを一から選んでいけば、500個くらいは軽く行きます。

玉石混交の大量のサンプルの中から使える音を探していくのは、非常に時間がかかるし、労力も必要だ。曲づくりの前に疲れてしまうのは、クリエイティブな作業をする上でも良くない。

そこで、新しいサンプルパックを買ったら、必ず仕分け作業をしよう。

  1. まず、お気に入りの音ネタ各種を入れるための、「Favorites」のような名前のフォルダを作る。
  2. 1の中に、「サンプルパックのタイトル名」をつけたフォルダを作る。
  3. 2の中に、パーツ名をつけたフォルダを各種作る(「Kick」、「Snare」等)。
  4. 音ネタを片っ端から試聴する。「良いサンプル」を見つけたら、3のフォルダの中にコピーしていく。
  5. 4の作業を、全ての音ネタを確認し終わるまで続ける。

手順は上記の通り。

例えば、はじめに紹介したVengeanceのサンプルパックならば、フォルダの階層構造が次のようになっていればOK。

(例) Favorites > VEC4 > Kick > VEC4 Clubby Kicks 001.wav

※もちろんこれは一例なので、各自創意工夫を凝らしてフォルダ分けをしてほしい。

ちなみに、手順4の「片っ端から試聴する」という作業は、サンプラー(Kontakt、Battery等)経由で音を聴くのがよい。キーボードの矢印キー(↓)で次々とサンプルを切り替えていくとスムーズだ。その他の方法としては、Cubaseユーザーなら「MediaBay」というサンプル管理ツールも役に立つだろう。

このように、お気に入りフォルダへの追加作業を一度やってしまえば、良いサンプルだけが含まれる「お気に入りフォルダ」の中から、曲に合うサンプルを探すだけで済む。玉石混交の大量のサンプルの中から目的の音を探し当てるのと比べて、労力が格段に軽減されるのは明らかだろう。

実は、有名メーカーのサンプルパックであっても、「使える音」は意外と多くないものだ。1つサンプリングCDを買ったとしたら、実際に使える音は1~2割程度。特に、どう考えても使えそうにない音色は、プレビューするだけでも時間の無駄。そんな音ネタはたぶん、今後使うこともないだろう。忘れてしまってよい。

「良いサンプル」とは?

「良いサンプル」の判断基準は、各々のセンスや、音楽制作の経験値によって変わってくるところだ。音楽制作の経験が豊富な人ならば、サンプルを聴いただけで、そのサンプルにふさわしいサウンド感や、曲中での音抜けの度合いなど、大体の予測がつくはず。

 ビギナーの人にとっては、こういった予測を立てるのは難しいかもしれない。とはいえ自分が良いと思ったサンプルでなければ、どの道使いこなすことはできない。自分の耳を信じよう。

経験を積んで耳が肥えたと思ったら、また仕分け作業をやり直せばよい。お気に入りフォルダは定期的に更新し、あなたのセンスで磨き上げて行くのが良い。

使わない道具を、いかに捨てられるか。

ある程度道具が揃った段階では、このような考え方が大切になってくる。道具が増えていけば行くほど、この「捨てる」という作業はいっそう重要になる。

プリセットも仕分ける

仕分け作業が効果的なのは、何もwavの音ネタだけではない。ソフトシンセに入っているプリセットも同様に、お気に入りのものを確認する作業が有効だ。

レーティング機能が付いているソフトシンセならば、それを活用すればよい。

※例えば、Omnisphereのレーティング機能は非常に便利。

しかし、一部のソフトシンセや多くのハードシンセでは、こういった便利機能はない。こういう場合は、ユーザープリセットをお気に入りフォルダにまとめて保存してみたり、原始的な方法だがプリセット名をメモするのもよい。

どんな方法であれ、お気に入りのプリセットを事前に把握しておけば作業効率は高まるはずだ。

Spectrasonics Omnisphere 2

おわりに

音ネタの仕分けは手間のかかる作業だ。しかし一度済ませてしまえば、その後の生産性が飛躍的に向上する。特にお仕事で音楽を作っているような人なら、ぜひ一度時間を作って、じっくりやることをオススメします。

capsule「Hello」のコード進行を徹底分析 ~中田ヤスタカ氏はテンションコードも自由自在~

曲について

capsuleの「Hello」は、美しいコード進行と洗練された音使いが特徴的な一曲だ。中田ヤスタカ氏のセンスの高さを味わえるサウンドになっている。

capsule Hello - YouTube

コード進行

※Key = E
[
Intro]
| (N.C.) |  |  | C#M7(9) |

[A]
| AM7(9) G#7sus4 | C#m7(9) Bm7(11) |
| A7(9,13) DM7(9) | F#m7/B EM7 |
| AM7(9) G#7sus4 | C#m7(9) Bm7(11) |
| A7(9,13) DM7(9) | G#7 C#M7(9) |

コード進行はこのようになっている(※耳コピで採譜したものです)。

1~2小節目(※Aセクションから数えています)の部分は、「4-3-6」という、R&Bやソウルでよく出てくるコード進行がベースになっている。

Grover Washinton Jr.の「Just the Two of Us」というR&Bのヒット曲で使用されているのが有名。

1小節目の3・4拍目は、通常なら次のコードに対するドミナントであるG#7となるところ。しかし、ここではあえてG#7sus4にすることで「進行感」を緩和し、浮遊感を出している。

※セブンスコードをsus4やDm7/Gのような分数コードに変えることで浮遊感を出すテクニックは頻出。

2小節目の3・4拍目のBm7(11)は、その次のコードに進行するためのツーファイブだ。本来Bm7(11)→E7のように進行するところだが、E7を省略することで進行感をぼかしている。

※Vm7(この曲でいうBm7)はポップスでは非常によく出てくる。前触れなしに使えることが多いので、テクニックとして身につけておきたい。

3小節目では、この曲で最も特徴的な、A7(9,13)というコードが出てくる。これは非ダイアトニックコードだが、次のDM7(9)に対するドミナント7thコードになっている。テンションを2つ加えることで、ここだけジャジーな雰囲気になっていて、独特のサウンド感を演出するのに一役買っている。

※DM7(9)、ディグリーで考えるとVIIbM7(9)というコードは、サブドミナントの代理的にポップスではよく出てくるコードだ。

5小節目以降はそれまでの部分のリピートになるが、特筆すべきは8小節目。G#7(→次のコードに対するドミナント)が初めて出てくる。そして、C#M7(9)というコードで終了する。結果的に、元のKey = Eにとっては6度のコードで終止することになるが、このC#M7(9)というコードは、平行調(C#m)のトニックコードであるC#mを、メジャーコードに置き換えたものと解釈できる(クラシックの和声では「ピカルディの三度」と呼ぶ)。そこまで遠縁のコードではないため、不自然には聴こえないはず。

意外性をもたらすコード進行を取り入れているにも関わらず、楽曲が破綻することのないように調整されているのが見事だ。

また、それまで「進行感」を和らげるために封印していると思われていたG#7というコードを、ここぞとばかりに登場させているのも見事だ。この辺りは中田ヤスタカ氏の高い音楽センスが遺憾なく発揮されている部分といえるだろう。

PLAYER / capsule

間奏での変化

間奏はAセクションと同じコード進行だが、最後2小節だけ次のようになる(イントロのような感じ)。

| A7(9,13)  DM7(9) | C#M7(9) |

解決後のKey=C#で考えると、DM7(9)はサブドミナントマイナーの代理コード(IIbM7)となる。半音上のM7thコードからトニックに解決するという進行だ。

途中の小節を編集して取り除いたような、DJ的手法を取り入れた展開になっているにもかかわらず、結果的に自然なコード進行になっているのが面白い。

おわりに

中田ヤスタカ氏はダンスミュージック系のクリエイターだが、この楽曲のように、和声的な完成度が高い作品を作ることも多い。こういった一面は、その他のクラブ系ミュージシャンと一線を画している部分といえるだろう。氏の音楽的素養の高さをうかがい知ることのできる一曲だ。

iPhoneのSuicaにポイント還元をする手順を解説

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はじめに

iPhone7でSuicaをお得に使う方法は、以前の記事で紹介した。

上記の記事の通り、ビューカードからiPhoneのSuicaにチャージすればOK。ポイントが溜まる。

では、そのポイントをどのように還元すればよいのか。先日、初めてポイント還元を行ったが、簡単に手続きができた。今回はその手順について紹介する。

ポイントをSuicaに交換する

ビューカードでSuicaにチャージをするとポイントが溜まるが、そのポイントは、Suicaと交換できる(400ポイントでSuica1000円分)。これは実質、現金還元といえる。まずはこのことを覚えておこう。

ポイントをSuicaに交換する手続きは、「VIEW's NET」という、ビューカードユーザーのための会員制ページ内で行える。

VIEW's NETログイン(公式サイト)

ポイントを交換する手順は次の通り。

  1. VIEW's NETにログインし、「ポイント照会・プレゼント申込」をクリック
  2. 「モバイルSuicaにチャージ」をクリック
  3. 「交換口数」を入力する(1口は400ポイント=Suica1000円分)
  4. 「Suica識別ID」をフォームに入力する(確認用を含め計2回)
  5. 内容を確認し「次へ」をクリック。
  6. VIEW's NETのIDとパスワードを入力し、「申込」をクリック

このようにして、ポイント交換手続きが完了する。

交換手続きが完了すると、登録しているメールアドレス宛てに、交換申込受付完了の通知メールが届く。残高が反映されるのは、メールが届いた翌日以降。僕が実際に申込んだときも、残高の増加が確認できたのは申込みの翌日だった。

以下補足。

手順2の「モバイルSuicaにチャージ」について

iPhoneのSuicaは、厳密には「モバイルSuica」ではないが、チャージする手続き自体は、モバイルSuicaと同じようだ。

※iPhone以外は「メールアドレス」、iPhoneの場合は「Suica識別ID」を入力するよう記載あり

手順4の「Suica識別ID」について

「Suica識別ID」はiPhone内のSuicaアプリで確認できる。基本的には登録のメールアドレスがSuica識別IDとなるが、Suicaを複数枚発行している人は、末尾に「_1」等の文字が付く。

おわりに

カード式Suicaの場合、駅に設置されているATM「VIEW ALTTE」まで足を運ばなければ、ポイント還元を受けることはできない。しかし、iPhone等のスマートフォンでSuicaを使っている場合、ネットで申し込み手続きをするだけで、ポイント還元が簡単に完了する。実際にポイント還元手続きを行ってみて、これは大きなメリットだと感じた。